児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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第182条(16歳未満の者に対する面会要求等)の解説~刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】法務省

第182条(16歳未満の者に対する面会要求等)の解説~刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】法務省

法務省から内閣法制局への説明文書です。

「アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して、遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し、陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影し被告人に送信するよう要求して、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせて撮影させた行為の「わいせつな行為」該当性が争われた事案(大阪高判令和3年7月14日・公刊物未登載)」は奥村事件です。児童ポルノ製造とは観念的競合

 送信型強制わいせつ罪の高裁判例としては。
   大阪高裁r030714(1審京都地裁
   大阪高裁r040120 (1審京都地裁
があります。「撮影させ」までがわいせつ行為とされています。
   札幌高裁r050119
は、「送信させ」もわいせつと評価しうるとしています。これによれば要求罪と強制わいせつ罪が重複しますので、観念的競合になると思います。

刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案【逐条説明】法務省
第182条(16歳未満の者に対する面会要求等)
【説明】
1趣旨
近時、若年者に対する性犯罪を未然に防止する必要性が高まっているところ、若年者が性被害に遭うまでの過程においては、行為者から様々な働きかけが行われるが、一般に、若年者は、精神的に未成熟で、判断がゆがみやすく、また、人の真意を見抜くことが難しいところ、とりわけ、16歳未満の者は、性的行為に関して自由意思決定を行う能力を十分に備えていないことから、より性被害に遭う危険性が高いという実態がある。
このような特性や性被害の実態を踏まえると、その性的自由・性的自己決定権の保護を十全なものとするためには、性犯罪の実行の着手前の行為を処罰することが必要であると考えられる。
そこで、性被害を未然に防止し、性的自由・性的自己決定権の保護を徹底するため、性犯罪の実行の着手前の段階であっても、性被害に遭う危険性のない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にある状態(以下「性的保護状態」という。)を侵害する危険を生じさせたり、これを現に侵害する行為を処罰対象とする規定を設けることとする。
2概要
(1)行為の客体
本条では、客体となる若年者を、刑法第176条第3項及び第177条第3項に規定するいわゆる性交同意年齢に満たない者(具体的には16歳未満の者)としているところ、これは、
〇前記1のとおり、16歳未満の者は、自由意思決定を行う能力を十分に備えていないため、性犯罪の被害に遭う危険性が高いことから、その保護を徹底する必要性がとりわけ高い上、
〇仮に客体となる若年者を16歳以上の者とすると、行為者がその目的のとおりにわいせつな行為や性交等に及んだときに、それだけでは犯罪とはならないにもかかわらず、その準備的な行為である働きかけ行為だけを処罰することになり、整合性を欠くこととなる
ためである。
(2)行為の主体
前記(1)のとおり、本条の罪の客体は16歳未満の者としているところ、この
うち13歳以上16歳未満の者については、行為の主体として、5年差未満の者による働きかけ行為を処罰することとした場合には、前記(1)と同様、行為者がその目的のとおりにわいせつな行為や性交等に及んだときに、それだけでは犯罪とされないにもかかわらず、その準備的な行為である働きかけ行為だけを処罰することとなり、整合性を欠くこととなる。
そこで、行為の主体については、
〇行為の客体が13歳未満の者である場合には、その主体は限定しない一方、
〇行為の客体が13歳以上16歳未満の者である場合には、その主体を5歳以上年長の者とする
こととしている。
(3)処罰対象行為
16歳未満の者(以下「対象者」という。)に対する性犯罪には、物理的に対面して行われる対面型と性的な姿態の映像を送信させる遠隔型があり得るところ、両者の相違点、特に性犯罪が行われるまでの過程において対象者自身が行う必要のある行為の内容を踏まえると、行為者が性犯罪を実現するために働きかけて影響を与える判断対象に相違があると考えられ、具体的には、
〇対面型の性犯罪においては、対象者が面会をするか否かの判断
〇遠隔型の性犯罪においては、対象者が性的行為をするか否かの判断に働きかけるものと考えられる。
そこで、こうした点に着目し、性的保護状態への侵害の危険性が高まったと評価できる行為を処罰対象とする観点から、
〇対面型の性犯罪については、一定の手段を用いた面会の要求行為を(本条第1項・第2項)
〇遠隔型の性犯罪については、一定の性的行為の要求行為を(本条第3項)それぞれ処罰対象行為としている(注1)。
(注1)本条第1項・第2項の罪に当たる面会要求行為及び面会行為が行われた後に、強制わいせつ罪又は強制性交等罪に当たる行為が行われた場合、
〇本条第1項・第2項の罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益とする強制わいせつ罪又は強制性交等罪の予備罪としてではなく、16歳未満の者が性被害に遭う危険性のない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にある状態という性的保護状態を保護法益とする趣旨で設けるものであることから、本条第1項・第2項の罪と強制わいせつ罪又は強制性交等罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、本条第1項・第2項の罪と強制わいせつ罪又は強制性交等罪は、罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることから、具体的に行為者がそのような関係において両罪を実行した場合には、牽連犯になると考えられる。
本条第3項の罪に当たる行為が行われた後に、強制わいせつ罪に当たる行為が行われた場合、
〇本条第3項の罪は、性的自由・性的自己決定権を保護法益とする強制わいせつ罪の予備罪としてではなく、16歳未満の者が性被害に遭う危険性のない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にある状態という性的保護状態を保護法益とする趣旨で設けるものである
ことから、本条第3項の罪と強制わいせつ罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、社会的見解上の行為が一個と評価される場合には、観念的競合となる一方、一個の行為と評価されない場合には、本条第3項の罪と強制わいせつ罪は、罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることから、具体的に行為者がそのような関係において両罪を実行したのであれば、牽連犯になると考えられる。
3第1項及び第2項(対面型の処罰規定)について
対象者は、性的行為に関する判断能力を十分に備えていない者であるが、性的行為に応じるか否かの判断と比較すると、面会に応じるか否かの判断の方がより容易になし得るものと考えられる。
そこで、本条第1項においては、単なる要求にとどまらず、対象者が面会をするかどうかの判断を一般的・類型的にゆがめる手段を用いて面会を要求する行為を基本的な処罰対象行為としている。
その上で、本条第2項においては、面会の要求行為の結果、行為者と対象者が実際に面会するに至った場合には、性的保護状態に対する現実の侵害があることから、加重処罰の対象としている。
4第3項(遠隔型の処罰規定)について
対象者は、性的行為に関する判断能力を十分に備えていない者であるから、対象者に対して性的行為の要求をする行為は、そのことだけで、性的保護状態の危険を生じさせ得る行為といえる。
その上で、本条が対象者の性的自由・性的自己決定権の保護を図ろうとするものであることに鑑みれば、要求行為の対象となる行為については、当該行為が実現した場合に対象者の性的自由・性的自己決定権が侵害される行為とした上で、早期の処罰が特に要請される重大な性的自由・性的自己決定権の侵害を生じるものに限定することが相当であると考えられる。
そこで、本条第3項においては、現在の実務において強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例を踏まえ(注2)、要求した行為が実現した場合に強制わいせつ罪の成立が認められると考えられる行為を要求行為の対象とする観点から、
〇性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信する行為
〇膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信する行為
の要求行為を処罰対象行為としている(注3)。
(注2)アプリケーションソフトのダイレクトメッセージ機能を使用して、遠隔地にいた被害者(当時9歳)に対し、陰部、乳房等を露出した姿態をとって撮影し被告人に送信するよう要求して、被害者に、その陰部及び乳房を露出した姿態をとらせて撮影させた行為の「わいせつな行為」該当性が争われた事案(大阪高判令和3年7月14日・公刊物未登載)において、大阪高裁は、「撮影させた部位のうち、陰部(性器自体は写っていないものの、その周辺部である。)は性的要素が強く、乳房も性を象徴する典型的な部位である。また、衣服を脱がせる行為(又は衣服を着けない姿態をとらせる行為)は、裸になることを受忍させてその身体を性的な対象として行為者の利用できる状態に置くものであって、単独でも「わいせつな行為」に当たり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものであるし、続いてそうした衣服を着けない姿態を撮影する行為も、自ら性的な対象として利用できる状態に置かせた裸体を、さらに記録化することによってまさに性的な対象として利用するものであり、それによって性的侵害性が強まるといえるから、「わいせつな行為」にあたり得るほどの強い性的意味合いを有し得るものといえる。」としている。
このほか、強制わいせつ罪の成立が認められた事案として、例えば、
〇被害者(当時11歳)に対し、乳房や陰部を露出して自慰行為をする様子を動画で撮影して被告人が使用する携帯電話機に送信するように要求し、被害者に衣服を脱がせ乳房、陰部等を露出させ陰部に指を挿入した姿態等をとらせた事案(東京地判令和4年3月10日・公刊物未登載)
がある。
(注3)遠隔型の処罰規定については、対面型の処罰規定とは異なり、加重処罰規定を設けることとしていないところ、これは、次の理由による。
すなわち、本条第3項の要求行為の対象は、前記4のとおり、現在の実務において強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例を踏まえて規定しており、要求行為の対象となる行為が実現した場合には、強制わいせつ罪が成立すると考えられる。
その上で、要求行為からその対象となる行為が実現するまで、すなわち、強制わいせつ罪が成立するに至るまでの過程において、一般的・類型的に同罪に至る危険性が高まり、加重処罰の対象とするに足りる新たな当罰性を有する行為があり得るかについては、〇行為者からの要求を直ちに承諾して、そのまま要求された行為に及ぶ場合も、相当程
度あり得ることを踏まえると、要求行為後の行為について、加重処罰の対象とするに足りるものを明確に捕捉することは困難である
と考えられる。
そのため、遠隔型の処罰規定については、加重処罰規定を設けることとはしていない。
5法定刑
(1)拘禁刑
刑法上、一定の要求行為を処罰対象とする罪として証人等威迫(刑法第105条の2)や強要(同法第223条第1項)があるところ、本条第1項の面会の要求行為は、これらの罪と比較して当罰性が低いと考えられることから、1年以下の拘禁刑としている。
本条第2項については、未成年者誘拐罪(刑法第224条)やわいせつ目的誘拐罪(同法第225条)、あるいは強制わいせつ罪等の実行の着手前の行為を捕捉するものであることを踏まえ、2年以下の拘禁刑としている。
本条第3項の性的行為の要求行為は、本条第1項の面会の要求行為と同程度の法益侵害性があると考えられることから、これらと同等の法定刑としている。
(2)罰金刑
事案によっては罰金刑で処断すべきものもあり得ると考えられることから、選択刑として罰金刑を定めることとしている。
その上で、罰金額については、児童の健全育成を保護法益とするインターネット異性紹介事業を利用して児童を性交等の相手方となるように誘引する行為の罪(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律第33条、第6条)の法定刑を参考にして、本条第2項の罰金額を100万円以下とし、要求行為にとどまる本条第1項及び第3項の罰金額については、その半分の50万円以下としている。