児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童福祉法34条1項6号違反の罪(児童淫行罪)と児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の罪(3項製造罪)の関係−最高裁決定平成21年10月26日を受けて(要旨)

 併合罪説だと当たり前すぎて筆が進まないのでこれで出そう。

 「奥村先生、要旨書けるんならこれから書いてくださいよ」とか、「まーだカンネンキョーかよ!」と言われそうです。高裁から。

平成22年京都大学大学院法学研究科法政理論専攻博士後期課程編入学試験(社会人特別選考)用論文

平成22年1月8日


 児童福祉法34条1項6号違反の罪(児童淫行罪)と児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の罪(3項製造罪)の関係−最高裁決定平成21年10月26日を受けて(要旨)

奥 村    徹


 罪数は、刑事実務においては、捜査段階の手続きの単位、起訴時の事物管轄、訴因特定、二重起訴の判断基準、訴因変更の可否、処断刑期、一事不再理効の範囲、刑の執行等の各段階で問題になるが、児童ポルノ罪相互間の罪数や他罪との罪数関係については従来、全く議論されていなかった。
 そこで最近、児童ポルノ罪の罪数処理に関する最高裁決定が相次いでいる。
最決H21.10.21(児童淫行罪−製造罪)
最決H21.7.7(提供罪−所持罪)
最決H20.11.4(犯罪収益仮装−提供罪)
最決H20.3.4(輸出罪−提供罪)
 このうち、最決H21.10.21は、児童淫行罪の際にその模様を撮影した事件で、旧少年法37条2項が適用されて、児童淫行罪との罪数処理によっては製造罪が管轄違になるという事案であって、罪数処理が真剣に争われた事件である。
 観念的競合の判断については最判S49.5.29が「刑法五四条一項前段の規定は、一個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競合する場合において、これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものであるところ、右規定にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいうと解すべきである。」と判示して一応の基準を示しているのだが、実際には微妙な事案もあるし、自然的観察以外の配慮も行われており、実務が混乱していることがある。
 児童ポルノ製造罪と他罪(性行為を伴う罪)の関係においても混乱があって、児童淫行罪と3項製造罪の関係についても、

横浜家裁横須賀支部 H17.6.1 観念的競合
大阪地裁 H17.7.15 併合罪
東京高裁 H17.12.26 観念的競合
東京高裁 H18.1.10 併合罪
長野家裁 H18.4.20 観念的競合
札幌家裁小樽支部 H18.10.2 観念的競合
名古屋家裁岡崎支部 H18.12.5 観念的競合
札幌高裁 H19.3.8 観念的競合
名古屋家裁 H19.4.17 観念的競合
東京地裁 H21.1.28 併合罪
東京高裁 H21.10.14 併合罪

という混乱状況にあった。
 最決H21.10.21の審理経緯を見ても、検察官は始終観念的競合を主張し、裁判所も一審・控訴審とも観念的競合説を採ったのだが、最高裁は突如併合罪であると判示しており、裁判所の混乱が明らかになっている。
 さらには、前提問題として、「姿態をとらせ」は3項製造罪の実行行為として両罪の重なり合いを検討する際に考慮すべきかという問題もある。
 そこで、弁護活動や刑事確定訴訟記録法により収集した児童ポルノ製造罪と他罪との罪数処理の例を多数紹介して裁判所の罪数評価の傾向を概観した後、筆者が弁護人として関与した事件における裁判所の判断を検討してみると、従前の判例は、

?撮影行為自体と淫行とが重なり合う
?「姿態をとらせて撮影する」という一連の行為と淫行とが重なり合う

という理由で観念的競合としていたことがわかった。
 この論点についての学説を見ると、公刊された裁判例が東京高裁H17.12.26(観念的競合)であったことからか、観念的競合説がほとんどであった。
 筆者は前提として

? 行為の個数の判断において判断対象とする行為とは抽象的な行為ではなく、○月×日に被告人が淫行しながら撮影したという具体的な行為であること
?「姿態をとらせ」は3項製造罪の実行行為であること

を明らかにした後、最判S49.5.29の基準にそって、

? 製造罪の構成要件における「姿態」の要件を分析すると、「姿態」の要件が被告人と児童との性交等によって充足されている以上は性交等を撮影することは性交等とは一個の行為であること
? 「姿態をとらせ」は3項製造罪の実行行為であり、「姿態をとらせ」の部分が児童淫行罪の実行行為である性交等と重なり合うこと
? 撮影行為は児童に対する性的虐待行為を記録する行為にとどまらず、それ自体が児童に対する性的虐待であって、支配関係を背景にした児童に対する性的虐待を処罰するという児童淫行罪の趣旨も、他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの製造であっても、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならないという製造罪の趣旨も、児童保護という点では同根であって、社会的見解上、区別することはできない。

という理由で、両罪を観念的競合であると考えた。
以上