児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・強姦・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(強姦罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例違反)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

暴力的性犯罪における被害者の落ち度・軽率

 強姦致傷・強制わいせつ致傷の裁判員事件用の量刑DBの項目には「被害者の落ち度」があって、「あり」の場合には軽くなっていますので、弁護人は探して指摘することになりますし、裁判所も考慮します。
 「被害者の落ち度:あり」で抽出すると、そう評価された事情も分かります。最近は「夜道一人歩き」「無施錠」が考慮されることはなく、「前にもやられたのについていった」とか、「出会い系サイトで知り合ったばかりだ」とか、「本件直前に性器等を舐めさせた」などが見受けられます。

原田國男「量刑判断の実際〔第3版〕(立花書房・平成11年)」
p19
(13) 被害者側の事情
被害者側に落ち度ないし責めに帰すべき事情があることは,一般に,被告人の責任を軽減する情状であるといってよい。しかし,その内容・程度は,多種・多様であり,被害者側の落ち度等といえるかどうか微妙な場合もある。

p70
⑨ 被害者側の落ち度ないし過失については,民事事件に関連するので,これに言及するのであれば,きちんとした判断を示すべきである。被告人側に対するリップサービス的な記載は慎まなければならない。例えば,横断歩道上の事故であるのに,死亡被害者も注意をしていれば,事故が避け得たであろうから,その意味では被害者側にも落ち度があるというような主張を弁護人がすることがある民裁判所がそのような主張をそのまま受け入れるとなると,疑問であろう。
(112) 二木雄策『交通死一命はあがなえるか一j(平成9年,岩波新書) (筆者は,娘を交通事故で失った経済学者であり,刑事裁判に対する鋭い批判を随所にしている。)28頁は,このような弁論に対し,法律家の弁としては許されないとしている。似たような例として,窃盗の事案で,戸締まりを忘れていたことが被害者側の落ち度として主張されることがある。都会か地方かの違いもあるが,この点が量刑に影響するような落ち度であるのかよく考えてみる必要があろう。暗い夜道を帰宅していた若い女性が被害に遭った場合なども同様である。東京弁護士会法友全期会編・前注29  363頁は,犯罪学的には,犯罪には被害者側に何らかの落ち度(誘発すら)があるものであり,どんな些細な点でも指摘すべきであるとするが,このような主張は,往々にして責任の転嫁と受け取られ易いことに注意すべきである

東京弁護士会法友全期会編
新版刑事弁護マニュアル下(公判弁護編) (平成9年, ぎょうせい)
p363
情状チェックリスト
⑤被害者側の落ち度犯罪学的には、犯罪には被害者側に何らかの落ち度(誘発すら)があるものであり、どんな些細な点でも指摘すべきである

坪井祐子「被害者・関係者・第三者の落ち度と量刑」量刑実務体系
第1 はじめに被害者の落ち度をめぐる今日的状況/297
第2 被害者の落ち度について/300
1 被害者の落ち度が量刑を引き下げる理由
(1) 被害者の有責(有罪)性」論/
(2) その後の問題意識/(3) 考察
2 被害者の落ち度に関する裁判例の検討
(1) 被害者が加害者の行為に承諾(同意)を与えた場合/(2) 被害者が危険を知って犯罪に接近してきた場合/(3)被害者が動機の形成に寄与した場合の裁判例/(4) 被害者の不用意さに加害者がつけ込んだ場合/(5) 過失犯において被害者の過失が事故の発生に寄与している場合/(6) 犯罪行為と結果発生の間に被害者の行為が介在している場合
第3 関係者の落ち度について/316
第4 第三者(特に医療従事者等)の落ち度について/318
第5 最後に/319
l 大きな5つの傾向
2 今後の展望

p309
不用意な被害者
さて,ここで困難な問題として,被害者の不用意さを量刑事情としての「落ち度」と考えることができるかを論じてみたい。特に,計画的な態様の犯罪において,加害者がことさらに不用意な被害者を選び出して犯罪のターゲツトとする場合,例えば,当初から強姦をする目的で出会い系サイト等を利用して少女と連絡をとり,援助交際をするために出向いてきた少女を強姦する行為,一般的には考えられないような高利回りを宣伝しこれに釣られてきた被害者から投資金名目で金を踊し取る行為,戸締まりをせずに留守にした居宅に侵入して金品を盗む行為などにおいて.「被害者の落ち度」を理由に量刑を引き下げるべきであろうか。これを落ち度として取り上げることについては,被害者支援の関係者から「被害者パッシング」であるとの強い反発がある。ことに,性犯罪の被害者の落ち度を取り上げることは「女性のみに厳しい性道徳を押しつけるジェンダーバイアス」と指摘されることがある23)。
これらの事例では,被害者らは加害者側の欺踊行為によって錯誤に陥っている,あるいは,周囲を信頼して行動していることが多く. 「自己責任」の理屈で法益が減少すると説明するならば. 「被害者は,周囲を信用せず,警戒を怠らずに行動しなければならない。」という厳しい法益保持義務を要求することになり,国家が国民にそのような義務を課することはいささか過剰な要求のように思われる。成人の被害者についてはそのような義務を課してよいという見解もあり得ょうが,判断能力の乏しい年少者や高齢者にまでこれを要求するのであれば酷であろう。
他方,加害者側の責任に目を向けるならば,加害者は自己の金銭欲や性欲から犯罪を計画しているわけであって,被害者側が動機の形成に寄与していることもなければ,興奮や狼狽から犯罪に出てしまったわけでもないから責任を減弱させるべき要素はない。しかも,これらの犯罪は模倣性も認められるので,刑罰による抑止の必要も高い。
そうすると,このような「被害者の落ち度」は本来的には考慮する必要は乏しいように思われる。このように解したとしても,先の強姦の例では,態様が自動車への引きずり込みなどの危険性・暴力性の高いものではないことが量刑を軽くする事情(重くしない事情というべきかもしれない。)として考慮、されることになるし,住居侵入・窃盗の例でも,当然,ピッキング等の巧妙な手段を用いた事例よりは量刑は軽くなるわけで,被害者の不用意さは犯罪の態様や手口の問題に還元できるようにも思われる。
しかし,このような考え方は,実務家の間ではまだ一般的ではなく,研究会の席上でも,この種の被害者の不用意さもまた量刑上に重要な要素であり,特に性犯罪で被害者が援助交際をしようとしていた,声を掛けられて自動車に乗った,というような事案では,そもそも違法性や責任が低くなるとの見解が有力に主張された24)。
ただ,この種の「被害者の落ち度」を肯定する立場に立つとしても,何を取り上げるか,特に性犯罪の被害者となった女性の行動を「落ち度」とするか否かについては,今一度間い直されるべきである。例えば「夜道を女性が一人歩きする」「セクシーなドレスを着る」ことを裁判官が落ち度として取り上げるならば,時代錯誤のそしりを免れないであろう。
23) 萩原玉味「強姦事件の量刑」刑弁35号(平成15年)56頁,同「我が国における強姦罪の量刑事情と今後の諜題」明治学院論叢635号(平成11年) 83頁。
24)すなわち,そのような場合には,被害者の承諾はないとしても,それに準じる意思表示がなされたものとみるべきであるから違法性が減少しまた,加害者の側からすれば性行為ができるという期待をしたとしでもある程度やむを得ないから,期待可能性が減じるというのである。631213


・・・
2 被害者の落ち度に関する裁判例の検討
P314
ところが,強姦等の事案では,量刑理由のかなりの部分を「被害者の落ち度」に関する説示が占めている判決が存する。@浦和地判平1.10.3. .浦和地判平4.3.9などがそうである。被告人側に周到な計画性がなかったことや暴行・脅迫の程度がそれほど過酷ではないことを述べたいのであろうが,「落ち度」に余りに力を入れることは,被告人の行動を正当化しているとの誤解を受けることにならないかと心配になる。フェミニストからは「裁判官のジエンダーバイアス」が非難されることがあるが,確かに性犯罪に対する判決におけるこの種の被害者の落ち度の重視ぶりは,他の犯罪,特に財産犯と比較すると目立つことは否定できない。
P315
(6) 犯罪行為と結果発生の聞に被害者の行為が介在している場合
この事例についても適切な裁判例は多くない。大阪高判平14.1l.26の事案は,被告人が教師であったためもあり,捜査段階からかなりセンセーシヨナルにマスコミ等で取り上げられ, 1審判決が12歳の被害者の落ち度(テレクラを通じて援助交際をしようとしたこと)を取り上げたことは批判の対象となった。この裁判例は,被害者らが援助交際を目的に被告人に接近したことをもって「落ち度」と評し得るかという問題もはらんでいる。
被害者の行為の介在によって本来の危険より大きな結果が発生してしまった場合は,加害者の行為の危険性がそれほど大きくなかったことが量刑事情になると考えられ,あえて「被害者にも落ち度がある」と喧伝するまでもない。水戸地土浦支判昭63.12.13,最二小決平15.7.16の原審などは介在した被害者の行為を落ち度と表記していないが,量刑事情を看過したものとはいえないと思われる。
これとは逆に,生じた結果は当初の危険の発現に過ぎず,被害者の行為の介在によって若干早まった程度に過ぎない場合には,被害者の行為をもって有利な事情に当たると解釈することはできない。@最三小決平16.2.17の原審は,そのような意味で被害者の行為について何も触れていないものと思われる。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170701-00000090-mai-soci
最後まで抵抗しなかったのが悪い、と娘や妻に言えるのか--。性暴力を扱ったNHK情報番組「あさイチ」で、死ぬ気で抵抗すれば被害を防げたなどとする視聴者の声をゲストが明快に否定し、話題となっている。それにしても性暴力では被害者にも非があるという偏見、なぜかくも根強いのか。【坂根真理、上東麻子】

 「無関係ですか? 性暴力」と題し先月21日に放映された同番組では有働由美子アナウンサーが視聴者の意見を読み上げた。「激しく抵抗すれば避けられる」「性交が成し遂げられたのは女が途中で諦め、許すから」「被害者でありながら落ち度がある場合がある」

 これに対し、ゲストでタレントのジョン・カビラさんは「あり得ない」と首を振り、丁寧な言葉で一刀両断。「男はオオカミ」という意見には「オオカミは一夫一婦制で添い遂げる生き物」と機知を利かせて切り返した。番組を受けてネット上で「男性の暴言を一喝した」など称賛があふれた。カビラさんの事務所はツイッターで「大きな反響に驚いています」と謝辞を投稿した。

 20代前半で職場の上司にレイプされたという東日本の女性(30)が、毎日新聞の取材につらい過去を初めて語った。「やっと就いた仕事を失うかもしれない」と頭が真っ白になり、抵抗できなかった。交際相手や親、女性警察官に「なぜ逃げなかったのか」と責められ、しばらく外出ができず会社を退職。今も時々恐怖に襲われるなど心に深い傷を負っている。

 性暴力の原因を被害者に帰す考え方は昔も今も変わらずある。

 千葉大医学部の学生ら4人が女子学生に集団で性的暴行を加えたとされる昨年9月の事件でも、ネット上で「男と飲んで意識を失うなんて自業自得」「女のせいで男が被害者になる」など中傷が相次いだ。フリージャーナリストの詩織さんが、元TBS記者に抵抗できない状態で強姦(ごうかん)されたと今年5月に訴えた際も、詩織さんを責める声が多数ネット上に投稿された。

 NHKによると「あさイチ」放映中に2500件超の反響があった。ネット上ではなく公共放送でも被害者に非があるとする一般視聴者の意見が複数紹介され、偏見の根深さが浮き彫りとなった。

 「あさイチ」で共演した武蔵野大の小西聖子(たかこ)教授(臨床心理学)は「男性の立場で明快に語ってくれてありがたい」とカビラさんを評価。偏見が消えない理由について「2次被害を恐れ被害者が体験を語らないことで、偏見が増幅する悪循環があるのではないか。人は経験したことがない他人の体験を、いとも簡単に批判する。想像力や共感力の欠如も一因だ」と指摘する。

 性暴力被害者を支援するNPO法人「しあわせなみだ」は番組を受けてカビラさんを招き、「『抵抗しなかった君が悪い』と言えますか?」と問いかけるイベントを今月、東京都内で計画。中野宏美代表は「女性を性的所有物と考える男性は多い。加害者の75%は被害者と知り合いで、抵抗できず声を発することができない現実がある」と訴えている。