児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

単純輸出罪は関税定率法。

http://www.mof.go.jp/houan/164/kz180207y.htm

 さっき気づいたのですが関税法の輸出禁止規定に児童ポルノが含まれていて、児童ポルノ法の輸出罪との関係が疑問です。
 どうして、児童ポルノ法で規制しないのでしょうか?
 関税定率法なのか関税法なのかは確認中。

2 単純輸出罪について
 児童ポルノ法にはH16改正前から目的輸出罪が設けられている。目的を要件としない単純輸出罪の処罰規定はない。

児童ポルノ
第7条(児童ポルノ提供等)
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

 犯行時の関税定率法には単純輸出罪の規定はないものの、改正法(H18.4.1施行)には設けられた。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16405027.htm
平成18年 3月31日公布/ 平成18年法17号
関税定率法等の一部を改正する法律案
関税法
(輸出してはならない貨物)
 第六十九条の二 次に掲げる貨物は、輸出してはならない。
  二 児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二条第三項(定義)に規定する児童ポルノをいう。)

第百八条の四 第六十九条の二第一項第一号(輸出してはならない貨物)に掲げる貨物を輸出した者(本邦から外国に向けて行う外国貨物(仮に陸揚げされた貨物を除く。)の積戻し(第六十九条の八第二項(輸入してはならない貨物)の規定により命じられて行うものを除く。)をした者を含む。)は、五年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 輸入禁制品輸出罪(未遂罪)は目的犯ではない。単純輸出罪である。

 改正の契機は、選択議定書がh17.2.24に効力を生じたことである。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty159_13.html2006/04/14
児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書(略称 児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書)
● 平成12年5月25日 ニューヨークで作成
● 平成14年1月18日 効力発生
● 平成16年4月21日 国会承認
● 平成17年1月24日 批准書寄託
● 平成17年1月26日 公布及び告示(条約第2号及び外務省告示第61号)
● 平成17年2月24日 日本について効力発生

 同議定書には、目的を問わない輸出入を処罰する義務が定められている。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_13a.pdf
第三条
1 各締約国は、その犯罪が国内で行われたか国際的に行われたかを問わず、また、個人により行われたか組織により行われたかを問わず、少なくとも次の行為が自国の刑法又は刑罰法規の適用を完全に受けることを確保する。
(c)前条に定義する児童ポルノを製造し、配布し、頒布し、輸入し、輸出し、提供し若しくは販売し又はこれらの行為の目的で保有すること

 これを受けて関税定率法で、単純輸出罪が規定されたのである。
 平たくいえば、税関職員が税関検査で児童ポルノを見つけたら目的を問わず即検挙できるようにしたのである。

 このような単純輸出罪に関する児童ポルノ法と関税定率法の改正の経緯からすれば、児童ポルノ法は輸出後の提供目的を備える場合にのみ適用され、目的がない場合には関税定率法が適用されるという関係であると解釈せざるを得ない。
 つまり、目的がない場合には、児童ポルノ法の輸出罪は適用されない。

 この場合、本件原判決のように、外国から日本に向けて販売した場合にも「提供目的」輸出罪が成立するとすると、関税定率法は出番はなく、改正の必要がないことになる。
 
 
3 まとめ
 関税定率法の改正経緯と、児童ポルノ法の規定を関連させると、児童ポルノ法における輸出入罪の「目的」というのは、国内で受け取った者における提供などの目的をいい、提供犯人が国外から販売した場合を含まないと解すべき事が明らかである。