条約の国内法が整備されている国とそうでない国があるという過渡的な状況において、難しい問題です。
1 アメリカ法上の公衆送信権・送信可能化権(アメリカ国内関係)
アメリカ合衆国の著作権法上、公衆送信権・送信可能化権については、明文の規定がない。条文は省略する。規定がないのである。
これについては、日本政府も確認して抗議*1している。
つまり、アメリカ法人は、アメリカ国内では、アメリカ著作権法に基づいて、公衆送信権・送信可能化権を主張することはできない。いわば、「著作権法定主義」である。
ネット上の送信行為への許諾は、頒布権に基く無許諾頒布行為に対する差止請求権としてのみ存在する。
結局、アメリカ国内では、法定の物権としての「送信可能化権」は発生していない。(私人間で設定するのは可能であろう)
なお、アメリカ著作権法の罰則は、営利目的に限定されている。
さらには、送信可能化権が法定されていないから、アメリカに罪刑法定主義が存在するのであれば、送信可能化権侵害罪も存在しない。
§ 506 ・ Criminal offenses.
(a)Criminal Infringement.
any person who infringes a copyright willfully
either
(1)for purposes of commercial advantage or private financial gain, or
(2)by the reproduction or distribution, including by electronic means, during any 180-day period, of 1 or more copies or phonorecords of 1 or more copyrighted works, which have a total retail value of more than $1,000, shall be punished as provided under section 2319 of title 18, United States Code.
For purposes of this subsection, evidence of reproduction or distribution of a copyrighted work, by itself, shall not be sufficient to establish willful infringement.
第506条 刑事犯罪
(a)著作権侵害罪
故意に著作権を侵害する者であって
(1)商業的利益または私的な経済的利得を目的とした者、または
(2)180日間に、著作権のある著作物につき1,000ドルを超える総小売価格の1部以上のコピーもしきは1部以上のレコードを複製しもしくは頒布した(電子的手段に
よるものを含む)者は、合衆国法典第18編第2319条に基づき処罰される。本節において、著作権のある著作物の複製または頒布の証拠は、それ自体では故意の侵害を立証するに不十分であるものとする。
つまり、送信可能化権は、アメリカ国内には存在しないし、罰則による保護もない。
ちなみに、日本著作権法の罰則は属人主義を採用しているから、米国内において米国法に基づく著作物を無断で送信可能化した日本人は、米国法では処罰されないが、日本法に基づいて処罰されることになる。
刑法施行法
第二十七条 左ニ記載シタル罪ハ刑法第三条ノ例ニ従フ
一 著作権法〈明治32年法律第39号〉ニ掲ケタル罪
刑法第三条(属人主義)
この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
また、日本人Aとアメリカ人Bとが連絡無く、米国内において、米国法に基づく著作物Cを無断で送信可能化した場合、Aは日本法に基づいて処罰されるが、Bは日本法でも米国法でも処罰されないことになる。
日本国著作権法は何をどこまで志向するのであろうか?
3 アメリカ法上の著作権(アメリカ国外関係)
さて、アメリカ国内で発生していない権利を、外国で主張できるのであろうか。
根拠となるのがベルヌ条約等の国際条約であるが、これらは、国家対国家の契約であって、条約上、著作権者のある権利を規定しても、締結国の国民が自動的にその権利を有する・権利が発生するわけではない。
これは条約一般の話であるが、著作権法に関する条約でも同様であり、ベルヌ条約2条にも規定されている。
結局、ある著作権の発生については、条約に根拠を求めることはできない。アメリカ著作権法によるしかない。
余談であるが、送信可能化権の概念を持つ国は、日本とオーストラリアだけである。日本国民の「送信可能化権」といっても、理解されうるのは、オーストラリアだけであろう。そこでも、権利が保護されるかは別問題である。
4 アメリカ法上の著作権(日本国内関係)
(1)はじめに
さて、アメリカ国内で発生していない権利であって、かつ、直接条約を根拠としても主張できない権利を、日本国内で主張できるのであろうか。
著作権法6条3号の適用問題であり、解釈問題である。
第6条
著作物は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。
三 前二号に掲げるもののほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物
条約とは、ベルヌ条約をいうが、内国民待遇といっても、半田教授も述べるように、本国で発生していない権利までは保護する義務はないのである。
条約もなければ、相互主義の原則しかない。
そこで、このような見解(三井哲夫ジュリスト934号p146)が正当化される。