児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

山口裕之  時の判例 児童ポルノをインターネット・オークションの落札者にあてて外国から郵送した行為が,「不特定の者に提供する目的で」外国から輸出したものといえるとされた事例[最二小決平成20.3.4] ジュリスト1430号

 弁護人は、「輸出罪じゃなくて、提供罪だろ」と主張していましたが、実質的には提供罪であることを認めています。
 外国からの輸出罪というのは、本来は、業者間で児童ポルノが大量に国内に持ち込まれて、国内で小売りされることを予定した規定だったんですが、そういう事案はなくて、外国からの個人宛通販に適用されることになりました。

解説
I 児童買春・児童ポルノ禁止法7条6項は,児童ポルノを不特定又は多数の者に提供する目的で児童ポルノを外国から輸出した日本国民を処罰することとしており,この罪は,いわゆる目的犯であるところ,目的犯における目的は,実行行為の時に存するのが一般と思われる。
ところで,本件についてみると,実行行為である「児童ポルノを外国から輸出する行為Jの実行の着手時期は,どんなに早くみても,被告人が児童ポルノDVDが相包された封筒等をタイの郵便局に持ち込んで国際スピード郵便に付した時点より前にはならないものと思われる。しかるに,この国際スピード郵便に付す時点では,児童ポルノを提供する相手方,すなわち,本件では送付先である落札者は既に特定しているわけで,結局,被告人の行為をもって児童ポルノを不特定の者に提供する目的で児童ポルノを外国から輸出したものといえるかが問題となったわけである。
II このような問題について,正面から判示した(裁)判例,学説は見当たらない。
・・・・
少し内容をみてみると,まず,本決定は,被告人は,本件児童ポルノノであるDVDを送付する時点では,特定の者にあてて国際スピード郵便に付している」と判示し,輸出行為を捉えると,そのl時点では既に相手方が特定しているとして,記解説Iのとおりの問題状況の設定をしている。その上で, しかし,被告人は,児童ポルノであるDVDをインターネットオークションに出品して不特定の者から入札を募り、入札の終了時点で最高値の入札者を自動的に落札者とし,その後当該応札者にあてて洛札されたDVDを送付したものであって」と判示し,要するに.高く買ってくれる者であれば相手は維でもよく,その選定に当たって相手方の個性を.重視していないこと(すなわち.製するに.被告人は不特定の者に販売しようとしたものであること)を指摘しつつ, 本件輸出行為は,上記D V D の買受人の募集及び決定、並びに買受人への送付という不特定の者に販売するー連の行為の一部である」として,そうである「から,被告人において不特定の者に提供する目的で児童ポルノを外国から輪出したものというを妨げない」と判示して,この|問題を積極に解した。積極判断に当たって, 「本件輸出行為」が, 不特定の者に販売する一連の行為の一部である」ことをその理由付けに挙げているが, これは,輸出,行為という実行行為が,児童ポルノを不特定の者に提供するという目的に,いわば導かれて行われていれば,そのような目的で輸出したといえるとの理解を示したものと思われる。

上告理由第8でした。
 高裁では屁理屈(独自の見解)だと言われましたが、立法趣旨に即した見解であり、反対説もない状態でした。
 結果が不当なので、それを屁理屈扱いにして、高裁の見解を正当化しているだけです。どっちが屁理屈なんだか。

★上告理由第8 法令違反(「不特定多数への提供目的」に欠ける。)
1 はじめに
 6項輸出罪にいう提供目的とは、輸出先において、不特定多数に提供する目的をいう。
 すなわち6項の輸出罪が予定している行為を図解すると下図のようになる。
 ところが、本件の場合、各買主はエンドユーザーであって、そこから不特定多数に提供されることはない。

 これでは、6項の目的を満たさないから6項輸出罪は成立しない。
 しかるに、目的があるとして6項輸出罪で有罪とした原判決には法令適用の誤りがあり、破棄しなければ著しく正義に反する法令違反があるから原判決は破棄を免れない。

原判決
7控訴理由第7(原判示第1につき,法令適用の誤り【児童ポルノ処罰法7条6項の目的に欠け,同条項は適用されない。】)所論は,児童ポルノ処罰法7条6項,4項の提供目的iも輸出先において不特定又は多数の者に提供する目的をいうと解すべきであるところ,本件においては買主はエンドユーザーであって,そこから更に不特定又は多数の者に提供されることはなく,したがって,児童ポルノ処罰法7条6項,4項に該当しないから,この条項を適用した原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
しかしながら,児童ポルノ処罰法7条6項,4項の提供目的は外国から輸出する際に認められれば十分と解すべきであって,輸出先においてさらに不特定又は多数の者に提供する目的を要する旨,所論のように限定的に解すべき合理的根拠はなく,この点につき原判決には法令適用の誤りはない。所論は独自の見解であり,理由がない。

2 輸出行為の目的について
(1)条文構造
 つまり、各罪の目的から分析すると、児童ポルノの罪は次のような構造である。

Ⅰ 製造目的人身売買等
  製造の前段階としての人身売買を処罰するもの

Ⅱ 提供・公然陳列「目的」製造・所持・運搬・輸出入等
 提供・公然陳列の前段階としての製造・所持・運搬を処罰するもの

Ⅲ 提供・公然陳列
 目的を問わず、提供・公然陳列行為そのものを直接禁止するもの

 児童ポルノの流通過程に分けて、同種の行為類型として、禁止する行為をグループ分けしている。
 つまり、本法の究極の目的は、提供・公然陳列行為の禁止にあり、そのために、その前段階としての製造・所持・運搬が禁止され、さらに製造・所持・運搬の禁止をはかるためにその前段階の人身売買が禁止されていることは明白である。
 言い換えれば、法は提供・公然陳列行為による法益侵害(本丸格グループ)を最も重視し、その前段階・前々段階の行為(外堀)まで厳重に禁止しているのである。

 このことは改正刑法草案を見ると顕著である。
 実は、本法7条の規定は、改正刑法草案247条と酷似している。改正刑法草案の規定を先取りしたものであることはあきらかであるが、そこでも製造・運搬・輸入・輸出は、販売等の前段階の行為とされている。

改正刑法草案
第247条(わいせつ文書の頒布等−刑一七五)
(1)わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然展示した者は、二年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(2)前項の行為に供する目的で、わいせつな文書、図画その他の物を製造し、所持し、運搬し、輸入し、又は輸出した者も、前項と同じである。

 法制審議会「改正刑法草案の解説」P259
わいせつ物の頒布等について処罰規定を残す以上は、その内容を合理的なものとする必要があること、製造・運搬・輸入・輸出は、販売等の前段階の行為として所持と同等に評価することが出来る

 つまり、6項の輸出罪も所持と同様の提供の前段階の行為を意味するのである。

 本邦からの輸出入罪も、外国から輸出罪も外国に輸入罪も、提供行為の準備行為であるから、提供罪の着手前に限って成立する。
 従って、6項輸出罪の提供目的とは、輸入者において不特定多数に提供することを意味する。


(2)「提供行為に供する目的で」と読まなければならない
 他の法令の輸出罪を見ても、提供目的や販売目的を要件とするものはない。 

覚せい剤取締法
第41条(刑罰)
覚せい剤を、みだりに、本邦若しくは外国に輸入し、本邦若しくは外国から輸出し、又は製造した者(第四十一条の五第一項第二号に該当する者を除く。)は、一年以上の有期懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、無期若しくは三年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは三年以上の懲役及び一千万円以下の罰金に処する。

麻薬取締法第65条
次の各号の一に該当する者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
一 ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を、みだりに、本邦若しくは外国に輸入し、本邦若しくは外国から輸出し、又は製造した者(第六十九条第一号から第三号までに該当する者を除く。)
二 麻薬原料植物をみだりに栽培した者
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、一年以上の有期懲役に処し、又は情状により一年以上の有期懲役及び五百万円以下の罰金に処する。

第24条
大麻を、みだりに、栽培し、本邦若しくは外国に輸入し、又は本邦若しくは外国から輸出した者は、七年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。

改正刑法草案
第247条(わいせつ文書の頒布等−刑一七五)
①わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然展示した者は、二年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
②前項の行為に供する目的で、わいせつな文書、図画その他の物を製造し、所持し、運搬し、輸入し、又は輸出した者も、前項と同じである。

 提供目的・販売目的を要件とすると、提供・販売と輸出行為とが重複する不都合があるからである。
 
 ここで、改正刑法草案247条2項「前項の行為に供する目的で」にならえば、外国からの輸出罪(7条6項)も、
6 第四項に掲げる行為に供する目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。
と理解すべきである。

 だとすれば、本件のように外国から販売した行為に内包される輸出入・運搬は、輸出先において「第四項に掲げる行為に供する目的」がない限り、提供等目的に該当しない。

(3)提供目的外国から輸出罪の趣旨
① 旧法・現行法の比較
② 旧法における趣旨
 外国からの輸出罪は、改正前から存在するので、その時点での趣旨を検討する。
 旧法における児童ポルノ罪を主に目的要件と公然性(不特定多数に対するものかどうか)で分類した表である。

 外国からの輸出の典型例は、東南アジアで製造(撮影)した児童ポルノを日本に持ち帰るあるいは日本の輸出先に提供して、国内で複製して大量販売するというケースである。

 この場合の輸出行為に着目すると、犯人自身の持ち帰りや日本の輸出先(特定少数)への提供は販売・頒布罪にならないので、外国からの輸出罪がなければ不可罰となる。
 そこで販売の準備行為であるこのような行為を看過できないので、一定の目的を要件として、所定の目的がある場合にのみ外国からの輸出を処罰したものである。

 見方を変えると、旧法における「××目的外国から輸出罪」においては、輸出者→輸出先の譲渡移転行為が不可罰であることを前提にしているので、第1項に掲げる目的(旧法7条3項)というのは、輸出先からの販売・頒布等を意味していたのである。
 旧法においても、外国から販売する場合には、端的に販売罪が適用されるから、輸出罪を適用する必要もないのである。

 そこで、警察庁生活安全局少年課執務資料(部内用)「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」解説においても、販売行為が輸出先で行われることを予定している。

③ 現行法における趣旨
 現行法における児童ポルノ罪を同様に整理したものである。

 処罰範囲が拡大され、特定少数への譲渡も「提供」として処罰されるに至った。
 ここで、旧法についての

 外国からの輸出の典型例は、東南アジアで製造(撮影)した児童ポルノを日本に持ち帰るあるいは日本の輸出先に提供して、国内で複製して大量販売するというケースである。
 この場合の輸出行為に着目すると、犯人自身の持ち帰りや日本の輸出先(特定少数)への提供は販売・頒布罪にならないので、外国からの輸出罪がなければ不可罰となる。
 そこで販売の準備行為であるこのような行為を看過できないので、一定の目的を要件として、所定の目的がある場合にのみ外国からの輸出を処罰したものである。

趣旨をどう理解すべきかというと、特定少数への提供が処罰(懲役3年)され、外国から輸出罪はそれより重い5年とされていることからは、

 外国からの輸出の典型例は、東南アジアで製造(撮影)した児童ポルノを日本に持ち帰るあるいは日本の輸出先に提供して、国内で複製して大量販売するというケースである。
 この場合の輸出行為に着目すると、やはり、犯人自身の持ち帰りは不可罰であるし、日本の輸出先(特定少数)への提供は特定少数への提供罪として懲役3年となって、不特定多数への提供罪に比べて著しく軽くなる。
 しかし、販売の準備行為であるこのような行為を不可罰ないし軽い刑として看過することができないので、一定の目的を要件として、所定の目的がある場合にのみ外国からの輸出を販売行為と同等に処罰したものである。

と理解すべき事になる。

 やはり、現行法でも予定されているのは輸出先において行われる販売行為である。
 輸出者自身が、外国から販売することは予定されていない。

 輸出者自身が、外国から販売する場合には、4項提供罪により重く処罰されるので、輸出罪で補う必要はない。

 ここで、同じく輸出行為(=児童ポルノに国境を越えさせる行為)でありながら、不可罰となるか、3年で処罰されるか(2項)、5年で処罰されるか(5項)を決めるのは、提供する目的がないか、特定少数に提供する目的であるか(2項)、不特定多数に提供する目的であるか(5項)である。そして、いずれの場合も、「輸出行為(=児童ポルノに国境を越えさせる行為)」というのは行為としては全く同じ行為であるからこの場合の「提供」というのは、「輸出行為の完了後」に、誰にも提供されないか、特定少数に提供されるか、不特定多数に提供されるのかという意味として理解されなければならない。
 外国からの輸出行為についても、同じく外国からの輸出行為(=児童ポルノに国境を越えさせる行為)でありながら、不可罰となるか、5年で処罰されるか(6項)を決めるのは、提供する目的がないか特定少数に提供する目的である場合が、不特定多数に提供する目的である場合(6項)かである。そして、いずれの場合も、「輸出行為(=児童ポルノに国境を越えさせる行為)」というのは行為としては全く同じ行為であるからこの場合の「提供」というのは、「輸出行為の完了後」に、不特定多数に提供されるないか、不特定多数に提供されるのかという意味として理解されなければならないのである。
 くどいようだが、他罪が成立しない単純な例として「犯人自身が児童ポルノCDROMを携帯して日本から国際線に搭乗して輸出する場合」で説明すると

①輸出後誰にも提供する意図がなければ、いずれの輸出罪も成立しない。何回持ち込んでも、何個持ち込んでも不可罰。
②輸出後特定の者(A)に提供する意図があれば、2項輸出罪が成立する。何回持ち込んでも、何個持ち込んでも、提供先がAのみであれば2項輸出罪である。
③輸出後不特定多数の者(ABCD)に提供する意図があれば、5項輸出罪が成立する。1回の提供でも相手方が不特定であれば5項製造罪となる。

となる。
 このように提供目的輸出罪の「提供目的」というのは、輸出先において、さらに提供されるか否か、提供先が特定少数か、不特定多数かに着目した概念なのである。


(4)特定少数提供目的で外国から輸出する行為との比較
 条文関係からすると、何らの目的もなく単純に外国から輸出する場合は処罰されないこと、7条1項(特定少数提供罪)の目的の場合には、外国からの輸出は禁止されていないことから、7条6項の外国から輸出罪は、行為者または第三者において、輸出先でさらに不特定多数に提供することを目的として、外国から輸出することを想定している。
 言い換えれば、外国から輸出罪は、輸入者において不特定多数に提供する場合・目的に限って処罰されるのである。

 6項の輸出罪が予定している行為を図解すると下図のようになる。
 これに対して、特定少数への提供目的とは次のような場合であって、外国からの輸出罪は成立しない。

 このように、6項は、輸入者における提供行為が、不特定多数に対するものであれば、処罰し、輸入者における提供行為が、特定少数に対するものであれば処罰しないという点で処罰範囲を限定しているのである。

 ここで、同じく輸出行為(=児童ポルノに国境を越えさせる行為)でありながら、不可罰となるか、3年で処罰されるか(2項)、5年で処罰されるか(5項)を決めるのは、提供する目的がないか、特定少数に提供する目的であるか(2項)、不特定多数に提供する目的であるか(5項)である。そして、いずれの場合も、「輸出行為(=児童ポルノに国境を越えさせる行為)」というのは行為としては全く同じ行為であるからこの場合の「提供」というのは、「輸出行為の完了後」に、誰にも提供されないか、特定少数に提供されるか、不特定多数に提供されるのかという意味として理解されなければならない。
 外国からの輸出行為についても、同じく外国からの輸出行為(=児童ポルノに国境を越えさせる行為)でありながら、不可罰となるか、5年で処罰されるか(6項)を決めるのは、提供する目的がないか特定少数に提供する目的である場合が、不特定多数に提供する目的である場合(6項)かである。そして、いずれの場合も、「輸出行為(=児童ポルノに国境を越えさせる行為)」というのは行為としては全く同じ行為であるからこの場合の「提供」というのは、「輸出行為の完了後」に、不特定多数に提供されるないか、不特定多数に提供されるのかという意味として理解されなければならないのである。
 くどいようだが、他罪が成立しない単純な例として「犯人自身が児童ポルノCDROMを携帯して日本から国際線に搭乗して輸出する場合」で説明すると

①輸出後誰にも提供する意図がなければ、いずれの輸出罪も成立しない。何回持ち込んでも、何個持ち込んでも不可罰。
②輸出後特定の者(A)に提供する意図があれば、2項輸出罪が成立する。何回持ち込んでも、何個持ち込んでも、提供先がAのみであれば2項輸出罪である。
③輸出後不特定多数の者(ABCD)に提供する意図があれば、5項輸出罪が成立する。1回の提供でも相手方が不特定であれば5項製造罪となる。

となる。
 このように提供目的輸出罪の「提供目的」というのは、輸出先において、さらに提供されるか否か、提供先が特定少数か、不特定多数かに着目した概念なのである。

(5)6項輸入罪(外国に輸入罪)の目的との整合性
 6項輸出罪と6項輸入罪の構成要件である「目的」は共通である。
 6項輸入罪の行為者は、輸出者から受け取った者が予定されている。
 つまり、6項輸入罪における「提供目的」は、輸出者から受け取った者において、輸出入後に提供されることが予定されているのである。
 だとすれば、輸入罪とは対向犯の関係にある6項輸出罪においても、「提供目的」は、輸出者から受け取った者において、輸出入後に提供されることが予定されていると言うべきである。

(6)5項輸出入罪の「目的」との整合性
 5項輸入罪の行為者は、輸出者から受け取った者が予定されている。
 つまり、5項輸入罪における「提供目的」は、輸出者から受け取った者において、輸出入後に提供されることが予定されているのである。
 だとすれば、輸入罪とは対向犯の関係にある5項輸出罪においても、「提供目的」は、輸出者から受け取った者において、輸出入後に提供されることが予定されていると言うべきである。
5項輸出罪においても、「提供目的」は、輸出者から受け取った者において、輸出入後に提供されることが予定されているのであれば、6項輸出罪においても、「提供目的」は、輸出者から受け取った者において、輸出入後に提供されることが予定されているということになる。

(7)立法趣旨
 立法者に関与した森山氏の旧法の解説書によれば、6項輸出罪(外国から)は輸出先で販売することを予定した構成要件であることが明らかである。

森山真弓 よくわかる児童買春、児童ポルノ禁止法p131

3 改正関税法の単純輸出罪について
(1) 単純輸入罪について
 児童ポルノ法にはH16改正前から目的輸入罪が設けられている。目的を要件としない単純輸入罪の処罰規定はない。

児童ポルノ
第7条(児童ポルノ提供等)
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

 他方、関税定率法21条1項8号が設けられ、輸入禁制品に児童ポルノが加えられたのは、第162国会の法律第二十二号(平一七・三・三一)である。

◎関税定率法等の一部を改正する法律
 (関税定率法の一部改正)
第一条 関税定率法(明治四十三年法律第五十四号)の一部を次のように改正する。
  第二十一条第一項第五号を同項第九号とし、同項第四号中「物品」の下に「(次号に掲げる貨物に該当するものを除く。)」を加え、同号を同項第七号とし、同号の次に次の一号を加える。
  八 児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二条第三項(定義)に規定する児童ポルノをいう。)

 輸入禁制品輸入罪(未遂罪)は目的犯ではない。単純輸入罪である。

 改正の契機は、選択議定書がh17.2.24に効力を生じたことである。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty159_13.html2006/04/14
児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書(略称 児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書)
● 平成12年5月25日 ニューヨークで作成
● 平成14年1月18日 効力発生
● 平成16年4月21日 国会承認
● 平成17年1月24日 批准書寄託
● 平成17年1月26日 公布及び告示(条約第2号及び外務省告示第61号)
● 平成17年2月24日 日本について効力発生

 同議定書には、目的を問わない輸出入を処罰する義務が定められている。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_13a.pdf
第三条
1 各締約国は、その犯罪が国内で行われたか国際的に行われたかを問わず、また、個人により行われたか組織により行われたかを問わず、少なくとも次の行為が自国の刑法又は刑罰法規の適用を完全に受けることを確保する。
(c)前条に定義する児童ポルノを製造し、配布し、頒布し、輸入し、輸出し、提供し若しくは販売し又はこれらの行為の目的で保有すること

 これを受けて関税定率法で、単純輸入罪が規定されたのである。
 平たくいえば、税関職員が税関検査で児童ポルノを見つけたら目的を問わず即検挙できるようにしたのである。

 このような単純輸入罪に関する児童ポルノ法と関税定率法の改正の経緯からすれば、児童ポルノ法は輸入後の提供目的を備える場合にのみ適用され、目的がない場合には関税定率法が適用されるという関係であると解釈せざるを得ない。
 つまり、目的がない場合には、児童ポルノ法の輸入罪は適用されない。

(2) 単純輸出罪について
 児童ポルノ法にはH16改正前から目的輸出罪が設けられている。目的を要件としない単純輸出罪の処罰規定はない。

児童ポルノ
第7条(児童ポルノ提供等)
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

 関税定率法には単純輸出罪の規定が設けられた。

平成18年 3月31日公布/ 平成18年法17号
関税定率法等の一部を改正する法律案
(輸出してはならない貨物)
 第六十九条の二 次に掲げる貨物は、輸出してはならない。
  二 児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二条第三項(定義)に規定する児童ポルノをいう。)

第百八条の四 第六十九条の二第一項第一号(輸出してはならない貨物)に掲げる貨物を輸出した者(本邦から外国に向けて行う外国貨物(仮に陸揚げされた貨物を除く。)の積戻し(第六十九条の八第二項(輸入してはならない貨物)の規定により命じられて行うものを除く。)をした者を含む。)は、五年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 輸入禁制品輸出罪(未遂罪)は目的犯ではない。単純輸出罪である。

 改正の契機は、選択議定書がh17.2.24に効力を生じたことである。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty159_13.html2006/04/14
児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書(略称 児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書)
● 平成12年5月25日 ニューヨークで作成
● 平成14年1月18日 効力発生
● 平成16年4月21日 国会承認
● 平成17年1月24日 批准書寄託
● 平成17年1月26日 公布及び告示(条約第2号及び外務省告示第61号)
● 平成17年2月24日 日本について効力発生

 同議定書には、目的を問わない輸出入を処罰する義務が定められている。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_13a.pdf
第三条
1 各締約国は、その犯罪が国内で行われたか国際的に行われたかを問わず、また、個人により行われたか組織により行われたかを問わず、少なくとも次の行為が自国の刑法又は刑罰法規の適用を完全に受けることを確保する。
(c)前条に定義する児童ポルノを製造し、配布し、頒布し、輸入し、輸出し、提供し若しくは販売し又はこれらの行為の目的で保有すること

 これを受けて関税定率法で、単純輸出罪が規定されたのである。
 平たくいえば、税関職員が税関検査で児童ポルノを見つけたら目的を問わず即検挙できるようにしたのである。

 このような単純輸出罪に関する児童ポルノ法と関税定率法の改正の経緯からすれば、児童ポルノ法は輸出後の提供目的を備える場合にのみ適用され、目的がない場合には関税定率法が適用されるという関係であると解釈せざるを得ない。
 つまり、目的がない場合には、児童ポルノ法の輸出罪は適用されない。

 この場合、本件原判決のように、外国から日本に向けて販売した場合にも「提供目的」輸出罪が成立するとすると、関税定率法は出番はなく、改正の必要がないことになる。
 
4 原判決の問題点
 原判決がいうように、それ自体4項提供罪(不特定多数)を更正する輸出に6項輸出罪(外国から)を認めると、4項提供罪(不特定多数)と6項輸出罪(外国から)は完全に重複するから、本件のような行為が、4項提供罪(不特定多数)なのか6項輸出罪(外国から)なのかが不明確になる。

原判決
7控訴理由第7(原判示第1につき,法令適用の誤り【児童ポルノ処罰法7条6項の目的に欠け,同条項は適用されない。】)所論は,児童ポルノ処罰法7条6項,4項の提供目的iも輸出先において不特定又は多数の者に提供する目的をいうと解すべきであるところ,本件においては買主はエンドユーザーであって,そこから更に不特定又は多数の者に提供されることはなく,したがって,児童ポルノ処罰法7条6項,4項に該当しないから,この条項を適用した原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
しかしながら,児童ポルノ処罰法7条6項,4項の提供目的は外国から輸出する際に認められれば十分と解すべきであって,輸出先においてさらに不特定又は多数の者に提供する目的を要する旨,所論のように限定的に解すべき合理的根拠はなく,この点につき原判決には法令適用の誤りはない。所論は独自の見解であり,理由がない。

 特に、判例上4項提供罪(不特定多数)は包括一罪、6項輸出罪(外国から)は併合罪とすると、行為者の処断刑期の上限に相当の差が生じて、法的安定性に欠ける。
 法は7条1項から6条まで児童ポルノの流通に係る行為について詳細な行為カタログを設けたのだから、なるべく重ならないように解釈するのが適当であって、合理的である。
 むしろ

しかしながら,児童ポルノ処罰法7条6項,4項の提供目的は外国から輸出する際に認められれば十分と解すべきであって,輸出先においてさらに不特定又は多数の者に提供する目的を要する旨,所論のように限定的に解すべき合理的根拠はなく,この点につき原判決には法令適用の誤りはない。所論は独自の見解であり,理由がない。

という原判決の発想自体に合理的理由がないというべきである。

5 まとめ
 6項輸出罪にいう提供目的とは、輸出先において、不特定多数に提供する目的をいう。

 ところが、本件の場合、各買主はエンドユーザーであって、そこから不特定多数に提供されることはない。

 これでは、6項の目的を満たさないから6項輸出罪は成立しない。
 しかるに、目的があるとして6項輸出罪で有罪とした原判決には法令適用の誤りがあるから原判決は破棄を免れない。