[性犯罪] 「乳がん検診で医師が盗撮」はわいせつ行為(刑法178条1項)か
判例は「客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,犯人がその旨認識していれば,犯人に性的意図が認められないにしても,強制わいせつ罪が成立する(大阪高裁H28.10.27)」なんていうのですが、「乳がん検診で医師が盗撮」というのも被害者に言わせれば「被害者の性的自由を侵害する行為がなされた」と言うわけで、「客観的に被害者の性的自由を侵害する行為ではない」とは言えないでしょう。
従前、著しくしゅう恥させる行為というのは強制わいせつ罪の守備範囲外ということで、条例で補ってきたわけですが、わいせつ行為に「性的自由」を取り込むと、著しくしゅう恥させる行為は、だいたい、強制わいせつ罪ということになりますよね。
条例で法律を解釈するというのは間違っているのですが、強制わいせつ罪の解釈変更の影響として指摘しておきます。
学説も定まってないようです。
佐藤陽子説。。。客観的に正当な治療行為であれば処罰されない
佐藤陽子「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」 法律時報2016.10
小特集 性犯罪処罰の基本問題
本稿のように、性的意図をわいせつな行為の一考慮要素とすれば、①治療行為や②フェティシズム行為において、性的意図がどのような影響を与えるかが問題になろう。
①我が国の裁判例においては、治療行為についても性的意図を重視する傾向にあるように思われる45)。しかし、治療行為は社会通念上、およそ性的性質を有さないであろう。同じ陰部に指を挿入する行為であっても、婦人科医が診察行為としてそれを行う場合はもはや社会的評価が異なるといえる。さもなければ、客観的に全く正当な治療行為46)をおこなった医師に犯罪が成立しうることになるだろう。確かに、仮に行為者の性的意図が被害者に明らかになれば、被害者の蓋恥心が著しく害されることになるだろうが47)、内心に性的意図が隠れていることだけを理由として、客観的に正当な治療行為を処罰することは不当であろう48)。佐伯仁志説・・・正当な治療行為も猥褻にあたる
佐伯仁志「強制猥褻罪における猥褻概念」判例タイムズ 第40巻29号
必要説には以下のような根拠が考えられるが、いずれも充分なものではないと思われる。
第三に、保護法益を性的自由と解しながら、強制猥褻罪の成立には法益侵害に加えて行為者の性的意図が必要であるとする(17)見解があるが、強制猥褻罪に限ってこのような「書かれていない構成要件要素」が必要な理由が明らかでない。この見解は、治療目的や懲戒目的の場合を猥褻行為から排除しよういう意図を{18)もつのかもしれない。しかし、客観的に治療行為、懲戒行為とみられる行為の違法性が、行為者の意図によって左右されるのは妥当でない。
もし左右されるという立場に立ったとしても、正当化事由の主観的正当化要素として構成すれば足り、強制猥褻罪一般について性的意図を要求する理由とはならないであろう。
青柳文雄説・・・医師が婦人の診察に当ってその主観的な性的傾向が行為者を行為へと導いた場合にはじめて猥褻罪を構成する青柳文雄「傾向犯について」法学研究三六巻四号(昭38) P2
傾向犯の例として一般に引用されるのは猥褻罪の例であって、医師が婦人の診察に当ってその主観的な性的傾向が行為者を行為へと導いた場合にはじめて猥褻罪を構成すると論じられる。しかし、このような特殊の場合にだけ猥褻罪が傾向犯になるのであって一般の差恥感情を害することを処罰する猥褻罪全部が傾向犯なのではないhttp://www.sanspo.com/geino/news/20170628/tro17062818310013-n1.html
乳がん検診で医師が盗撮 スマホから上半身裸の女性の画像、当日は150人診察大阪府岸和田市で27日にあった市職員向けの乳がん検診で、担当した40代の男性医師が受診者をスマートフォンで盗撮したことが28日、市や岸和田署への取材で分かった。スマホに画像が残されており、署の調べに盗撮を認めたという。