児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ法児童の権利条約12条違反説

 今日は起案の日、明日は相談の日。

 こんなことも主張してみる。

1 はじめに
 児童ポルノへの出演や販売は、児童からみれば、表現行為・意見表明であるところ、児童ポルノ法は、児童の年令や成熟度に応じた取扱いをしていない。
 これは児童の権利条約12条1項に違反するから、児童ポルノ法の児童ポルノに関する規定は無効である。
 にもかかわらず有罪とした原判決には法令適用の誤りがあるから原判決は破棄を免れない。

2 児童の権利条約との関係
 児童ポルノ処罰法は児童の権利条約34条を具体化*1した国内法である。

第34条〔性的搾取および性的虐待からの保護〕
締約国は、あらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から児童を保護することを約束する。このため、締約国は、特に、次のことを防止するためのすべての適当な国内、二国間及び多数国間の措置をとる。
(a) 不法な性的な行為を行うことを児童に対して勧誘し又は強制すること。
(b) 売春又は他の不法な性的な業務において児童を搾取的に使用すること。
(c) わいせつな演技及び物において児童を搾取的に使用すること。

 他方、同条約12条は、

第12条〔意見を表明する権利〕
1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。
第6条〔生命の権利ならびに生存および発達の確保〕
1 締約国は、すべての児童が生命に対する固有の権利を有することを認める。
2 締約国は、児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する。
第31条〔文化的生活等への参加〕
1 締約国は、休息及び余暇についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める。
2締約国は、児童が文化的及び芸術的な生活に十分に参加する権利を尊重しかつ促進するものとし、文化的及び芸術的な活動並びにレクリエーション及び余暇の活動のための適当かつ平等な機会の提供を奨励する。

としており、児童のなかでも年齢に応じた取り扱いを求めている。
 であるならば、条約34条及びその具体化である児童ポルノ処罰法においても、年齢に応じた取り扱いが要求される。
 しかるに児童ポルノ処罰法は18歳未満の者を「児童」として一律に扱っており、例えば、
   0〜13歳は非親告罪
   14〜17歳は親告罪
というように、年齢別に規制を分けることが可能であるのに、そのような配慮をしていない。
 福岡県青少年保護育成条例違反被告事件において裁判官谷口正孝の意見も同旨であった。

福岡県青少年保護育成条例違反被告事件
【事件番号】最高裁判所大法廷判決/昭和57年(あ)第621号
裁判官谷口正孝の反対意見
ところで、私も青少年を性的に汚染された環境から保護しその健全な育成を図るという本条例制定の趣旨は十分に理解することができる。
そして、本条例にいう青少年のうち年少者(例えば、一六歳未満の者。便宜これを「年少少年」という)に対する性交又は性交類似行為の如きは、そこにいたる手段・方法のいかんを問わず青少年の健全な育成を阻害する行為であつて、条例を以てかかる行為を一律に処罰することには相応の合理性があるものと考える(もつとも、これら年少少年に対する場合、通常誘惑の手段が用いられるであろう)。
刑法一七六条、一七七条各後段の規定は、性的自由に対する侵害の観点から一三歳未満の者に対するわいせつ、姦淫行為をすべて強制わいせつ罰又は強姦罰として処罰しているが、そのことと青少年の健全な育成という社会的法益の侵害とは自ら別異の規制に服するものと考えてよい。
両者は保護法益を異にしているものといえるからである。 然し、本条例にいう青少年のうち年長者(例えば、一六歳以上の者。便宜これを「年長青少年」という)に対する性交又は性交類似行為については年少少年に対する場合と同一に扱うわけにはいかない。
身体の発育が向上し、性的知見においてもかなりの程度に達しているこれら現代の年長青少年に対する両者の自由意思に基づく性的行為の一切を罰則を以て一律に禁止するが如きは、まさに公権力を以てこれらの者の性的自由に対し不当な干渉を加えるものであり、とうてい適正な処罰規定というわけにはいかないであろう。
なおここで、民法が一六歳以上の女子に対する婚姻能力を認めていることも考えておいてよい私は、これら年長青少年に対する淫行(性交又は性交類似行為)を禁止処罰するためには、これらの行為を違法たらしめる特別の要素が備わることが必要であると考える。
これら青少年の性的知識・経験の未熟なことに乗じて誘惑、威迫等の手段を用いて性交又は性交類似行為に及んだ場合の如きがそうである

 従って、児童ポルノ処罰法は上記条約規定に反することが明かであるから、児童ポルノ販売罪は条約違反により無効である。
 にもかかわらず有罪とした原判決には法令適用の誤りがあるから原判決は破棄を免れない。