児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

 あいかわらずプロバイダーの刑事責任

 毎日ふらふらしています。
 大阪高裁H2.1.23は、プロバイダーのパターンとは違うと思う。
 問われているのは、売春防止法の場所提供罪だが、被告人の行為は、料理店の営業許可をとって料理店として名義貸ししていたわけで、料理店は売春宿ではないから、「料理店として名義貸し」を作為を評価対象とすることはできない。

 プロバイダーがサーバーや伝送経路を提供している状態、放送局が搬送波を流している状態、宅配業者が宅配サービスを提供している状態で、第三者が違法な情報・物を発信・発送した場合、プロバイダー・放送局・宅配業者が(知・不知はさておき、)違法な情報・物を配達するのだから、刑事責任の評価対象は「作為」「正犯」であるべきである。

 こういうと、プロバイダーに酷だと言われるかもしれないが、
いまさら慌てても遅い。既に危機的な立場にある。
 従来の実務でも、児童ポルノについて考えれば、第三者がweb上で児童ポルノ画像を陳列した場合、プロバイダーのサーバー(ディスクアレイ)が児童ポルノとなって、それが陳列されているわけであるが、客観的要素に着目すれば、児童ポルノであるサーバー(ディスクアレイ)の所持はプロバイダーにある(所持の故意と目的がないから所持罪にはならない。)。(第三者のデータへの支配は「保管」という。)
 この場合、プロバイダーは児童ポルノ画像の蔵置を認識すれば、児童ポルノ所持の故意を充足する。公然陳列等の目的がないから所持罪にはならないが、単純所持罪ができれば、単純所持罪の正犯でしょう。仮に陳列目的を持てば、陳列目的所持の正犯・作為犯は免れない。
 そのまま、陳列状態となった場合は、陳列罪の作為犯正犯としても違和感がない。

 これをプロバイダの刑事責任の原則として、プロバイダの性格(検閲禁止・通信の秘密等)を考慮して、刑事責任の範囲を限定していけばいいのではないか。プロバイダー責任法による民事責任と矛盾しないところまで。

 極論として奥村説=東京高裁説を叩いて頂いて、不作為犯・幇助犯の可能性を見いだして載きたいと思います。
 

大阪高等裁判所判決/平成元年(う)第809号
平成2年1月23日
高等裁判所刑事判例集43巻1号1頁
判例タイムズ731号244頁
判例タイムズ766号87頁
三 本件幇助犯の成否について
 原判決は、ほぼ右と同一の事実関係を認定した上で、「被告人は、甲が『よしの』を売春の場所として提供することを知った後において、積極的作為的な行為は行っておら(ない・・・・・・中略・・・・・・)が、各営業許可使用の黙認自体甲の本件犯行を容易ならしめるものであるうえ(右各営業許可を受け許可証を掲示しなければ、料理店名目で「よしの」を営業することができず、ひいては同所で売春を行わせることも困難になる)、被告人が、自己名義の各営業許可の利用を甲に許し、いわゆる名義貸しを行っていた行為自体違法なものであり(ちなみに、風俗営業法(新法を指すものと解される。)一一条は、風俗営業許可の名義貸し自体を禁じ、同法四九条で罰則を設けている。)、右各営業許可の利用により売春の場所提供が行われているのを知った以上は、(・・・・・・中略・・・・・・)少なくとも条理(自己の先行行為)に基づき自己名義の各営業許可を使用させないようにすべき法的作為義務が存するものとみられ」と判示し、被告人に作為の可能性も認めて本件不作為による幇助犯の成立を肯定した理由を説示している。
 そこで、検討するに、正犯者の犯罪を防止する法的作為義務のある者が、この義務に違反してその犯罪の防止を怠るとき、当該作為によって正犯者の犯罪を防止する事実的な可能性かある限り、不作為による幇助犯が成立するものと解されるが、不作為による幇助犯については、不真正不作為犯自体に実質的にみて犯罪成立の限界が不明確になりがちであるという点で罪刑法定主義にかかわる問題があり、更にそれが正犯の犯罪(刑罰)拡張事由としての幇助犯にかかる場合であるから、その成立の根拠となる法的作為義務の認定は特に慎重でなければならず、あくまで例外としてその成立が明白な場合に限られなければならない(なお、被告人と正犯者甲との間に、原判示第一の売春場所の提供を業とする罪について共謀が成立するなど、被告人について甲との共同正犯を成立させるに足る事実は、本件証拠上認められず、被告人を同罪についての共同正犯者とする当初の訴因は、原審審理の過程において幇助犯の訴因に交換的に変更された。)。
 これを本件についてみるに、原判決は、被告人には、自己の先行行為に基づき自己名義の前記各営業許可を甲に使用させないように作為をすることによって正犯者である同女の犯罪行為を防止すべき法的義務があるというものと解されるところ、なるほど甲は、右各営業名義を用いて名目的に料理店「よしの」を営み、実態において業としてその客室を売春の場所に提供して原判示第一の犯行に及んだのであり、客観的にみれば、被告人の先行行為が正犯者甲の犯行を容易ならしめる一事情となっていることは否定できない。しかしなから、その先行行為というのは、料理店と飲食店との各営業許可名義の貸与であって、これらの営業許可は、当該店舗を売春の場所に提供することを許可するものでないことは勿論、これを容認するものでもない。
すなわち、飲食店営業の許可はもっぱら食品衛生上の見地からの規制であって、もとより店内で行われる売春行為と直接の関係はない。また風俗営業規制の目的は、新法一条が明言しているように、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持することにあって、料理店営業を都道府県公安委員会の許可にかからしめたことが、その店舗内において売春などの善良の風俗に反する行為が行われる危険性のあることと関連しているのはいうまでもないが、その許可自体は、事後に行われることのある営業者に対する行政処分や営業所に対する警察官の立入権等と相まって、そのような行為が行われるのを防止するためのものであり(なお、新法においては、そのような目的に沿った許可基準が明示されている。四条)、本件料理店営業の許可についても、当局は、「営業所出入口、踏込及びこれらに接続する施設において客待ちをし、又はさせ、もしくは客待ちのための構造設備を設けてはならない。」等の条件を付して、その防止を実効あらしめようとし、またこれによってその防止が可能であると判断したものと認められるのであって、料理店営業許可も、当該店舗を使用してする業としての売春場所の提供などその店内における犯罪行為と直接の関係はない。また、甲は、被告人とは関係なく独自の判断に基づいて売春場所の提供を業とするに至ったのであって、被告人名義の右各営業許可がなくてもその犯行をするについて顕著な支障があったとは認められない。一方、被告人は、前記のとおり、甲が売春場所の提供を業として行うことについて一切関与しておらず、右各営業許可名義貸与の時点において、甲が「よしの」において売春場所の提供を業とする意図を有することを認識していなかっただけでなく、将来その店内においてそのような行為が行われることを予見してもいなかったのである。以上の諸事情に徴すると、本件の場合、右各営業名義の貸与という被告人の先行行為と甲の業としての売春場所の提供との間には関連が乏しく、前者を根拠として、被告人について、甲が各営業許可を使用するのを禁止し、あるいは各所管行政庁に対する許可取消請求をするなどして同女の正犯行為を防止する法律的作為義務を認めることはできないといわざるを得ない。たしかに、原判決のいうように、被告人の右各営業名義の貸与の後に施行された新法によれば、風俗営業の名義貸しが明文をもって禁止され、その違反に対して刑罰の制裁が定められている(新法一一条、四九条一項三号)けれども、右に説示した諸事情によって、甲の正犯行為と被告人の右営業許可名義の貸与との間の関連が乏しいと認められる以上、先行行為が可罰的違法性を有することを根拠に法律上の作為義務を導き出すことはできず、換言すれば、本件の場合被告人の作為義務を、被告人の正犯者に対する関係とは別に、その公法上の義務から根拠付けようとするのは困難であって、むしろ新法も、このような名義貸しによる法益侵害の危険を防止するについては、同法所定の刑事罰を科することをもって足りると考えているものと解される。ちなみに、売春防止法は、売春場所の提供を業とする者に対し、情を知って、その業に要する資金、土地又は建物を提供した者に対し、売春場所の提供を業とする罪の幇助犯より重い法定刑を科する旨規定している(一三条一項)が、情を知らずにそれらの提供行為をした者が、後に提供にかかる資金、土地又は建物が売春場所の提供を業とする罪に使用される又はされていることを知った場合、直ちにそれらの提供者について、自己の行為の予想外の結果である被提供者の売春場所の提供を業とする罪の犯行を、提供にかかる物の使用をやめさせるなどして防止する(中止させる)法的義務まで認めるのは相当でなく、また、その義務の内容、発生時期等は非常に曖昧であって、罪刑法定主義の要請を充たし得るものでなく、刑法上の見地において到底このような法的義務を認めることはできないといわざるを得ないが、この理は、本件のように情を知らずして営業許可名義を貸与した場合にも当てはまるものと考えられる。