児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

管轄違い・二重起訴の有無は訴因の比較による(東京高裁H17.12.26)

実はこの事例は東京高裁H17.12.26。
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050821/1124590391
http://d.hatena.ne.jp/images/diary/o/okumuraosaka/2005-08-21.jpg

1月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 
2月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 
3月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 児童ポルノ製造
4月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 児童ポルノ製造
5月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 児童ポルノ製造
6月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 
7月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 
8月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 
9月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 
10月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 
11月1日淫行(冒頭陳述と証拠で明らか) 
12月1日淫行(公訴事実に記載された) 
         ↓      ↓
        家裁に起訴  地裁に起訴

 各淫行罪は、判例上、包括一罪。
 東京高裁H17.12.26で児童福祉法違反(淫行させる行為)と児童ポルノ製造とは観念的競合であることが確認された。
 さらに、東京高裁H17.12.26によれば各製造罪も包括一罪。
 となると、

1月1日淫行
2月1日淫行
3月1日淫行 児童ポルノ製造
4月1日淫行 児童ポルノ製造
5月1日淫行 児童ポルノ製造
6月1日淫行 
7月1日淫行
8月1日淫行 
9月1日淫行 
10月1日淫行 
11月1日淫行 
12月1日淫行 

は結局、一罪で、同一公訴事実となる。
これが東京高裁H17.12.26の結論。

だとすると、

3月1日淫行 児童ポルノ製造
4月1日淫行 児童ポルノ製造
5月1日淫行 児童ポルノ製造

の部分は、地裁と家裁で二重に審判されている(二重起訴)はず。
また、少年法37条で家裁の専属管轄であるから、地裁は管轄がない(管轄違)はず。

 ところが、東京高裁H17.12.26は、二重起訴・管轄違の判断は、各訴因を比較して決めるという。

家裁起訴状
  12月1日淫行 

地裁起訴状
  3月1日 児童ポルノ製造
  4月1日 児童ポルノ製造
  5月1日 児童ポルノ製造

であるから、訴因上、重なっていない。二重起訴・管轄違にならないという。
 しかし、一事不再理効や訴因変更の可能性で考えれば、地裁事件も家裁事件も

1月1日淫行
2月1日淫行
3月1日淫行 児童ポルノ製造
4月1日淫行 児童ポルノ製造
5月1日淫行 児童ポルノ製造
6月1日淫行 
7月1日淫行
8月1日淫行 
9月1日淫行 
10月1日淫行 
11月1日淫行 
12月1日淫行 

の全部について、判決の効力が及ぶはずである。
 製造罪が一罪と気づいた時点で、地裁は管轄違いで審判を打ち切り、検察官が家裁に製造罪を起訴(訴因変更)し直せば同時審判が可能であった。
 また、訴因変更は控訴審でも可能であるから、控訴審でそうすべきであった。

 おそらく東京高裁は

最高裁判所第3小法廷平成15年10月7日
思うに,【要旨】訴因制度を採用した現行刑訴法の下においては,少なくとも第一次的には訴因が審判の対象であると解されること,犯罪の証明なしとする無罪の確定判決も一事不再理効を有することに加え,前記のような常習特殊窃盗罪の性質や一罪を構成する行為の一部起訴も適法になし得ることなどにかんがみると,前訴の訴因と後訴の訴因との間の公訴事実の単一性についての判断は,基本的には,前訴及び後訴の各訴因のみを基準としてこれらを比較対照することにより行うのが相当である。本件においては,前訴及び後訴の訴因が共に単純窃盗罪であって,両訴因を通じて常習性の発露という面は全く訴因として訴訟手続に上程されておらず,両訴因の相互関係を検討するに当たり,常習性の発露という要素を考慮すべき契機は存在しないのであるから,ここに常習特殊窃盗罪による一罪という観点を持ち込むことは,相当でないというべきである。そうすると,別個の機会に犯された単純窃盗罪に係る両訴因が公訴事実の単一性を欠くことは明らかであるから,前訴の確定判決による一事不再理効は,後訴には及ばないものといわざるを得ない。
 以上の点は,各単純窃盗罪と科刑上一罪の関係にある各建造物侵入罪が併せて起訴された場合についても,異なるものではない。
 なお,前訴の訴因が常習特殊窃盗罪又は常習累犯窃盗罪(以下,この両者を併せて「常習窃盗罪」という。)であり,後訴の訴因が余罪の単純窃盗罪である場合や,逆に,前訴の訴因は単純窃盗罪であるが,後訴の訴因が余罪の常習窃盗罪である場合には,両訴因の単純窃盗罪と常習窃盗罪とは一罪を構成するものではないけれども,両訴因の記載の比較のみからでも,両訴因の単純窃盗罪と常習窃盗罪が実体的には常習窃盗罪の一罪ではないかと強くうかがわれるのであるから,訴因自体において一方の単純窃盗罪が他方の常習窃盗罪と実体的に一罪を構成するかどうかにつき検討すべき契機が存在する場合であるとして,単純窃盗罪が常習性の発露として行われたか否かについて付随的に心証形成をし,両訴因間の公訴事実の単一性の有無を判断すべきであるが(最高裁昭和42年(あ)第2279号同43年3月29日第二小法廷判決・刑集22巻3号153頁参照),本件は,これと異なり,前訴及び後訴の各訴因が共に単純窃盗罪の場合であるから,前記のとおり,常習性の点につき実体に立ち入って判断するのは相当ではないというべきである。

を踏んだつもりだろうが、本件では、地裁と家裁は同じ裁判官(検察官・弁護人)で同時進行で審理しているのだから、証拠も98%は共通であったから、両事件の重複関係は明らかであった。訴因だけを見ていて一罪関係にある確定判決の存在に気づかなかったという事例ではない。

追記
 判決入手。

東京高裁平成17年12月26日(原田裁判長=MAC判決)
第1控訴の趣意に対する判断
1管轄違い及び二重起訴並びに憲法14条違反をいう各論旨について(控訴理由第1ないし第3)
その論旨は,要するに,本件児童ポルノ製造罪と同一被害児童に対する淫行罪(以下,「別件淫行罪」という。)とは科刑上一罪の関係にあるとして,これを併合罪として本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に管轄を認めた原判決には不法に管轄を認めた適法があり,また,別件淫行罪が既に家庭裁判所に起訴されているのであるから、地方裁判所に対する本件起訴は二重起訴であり,原判決には不法に公訴を受理した違法があり,さらに,被告人の行革についてのみ併合審理の利益を奪い,合算による不当に重い量刑をした原判決には憲法14条1項違反の違法があるというのである。
 しかしながら,本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に起訴された訴因は,3/1から5/1までの間の前後3回にわたる児童ポルノの製造を内容とするものであり,他方,別件淫行罪について家庭裁判所に起訴された訴因は,12/1の被害児童に淫行させる行為を内容とするものであって,これらの両訴因を比較対照してみれば,両訴因が科刑上一罪の関係に立つとは認められないことは明らかである。
 所論は,本件児童ポルノ製造の際の淫行行為をいわばかすがいとして,本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが一罪になると主張Lているものと解される。ところで,本件児童ポルノ製造罪の一部については,それが児童淫行罪に該当しないと思われるものも含まれるから,それについては,別件淫行罪とのかすがい現象は生じ得ない。
 他方,本件児童ポルノ製造罪のなかには,それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば,性交自体を撮影している場合である。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり,また,その児童淫行発と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は,併合罪ではなく,包括的一罪と解するのが,判例実務の一般である。),かすがいの現象を認めるのであれば,全体として一罪となり,当該児童ポルノ製造罪については,別件淫行罪と併せて,家庭裁判所に起訴すべきことになる。
 かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが,その当否はおくとして,かかる場合でも,検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで,当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に,別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば,そのような措置も是認できるというべきである。一般的に言えば,検察官として,当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって,すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和59年1月27日第一小法廷決定・刑集38巻1号136頁,最高裁平成15年4月23日大法廷判決刑集57巻4号467貢)。そして,児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて,法定刑の上限はもとより,量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると,検察官が児童淫行罪の訴因について,証拠上も確実なものに限るのはもとより,被害児童の心情等をも考慮して,その一部に限定して起訴するのは,合理的であるといわなければならない。また,そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。ただ,そうした場合には,児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが別々の裁判所に起訴されることになるから,所論も強調するように,併合の利益が失われたり,二重評価の危険性が生じて,被告人には必要以上に重罰になる可能性もある。そうすると,裁判所としては,かすがいになる児童淫行罪が起訴されないことにより,必要以上に被告人が量刑上不利益になることは回避すべきである。
 そこで,児童ポルノ製造罪の量刑に当たっては,別件淫行罪との併合の利益を考慮し,かつ,量刑上の二重評価を防ぐような配慮をすべきである。そう解するのであれば,かすがいに当たる児童淫行罪を起訴しない検察官の措置も十分是認することができる。したがって,憲法14条違反の主張を含め,所論はいずれも採用できない。