児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

日本法では交際中・婚姻中に撮影されたものでなくても、嫌がらせや復讐目的がなくても「リベンジポルノ」になるのに「リベンジポルノとは、元交際相手や元配偶者に対する嫌がらせや復讐(ふくしゅう)(リベンジ)の目的で、交際中や婚姻中に撮影した相手方の裸の写真などを、インターネットに投稿するなどして不特定多数者に公開する行為を言います」(弁護士・東田正平)

 日本法上のリベンジポルノは「私事性的画像記録」といって

私事性的画像記録」とは、次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。)に係る電磁的記録その他の記録をいう。

と定義されていて、交際中・婚姻中に撮影されたものでなくても、嫌がらせや復讐目的がなくても成立します。
 公表予定がない個人モデルのヌード画像の公表とかも含まれる点で、立法目的からは広すぎると考えています。

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律
(平成二六年一一月二七日/法律第一二六号)
第一条(目的)
 この法律は、私事性的画像記録の提供等により私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、私事性的画像記録に係る情報の流通によって名誉又は私生活の平穏の侵害があった場合における特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)の特例及び当該提供等による被害者に対する支援体制の整備等について定めることにより、個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生又はその拡大を防止することを目的とする。
第二条(定義)
 この法律において「私事性的画像記録」とは、次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(次条第一項において「第三者」という。)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。次項において同じ。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。同項において同じ。)その他の記録をいう。
一 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
二 他人が人の性器等(性器、肛こう門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
2この法律において「私事性的画像記録物」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、前項各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像を記録したものをいう。

暮らしの法律相談/リベンジポルノ/ネット上の画像 削除可能/
2018.03.22 河北新報
 -リベンジポルノって、少し前からよく聞くようになりましたけど、具体的にはどのような行為を言うのですか。

 「リベンジポルノとは、元交際相手や元配偶者に対する嫌がらせや復讐(ふくしゅう)(リベンジ)の目的で、交際中や婚姻中に撮影した相手方の裸の写真などを、インターネットに投稿するなどして不特定多数者に公開する行為を言います」

 -不特定多数の人に見られるなんて、考えるだけで怖いです。リベンジポルノを規制する法律はないのでしょうか。

 「2013年10月、被害女性が復縁を迫る元交際相手に殺害された上、交際中に撮影された性的画像をインターネットに拡散されたという、三鷹ストーカー殺人事件が起きました。この痛ましい事件を機に、14年11月19日、『私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律』、いわゆるリベンジポルノ防止法が国会で可決・成立しました」

 -どのような内容の法律なのですか。

 「リベンジポルノ防止法は、(1)リベンジポルノに対する罰則(懲役や罰金)の定め(2)インターネット上に流布された画像などの削除を実現するための特例の定め(3)被害者に対する支援体制の整備充実を図ること-を主な内容とした法律です」

 -もしインターネット上に画像が公開されてしまった場合、削除するにはどうすればよいのですか。

 「インターネット上の画像や情報について削除を求める場合は、いわゆるプロバイダーに対し削除の申し出をする方法を取ります。『プロバイダ責任制限法』という法律があり、権利が不当に侵害されていると信ずるに足りる相当の理由がある場合には、プロバイダーなどは即時に削除などを行うことができます。また、プロバイダーなどから発信者に対し照会をかけ、7日以内(リベンジポルノについては2日以内)に発信者から不同意の申し出がなかったときにも、削除などを行うことができます」(弁護士・東田正平)

 仙台弁護士会は、宮城県内6カ所に法律相談センターを開設しています。連絡先は022(223)7811。

児童淫行罪は包括一罪なのに、11/13の児童淫行と11/23の児童淫行を併合罪とした事例(秋田地裁H29.10.4)

 この判決では、準強姦2罪だから処断刑期の上限を30年としていますが、児童淫行罪は包括一罪だから、かすがい現象で判示第2は科刑上一罪になって、製造罪が併合罪加重されても、処断刑期の上限は23年ですよね
 弁護人はそういうところをチェックして下さい。準強姦2罪が執行猶予になるとか主張してますけど。


第一七七条(強制性交等)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
第一七八条(準強制わいせつ及び準強制性交等)
2人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

1平成29年10月 4日 秋田地裁 事件番号不祥
PowerSort(重要判例順) 0.6
裁判区分 判決 
事件名 準強姦、児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2017WLJPCA10046008
出典
エストロー・ジャパン
主文

 被告人を懲役6年に処する。
 未決勾留日数中130日をその刑に算入する。
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,被害者が所属する運動クラブの監督を務め,同人の個人練習等を指導していた者であるが,同人が18歳に満たない児童であることを知りながら,
 第1  別表記載のとおり,平成28年8月6日午後5時13分頃から同日午後5時38分頃までの間,秋田県内において,同児童に,被告人が同児童の乳首をなめる姿態,同児童の乳房及び陰部を露出させる姿態をとらせ,これらを被告人の撮影機能付きスマートフォンで撮影し,その動画データ3点及び静止画像データ17点を同スマートフォン内蔵の電磁的記録媒体に記録して保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し
 第2  被害者に対し,日頃より厳しく指導して指示に従わせていたこと等により,被害者が被告人に逆らうことができない状態であることに乗じて被害者を姦淫しようと考え,
   1  同年11月13日午後2時12分頃から同日午後4時8分頃までの間,秋田県内において,同人を姦淫し
   2  同月23日午後1時15分頃から同日午後4時34分頃までの間,同所において,同人を姦淫し
 もって同人の抗拒不能に乗じて姦淫するとともに,児童に淫行をさせる行為をし
 たものである。
 (法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2条3項2号,3号に,判示第2の1及び2の所為のうち準強姦の点はいずれも平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法178条2項? ,177条前段に,児童に淫行をさせる行為をした点はいずれも児童福祉法60条1項? ,34条1項6号にそれぞれ該当するところ,判示第2の1及び2の所為はいずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,いずれも刑法54条1項? 前段,10条により1罪として重い準強姦罪について定めた懲役刑で処断することとし,判示第1の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条? 前段の併合罪であるから,同法47条? 本文,10条により犯情の重い判示第2の1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し,同法21条? を適用して未決勾留日数中130日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項? ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
 (量刑の理由)
 被告人は,運動クラブ内での厳しい指導による被害者に対する絶対的な力を背景にするなどして,同人が被告人の要求を拒絶することができない状況を作出,利用して,年少の被害者を姦淫したり,卑わいな写真を撮るなどしているのであって,犯行態様は同人の人格を無視した卑劣かつ破廉恥で悪質なものであり,常習性も認められる。
 (求刑・懲役8年)
 (裁判長裁判官 三浦隆昭 裁判官 藤田壮 裁判官 佐藤惇)

刑法上の「わいせつ」とは,徒に性欲を興奮または刺激せしめ,かつ普通人の性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反すること(最判昭26.5.10刑集5.6.1026)をいう.ただ,この定義は,わいせつ物頒布罪に関して用いられたものであり,強制わいせつ罪は個人の性的自由を侵害する罪である以上,これより広いわいせつ概念を用いざるを得ない.木村光江刑法4版p219

刑法上の「わいせつ」とは,徒に性欲を興奮または刺激せしめ,かつ普通人の性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反すること(最判昭26.5.10刑集5.6.1026)をいう.ただ,この定義は,わいせつ物頒布罪に関して用いられたものであり,強制わいせつ罪は個人の性的自由を侵害する罪である以上,これより広いわいせつ概念を用いざるを得ない.木村光江刑法4版p219

 定義中の「性欲刺激」というのと、性的意図不要というのは矛盾しないのかな

木村光江刑法4版p219
わいせつの意義
刑法上の「わいせつ」とは,徒に性欲を興奮または刺激せしめ,かつ普通人の性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反すること(最判昭26.5.10刑集5.6.1026)をいう.ただ,この定義は,わいせつ物頒布罪に関して用いられたものであり,強制わいせつ罪は個人の性的自由を侵害する罪である以上,これより広いわいせつ概念を用いざるを得ない.例えば,反抗を抑圧してキスする行為は強制わいせつ罪に当たるが,映画や小説におけるキスシーンはわいせつではない.わいせつ行為は,必ずしも被害者の身体に触れる必要はなく,脅迫して裸にならせ写真を撮影する行為も含む(最判昭45.1.29刑集24.1.1参照).
【傾向犯】従来の判例は,強制わいせつ罪には,わいせつ行為を行っていることの認識に加え,犯人の主観的傾向としてわいせつの目的(性欲を刺激,興奮させ,または満足させるという性的意図)が必要であるとしてきた(傾向犯という.前掲・最判昭45.1.29(消極)).しかし,被害者に性的差恥心を抱かせるに足りる客観的行為を行っている以上,法益侵害性は認められ,その認識があれば故意も認められる.性的自由は,行為者の動機の如何にかかわらず害されているからである.最決平29.11.29(裁判所時報1688.1)は,昭45年最高裁判例を変更し,「被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度」により判断すべきであって,「性的意図」は成立要件とすべきでないとした(→23頁参照).

わいせつな行為とは,「徒らに性欲を興奮または刺激せしめ,且つ普通人の正常な性的差恥心を害し,善良な性的道徳観念に反すること」をいいます(名古屋高裁金沢支判昭36.5.2下刑集3巻5=6号399頁)。これは,通常は,性欲を興奮または刺激させようとする意図のもとになされますが,客観的には,一般人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道徳観念に反する行為がなされることを要する趣旨であると解されます。川端博レクチャー刑法各論第5版

川端博レクチャー刑法各論第5版
第5版はしがき
本書の第4版を刊行した後,重要な法改正と最高裁判例変更があった。まず,性犯罪に関する「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)が制定されたのである。この法律により,従来の強姦罪が強制性交等罪に改称され,新たな犯罪類型の新設および構成要件の修正がなされたほか,性犯罪の法定刑が重くされたうえ,性犯罪が親告罪から非親告罪に変更されている。これらは,現行刑法制定以来の根本的改正であり,性刑法の発展のための大きな転機となるものであるといえる。
つぎに,最高裁判例は,従来,強制わいせつ罪を「傾向犯」と解してきた。傾向犯は性的意図を強制わいせつ罪の成立要件とするものである。ところが,最高裁の大法廷は2017年ll月29日の判決において,性的意図を一律に同罪の成立要件とするのは相当でないとして従来の判例を変更し,強制わいせつ罪は傾向犯でないとしたのである。これは,性刑法に関する画期的な判例である。そこで,これらの法改正や判例変更に即して叙述を全面的に改めた。さらに,表記の統一を図って読み易くなるように努めた。
・・・

p51
(2)行為
本罪の行為は,わいせつな行為をすることです。わいせつな行為とは,「徒らに性欲を興奮または刺激せしめ,且つ普通人の正常な性的差恥心を害し,善良な性的道徳観念に反すること」をいいます(名古屋高裁金沢支判昭36.5.2下刑集3巻5=6号399頁)。これは,通常は,性欲を興奮または刺激させようとする意図のもとになされますが,客観的には,一般人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道徳観念に反する行為がなされることを要する趣旨であると解されます。従来の判例・通説によりますと,本罪は傾向犯であると解されますから,本罪の行為は行為者の性欲を刺激興奮させ,または満足させるという性的意図のもとになされる必要があります。したがって,もっぱら報復または侮辱・虐待の目的で女子を強制して全裸にざせその姿態を撮影する行為は,本罪を構成せず強要罪を構成するにすぎないとされることになります(最判昭45・1・29刑集24巻1号1頁)。しかし,本罪は傾向犯ではないと解する説によりますと,上記の行為は本罪を構成することになります。わたくしは,かねてよりこの見解を支持してきております。最高裁の大法廷は,2017年11月の判決(最大判平29・11・29)において,性的意図を一律に強制わいせつ罪の要件と解した前掲判決の立場を変更し,被害者の受けた性的被害の有無やその内容,程度に目を向けるべきである旨を判示しています。これは,強制わいせつ罪が傾向犯であることを否定するものであり,妥当な判旨であると評価されるべきです。
本罪のわいせつ行為は,被害者の性的自由の侵害の観点から把握されるべきですから,性的風俗の保護を主たる目的とする公然わいせつ罪におけるわいせつ行為とは,その内容を異にします。たとえば,キス(接吻)は,公然わいせつ罪におけるわいせつ行為には当たりませんが,相手方の意思に反して無理におこなうばあいには本罪のわいせつ行為に当たります(東京高判昭32.l・22高刑集10巻1号10頁)。強制性交等は177条に規定されていますので,性交等の行為は本罪のわいせつ行為に含まれません。

「わいせつな行為」とは,性的自由が保護法益であることから,公然わいせつ罪(174条)におけるわいせつ概念より広く,被害者の性的羞恥心を害する行為をいうと解すべきである(中森65頁)。 西田典之著・橋爪隆補訂刑法各論第7版p98

西田典之著・橋爪隆補訂刑法各論第7版p98
2「わいせつな行為」とは,性的自由が保護法益であることから,公然わいせつ罪(174条)におけるわいせつ概念より広く,被害者の性的羞恥心を害する行為をいうと解すべきである(中森65頁)。したがって,相手の意に反して接吻する行為は,現在では公然わいせつ罪にはあたらないであろうが,本罪を構成する(東京高判昭和32.1.22高刑10巻1号10頁)。ただし,一般人の見地からみても性的差恥心を害する行為であることが必要であろう。具体的には,乳房や陰部を触る行為(名古屋高金沢支判昭和36.5.2下刑3巻5=6号399頁),裸にして写真を撮る行為(東京高判昭和29.5.29判特40号138頁),少年の肛門に異物を挿入する行為(東京高判昭和59.6.13刑月16巻5二6号414頁)等が本罪にあたる。改正前の刑法においては,強姦罪の被害者が女性に限定されていたため,男性に性交を強要する行為も本罪を構成していたが,平成29年改正によって,この場合にも強制性交等罪が成立することになった。
・・・
4本罪は故意犯であるから,本条後段の罪については,被害者が13歳未満であることの認識を必要とする。相手を13歳以上と誤信して,その同意を得てわいせつな行為をした場合は事実の錯誤として故意を阻却する。
なお,判例は,本罪を傾向犯と解し,わいせつな行為が「犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれること」を要するとして,報復目的で被害者の女性を裸にして写真撮影をしても本罪にあたらないとしている(最判昭和45.1.29刑集24巻1号1頁〔100〕)。しかし,本罪の保護法益を性的自由と解する以上,行為の法益侵害性は行為者の主観的意図により左右されるものではないから,この結論は不当である(実質的に同旨の立場をとるものとして,東京地判昭和62.9.16判時1294号143頁〔101〕)。後述のとおり,最大判平成29年11月29日(裁時1688号1頁〔102〕)は,昭和45年判例を変更し,性的意図を一律に本罪の成立要件とすることは相当ではないと判示している。性的意図の要否について本文で述べたように,昭和45年判例は性的意図を必要と解していたが,その後の下級審裁判例には,性的意図が不要である旨を判示するものも散見された(たとえば東京高判平成26.2.13高刑速(平26)45頁)。このような中,大阪高平成28年10月27日(高刑69巻2号1頁)は,被告人が,被害女児(当時7歳)に自らの陰茎をくわえさせるなどしてこれを撮影したが,被告人の主張によれば,その目的は第三者に画像データを送信して金銭を得ることにあり,性的意図はなかったという事件について,性的意図は不要として,強制わいせつ罪の成立を認めた。被告人の上告に対して,最大判平成29.11.29は,次のように判示して,上告を棄却している。
「刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。」本判決は,「性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とする」べきでないという限度で昭和45年判例を変更するものであり,強制わいせつ罪の成否において,常に性的意図が不要という趣旨の判断ではない。すなわち,①本件被告人の行為のように,行為それ自体に性的な意味が強く認められる行為については,行為者の主観面を問わず,わいせつ行為と評価されることになるが,②性的な意味を帯びているが,客観的には性的意味が必ずしも強くない行為(たとえば児童を抱きかかえる行為など)については,わいせつ行為に該当するか否かは,その「行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮」する必要があり,その判断要素として「行為者の目的等の主観的事情」も考慮されることになる。この場合には,主観的事情の内容の1つとして,行為者の性的意図も考慮される場合がありうるだろう。もっとも,本判決は「行為者の目的等の主観的事情」という表現を用いており,判断要素として考慮されるべき主観的事情は性的意図に限定されていない。たとえば行為者の性的傾向,行為に及んだ動機・目的なども判断資料に含められる可能性があるだろう。したがって,この類型についても性的意図は不可欠の要件とまではいえず,性的意図が認められないとしても,それ以外の主観的事情などによってわいせつ性が肯定される余地が残されているように思われる。これに対して,③行為者が特殊な性的傾向を有しており,一般的には性的意味を有しない行為を,性的意図に基づいて実行した場合には,そもそも当該行為が客観的に性的意味が乏しい以上,行為者の主観的事情を考慮するとしても,わいせつ行為と評価することは困難であろう。本判決が,わいせつ行為性の判断において,「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえ」る必要がある旨を判示しているのも,このような趣旨に基づくものと解される。

青少年条例の「わいせつ行為」とは?

 静岡県青少年条例では「わいせつ行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対して、性的に羞恥嫌悪の情をおこさせる行為とされていて、一般人基準のようです。
 強制わいせつ罪の場合については、高裁レベルでは性的自由を侵害する行為だとか説明されますが、青少年わいせつ罪については、保護法益も違うので、定義も異なるはずです。

静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例の解説h21
(淫行及びわいせつ行為の禁止)
第14条の2
1 何人も、青少年に対し、淫行文はわいせつ行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
[要旨]
本条は、背少年に対して淫行又はわいせつ行為をしたり、それらの行為を故意に教えたり、見せたりするなどして直披的に背少年の福祉を阻害する行為を禁止し、もって青少年の健全な育成を図ろうとする規定である。
[解説]
1 第l項関係
(1) 「何人も」 とは、第13条の2における「何人も」と同様の趣旨である。
(2) 「淫行」とは次のものをいう。
ア青少年を誘惑し、威迫し、欺岡しまたは困惑させる等、その心身の未熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為
イ「少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として取り扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為
(3) 「わいせつ行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対して、性的に羞恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。構成要件としては、「淫行」同様、青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段により行うものであること、又は、背少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として取り扱っているとしか認められないようなものであることを要する。
(4) 「してはならない」とは、青少年を相手方として、淫行又はわいせつ行為を行うことを一切禁止しているのであり、相手方の同意、承諾の有無及び対価の授受の有無は問わない。
(5) 接吻行為については、接吻のみを捉えて、条例上のわいせつな行為に含まれるかは疑問であり、当該行為に至るまでの動機や経過状況や相手方の意思並びに健全な育成を阻害した程度などよく検討して判断する必要がある。
青少年の精神的未熟さなどに乗じ、誘惑、威迫、欺罔、困惑などの手段を用いて、かつ接吻という行為に至る経緯、動機、意思、目的、双方の立場、関係、相手方に与えた影響などにより、接吻行為が条例のわいせつ行為に該当するか否か判断される。
相手の意思に反して暴行、脅迫という手段を用いて接吻という行為をすれば、当該行為が、強制わいせつ罪のわいせつ行為に該当する。13歳未満の相手に同意を得て接吻行為をした場合でも同じである。

県美元講師に無罪判決 中学生に接触 「無意識の可能性」-静岡地裁
2018.03.20 静岡新聞
 県立美術館の粘土教室に参加した女子中学生にわいせつな行為をしたとして、県青少年環境整備条例違反の罪に問われた静岡市駿河区大谷の元美術講師で自営業■■被告(36)の判決公判で、静岡地裁は19日、無罪(求刑懲役6月)を言い渡した。佐藤正信裁判官は「わいせつ性を認識した上で行為をしたと認めるには合理的な疑いが残る。犯罪の証明がない」と結論付けた。

 佐藤裁判官は被害女性の供述が「基本的に信用できる」として、吉村元講師が女性の尻付近など下半身を服の上から手で触れた点を認定した上で、「状況や供述などから各行為のわいせつ性を推認することは困難。無意識的な接触が繰り返された可能性を否定できない」と指摘した。捜査機関の事情聴取の過程で「被害の状況が誇張して述べられるようになった恐れは否定できない」とも述べた。吉村元講師は県立美術館の粘土教室でインストラクターをしていた2016年8月下旬、教室に参加した県西部の女子中学生の尻や胸、下半身を服の上から触る行為を2日間繰り返したとして、強制わいせつの疑いで静岡南署に逮捕された。

 判決後、県庁で記者会見した元講師と弁護団は「客観的整合性などの事実確認を怠り、供述に偏りすぎた捜査を行った」と訴えた。裁判官から「不慮の行為が女性に不愉快な思いをさせたのは間違いない」との説諭を受けた点を踏まえ、吉村元講師は「無罪はほっとしたが、配慮が不足していたことは反省したい」とも語った。

 静岡地検の大串雅里次席検事は「判決内容をまだ確認していないので、今日はコメントできない」と述べた。

静岡新聞

強制わいせつ罪・強制わいせつ致傷罪と姿態をとらせて製造罪は観念的競合だとした事例(東京高裁H30.1.30)

 判例DBに出てますから読んで下さい。

westlaw
1平成30年 1月30日 東京高裁 平28(う)1687号
PowerSort(重要判例順) 0.8
裁判区分 判決 裁判結果 控訴棄却 
事件名 保護責任者遺棄致傷、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐、強制わいせつ)、殺人、強制わいせつ致傷被告事件
文献番号 2018WLJPCA01306002
◇被告人が、当時生後4か月ないし5歳であったAからIまで及び13歳未満の氏名不詳の乳幼児12名に対し、一部の被害者には陰茎の包皮をむくなどの暴行を加えるなどして、いずれも性器を露出するなどの姿態をとらせた上、カメラ等で写真撮影し、当該撮影画像データを電磁的記録媒体に保存するなどしたという、強制わいせつ又は強制わいせつ致傷及び児童ポルノ製造、また、当時2歳のI及び生後8か月のHをわいせつな行為をする目的で誘拐して被告人方まで連れ込んだ上、Iに対し、わいせつな行為をしたという、わいせつ目的誘拐及び強制わいせつ、鼻口部を手で塞ぐなどして窒息死させたという、殺人、また、Hに対し、約12時間にわたってミルク等の栄養を全く与えず、その後は水分も与えず、約2時間にわたって全裸のまま放置するなどして、Hに生命に危険を及ぼすおそれのある重度の低血糖症及び脱水症、中程度の低体温症の傷害を負わせたという、保護責任者遺棄致傷事件において、原審が被告人を懲役26年に処したことから、検察官及び被告人が控訴した事案

判例ID】 28260882
【裁判年月日等】 平成30年1月30日/東京高等裁判所/第6刑事部/判決/平成28年(う)1687号
【事件名】 保護責任者遺棄致傷、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ(変更後の訴因 わいせつ誘拐、強制わいせつ)、殺人、強制わいせつ致傷被告事件
【裁判結果】 控訴棄却
【上訴等】 上告、上告受理申立て
【裁判官】 大熊一之 野口佳子 景山太郎
【審級関連】 <第一審>平成28年7月20日/横浜地方裁判所/第4刑事部/判決/平成26年(わ)528号...等 判例ID:28243152
【出典】 D1-Law.com判例体系
【重要度】 -

「“まるで実写”3DCG女子高生「Saya」、見つめると恥じらう 表情認識AIで進化」と児童ポルノ

 児童ポルノ・児童買春法の児童は実在性が要件となるので、モデルが実在しないと児童ポルノにはならない。
 ここまで精巧になって、裸にしたり、乳首触ったりすると児童ポルノと疑われる恐れが出てくるが、この記事のように作成過程も残しておくと、疑いを払拭することができる。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
第二条(定義)
1 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
3この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1803/09/news090.html
こちらが見つめると恥じらって目をそらし、笑うと彼女もはにかんだように笑顔を見せる――全て3DCGで描かれた女子高生キャラクター「Saya」が、テクノロジーイベント「South By Southwest Trade Show」(米オースティン、3月11~14日)に登場する。表情認識AI(人工知能)技術を組み合わせ、来場者の感情を推定してリアクションするまでに進化した。

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“実写にしか見えない”3DCGキャラクターの「Saya」=TELYUKA提供
 Sayaは、CGアーティストの石川晃之さん、友香さん夫妻のユニット「TELYUKA」(テルユカ)が作成した架空のキャラ。2015年に夫妻がTwitterで初披露し、ネット上で「実写にしか見えない」と注目を集めた。

 今回のイベントでは、4Kモニターに実物大のSayaが登場。来場者が目の前に立つと、近くのカメラが撮った顔の画像をAIがリアルタイムで分析し、感情を推定する。その結果を基にSayaが反応するという仕組みだ。

 例えば、見つめると恥じらって目をそらす、大きな動きをすると「ビクッ」とする、笑顔を認識するとはにかむ――というように「本物の17歳の女子高生のようにインタラクティブな(日本人らしい)リアクションする」としている。

 インタラクティブ機能は、博報堂が設計を担当。あらかじめ人間の顔写真を多数用意し、それぞれに人力で「喜んでいる顔」「悲しんでいる顔」というようにタグを付け、AIに学習させたという。

「下着や制服、画像売ります」女子大生、自撮りわいせつ画像を販売

 AVは差別だ・権利侵害だという控訴理由を唱えたことがありますが、あっさり否定されています。
 罰金30万円くらいだと思います

参考文献
アダルトビデオにおける性差別と人権侵害の実態及び法的救済策の比較法研究 / 中里見博,福島大学. -- [中里見博], 2001-2002
とか
性暴力としてのポルノグラフィ--ポルノ被害を可視化する (性教育実践2010) / 中里見 博 Sexuality. (45) (増刊) [2010.4]
とかを引用したのですが、屁理屈いうなという判断になりました。

某高判H23
第3控訴理由のうち,法令適用の誤りの主張について
③わいせつ図画陳列罪の保護法益は,もっぱら個人的法益である。
本件では投稿者が自己の男性器を投稿しているから,被害者の承諾ないし自傷行為として犯罪を構成しない(法令適用の誤りの第3点)。
控訴理由のうち,法令適用の誤りの第3点について
わいせつ図画陳列罪の保護法益は健全な性的風俗であり,わいせつ図画の投稿者の承諾かあるからといって同罪の成立には影響しないことは明らかである。
同罪がもっぱら個人的法益を保護するものであるとの主張は独自の見解であり採用できない。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180313-00000562-san-soci
下着や制服、画像売ります」女子大生、自撮りわいせつ画像を販売
3/13(火) 18:47配信 産経新聞
 自撮りしたわいせつな画像を販売したとして、大阪府警黒山署は13日、わいせつ電磁的記録頒布容疑で、大阪府八尾市の私立大2年の女(20)を逮捕した。同署によると、「楽してお金が欲しかった」と容疑を認めているという。

 逮捕容疑は平成29年11月27日、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の自身のアカウント内に「下着や制服、画像売ります」などと投稿。メッセージを送ってきた滋賀県内の50代男性会社員に、自身のわいせつな画像計5枚をダイレクトメールで送信し、5千円を銀行口座に振り込ませたとしている。当時、女は19歳だった。

 同署のサイバーパトロールで発覚。女は29年10月から今年1月中旬までに5、6人にわいせつ画像を送信し、計約6万円を受け取ったと話しているという。

深町晋也 [刑法入門]「性犯罪から学ぶ刑法」法学セミナー2018/04/no、759

 基本は性犯罪だそうです。
 監護者わいせつ罪の関係もあるので、「わいせつ」の定義書いてよ。

望ましい解釈とは何か?
はっきりしない文言を明確にする解釈は、人々の行動の予測可能性を担保するという点で極めて重要である。しかし、明確だからと言って、それが常に望ましい解釈であるとは限らない。そのことを教えてくれるのが、【事例1】のような事案を巡って示された最高裁判所の判断(これを「判例」という)である。
かつて、判例は、【事例1 】のような事案に対して、強制わいせつ罪の成立には「その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれること」を必要とし、「婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても、専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たとき」は本罪が成立しない(ただし、強要罪には当たりうる) と判断した(最一小判昭45.1.29刑集24巻1号1頁。以下、昭和45年判決と略)。こうした「性的意図」が必要とされた背景には、医師による治療行為の際には、外形的には性的に見える行為が行われたとしても、(性的意図がない以上は)なお本罪の成立が否定されるべきとの理解がある2)O
性的意図が必要だとする理解は、処罰範囲を明確に限定化する解釈であると言えるし、また、医師による治療行為などを処罰対象から除外するという点では、十分に理解可能な解釈である3)。しかし、性的意図必要説のもたらす帰結が、現在の我々を取り巻く社会状況において望ましいものと言えるかはなお疑問がある。すなわち、昭和45年判決が出されてから既に50年近くが経過する問に、性犯罪の被害が極めて重大なものであり、被害者に対して取り返しのつかないダメージを与えるものとなることが社会において共有されるようになっている4)。そうした社会の変化をも考慮すると、強制わいせつ罪の成立に当たり、行為者の性的意図が必須であるとの理解は、もはや維持しがたい状況になっている。性的意図必要説に対するこうした批判は、実務上も学説上も強く主張されるようになり、最終的には判例変更という形で最高裁も認めるに至っている。
最大判平29・11.29裁判所ウェブサイト(以下、平成29年判決と略)は、性的意図を必要とした昭和45年判決を明示的に変更して、性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立する余地を正面から肯定したのである51。この立場からは、【事例’ 】のような場合にも性的意図がないというだけで本罪の成立を否定することはできない。むしろ、「無理やり服を脱がして全裸の写真を撮る」という行為の性的意味につき、「当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮」(平成29年判決)しつつ判断することになる。【事例, 】のXは、Aの性的差恥心を害するような方法でその全裸を撮影しており、また、XはAの性的差恥心を害していることを認識していると言える。こうした諸事情を総合的に考慮すれば、XはAに対して「わいせつな行為」をしたと言えよう。
こうした解釈は、性的意図必要説と比べるとその処罰範囲に関して不明確な部分があることは否定できない。しかし、明確性の原則に反しない程度の不明確さの中で、その時代ごとの社会における価値観に照らして、より望ましい解釈を選び取ることは、刑法学の重要な任務であると言える。他の法律学もそうであるが、刑法学もまた、一定の限界の中で、時代の要請に応えるための学問である。明確性の原則と時代の要請との緊張関係の中で、その時代におけるより望ましい解釈を模索することが重要と言える。
2)本決定に対する大谷實・法セミ179号(1971年) 116頁はこの点を指摘している。
3)仮に、医師による診察行為まで処罰可能とすると、過度に広汎な処罰を認める規定とされよう。「漠然不明確」と「過度の広汎性」との違いについては、「7文献紹介」の【文献①】180頁以下を参照。
4)なお、昭和45年判決には、入江俊郎裁判官による反対意見が付されており、長部謹吾裁判官もこれに同調している。入江反対意見は、性的意図不要説を主張するものであって、昭和45年(1970年の時点で既に、明治40年(1907年)の刑法典制定時と比べてより性的自由が保護に値する旨論じている。ちなみに、最高裁の判決・決定においては、個々の裁判官による補足意見や反対意見が付されることが珍しくない。
5)平成29年判決は、ドイツ法などの比較法的知見も援用しつつ、社会の意識の変化を繼々論じており、判例変更の持つダイナミズムを強く実感することができる。是非読者の皆さんにも一読してもらいたいところである。



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[2]監護者性交等・わいせつ本罪の保護法益
主体の限定
刑法179条の立法過程の議論や立法担当者の解説を見る限りでは、本条の保護法益は、強制わいせつ罪(刑法176条)や強制性交等罪(刑法177条) と同一であり、被害者の性的自己決定の自由が保護法益と考えられている。条文の文言としても、「第176条の例による」「第177条の例による」とあり、保護法益の共通性を基礎づけるものと言える。こうした立場からは、刑法179条の「現に監護する者」についても、被害者の性的自己決定を類型的に危殆化するような立場として理解することになろう。こうした解釈は、4で述べたように、刑法の体系的な解釈と言えよう。
しかし、刑法179条は、刑法典だけではなく、児童の性的成長・健全育成を保護するその他の法律や条例などとも整合的に解釈される必要があるとも考えられる。こうした理解からは、刑法179条は、被害児童の性的自己決定の自由だけではなく、被害児童の性的な成長・健全育成をも併せて保護しているのだという解釈が可能である。この立場からすると、本条の規定する「現に監護する者」とは、単に被害児童の性的自己決定を歪めるような立場にあるだけではなく、むしろ、親子関係や親子関係に類似した、被害児童の性的成長に包括的な責任を負うような立場、あるいは児童に対して全人格的な交流を行う立場にあることが必要と解されることになる。
こうした解釈もまた、刑法典のみならず他の法律や条例における関連諸規定との相互の関係に留意した体系的な解釈と言える12)。


12)本文中で解説した2つの立場のうち、どちらがより説得的かは読者の判断に委ねるより他ない。こうした議論に関心のある方は、深町晋也「家庭内における児童に対する性的虐待の刑法的規律一監護者性交等・わいせつ罪(刑法179条)を中心に」立教法学97号(2018年)掲載予定を参照されたい。インターネット上でアクセス可能となる予定である。なお、この2つの立場で結論が大きく変わりうるのは、以下のような事例である。Zに監護者性交等罪が成立するか否か、読者の皆さんにも考えてみてもらいたい。すなわち、Zは、インターネットで知り合ったC (16歳)から家出をしたいとの相談を受けたため、Cを自宅にひと月以上に渉って住まわせた。Cは自宅に戻る意思はなく、このまま長期間に渉ってZの元で生活を継続することを強く望んでいたため、Zからの性交の要求を拒むことが出来ずに、複数回に渉って性交をした。

バニーガール(16)の「フリーおっぱい」は東京都迷惑防止条例違反で書類送検

 「1/28 バニーガール」だそうです。児童ポルノ製造を立てると、法律上は、被害者兼被疑者になるので、被害者と扱う為でしょうか。

 以前

http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2017/11/26/000000
着衣の上からでも、乳首(性器等)を触っている画像は、2条3項2号の児童ポルノになります。児童だったらの話です。
  他人が児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。)を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

 撮影は、児童自身も含めて公然陳列目的製造罪(7条6項)、公開は、公然陳列罪(7条7項)、所持は所持罪(7条1項)になる恐れがあります。児童だったらの話です。
 なお、東京都の青少年条例は「わいせつ行為」を処罰していません。

「平成29年版 警察実務 重要裁判例」警察公論第72巻第8号付録2017立花書房
児童の陰部を着衣の上から触っている状況を撮影した動画が記録された記録媒体が, 「児童ポルノ」に該当するとされた事例大阪地判平29.3.27

で取り上げたのはバニーガールではありませんでし、ネットに上がっていたので、別件の模様です。

JKユーチューバー、「フリーおっぱい」で書類送検迷惑防止条例違反の疑い
2018.03.13 サンスポ 
 防犯カメラでこの騒ぎに気づいた警視庁渋谷署員が駆けつけ、犯行が発覚。女子生徒らの目的は投稿用の動画撮影だった。
 撮影はスマートフォンを使用。その“撮影班”は、女子生徒と音楽イベントで知り合ったという高校3年の男子生徒(18)=相模原市=と、その知人の男性会社員(23)=東京都三鷹市。こちらも都迷惑防止条例違反や同ほう助の疑いで
 書類送検された。3人は動画投稿サイトで活動するユーチューバーで、「閲覧数を稼いで広告収入を得ようと思った」などと話しているが、今回の動画を投稿することはできなかった。
 最近では再生回数を上げるため過激な動画を撮影するケースが増加。昨年にも、ハチ公前広場で女子高生とみられる別の女性らが「フリーおっぱい」と書いたスケッチブックを掲げ、約60人の通行人や外国人旅行者らに胸を触らせる映像を撮影し投稿、炎上していた。今回の動画撮影は女子生徒が提案。共に企画した男子生徒はこの動画を知っていたと話しており、触発された可能性がある。
 3人は今後、家庭裁判所の判断に委ねられるが、都迷惑防止条例違反者には通常なら6カ月以下の懲役か50万円以下の罰金が科される。また、ネット犯罪に詳しい壇俊光弁護士(北尻総合法律事務所)は、通行人が胸を触った行為に関し「撮ることは分かっていたのに触ったということで、児童ポルノ作成罪の共同正犯になる可能性がある」と警告した。

◎通行人に胸触らせ動画撮影=投稿目的、少女ら送検-警視庁
2018.03.12 時事通信 
 送検容疑は1月28日午後6時半~同40分ごろ、渋谷区道玄坂のハチ公前広場で、バニーガール姿の女子生徒が「フリーおっぱい」と書かれたスケッチブックを両手で掲げ、通行人に胸を触らせた上、男子生徒らがその様子をカメラやスマートフォンで撮影した疑い。 
 同隊によると、人だかりに気付いた渋谷署員が駆け付け、生徒らから事情を聴いた。男女約20人に胸を触らせたといい、投稿は中止された。生徒らは動画投稿が趣味で、イベントなどで知り合ったという。昨年11月にも別の高校生が同様の動画をサイトに投稿し、問題となっていた。

http://www.sankei.com/affairs/news/180312/afr1803120028-n1.html
「再生回数増やしたく…」ハチ公前で“フリーおっぱい”撮影 ユーチューバーの高校生ら書類送検
女子生徒が東京・渋谷のハチ公前広場で身に付けていたバニーガール風衣装(警視庁提供)

 東京・渋谷のハチ公前広場で「フリーおっぱい」と書かれたスケッチブックを掲げ、通行人に胸を触らせるなどしたとして、警視庁生活安全特別捜査隊は12日、東京都迷惑防止条例違反(卑わいな言動)の疑いで、私立高1年の女子生徒(16)=千葉県船橋市=と公立高3年の男子生徒(18)=神奈川県相模原市=を書類送検した。同隊によると、2人は動画投稿サイト上で活動する、いわゆる「ユーチューバー」だった。

 また、通行人が胸を触る動画を撮影したとして、同法違反幇助の容疑で、映像制作会社社員の男性(23)も書類送検した。

 書類送検容疑は1月28日、ハチ公前広場で女子生徒がバニーガール風の衣装を着て「フリーおっぱい」と書かれたスケッチブックを掲げ、通行人に「おっぱい触り放題」などと呼びかけ約20人の男女に胸を触らせたなどとしている。女子生徒らは胸を触らせる様子を男子生徒のスマートフォンで撮影していたが、動画はインターネット上にアップロードされていない
女子生徒らは「再生回数を増やして広告料収入を得たかった」などと説明しているという。警視庁渋谷署員が騒ぎに気付き、犯行が発覚した。

https://www.nikkansports.com/general/news/201803120000416.html
投稿用の動画を撮影するため、東京・渋谷のハチ公前広場で「フリーおっぱい」と書かれたスケッチブックを掲げ、通行人に胸を触らせたとして、警視庁生活安全特別捜査隊は12日、東京都迷惑防止条例違反(卑わいな言動)の疑いで、私立高校1年の女子生徒(16=千葉県船橋市)を書類送検した。

 女子生徒は1月に、バニーガールの姿でハチ公前広場に立ち、十数分間で通行人の男女約20人に胸を触らせていた。人だかりができているのに警視庁渋谷署員が気付き、事情を聴いていた。

 生特隊は、様子を撮影していた女子生徒の知り合いの相模原市に住む高校3年の男子生徒(18)と、東京都三鷹市の男性会社員(23)の2人についても、同条例違反や同ほう助の疑いで書類送検。3人は動画投稿サイト「ユーチューブ」に動画を投稿する「ユーチューバー」仲間という。

 女子高生らは「閲覧数を稼いで広告収入を得ようと思った」などと話している。動画はサイトに投稿されなかった。

 3人の送検容疑は1月28日午後6時半ごろ、渋谷区道玄坂2丁目のハチ公前広場で、不特定多数に「おっぱい触りたい放題」などと呼び掛けて胸を通行人に触らせ、公共の場所で周囲の人を著しく羞恥させる行為をしたなどの疑い。(共同)

 児童が犯罪児童を模倣している

http://www.sankei.com/premium/news/180317/prm1803170019-n4.html
今回の事件で、ネット上では今回の女子生徒と同様に、ハチ公前広場で女性が「フリーおっぱい」を実施している動画がアップロードされており、「女子生徒らが撮影した動画ではないか」と一部で話題になった。しかし、警視庁によると、この動画に映る人物は女子生徒と別人で、昨年11月ごろに撮影されたものだという。

 ただ、この「フリーおっぱい」動画も、インターネット上でバッシングを受けていた。捜査幹部は「動画を投稿した女性はバッシングで精神的にショックを受けてしまったようだ」と話す。話題になるということは、こうしたリスクも抱え込むことになる。

 また捜査幹部は、今回の事件について、コミュニティーサイトで知り合った男性にだまされ、自分の裸の画像を送る「自画撮り被害」と類似の危険性にも言及している。女子中高生を中心に拡大している自画撮りの被害は、画像が一度ネットにアップロードされ、誰かに保存されてしまえば、元の画像を削除したとしても再びアップロードされてしまい、完全に削除することが難しくなる。

 捜査幹部は「動画投稿は今では学生でも手軽にできてしまう。しかし、『有名になりたい』という一瞬の欲望から、自分の将来をも壊しかねない行為だということを自覚してもらいたい」と呼びかけている。

法益論から見た強姦罪等の改正案(嘉門) 犯罪と刑罰26号

 監護者性交・監護者わいせつの保護法益が理解できないようです。

3監護者であることによる影響力の利用について
(1)立法趣旨
第三に、本改正によって監護者であることによる影響力を利用する類型(以下、「監護者類型」と称する)が新しく規定される点が問題となる。
立案担当者によれば、実親、養親等の監護者による'8歳未満の者に対する性交等が継続的に繰り返され、それが日常化してしまっている事案などでは、特定の性交等の場面だけを見ると、暴行や脅迫を用いることなく、抗拒不能にも当たらないような状態で性交等が行われているため、強姦罪、準強姦65罪では処罰できないものがあることが立法趣旨であるとされる。
具体的には、あたらしく監護者としての影響力を利用した性犯罪類型を規定し、「'8歳未満の者」を包括的に保護している。
このような包括的な保護規定の理由として、学説上、保護法益は、「性的不可侵性の侵害」、つまり、他人の性的干渉を受けない権利を段損することであるとして、’8歳未満の者が被害者である場合に関しては、被害者側の「自由な意思決定」の侵害よりも、行為者側の「抗拒不能に陥れるような行為」に着目し、類型的に子どもの性的尊厳を侵害する行為としての処罰を検討すべきとの主張がなさ67れていた。
しかし、いくら18歳未満の未成年とはいえ、自律的な判断が可能な人と、そうでない人の区別が必要ではないだろうか。
前述のとおり、ドイツでは、児童・少年の成長度合いに合わせて、類型の区別がなされており、絶対的に保護を受けるべき年齢の客体と、判断が未熟であるため「利用」されうるとして相対的な保護を受ける年齢の客体とは区別されている。
15歳にもなれば自己の判断で自由に恋愛をすることもあり、「18歳未満の者」としてまとめてしまうのは乱暴な規定であるといわざるをえない。
さらなる疑問として、現状において、13歳以上の未成年者についても、暴行要件の拡張ないし心理的抗拒不能概念を通じて強姦罪や強制わいせつ罪、準強姦罪や準強制わいせつ罪による重い処罰が可能であることから、68監護者類型に関して立法事実は不存在であるとの指摘がなされてきた。
それに加えて、青少年保護育成条例の淫行禁止規定、児童買春規定、児童福祉法上の淫行処罰規定が存在しており、行為者の児童に対する支配性や強制の程度による区別の困難性が指摘されてきた。
そこに、未成年者の性的保護のさらなる充実化のために、今回の改正案における新しい「監護者類型」が加わることになる。
とくに、新しい監護者規定は、強姦罪・強制わいせつ罪と同じ法定刑になる予定であり、ドイツと比較しても非常に重い法定刑が設定されている。
そこで、以下では、既存の各罪と監護者類型との区別について論じる。

単純所持罪で捜索したら、被疑者自身が製造した画像が出てきて、製造罪で検挙された事例

 所持者=性的虐待者という材料になりそうです。
 DVDの捜索差押で、パソコンとかスマホも押収されるのは、こういう余罪を疑ってるんでしょうね。

https://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hikou_gyakutai_sakusyu/H29.pdf
平成29年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況(pdf)(574KB)
3 主な子供の性被害事件の検挙事例
(1) 児童ポルノ事件
児童ポルノ専門販売サイトによる児童ポルノ提供事件(警視庁等)
平成29年3月、無職の男(60歳)らは、インターネット上のサイトで、不特定多数の者に対し、児童ポルノDVDを有償で販売し、発送して提供した。
同年5月、男ら4人を児童買春・児童ポルノ禁止法違反等で検挙した。
低年齢児童に係る児童ポルノDVDの購入者に対する取締りを推進した結果、同年9月、購入者である会社員の男(40歳)が児童の裸を撮影して製造したことが判明し、男を児童買春・児童ポルノ禁止法違反等で検挙した。

トイレ盗撮疑い 塾経営者を逮捕=愛知
2018.03.08 読売新聞社
 日進市で学習塾を経営する容疑者(47)が児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで逮捕されていたことが、県警への取材で分かった。逮捕は2月17日付。
 県警によると、容疑者は県内の女子トイレにカメラを設置し、盗撮した映像をDVDに複製した疑い。調べに対し「自分で見るために撮った」などと容疑を認めているという。
 容疑者がインターネット上で児童ポルノの画像を購入していたため、県警が容疑者の自宅を捜索したところ、盗撮映像の入ったDVDが数枚見つかったという。ほかにも複数人の女児が盗撮されたとみられる画像も見つかっており、
 県警が詳しく調べている。

強制わいせつ致傷罪と姿態をとらせて製造罪は観念的競合(東京高裁h30.1.30)だったり併合罪(高松高裁h26.6.3)だったり

 公開されている裁判例でも食い違っています。
 東京高裁h24.11.1は、ダビング無しの製造罪と強制わいせつ罪(176条後段)でも一個の行為ではないから併合罪としていましたが、東京高裁h30.1.30は「おむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどの暴行を加え」の場合には、製造行為と一個の行為だと評価しています。

高松は併合罪

松山地裁平成26年1月22日宣告
第8
1 H(当時13歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え,同月15日午後6時14分頃,同市(以下略)倉庫南側敷地内において,甘言を用いて仰向けに寝かせた同女の上に馬乗りになって同女の上半身の着衣をまくり上げる暴行を加え,その胸部を露出させ,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,さらに,同女の背後から抱きつく暴行を加え,着衣の上から胸や陰部を触るなどし,もって強いてわいせつな行為をし,引き続き,同市(以下略)公園北側通路において,同女から逃れるため,同女に対し,その首を手で押さえ付け,右顔面を拳で殴るなどの暴行を加え,その際,前記暴行により,同女に加療約4日間を要する右眼窩打撲・腫脹,頭部打撲,頚部打撲の傷害を負わせた。
2 同日午後6時14分頃,前記倉庫南側敷地内において,同女が18歳未満の児童であることを知りながら,前記1のとおり,甘言を用いて仰向けに寝かせた同女の上に馬乗りになって同女の上半身の着衣をまくり上げて胸部を露出させ,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,もって児童に衣服の一部を着けず性欲を興奮させ,かつ,刺激する姿態をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した

法令適用
なお,判示第8の罪数関係について付言するに,判示第8の1におけるわいせつ行為には,判示第1及び第3ないし第7における場合と異なり,児童の胸部を露出させた上での撮影行為だけでなく,胸や陰部を触るという児童ポルノ製造罪の実行行為ではない行為が含まれており,加えて,被告人が児童から逃げるための暴行にも及んでいることからすると,強制わいせつ致傷と児童ポルノ製造は,その行為の一部に重なる点があるに過ぎず,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,強制わいせつ致傷罪と児童ポルノ製造罪は刑法45条前段の併合罪の関係にあると判断した。

高松高裁平成26年6月3日宣告
原判示第8の罪数について論旨は,原判示第8の1の強制わいせつ致傷罪と同2の児童ポルノ製造罪の罪数については3観念的競合とすべきであるのに,これを併合罪とした原判決には,法令適用の誤りがありこれが判決に影響を及ぼすことは明らかである,というものである。
しかし,原判決がこれを併合罪であると判断したのは正当である。
所論は,原判示第8の1におけるわいせつ行為は,胸部を露出させてその状況を撮影する行為に限られるから,強制わいせつ行為と児童ポノレノ製造行為との実行行為は重なり合っているまた原判決は強制わいせつ致傷罪の関係では,わいせつ行為と逃げるための暴行行為とを一体の行為とみて単純一罪とし, 一個の行為とみているのであるから,児童ポルノ製造罪との関係でも一個の行為とみるべきである,というのである。
そこで検討するに,前記のとおり,原判示第8の1のわいせつ行為には,被害者の胸部を露出させた上で撮影する行為だけでなく着衣の上から胸や陰部を触るという行為も含まれるのであり強制わいせつ致傷罪と児童ポル露出させてその状況を撮影し,さらに着衣の上から胸や陰部を触るなどのわいせつ行為をし,逃げるために暴行を加えて傷害を負わせたという一連の行為について,原判決が強制わいせつ致傷一罪を構成すると評価したのは正当であり構成要件的観点からは一体として強制わいせつ致傷一罪を構成する3が,その観点を捨象した自然的観察の下においては,そのうちの一部の行為が児童ポルノ製造罪に触れる関係にあるというに過ぎず,それぞれにおける-4被告人の動態は社会的見解上別個のものといえるのであり,両罪を併合罪とした原判決の判断は正当である。
所論は採用できず,論旨は理由がない。


東京は観念的競合説

出典
エストロー・ジャパン
文献番号 2016WLJPCA07206016
横浜地裁平成28年 7月20日
 第7 被告人は,F(以下「F」という。)が13歳未満の男子であることを知りながら,平成25年3月10日頃,●●●において,F(当時生後8か月)に対し,おむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどの暴行を加え,亀頭部を殊更露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をスマートフォン付属のカメラで撮影し,その静止画データ12点を電磁的記録媒体であるスマートフォン(平成28年押第40号符号1)内蔵の記録装置に記録して保存し,もって13歳未満の男子に強いてわいせつな行為をするとともに,衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造し,その際,Fに全治約5日間を要する外傷による亀頭包皮炎の傷害を負わせた。【平成27年2月26日付け追起訴の関係】

 (法令の適用)
 罰条
 判示第7の所為のうち
 強制わいせつ致傷の点
 同法181条1項(176条)
 児童ポルノ製造の点
 改正前児童買春・児童ポルノ等処罰法7条3項,2条3項3号
 科刑上一罪の処理 判示第1,第7及び第9ないし第11について,いずれも同法54条1項前段,10条(判示第1について1罪として犯情の最も重い別表1の番号2の児童ポルノ製造罪の刑で,判示第7について1罪として重い強制わいせつ致傷罪の刑で,判示第9ないし第11についていずれも1罪として重い強制わいせつ罪の刑でそれぞれ処断する。)
 (裁判長裁判官 片山隆夫 裁判官 大森直子 裁判官 西沢諒)

東京高裁h30.1.30も観念的競合説
D1LAW
判例ID】 28260882
【裁判官】 大熊一之 野口佳子 景山太郎
【審級関連】 <第一審>平成28年7月20日/横浜地方裁判所/第4刑事部/判決/平成26年(わ)528号...等 判例ID:28243152
【出典】 D1-Law.com判例体系

 参考までに、従前、東京高裁は、ダビング無しの製造罪と強制わいせつ罪(176条後段)は併合罪としていました。奥村は弁護人ではない事件でした。

前橋地裁平成24年6月8日宣告 
監禁,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【罪となるべき事実】
 被告人は,遊戯中の女児にわいせつな行為をしようと企て
第1 平成23年7月15日午後5時33分頃,        C公園に設置された公衆便所内に,  Å (当時6歳)を誘い込んで,同便所ドア前に立ちふさがるなどして,同女の脱出を不能にし,その頃から同日午後5時38分頃までの間,同女を不法に監禁し
第2 同日午後5時33分頃から同日午後5時38分頃までの間,同公衆便所内において,前記Å,が13歳未満であることを知りながら,同女に対し,そのズボン及びパンティを引き下げ,その陰部を手指でもてあそび,舐めるなどした上,同女をして自己の陰茎を握らせるなどし,もって,13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をし
第3 前記Åが18歳に満たない児童であることを知りながら,同日午後5時34分頃から同日午後5時35分頃までの間,同公衆便所内において,同児童に,その陰部を露出させる姿態をとらせ,これを撮影機能付き携帯電話機で撮影し,その動画データを携帯電話機本体の内蔵記録装置に記録させて保存し,もって,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し
第4 同年12月19日午後5時6分頃,      D     ・ 公園に設置された公衆便所内に,  B  (当時6歳)を誘い込んで,同便所ドアの内鍵を施錠して,同女の脱出を不能にし,その頃から同日午後5時13分頃までの間,同女を不法に監禁し
第5 同日午後5時6分頃から同日午後5時13分頃までの間,同公衆便所内において,前記 g が13歳未満であることを知りながら,同女に対し,そのズボン及びパンティを引き下げ,その陰部を手指でもてあそび,舐めるなどした上,同女をして自己の陰茎を握らせるなどし,もって,13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をし
第6 前記 g が18歳に満たない児童であることを知りながら,同日午後5時9分頃から同日午後5時13分頃までの間,同公衆便所内において,同児童に,その陰部を露出させ,その陰部を被告人が触るなどの姿態及び同児童が被告人の陰茎を手淫する姿態をとらせ,これらを撮影機能付き携帯電話機で,2回撮影し,その動画データを携帯電話機本体の内蔵記録装置に記録させて保存し,もって,衣服の一部を着けない児童の姿態あるいは他人が同児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。
【証拠の標目】

【法令の適用】
1罰  条
  判示第1,第4の行為   各刑法220条
  判示第2,第5の行為   各刑法176条後段
  判示第3の行為      児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児
               童の保護等に関する法律7条3項,2条3項3号
  判示第6の行為      (包括して)同法7条3項,2条3項1号ないし
               3号
2刑種の選択
   判示第3,第6      懲役刑を選択
併合罪加重          刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯
               情の最も重い判示第5の罪の刑に法定の加重)
4未決勾留日数の算入      刑法21条
5訴訟費用の不負担       刑事訴訟法181条1項ただし書
(罪数についての裁判所の判断)
1 検察官は,①被害者をトイレに監禁してわいせつ行為を行った行為(判示第1と第2,判示第4と第5)は観念的競合であり,②被害者にわいせつ行為をした行為とそれを撮影して児童ポルノを製造した行為(判示第2と第3,判示第5と第6)は併合罪で,③2名の被害者をそれぞれ撮影して児童ポルノを製造した行為(判示第3と第6)は併合罪であると主張する。
  他方,弁護人は,①被害者をトイレに監禁してわいせつ行為を行った行為(判示第1と第2,判示第4と第5)は観念的競合あるいは牽連犯であり,②被害者にわいせつ行為をした行為とそれを撮影して児童ポルノを製造した行為(判示第2と第3,判示第5と第6)は観念的競合で,③2名の被害者をそれぞれ撮影して児童ポルノを製造した行為(判示第3と第6)は包括して一罪であるから,かすがい現象により,本件は結局一罪であると主張する。
  裁判所は,いずれも併合罪と判断したので,補足する。
2 ①について
  検察官は,監禁行為はわいせつ行為を目的とし,両者がほぼ同時に行われ,監禁行為がわいせつ行為を容易にしていることから,両者は社会的に1つの行為であることを観念的競合の理由とする(弁護人も同趣旨と解される)。
  しかし,本件においては,2つの行為が同時的に併存しているとはいえ,内鍵をかけたり,ドア前に立ちはだかる行為等の監禁行為と被害者の陰部を触る等のわいせつ行為は,被告人の動態として別個である上,両罪の実行行為として重なりはない(本件では,わいせつ行為に向けられた暴行,脅迫はなく,監禁行為自体が脅迫ともとれない)から,自然的観察の下で,社会的見解上1個の行為と評価されず,観念的競合とはならない。
  また,本件では,監禁行為がわいせつ行為を目的とし,かつ,容易にしているとしても,両者は通常の手段結果の関係にはないから,牽連犯ともならない(最高判昭24・7・12参考)。
  なお,本件では,検察官も弁護人も科刑上一罪を主張しており,争いはないが,罪数判断は裁判所の判断事項であるので,検察官,弁護人にも意見を求めた上,併合罪と判断した。
 3 ②について
  弁護人は,児童の陰部を露出させて撮影することによる児童ポルノの製造行為は,撮影それ自体がわいせつ行為に該当し,両者が日時場所を同じくして行われていることから,両者が観念的競合であるとする。
  しかし,児童ポルノの製造行為と強制わいせつ行為には,一部行為に重なりがあるものの,製造行為が必ずしもわいせつ行為を伴うものでもなく,また,撮影行為を伴わないわいせつ行為も可能であるから,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,製造行為とわいせつ行為を行う被告人の本件動静は,社会的見解上別個の行為とみるべきであるから,両者は観念的競合にはならず,併合罪とするのを相当とする。
4 ③について
  弁護人は,2名の被害者についての児童ポルノは,いずれも同じ携帯電話機で撮影されたもので,流通の危険を生じさせる可能性は1つであるから,包括一罪であるという。
  しかし,1つの記録媒体を使用したものであっても,撮影の日時場所,児童も異にして行われた製造行為は,別々の製造罪と評価できるからに包括一罪とはならず,別個に製造罪が成立し,併合罪となるのを相当とする。
 平成24年6月8日
  前橋地方裁判所刑事部第2部
      裁判官  野口佳子

判例番号】 L06720804
       監禁,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決
【判決日付】 平成24年11月1日
【掲載誌】  高等裁判所刑事判例集65巻2号18頁
       高等裁判所刑事裁判速報集平成24年158頁
       東京高等裁判所判決時報刑事63巻1~12号220頁
       判例タイムズ1391号364頁
       判例時報2196号136頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 判例時報2238号161頁
       法学新報123巻1~2号227頁
 2 法令適用の誤りの論旨について
  (1) 児童ポルノ該当性について
    所論は,原判示第3及び第6の動画は,一般人を基準とすれば性欲を興奮させ又は刺激するものに当たらない旨主張する。しかし,被告人は,原判示第3については,女児である被害児童のパンティ等を下ろして陰部を露出させる姿態をとらせ,これを撮影,記録し,同第6については,女児である被害児童のパンティ等を下ろして陰部を露出させ,その陰部を被告人が触るなどの姿態をとらせ,これらを撮影,記録したのであるから,これらの動画の上記部分は,各被害児童の年齢が当時6歳であったことを考慮しても,社会通念上,一般人を基準として性欲を興奮させ又は刺激するものに該当する。
  (2) 罪数関係について
   ア 監禁罪と強制わいせつ罪の罪数関係について
     所論は,原判示の各監禁罪と各強制わいせつ罪について,いずれも,①性的意図をもって被害児童を監禁する行為は,被害児童の性的自由を害して被告人の性的欲求を満足させる行為であるから,監禁行為とわいせつ行為は一体の行為として評価され,観念的競合の関係にある,②仮に,観念的競合の関係にはないとしても,監禁罪と強制わいせつ罪は手段と結果の関係にあるから牽連犯の関係にある旨主張する。
     そこで検討すると,被告人は,各被害児童に対し,いずれも,わいせつ行為をする目的で公衆トイレ内に誘い込んだ後,内鍵を施錠したり(原判示第4),ドアの前に立ちふさがるなどして(同第1),陰部を触る等のわいせつ行為をしたものであるが,わいせつ行為に及んでいること自体がドア前に立ちはだかることとなって監禁行為は継続しているし,わいせつ行為が終了した直後にその場から逃走して被害児童を解放している。そうすると,刑法176条後段に触れる行為と同法220条に触れる行為とはほとんど重なり合っているといえる上,社会的評価において,トイレのドアの前に立ちふさがるなどして脱出不能にする動態と,このような姿勢をとりながらわいせつな行為をする動態は,被害児童をトイレに閉じこめてわいせつな行為をするという単一の意思に基づく一体的な動態というべきであるから,原判示の各監禁罪と各強制わいせつ罪は,いずれも観念的競合の関係にあるものと解される。
   イ 強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について
     所論は,原判示の各強制わいせつ罪と各児童ポルノ製造罪について,いずれも,①被告人が,被害児童に陰部を露出させる姿態等をとらせ,これらを撮影した行為は,撮影行為も含めて全体として,児童ポルノ法7条3項に触れる行為であるとともに刑法176条後段にも触れる行為であり,行為の全部が重なり合う上,わいせつ行為として同質であるから観念的競合の関係にある,②仮に,観念的競合の関係にはないとしても包括一罪である旨主張する。
     そこでまず①の点について検討すると,その事実の概要は,被告人が,13歳未満の被害児童に対し,そのパンティ等を下ろして陰部を手指で触り,舐めるなどした上,自己の陰茎を握らせるなどする(以下,これらの行為を「直接的なわいせつ行為」という。)際に,性的欲求又はその関心を満足させるために,これらの姿態をとらせてその一部(原判示第2,第3の場合)又はそのほとんど(原判示第5,第6の場合)を携帯電話で撮影して児童ポルノを製造したというものである。
     確かに,所論のいうとおり,一般に上記撮影行為自体も刑法176条後段の強制わいせつ罪を構成すると解されている上,直接的なわいせつ行為の姿態をとらせる行為が児童ポルノ法7条3項の構成要件的行為であることからすると,本件において,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは重なり合いがあるといえる。しかし,本件では,被告人は,撮影行為自体を手段としてわいせつ行為を遂げようとしたものではないから,撮影行為の重なり合いを重視するのは適当でない。また,直接的なわいせつ行為の姿態をとらせる行為は,上記のとおり構成要件的行為ではあるが,児童ポルノ製造罪の構成要件的行為の中核は撮影行為(製造行為)にあるのであって,同罪の処罰範囲を限定する趣旨で「姿態をとらせ」という要件が構成要件に規定されたことに鑑みると,そのような姿態をとらせる行為をとらえて,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とが行為の主要な部分において重なり合うといえるかはなお検討の余地がある。
     そして,直接的なわいせつ行為と,これを撮影,記録する行為は,共に被告人の性的欲求又はその関心を満足させるという点では共通するものの,社会的評価においては,前者はわいせつ行為そのものであるのに対し,後者が本来意味するところは撮影行為により児童ポルノを製造することにあるから,各行為の意味合いは全く異なるし,それぞれ別個の意思の発現としての行為であるというべきである。そうすると,両行為が被告人によって同時に行われていても,それぞれが性質を異にする行為であって,社会的に一体の行為とみるのは相当でない。
     また,児童ポルノ製造罪は,複製行為も犯罪を構成し得る(最高裁平成18年2月20日第三小法廷決定・刑集60巻2号216頁)ため,時間的に広がりを持って行われることが想定されるのに対し,強制わいせつ罪は,通常,一時点において行われるものであるから,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為が同時性を甚だしく欠く場合が想定される。したがって,両罪が観念的競合の関係にあるとすると,例えば,複製行為による児童ポルノ製造罪の有罪判決が確定したときに,撮影の際に犯した強制わいせつ罪に一事不再理効が及ぶ事態など,妥当性を欠く事態が十分生じ得る。一方で,こうした事態を避けるため,両罪について,複製行為がない場合は観念的競合の関係にあるが,複製行為が行われれば併合罪の関係にあるとすることは,複製行為の性質上,必ずしもその有無が明らかになるとは限らない上,同じ撮影行為であるにもかかわらず,後日なされた複製行為の有無により撮影行為自体の評価が変わることになり,相当な解釈とは言い難い。
     以上のとおり,本件において,被告人の刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為は,その行為の重なり合いについて上記のような問題がある上,社会的評価において,直接的なわいせつ行為とこれを撮影する行為は,別個の意思に基づく相当性質の異なる行為であり,一罪として扱うことを妥当とするだけの社会的一体性は認められず,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,両罪は観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあると解するのが相当である。
     次に,②の点については,強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の保護法益の相違や,上記のとおり両行為の性質が相当異なることなどからすると,包括一罪にはならないというべきである。

   ウ 各児童ポルノ製造罪の罪数関係について
     所論は,原判示の各児童ポルノ製造罪について,児童を性の対象とする風潮を防ぐという社会的法益を主な保護法益とするから,被害児童が別であっても,犯行の日時場所が乖離せず被告人の犯意が継続しており,かつ,記録媒体が同一である本件においては,包括一罪となる旨主張する。
     しかしながら,児童ポルノ製造罪は,被害児童の人格や権利も保護法益とするものであるところ,原判示第3と第6の被害児童は別人であること,各犯行は約5か月離れて場所も異なるため異なる機会に新たに犯意が形成されたものというべきであることからすると,記録媒体が同一であっても,一罪として1回の処罰によるべき事案とは考えられず,包括一罪にはならないと解すべきである。
   エ 小括
     上記アのとおり,監禁罪と強制わいせつ罪とは観念的競合の関係にあるから,これを併合罪の関係にあるとした原判決には法令適用の誤りがあるが,上記イ及びウを踏まえれば,この誤りによって最終的な処断刑の範囲は変わらないから,判決に影響を及ぼすものとはいえない。
 3 量刑不当の論旨について
   本件は,被告人が,平成23年7月と12月に,それぞれ別の被害児童を公園の公衆トイレに誘い込んでトイレ内に監禁し,その間,13歳未満の児童に対してわいせつ行為をするとともに,その姿態を携帯電話で撮影,記録したという,各2件の監禁,強制わいせつ,児童ポルノ製造の事案である。
   被告人は,いずれも公園で一人で遊んでいた見知らぬ当時6歳の児童に声をかけ,その未熟さや性的知識のなさにつけ込んで密室のトイレに誘い込み,自己の性的欲求を満たすために犯行に及んだものであり,卑劣かつ悪質な犯行である。被告人が難病による大きなストレスを抱えていたことを考慮しても,身勝手な動機に酌量の余地は乏しいと言わざるを得ない。いずれも10分足らずの犯行であったものの,陰部を舐めたり自己の陰茎を握らせるなどして射精するに至っているほか,その一部を後で見るために撮影しており犯情は極めて悪いというほかない。各被害児童は過激なわいせつ行為をされ,その顔が特定できる形で撮影までされたのであって,その精神的衝撃や不安感,不快感は大きく,成長過程における悪影響も否定できないし,その保護者らにも多大な衝撃を与えたものである。
   そうすると,被告人の刑事責任は重いというほかなく,事実を認めて反省し,謝罪の手紙を書くなどしているほか,被害児童の保護者の一人との面会を契機に更生の意を強くしていること,被告人の両親がカウンセリング等の受診を検討した上で今後の監督を約束していること,被害児童側に各80万円を支払い示談が成立していること,2万円を贖罪寄付したこと,比較的若年で前科前歴がないこと,難病を患っていること,その他所論が指摘する酌むべき事情を十分考慮しても,原判決の量刑が重すぎて不当であるとはいえない。所論は,原判決後の事情として,被告人が反省を深め,性癖矯正のため依存症治療の専門クリニックの相談員と文通を始めたことや,上記の面会した保護者が原判決の量刑は重すぎる旨の考えを示していること等を指摘するが,その責任の重大性に鑑みると,これらを考慮しても,上記の判断は変わらない。
 4 結論
   よって,論旨はいずれも理由がないから,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中70日を原判決の刑に算入し,当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 村瀬 均 裁判官 倉澤千巖 裁判官 池田知史)

「くわえろ、しゃぶれ!」とおもむろに露出した局部を18歳男性に突き出し、口淫をさせようとした行為は、強要未遂罪か強制わいせつ未遂罪か強制口腔性交未遂か

 口淫させるというのは、改正前の刑法では強制わいせつ罪だったので、強制わいせつ未遂が検討されました。強要未遂とは性的意図で区別していました。大法廷h29.11.29が性的意図原則不要ということになったの、強制わいせつ罪と強要罪の区別が曖昧になっています。
 現行刑法では、口淫させようとする行為は性的意図があってもなくても強制口腔性交未遂(177条前段)になって、強要未遂罪ではありません。
 当直幹部が前例もなく擬律迷ったので、強要未遂で逮捕したんでしょうな。
 強要未遂だと被疑者国選弁護人が付かないので、不用意に自白しちゃって、強制口腔性交未遂で起訴ということもあるので、当番弁護士などを利用して防御するとか慰謝の措置を尽くすとかして下さい。

第一七六条(強制わいせつ)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
第一七七条(強制性交等)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
第二二三条(強要)
 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3前二項の罪の未遂は、罰する。

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/newsx/224531/1
「くわえろ、しゃぶれ!」
 おもむろに露出した局部を18歳男性に突き出し、口淫をさせようとした変態ドクターがパクられた。
 強要未遂の疑いで3日、奈良県警に逮捕されたのは、同容疑者(27)。
 容疑者は2日夜、飲食店で医療関係者らと酒を飲んだ後、橿原市内のカラオケボックスA店に移動。そこで18歳のCさんと知り合った。
「Cさんは未成年の友人10人ぐらいとA店に来たところだった。満室だったのか、入店を断られたそうです。それを見ていた容疑者の仲間が、Cさんたちに『店に入られへんのやったら、ヨソ行ったらええやん』といったニュアンスのことを言ったようです。親切にも、わざわざCさんたちを数百メートル離れたB店まで案内した。『ここで歌っときいや』と声を掛けてA店に戻り、それぞれA店、B店という別々のカラオケボックスで歌うことになった。しばらくして容疑者のグループはお開きになり、容疑者ら4人がCさんたちがカラオケをしていた部屋になだれ込んだのです」(捜査事情通)
そこで「悲劇」が起こる。
「容疑者がCさんの前で局部をあらわにし、強制的に口淫をさせようとした。一緒にいた容疑者の連れが『やめとけや』と制止したため、Cさんは難を逃れた。しかし、懲りない容疑者は別の男性にも同じ行為を繰り返したのです。怖くなったCさんの友人が店内から110番通報。駆け付けた警察官に事実を認めたため、午前0時25分ごろ、現行犯逮捕した。容疑者は酒に酔っていて、動機については今後の捜査で明らかにしていくそうです。容疑者はすでに釈放されています」(前出の捜査事情通)