児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

管轄違〜「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件は家庭裁判所管轄である。」という主張

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050611/1118484680
東京家裁H16.10.25
奈良家裁H16.2.5
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20040408/1106558870
横浜家裁横須賀支部H17.6.1

なんかを見ていると、家裁では、児童ポルノ・児童買春は家裁管轄としても違和感が無いようです。

 ちょっと古いけどこんな主張も虫干ししておきましょう。

管轄違〜「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件は家庭裁判所管轄である。」
1 本法の趣旨、児童ポルノ・児童買春に係る行為の保護法益
本法の趣旨についてはすでに述べたように、個々の児童を保護する法律である。
くどいようだが、児童ポルノ・児童買春の保護法益は、児童ポルノに描写された者や児童買春の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利である。

誌名等「青少年問題」*1(青少年問題研究会)47(3)2000.3p24〜29
著者名参議院法制局第5部第1課

警察庁執務資料*2

特に、児童の保護に関する規定(15条、16条)は児童福祉法と同じ発想によることが顕著であり、厚生労働省が関係通達*3を出しているのである。

2 児童福祉法の有害行為の趣旨・保護法益
もとより、児童福祉法は児童保護の基本法であり、児童の憲法といってもよい。それゆえ児童福祉法の冒頭には次のような規定が置かれている。

第1章総則
第1条〔児童福祉の理念〕
すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。
(2)すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。
第2条〔児童育成の責任〕
国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
第3条〔児童福祉原理の尊重〕
前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。

 児童買春法も児童保護の趣旨であることは間違いない。
 従って、本法は児童福祉法の特別法であって、買春罪の解釈にあっても、このような児童福祉法の原理を常に考慮しなければならない(註釈特別刑法第7巻児童福祉法p2)。

 さらに、児童福祉法34条の有害行為(特に淫行させる行為)の保護法益も、児童の健全育成・児童の福祉であると説明されている。通説では児童の心身に有害な影響を及ぼす行為を現実にさせるという侵害犯と説明されており、淫行罪は数ある有害行為の中でも最も重い処罰に値するとされている(注解特別刑法第7巻第2版児童福祉法p7)。

本号の行為が児童福祉法における他の違反行為と比較しても格段に重い処罰をのぞむこととされているのは、それが児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する程度が著しく高いと考えられる為だとされている。(刑事裁判実務大系第3巻P426)

 淫行は児童の健全な育成を直接侵害する行為として重く処罰されている。淫行そのものが児童の権利侵害なのである。

 判例も挙げておく。

【事件番号】高松高等裁判所判決/昭和58年(う)第262号
【判決日付】昭和59年1月23日
【判示事項】児童福祉法三四条一項六号違反の罪数

【事件番号】神戸家庭裁判所判決/昭和60年(少イ)第1号,昭和60年(少イ)第3号
【判決日付】昭和60年5月9日

【事件番号】大阪高等裁判所判決/昭和27年(う)第2515号
【判決日付】昭和28年3月11日

3 両法の関係
 ここで、児童ポルノ・児童買春行為が、児童ポルノに描写された者や児童買春の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利を侵害するとすれば、それは「児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する」ことに他ならないから、本法が児童福祉法の特別法であることは明らかである。
 児童ポルノ・児童買春罪の位置付けとしては、児童ポルノ・児童買春行為が、児童ポルノに描写された者や児童買春の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利を侵害するという意味で「児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する」一つの犯罪類型であることから、有害行為を追加するものと理解すべきである。

 裁判所は、児童ポルノ・児童買春に係る行為が児童の福祉を害さないといえるのだろうか?

4 児童福祉法淫行罪に見る児童ポルノ
 児童福祉法淫行罪は、制定当時は売春宿における児童の使用を禁止するのが目的であって、そもそも買春行為を禁止するものである。
 しかも、淫行に際して写真を撮影したという事例も多いのであるから、実際上も、児童ポルノ・児童買春に関する行為は児童福祉法の淫行罪等の有害行為と重複する部分が多い。

【事件番号】横浜家庭裁判所/昭和38年(少イ)第6号*4
【判決日付】昭和38年12月12日

【事件番号】東京高等裁判所判決/昭和62年(う)第1258号*5
【判決日付】昭和63年2月2日

5立法過程
 立法過程でも、淫行罪と買春罪とは、共通の目的・保護法益だという前提で、買春は児童福祉法淫行罪(淫行罪=淫行させる場合にのみ成立するという認識であった)を補うものだと説明されている。

新聞報道
児童買春の処罰強化臨時国会に特別法案「親告罪」を削除へ自民方針
1997.08.03東京朝刊1頁総合1面(全879字)
産経新聞

 立法過程を溯ると、そもそも児童福祉法の有害行為(淫行規定等)の改正として買春罪・児童ポルノの罪の創設が検討されていたのである。たまたま法律の名前が変わり、別の法律にまとめられただけで、保護法益も変質してしまうということはない。買春罪は実質的には児童福祉法34条1項の一項目なのである。

140回-衆-厚生委員会-30号1997/05/28*6
140回-参-厚生委員会-06号1997/04/01*7
140回-参-厚生委員会-08号1997/04/08*8
140回-参-厚生委員会-09号1997/04/10*9

 さらに、平成9年の児童福祉法の改正の際には、買春について児童福祉法による規制を検討することが両院で附帯決議とされている。その結果が児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律であることは明らかであるから、児童福祉法と保護法益が違うことは有り得ない。児童福祉法と本法とが一般法・特別法の関係にあることは間違いない。

140回-参-厚生委員会-09号1997/04/10*10
140回-衆-厚生委員会-31号1997/05/30*11
140回-衆-本会議-41号1997/06/03*12

6 本法違反事件は少年法37条1項の適用を受ける
 本法が形式的にも児童福祉法の特別法であって、実質的にも児童買春・児童ポルノの罪が児童の福祉を害する行為である。
 児童の福祉を害する行為については家庭裁判所の専属管轄とされているから、家庭裁判所での審理が適法であり、地方裁判所における審理は管轄がないため違法である。
 一般法である児童福祉法違反の管轄が家裁である以上、その特別法である本法の管轄が家裁であることは当然の結論である。
 本法が児童福祉法の特別法である以上、少年法37条1項4号の「適用」であって、類推とか準用ではない。少年法の合目的的解釈である。

少年法第37条(公訴の提起)□□
次に掲げる成人の事件については、公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
未成年者喫煙禁止法(明治三十三年法律第三十三号)の罪
未成年者飲酒禁止法(大正十一年法律第二十号)の罪
労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第五十六条又は第六十三条に関する第百十八条の罪、十八歳に満たない者についての第三十二条又は第六十一条、第六十二条若しくは第七十二条に関する第百十九条第一号の罪及び第五十七条から第五十九条まで又は第六十四条に関する第百二十条第一号の罪(これらの罪に関する第百二十一条の規定による事業主の罪を含む。)
児童福祉法第六十条及び第六十二条第二号の罪
五学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十条及び第九十一条の罪

 もとより、少年法37条が一定の成人の刑事事件につき家裁専属管轄としているのは、これら少年の福祉を害する罪の事件は、少年保護の専門機関である家庭裁判所において取り扱わせることが、事案の処理の適正妥当を期するうえから望ましいということに基づくものである*13*14。
 少年法1条にも少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」と明言されている。児童ポルノ・児童買春法違反の罪が少年の福祉を害する成人の刑事事件であることは疑いようがないのだから、少年法の精神に合致する。

少年法第1条(この法律の目的)
この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

 判決例を挙げる

【事件番号】札幌家庭裁判所判決/昭和39年(少イ)第5号
【判決日付】昭和39年5月11日
【参照条文】児童福祉法34−1
少年法37−1
【参考文献】家庭裁判月報16巻10号182頁
判例タイムズ178号190頁

 最高裁のホームページ*15でも次のように解説されている。

(3)家庭裁判所
家庭裁判所とその支部は,地方裁判所とその支部の所在地と同じ所にあります。このほか,交通不便な地等にある簡易裁判所のうち,特に必要性の高いところに家庭裁判所出張所を設けて家事事件の処理に当たらせ,国民の利便を図っています。
家庭裁判所は,家庭の平和を維持し,少年の健全な育成を図るという理念の下に,昭和24年(1949年)1月1日に新たに設けられた裁判所です。
家庭裁判所は,夫婦関係や親子関係の紛争など家事事件について調停や審判をし,罪を犯した未成年者等に対する少年事件について審判を行うほか,少年の福祉を害する成人の刑事事件について裁判をします。

 文献もある。

法律学全集少年法新版p453
少年法が対象としている第二の分野は、少年の福祉を害する成人の刑事事件である。そして、この種の刑事事件は一般の刑事事件と分離して家庭裁判所の管轄とされている。ただし、手続は一般の刑事手続と同様に刑事訴訟法の規定によっている。
少年の福祉を害する成人の刑事事件を家庭裁判所の管轄とした趣旨は、現行法の提案理由によると、少年不良化の背後には成人の無理解や、不当な処遇がひそんでいることが短めて多いが、このような成人の行為が犯罪を構成する場合には、その刑事事件は、少年事件のエキスパートであり、少年に理解のある家庭裁判所がこれを取り扱うのが適当であり、またかかる成人の事件は、少年事件の取調べによって発覚することが多く、証拠関係も大体において共通であるから、この点からしても、この種の事件は、家庭裁判所がこれを取り扱うのが便宜である、というにある。

注釈少年法改訂版P357
本章は,少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講じるという法の目的(1条)を受けて設けられたものである。非行の背後には成人の無理解や不当な取扱が多く,そのような成人の行為が犯罪となる場合の刑事事件は,少年事件を専門に扱い少年に理解のある家庭裁判所が取扱うのが適当であること,このような事件は,少年事件の捜査・調査等の過程で発覚することが多く,証拠関係も共通する場合が多いことから,この種の事件は家庭裁判所が取扱うのが便宜と考えられ,少年の福祉を害する成人の刑事事件は家庭裁判所の管轄とされた(平場453貢)。成人の刑事事件に関する家庭裁判所の管轄権は,現行法の草案段階のGHQ意見に現れており(浜井ほか131貢),少年を放任し又は原因を与えて少年を非行に陥れた成人を罰するアメリカの原因供与罪にならったものといわれている

 しかも、37条の趣旨は合理的解釈により拡張されて、明文を離れて同条所定の罪が少年によって犯された場合にも適用されているのである*16*17*18。つまり、少年法37条1項は限定列挙ではないし、限定的に解する必要はない。合目的的な解釈が求められる。
 だとすれば、少年法37条1項に列挙されている罪名についても単なる例示であって、児童の福祉を害する罪には適用することを許されると解すべきである。
そうであるならば、かつ、児童ポルノの罪が児童の福祉を害するならば、児童ポルノの罪についての刑事裁判権は家裁にあって地裁にないとするのが、少年法37の趣旨にも合致するし、被害児童の保護も徹底するし、合理的である*19。

 児童ポルノの罪が児童の福祉を害するのであれば、本件は家裁で審理するのが望ましかったことは否定できない。にもかかわらず地裁で審理を続けたのでは、被告人の裁判を受ける権利の面でも、被害児童の回復・問題除去の面でも適切な判断は望めない。

 特に本件「被害者」は、売春防止法違反があることは明らかであって、犯罪少年として審判に付されてもしかるべきである。虞犯事由にも当てはまる。そうであれば、児童の審判と併行して、児童の調査結果を被告人の審理にも活用すべきであって、まさに、少年法37条が予定しているケースである。

少年法
第3条(審判に付すべき少年)
次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
一罪を犯した少年
二十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
三次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
ニ自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。

7 児童ポルノ・児童買春法事件の審理
 児童ポルノにせよ、児童買春にせよ、児童への強制を要件としていないことから、多くの場合は、児童の側にも性的逸脱行動が伴う。
また、「被害」とされるのは、一時の被害感情ではなく、人格形成の阻害、誤った異性観、人格の尊厳という潜在的・長期的な悪影響である。

第22期東京都青少年問題協議会中間答申
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/1997/04/40743200.HTM

 このような児童ポルノ・児童買春の害悪の把握には、専門知識の点でも、物的量的スタッフの面でも、事務処理能力の点でも、地裁よりも家裁が適任である。
 裁判所には事実認定・量刑の他に被害者救済の役割も重要となっているし、被害者の再被害(再犯)防止も犯罪防止に他ならないのであるから、このような児童に対する福祉犯について被害者の調査を欠いたまま審理することは許されない。

8 実務上の問題点
 児童福祉法淫行罪は家裁、児童ポルノ・児童買春罪は地裁・簡裁という実務については、家裁裁判官からも問題点が指摘されている。

池本論文判例タイムズ1081号P80*20

 このように、管轄が分かれている問題は、疑わしきは買春罪のみという実務傾向を生んだ。検察官が支配関係に自信が持てない場合は、買春罪だけで立件されるのである。
 平成13年の警察白書*21には、買春や児童ポルノの罪は、福祉犯=個人的法益に対する罪であること、買春罪の新設によって児童福祉法淫行罪や条例淫行罪の検挙が減っていることが公に明らかにされている。買春罪が施行された結果、児童福祉法淫行罪の検挙は、被害者数にして869名から571名に減っている。
 児童ポルノ・児童買春事件を地裁簡裁で処理しようとすると弊害が生じる。家裁で処理すれば、弊害はない(略式罰金は簡裁で処理すればよい。)。

9 学説

安部哲夫「青少年保護育成条例による淫行規制の変遷と将来」*22宮澤浩一先生古稀祝賀論文集第三巻三四四頁(成文堂二〇〇〇年)

園田説
http://www.lawschool-konan.jp/sonoda/law/kaishun/12kouhan.html
なお、少年法37条は、児童福祉法60条の罪などについて、これを家庭裁判所の専属管轄としている。本法は、本法違反の行為について管轄を家庭裁判所としておらず、この点原則地方裁判所とすることについては積極的な理由はなかった。

 反対説はないのである。合理的に考えれば家裁管轄という結論に至る。

10 管轄違
 しかるときは、本件は、管轄家庭裁判所に対して起訴されるべきであったにもかかわらず、事物管轄を異にする地方裁判所に起訴されたのであるから、管轄違である。
 しかるに、管轄違の判決をせずに実体判断を行った原審の訴訟手続には訴訟手続の法令違反があり、判決に影響があることも明らかであるから、原判決は破棄を免れない。
 なお、裁判所の選択肢としては、本法違反を家裁専属とせず、地裁でも家裁でも管轄できると判示することもできる。実際、少年による児童福祉法違反の罪については法律上はどちらにも起訴できる。
 この際、児童ポルノ・児童買春事件につき検察官の裁量として家庭裁判所に起訴することが許されるかどうかについても言及せよ。
 もとより家裁の管轄といっても「それはたゞ単に第一審の通常裁判所相互間においてその事物管轄として所管事務の分配を定めたに過ぎないもの(最高裁判所大法廷判決/昭和27年(あ)第5316号)*23」だそうである。何が何でも家裁に起訴してはならないという理由はないはずである。家裁の存在意義を忘れてはならない。
 手続きは同じ刑事訴訟法である。ただ、家裁の方が、児童保護に厚いことは間違いない。