自然的事実は
- 1/1 淫行+撮影(児童ポルノ製造)
- 1/2 淫行
として、1/1淫行は写真上明らかだが起訴されず
- 1/1 撮影(児童ポルノ製造)→地裁に起訴
- 1/2 淫行 →家裁に起訴
となった場合、
判例上
- 同一児童に対する数回の淫行は包括一罪
- 児童淫行罪と児童ポルノ製造罪は観念的競合
なので
- 1/1 撮影(児童ポルノ製造)→地裁に起訴
- 1/2 淫行 →家裁に起訴
は実は科刑上一罪であって少年法37条2項により家裁の専属管轄になり、地裁の起訴された製造罪は管轄違いになるのではないか?
両事件の接点である1/1淫行が起訴されていないのでかすがいがないわけですが、公訴事実レベルとしては1/1淫行も同一性が及ぶし、一事不再理効は及ぶのだから、どっちかの裁判所でまとめて裁かないとおかしいでしょ。
1 原判決(東京高裁H17.12.26)とその問題点
原判決は管轄違の判断基準として、両事件の訴因のみを比較するとしている。原判決
1管轄違い及び二重起訴並びに憲法14条違反をいう各論旨について(控訴理由第1ないし第3)
その論旨は,要するに,本件児童ポルノ製造罪と同一被害児童に対する淫行罪(以下,「別件淫行罪」という。)とは科刑上一罪の関係にあるとして,これを併合罪として本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に管轄を認めた原判決には不法に管轄を認めた適法があり,また,別件淫行罪が既に家庭裁判所に起訴されているのであるから、地方裁判所に対する本件起訴は二重起訴であり,原判決には不法に公訴を受理した違法があり,さらに,被告人の行為についてのみ併合審理の利益を奪い,合算による不当に重い量刑をした原判決には憲法14条1項違反の違法があるというのである。
しかしながら,本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に起訴された訴因は,平成年1月1日の児童ポルノの製造を内容とするものであり,他方,別件淫行罪について家庭裁判所に起訴された訴因は,平成17年1月2日の被害児童に淫行させる行為を内容とするものであって,これらの両訴因を比較対照してみれば,両訴因が科刑上一罪の関係に立っとは認められないことは明らかである。
所論は,本件児童ポルノ製造の際の淫行行為をいわばかすがいとして,本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが一罪になると主張しているものと解される。ところで,本件児童ポルノ製造罪の一部については,それが児童淫行罪に該当しないと思われるものも含まれるから(別紙一覧表番号1及び4の各一部,同番号5及び6),それについては,別件淫行罪とのかすがい現象は生じ得ない。
他方,本件児童ポルノ製造罪のなかには,それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば,性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号1の一部,同番号2及び3)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり,また,その児童淫行発と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は,併合罪ではなく,包括的一罪と解するのが,判例実務の一般である。),かすがいの現象を認めるのであれば,全体として一罪となり,当該児童ポルノ製造罪については,別件淫行罪と併せて,家庭裁判所に起訴すべきことになる。
かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが,その当否はおくとして,かかる場合でも,検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで,当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に,別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば,そのような措置も是認できるというべきである。一般的に言えば,検察官として,当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって,すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和59年1月27日第一小法廷決定・刑集38巻1号136頁,最高裁平成15年4月23日大法廷判決刑集57巻4号467貢)。そして,児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて,法定刑の上限はもとより,量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると,検察官が児童淫行罪の訴因について,証拠上も確実なものに限るのはもとより,被害児童の心情等をも考慮して,その一部に限定して起訴するのは,合理的であるといわなければならない。また,そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。ただ,そうした場合には,児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが別々の裁判所に起訴されることになるから,所論も強調するように,併合の利益が失われたり,二重評価の危険性が生じて,被告人には必要以上に重罰になる可能性もある。そうすると,裁判所としては,かすがいになる児童径行罪が起訴されないことにより,必要以上に被告人が量刑上不利益になることは回避すべきである。
そこで,児童ポルノ製造罪の量刑に当たっては,別件樫行罪との併合の利益を考慮し,かつ,量刑上の二重評価を防ぐような配慮をすべきである。そう解するのであれば,かすがいに当たる児童淫行罪を起訴しない検察官の措置も十分是認することができる。したがって,憲法14粂違反の主張を含め,所論はいずれも採用できない。なるほど事物管轄が訴訟条件であることからは、訴因基準説も一見すると合理的に思える。
しかし、少年法37条による家裁の専属管轄は、そもそも訴因基準では管轄がない場合についても、同条2項によって家裁管轄となることを認めるという性格のものであるから、単に訴因基準というのでは、家裁の専属管轄を否定する理由にならない。原判決は言葉足らずであり理由不備である。すなわち、児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)が家裁の専属管轄であるから、それと科刑上一罪となる場合にも、少年法37条2項の要件を満たす限り、家裁で処理すべきとなるのである。
第37条(公訴の提起)
次に掲げる成人の事件については、公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
2 前項に掲げる罪とその他の罪が刑法(明治四十年法律第四十五号)第五十四条第一項に規定する関係にある事件については、前項に掲げる罪の刑をもつて処断すべきときに限り、前項の規定を適用する。ここで、37条2項が適用される場合、児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)以外の罪の訴因は、児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)が包括一罪とされる以上、児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)の訴因とは日時場所を異にすることが当然に予定されており、そこで訴因を基準にするといってしまうと、37条2項が適用されることがなくなってしまう。
そもそも罪数判断は訴因の記載からだけでは判断できないことも明らかである。例えば同一犯人の同一家屋における窃盗と住居侵入も、住居侵入の目的が当該窃盗の目的のために行われた場合に限って牽連犯となるのであって、かならずしも住居侵入の訴因に窃盗目的と記載する必要もないから、侵入目的を認定して初めて牽連犯となるのである。
さらに、37条2項は、科刑上一罪関係であって、児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)の刑で処断するときに限って、家裁管轄とするというのであるから、情状も考慮した上で管轄を決めるという規定である。
起訴段階で犯情も考慮して管轄を決めて起訴することが必要とされ、実務上不都合があることは池本論文でも指摘されているところである。池本「児童の性的虐待と刑事法」判例タイムズ1081
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また、杉本判事補は、37条2項の判断方法を詳細に検討している。訴因だけで決めるなどとは述べていないのである。杉本啓二「少年法37条2項における『前項に掲げる罪の刑をもって処断すべきとき』の判断方法」家裁月報 38巻11号161ー177頁
それを訴因だけで決するというのは、そもそも少年法37条2項の趣旨に反する。
2 判例
訴因基準説が不当であることは、判例における少年法37条2項の適用事例を見ればわかる。いずれも、罪数判断において、訴因外の事情を考慮して適用している。原判決には判例違反である。
(1) 大阪高等裁判所S37.10.20*1地裁事件
昭和三四年九月一二日から昭和三六年五月一五日頃までの間南順子外七名を新いろは階下三畳並びに八畳の間に住み込ませた上右新いろはの各座敷或いは外部の旅館において同女等に不特定の男客を相手方として売春をさせ、その対価中約五割を取得し、以て人を自己の占有する場所に居住させてこれを売春させることを業とした家裁事件
被告人は料理店いろは支店松島の女給として雇い入れた福永道子(昭和一九年一一月三日生)をして昭和三六年一月一〇日頃から同年三月一七日頃までの間いろは支店松島その他で一日平均二人位の不特定の男客を相手方として売春をさせ以て児童に淫行をさせた両訴因は、場所こそ同一であるが、売春させられた女性も違うし、地裁事件は「場所を提供して居住させた」であるのに家裁事件は「」児童淫行させた」であって行為もことなるし、期間についても重なるが一致していないから、訴因としては別である。
それゆえ検察官は地裁・家裁に別々に起訴したのである。
ところがそれが、裁判所は「被害児童を支店松島に住み込ませていたこと」など訴因外の事情も認定したところ、科刑上一罪になるから少年法37条2項が適用されるというのである。
訴因基準説では導かれない結論である。(2)神戸地裁決定S34.8.18*2
地裁事件
被告人は昭和二十六年五月初旬頃、神戸市生田区○O○通○丁目○○において「バー・○リ」を経営していたが同年五月末頃肩書自宅においてH○原○子事C子と同人が売淫して得た水揚金を折半する旨の約束をなし
(ニ)D子と同人が売淫して得た水揚金を折半する旨の約束をなし
(三)E子と同人が売淫して得た水揚金を折半する旨の約束をなし
以て婦女に売淫をさせることを内容とする契約をなした家裁事件
被告人は昭和二十六年五月初頃肩書住居において「バー・○リ」を経営していたものであるが
(一)同年五月二十九日より六月五日までの間五回に亘り肩書住居外二ケ所において満十八才に満たない○原○子ことC子をして氏名不詳者に売淫させ
(ニ)同年五月三十一日より六月五日までの間三回に亘厘肩書住居において満十八才に満たないD子をして氏名不詳名に売淫させ
(三)同年五月三十日より六月四日までの間四回に亘り肩書住居において満十八才に満たないE子をして氏名不詳者に売淫させ以て児童に淫行させたものであるここでも地裁事件は「約束」家裁事件は「淫行」であるし、犯行日時も一致していないから訴因を比較しても、牽連犯であることはうかがわれない。
それゆえ検察官は地裁・家裁に別個に起訴したのであって、裁判所が「右C子等と同女等に売淫させることを内容とする契約をした行為とその契約に基き同女等に淫行をさせた」という訴因外の事実を認定した結果、牽連犯として、37条2項が適用されているのである。
これも訴因基準説では導かれない結論である。3 一事不再理・二重起訴との統一性
管轄違の判断における一罪判断のネックとなるのは、製造罪の背後にある淫行が起訴されていないことである。
しかし、背後の淫行が起訴されていようがいまいが、同一公訴事実として一事不再理が及ぶ。
翻って考えると、公訴事実の同一性というのは、刑事訴訟における審判の一単位であるから、家裁に成人の刑事事件が係属する場合にも、家裁は公訴事実同一性の範囲で事件を処理することが期待されているはずである。
であるならば、背後の淫行が起訴されていようがいまいが、同一公訴事実として家裁の管轄が及び、その部分については地裁は管轄を失うというべきである。
4 まとめ
本件製造罪と児童福祉法違反罪とは、手段結果の関係(牽連関係)にあるか、社会的にみて一個の行為(観念的競合)であるから、一罪である。
これらを誤って併合罪として、製造罪について地裁の管轄を認めた原判決の法令適用には判決に影響を及ぼすべき法令の違反があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するから、原判決は破棄を免れない。
また、判例違反