児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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児童ポルノ公然陳列罪併合罪甲府地裁H14.8.5

別冊NBLno.79サイバー法判例解説P80の事例
 名誉毀損罪も立ててみると、包括一罪説ではおかしいことがわかるだろう。児童ポルノ陳列罪を包括一罪とすると、児童ポルノ罪で串刺しになって、各名誉毀損罪も含めて全部で1罪になる。

甲府地裁平成14年8月5日
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,名誉毀損被告事件
 
事案の概要
 被告人はインターネットを通じて児童2名と知り合いとなり、児童らを呼び出しては性行為等をし、その様子をデジタルカメラで撮影しては自分のコンピューターのハードディスクに保存していた。やがて交際は途絶えたが、私怨を晴らすために、ファイル共有ソフトWinMx」を利用して児童らとの性行為等を写した画像を共有状態として、不特定または多数の者がダウンロード可能な状態にした。
 被告人は児童2名に対する児童ポルノ陳列罪と名誉毀損罪で起訴された。
 
判旨
第1 罪となるべき事実
1 被告人は,A子(生年月日)にふられたことを根にもち,そのしかえしとして,コンピュータのファイル共有(交換)ソフトウェアである「WinMx」を使用して,同人の性交又は性交類似行為を写した画像を不特定多数の者に閲覧させることをくわだてた。そして,平成13年10月27日ころ,被告人方において,A子が18歳にみたない児童であることを知りながら,同人による性交又は交類似行為に係る同人の姿態を写した画像12枚を含む画像合計14枚分のファイルに「現役高校生A子(15歳)」などとタイトルをつけてこれを自分のパーソナルコンピュータのハードディスクに記憶,蔵置させたうえ,「WinMx」を起動してこれらのファイルの共有設定をした。こうして被告人は,そのころから平成14年1月中旬ころまでの間「WinMx」を利用して電話回線等を通じて同コンピュータのハードディスクにアクセスしてくる不特定多数のインターネット利用者が上記画像ファイルをダウンロードして復元し画像を閲覧することができる状態にし,もって,児童ポルノを公然と陳列するとともに公然と事実を摘示してA子の名誉を毀損した。
2 省略(被害者B子に対する同様の児童ポルノ陳列および名誉毀損行為)
第2 証拠(省略)
第3 法令の適用(要旨)
罰条 いずれについても児童ポルノの公然陳列および名誉毀損
科刑上一罪の処理 いずれも刑法54条1項前段、10条(犯情の重い名誉毀損の刑で処断)
刑種 いずれも懲役刑を選択
併合罪加重 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の重い1の罪に法定の加重)
第4 量刑の理由(抜粋)
 本件においてまず指摘しなければならないのは被害の重大性である。当事者はいずれも高校生であり,心身ともに成熟していない。被害者はそこを被告人につけこまれ,セックスの相手をさせられたうえデジタルカメラで撮影されるなどしてもてあそばれたあげく,その画像をインターネットを通じて公開されたのである。これはまさに児童に対する性的虐待と評価されるべきものであってきわめて悪質な犯罪である。もちろん,本件は画像を公開したことが処罰の対象となっているのであり,その前提となった性交又は性交類似行為そのものが処罰の対象とされているわけでほないが,画像を入手した経緯は情状として当然考慮すべきことがらである。しかも,被告人は画像を公開するだけにとどまらず,相手を特定することができるタイトルまでつけて公開している。これによって被事者の名誉は著しく傷つけられたのであってその精神的被害ははかりしれないほど大きいし,被害者の今後の成長にとってもきわめて有害な影響を与えたといわざるをえない。
 また,インターネットを利用した犯罪という性格から,本件犯罪の被害は一過性のものではなく,のちのちまで影響が残る。すなわち,第三者がダウンロードした画像ファイルは,その第三者を通じて次々と広まっていくのであって,これを食い止める手だてはない。このような観点からも,被害は大きい。
解説
第1 ネット上の犯罪について
 インターネットの特徴は、放送出版に比べてはるかに僅かな設備をもって、膨大な量の情報を、匿名で、瞬時に、国境を越えて、拡散させる機能を持つことである。
 児童ポルノ、わいせつ情報、名誉毀損、虚偽風説流布等という情報伝達を要素とする犯罪についてみれば、ネットを用いれば一個人でも全世界に向けて、このような情報を匿名で発信できることを意味しており、立法から法執行機関にいたるまで新たな対応が求められている。
 本件は犯人と被害児童との出会いから攻撃までがネット上で行われたという意味でまさにネット上の犯罪である。
 なお、弁護人の視点からみたネット犯罪の特徴としては、被告人・家族の住所、行為地、サーバー所在地、被害者・家族の住所、捜査機関、係属裁判所が各々遠隔の場合が多く、捜査だけではなく弁護活動も広い地域にまたがることがあること、検察官・弁護側の証拠にはホームページの写しや電子データが多く含まれその証拠能力が問題になる場合があること、特に国外犯の場合外国の官憲が押収又は作成した証拠物又は捜査報告書の証拠能力が問題になること*1、伝搬性ゆえまさに「取り返しのつかない被害」を生じており被害回復が困難であることを挙げておく。
 
第2 児童ポルノ
1 保護法益
 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「本法」という)は児童ポルノが児童に対する性的搾取及び性的虐待であって児童の権利を著しく侵害することから(本法1条)平成11年に議員立法として施行された*2。特にネット上の日本発の児童ポルノ画像は国際的な非難を浴びており、警察庁もネット利用の児童ポルノ事案を重点捜査対象としており*3、最近では「児童ポルノ自動検索システム」でネット上の児童ポルノ画像を分析しデータベース化していると報道されている。
 児童ポルノの罪の保護法益については、学説や立法経緯は個人的法益(児童の福祉、描写された児童への悪影響など)を強調する見解一色であるが*4*5*6*7*8*9*10、下級審の実務では被害者多数・多数回の場合でも一罪(単純一罪ないし包括一罪)とされるなど社会的法益であるかのように運用されている*11*12。これはわいせつ図画罪(刑法175条)と混同してその捜査・検察実務を不注意に流用したためであろう。その反省からか、近時、高裁レベルでは個人的法益を重視する判決が相次いでいる*13*14*15。
 立法趣旨(1条)及び手厚い被害者保護規定(15、16条、刑訴法157条の4)から考えて、被害者保護に厚い解釈が適切であり、その意味では個人的法益説が妥当である。
 本判決も児童ポルノ陳列罪2罪が成立するとした上で併合罪と認定している点及び量刑事由において描写された者(以下「被描写者」という)の被害にのみ言及しており社会的法益(性道徳、性風俗)には言及していないとことから、個人的法益を重視するものといえる。
 
2 児童ポルノの要件について
 本法の立法趣旨及び法2条1項の定義より、児童ポルノの要件(2条3項)における児童とは、実在する児童をいう*16*17*18。
 年齢・実在性等児童ポルノの要件はその性質上各被描写者の属性であるから、要件は各被描写者ごとに必要であり、各被描写者ごとに児童ポルノ該当性が論じられる*19。
 
3 ファイル共有ソフトによって共有に供する行為について
 判例最高裁判所第3小法廷決定/平成11年(あ)第1221号 平成13年7月16日)がわいせつ画像をネット上で公開した場合についてわいせつ画像を蔵置する媒体(ハードディスク、CDROM等)をもってわいせつ物とした上で、それを陳列したとする構成を取っており、それと同様に解されている。
 すなわち、まず、「写真、ビデオテープその他の物」という児童ポルノの定義(法2条3項本文)は明らかに有体物を意味しており電子データは含まれない*20。そこで、当該電子データを蔵置する媒体(ハードディスク、CDROM等)をもって児童ポルノとした上で、それを陳列したとする構成を取ると解されている*21*22。
 本件もそのような解釈を前提に、被告人のコンピュータのハードディスクを児童ポルノとして、それをネット上で陳列したと認定している。
 これに対して、ユーザーが「見ている」のは実は陳列者の「わいせつなハードディスク」ではなく、閲覧者の「わいせつなハードディスク」なのであるなどの問題点を指摘する見解*23や、端的に電子データを児童ポルノの概念に含める必要があるとする見解*24がある。電子データとしての児童ポルノ画像は、有体物のそれとは飛躍的に高速かつ広範囲に伝搬・拡散することを考えると、その場合にまで有体物の陳列として理解するのは実体にそぐわない。立法者がネット上の児童ポルノの問題点を認識しながら本法がネット時代に対応していないというのは理解に苦しむ。
 
4 訴因特定
 児童ポルノの罪は個人的法益に対する罪であるから、児童ポルノを特定するにあたっては、被害者たる被描写者をもって特定するのが原則である*25*26。
 本判決も被描写者を氏名及び生年月日で特定しており、このような理解にたっている。
 もっとも、画面上実在する児童であることが明かな場合にまで氏名・生年月日等による厳格な個人特定を要するものではなく、被害者不詳の場合*27に準じて人相・身体的特徴等により特定すればよいと考える*28。
 
5 罪数
 本件では2個の陳列行為が併合罪とされている。児童ポルノの罪は個人的法益に対する犯罪であることから、被害者ごとに一罪、行為ごとに一罪と解するべきである*29。(なお、同一被害者に対する数回の行為の場合には包括一罪となりうる*30。)
 この点、わいせつ図画陳列罪の場合は営業犯として反復継続が予定されているとして一罪とされているのとは異なることに注意。
 従ってまた、第一の児童ポルノ罪で起訴された後で被描写者が異なる余罪の児童ポルノ罪を併せて審理する場合には、第一の児童ポルノ罪と余罪の児童ポルノ罪とは公訴事実の同一性(単一性)を欠くから、余罪の児童ポルノ罪を訴因変更請求手続きで追加することは許されず、必ず追起訴手続きによるべきである。
 
6 量刑理由について
 児童ポルノの害悪は、もっぱら、児童ポルノの作成及びその流通が被描写者たる児童に対する性的虐待であると説明されている*31。したがって、量刑に当たっても、第一に児童ポルノに関する行為が現実的・将来的に被描写者に与える影響が考慮されるべきである。具体的には、被害者の意思(強制の有無)、被害者数、行為の回数、態様(公然の程度)が考慮されるであろう*32。
 特に、本判決が指摘するように、ファイル交換ソフトを用いてネット上で公開された場合は、画像データとして鮮明な画像(コピーによっても劣化しない)が長期間転転流通して拡散するのであるから、被描写者に与える被害は計り知れない。
 その意味では、児童ポルノに関する行為として、販売、頒布、所持、運搬、輸入、輸出という構成要件(7条)を設けて有体物が物として流通することを予定しているのは時代遅れであり、本法の規定をそのままネット上での流通行為に適用するのでは、被描写者の被害を適切に評価し尽くすことはできないおそれがある。
 
第3 名誉毀損
 他人の裸体を公表するというのは、社会的評価を低下させるというよりも、プライバシーを侵害するといった意味合いが強いが、最近ではそのような利益も名誉毀損罪の保護範囲となっている*33。
 本判決が、被害者の裸体を公開した行為がいかなる事実の摘示に当たると認定したかは定かではないが、盗撮ビデオについて名誉毀損罪の成立を認めた判決例では、「上記のような内容の本件ビデオテープに上記K子ら3名の全裸の姿態が録画されているという事実を摘示した」としている*34。
 裸体を不本意に公開されることは、一般に社会的評価は低下するであろうから、端的に、「同人による性交又は交類似行為に係る同人の姿態を写した画像」を陳列したことが事実の摘示にあたると解するべきであろう。