児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ製造の包括一罪で科刑上一罪になりそうな「強制わいせつ、強制性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件」松江地裁R5.6.28

児童ポルノ製造の包括一罪で科刑上一罪になりそうな「強制わいせつ、強制性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件」松江地裁R5.6.28

 今井判事は多数回の製造罪を併合罪にされますが、高裁判例では包括一罪です。

 こういうのは、児童ポルノ製造の画像があるので、強制わいせつ罪・強制性交罪についても写っている通りの公訴事実にされることが多いのですが、最近は、強制わいせつ罪と製造罪、強制性交と製造罪を観念的競合にする高裁判例が出ているので、同一児童に対する数回の製造行為を包括一罪にする高裁判例と合わせれば、かすがい現象で、科刑上一罪になりますよね。未公開の高裁判例を並べるだけですよ。
 この事件の控訴審では主張されていません。

判例番号】 L07850795
       強制わいせつ、強制性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 松江地方裁判所判決/令和4年(わ)第74号、令和4年(わ)第96号、令和4年(わ)第123号、令和4年(わ)第131号
【判決日付】 令和5年6月28日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

(罪となるべき事実)
 被告人は、
 【令和4年7月12日付け起訴状記載の公訴事実】
第1 別紙記載のA(当時14歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え、令和4年3月6日午後1時44分頃から同日午後4時25分頃までの間、松江市(以下略)被告人方2階において、Aに対し、その背中に腕を回して抱擁した後、いきなりその唇にキスをし、ベッドに仰向けに押し倒す暴行を加えてその反抗を抑圧した上、Aの両乳房を着衣の上から複数回もみ、さらにAの上衣をまくり上げて両乳房を直接複数回もむなどし、もって強いてわいせつな行為をした。
 【令和4年8月5日付け起訴状記載の公訴事実第1】
第2 A(当時14歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え、令和4年3月25日午後5時59分頃から同月26日午前1時頃までの間、岐阜県各務原市(以下略)ビジネスホテルB406号室において、Aに対し、Aをベッドに仰向けに押し倒す暴行を加えてその反抗を抑圧した上、Aの上衣をまくり上げてその両乳房を直接もみながら、その唇にキスをするなどし、もって強いてわいせつな行為をした。
 【令和4年5月13日付け起訴状記載の公訴事実】
第3 A(当時14歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え、令和4年3月26日午後5時25分頃から同月27日午前9時42分頃までの間、愛知県小牧市(以下略)ビジネスホテルC603号室において、Aに対し、「俺が押し倒したるから寝ろ。」「どんだけ怖いか教えてやるからそこに寝ろ。」「泣きながらごめんなさいと言わないと、そのままやるからな。」などと言って脅迫し、その後にベッドに仰向けに押し倒す暴行を加えてその反抗を抑圧した上、Aの上衣をまくり上げて両乳房を直接複数回もみ、その唇にキスをするなどし、もって強いてわいせつな行為をした。
 【令和4年6月13日付け起訴状記載の公訴事実】
第4 A(当時14歳)と強制的に性交をしようと考え、令和4年3月29日午後11時30分頃から同月30日午前1時29分頃までの間、前記第1の被告人方2階において、Aに対し、「警察に行ってもいいけど、俺にも言い分がある。」「警察に行ったら、撮った写真全部ばらまくからな。これは脅しじゃないぞ。」「夢壊れるぞ。」などと言って脅迫し、その反抗を著しく困難にしてAと性交した。
 【令和4年8月5日付け起訴状記載の公訴事実第2】
第5 Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、別表記載のとおり、令和4年3月6日午後3時59分頃から同月30日午前1時13分頃までの間、14回にわたり、別表記載の各場所において、Aにその胸部及び性器を露出した姿態をとらせ、これを被告人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影し、その画像データ14点を同携帯電話機本体の内蔵記録装置にそれぞれ記録して保存し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
(証拠の標目)
 各証拠書類に併記の甲を付した括弧内番号は検察官請求証拠の番号を示し、職を付した括弧内番号は職権により採用した証拠の番号を示す。
判示事実全部について
 被告人の当公判廷における供述(第4回公判期日におけるもの)
 第1回公判調書中の被告人の供述部分
 証人Aに対する当裁判所の尋問調書(職2)
 捜査報告書(甲16)
判示第1ないし第4の各事実について
 写真束(甲48[採用部分に限る。]、49)
判示第1、第4並びに第5別表番号1及び6ないし14の各事実について
 検証調書(甲26)
判示第1の事実について
 写真撮影報告書(甲36、37)
判示第2の事実について
 写真撮影報告書抄本(甲41)、捜査報告書(甲44)
判示第3の事実について
 写真撮影報告書(甲1[抄本]、13)、捜査報告書抄本(甲14)
判示第5の各事実(別表1、2ないし5、6ないし9、10ないし14)について
 写真撮影報告書(甲2)、捜査報告書(甲12)
(事実認定の補足説明)
第1 本件の争点等
 判示第5については関係証拠から明らかに認められ、被告人及び弁護人もこれを争っていない。また、判示第1ないし第3の各わいせつ行為を行ったことも被告人及び弁護人は争っておらず、本件の争点は、被告人が、①判示第1ないし第4に関する暴行・脅迫及び②判示第4に関する性交を行ったかの点である。すなわち、検察官は、Aの供述等に基づき、これらがあった旨主張するのに対し、弁護人は、①判示第1ないし第4について、被告人がAにキスをしたり胸をもんだりするなどの性的接触をしたことは認めるが、交際中であったAの同意の下で行ったもので、暴行・脅迫をしていないし、②更に判示第4については性交にまでは及んでいないとして、無罪を主張している。
 なお、弁護人は、裁判所が職権でAの期日外尋問を採用したこと、同尋問に関する尋問事項を検察官が作成し、同尋問事項が尋問期日の直前に弁護人に知らされたこと等を指摘し、当事者主義に反し、被告人の防御権を損なうもので、Aの尋問調書は、法的関連性がないため証拠能力がなく、厳格な証明がされたものともいえない旨主張する。しかしながら、本件では、検察官が、AはPTSDの影響により供述不能であるとして、Aの証人請求をせず、Aの司法面接結果に関する捜査報告書(甲3ないし8)を刑訴法321条1項2号前段書面として請求し、これに対して弁護人は供述不能ではないなどとして異議を述べたこと、供述不能に関する立証として検察官請求の医師の証人尋問が実施されたこと、裁判所が職権で証人Aを取り調べることに関する意見を聴取したところ、検察官はAが供述不能であるとして異議を述べる一方で、Aの証人尋問の実施方法に関する意見書を提出したことが認められる。このような審理経過に鑑みれば、当事者双方が、Aの供述の重要性の高さを認識していたことは明らかで、裁判所において、必要と認めて、職権でAの期日外尋問を採用したこと、その尋問につき交互尋問方式によることとしたことに違法な点はない。また、期日外尋問に先立ち尋問事項を定める趣旨は、当事者に尋問に立ち会うか否かを決めるための資料を提供するとともに、尋問事項を検討し、更に必要な事項を付加して請求する機会を与える点にあり、審理経過等から尋問事項が当事者に明らかである場合には、改めて尋問事項を告知する必要はないというべきである。本件では、前記審理経過のとおり、検察官がAの司法面接結果に関する捜査報告書を請求・開示しており、Aに対する尋問事項は当事者双方において明らかで、事前に尋問事項を告知する必要性はなかった上に、検察官の尋問事項書はAの期日外尋問の5日前に提出されており、尋問直前の提出ともいえない。実質的に、弁護人は、Aに対して広範な尋問を行っている。そうすると、弁護人の前記主張は、およそ採用することができない。
第2 前提となる認定事実
 関係各証拠によれば次の事実が認められる(以下においては、令和4年の出来事について暦年の記載を省略する。)。
 1 被告人とAの関係等
 (1)被告人は、心理カウンセラーを称して不登校等の相談に乗るとともに、10年余りにわたり、踊りのチーム(××と称するもので、以下「チーム」という。)を主宰していた。チームには、被告人の当時の妻(以下「元妻」という。)及びAと同じ中学校の同級生である二男も参加していた。
 (2)Aは、小学6年生の冬頃から、妹と共にチームに所属し、その練習や行事に参加していた。被告人とAとはチームの活動を通じて家族ぐるみで交流するようになり、Aは、中学2年生時の令和3年5、6月頃から、多いときは月に2回程度、妹と共に被告人方に宿泊するようになった。被告人は、Aらと共に外出することもあり、元妻や二男が同行することもあった。
 2 3月5日から同月6日までの出来事
 (1)Aは、3月5日、被告人方を訪れて同所に宿泊した。Aが、妹を伴わずに一人で被告人方に宿泊したのは、同日が初めてであった。
 (2)被告人は、3月6日午後3時58分頃から同日午後3時59分頃までの間、被告人方において、自身の携帯電話機を使用して、2回にわたり、Aが上衣をまくり上げて胸部を露出させている写真を撮影した(うち1回が判示第5の別表1の犯行)。
 3 3月25日から3月30日までの出来事
 (1)被告人は、3月中旬頃、Aの母親に対し、同月27日に愛知県内で開催される踊りのイベントについて見学ないし参加するため、同月25日から同月27日にかけて、Aを連れて愛知県へ行くこと及び基礎疾患を有するAの妹が新型感染症にり患することを防止するため、愛知県から戻った後に、Aが一定期間被告人方に宿泊することを提案し、Aの母親の承諾を得た。
 (2)被告人は、3月25日、Aと二人で、被告人が運転する車で愛知県方面に向かい、同日、判示第2のホテル406号室に、同月26日、判示第3のホテル603号室に、いずれもAと共に宿泊した。
 (3)Aは、友人に対し、自身の携帯電話機を使用して、3月26日午前1時頃から同日午前1時13分頃までの間、被告人と愛知県に来ており、体を触られた、被告人は警察に言ってもいいと言っているが、本当に警察に言いたいくらい辛い、警察に言うとチームや被告人の二男、Aの母親等に迷惑がかかる、このことをAの母親に伝えてほしい旨のメッセージを送信したが(LINEのトーク機能による。以下同じ)、同日午前5時51分頃、やはりAの母親には伝えないでほしい旨のメッセージを送信した(甲48)。
 (4)前記友人は、Aの一連のメッセージを閲読し、3月26日午前10時10分頃から同日午前10時11分頃までの間、Aの母親に対し、Aの前記メッセージの画面を撮影したスクリーンショットを送信するとともに、後からAは送らなくてよい旨伝えてきたが報告する旨のメッセージを送信したが、Aの母親は、前記友人を連絡先として登録(友達登録)していなかったことから、これらのメッセージ及びスクリーンショットを受信することはなかった(甲49)。
 (5)被告人は、3月26日午後10時41分頃、判示第3のホテルの客室において、自身の携帯電話機を使用して、4回にわたり、Aの全裸の写真を撮影した(判示第5の別表2ないし5の犯行)。
 (6)被告人とAは、3月27日、島根県内に戻り、Aは、同日以降も被告人方に宿泊し、同月30日に自宅に帰った。
 (7)被告人は、3月27日午後11時28分頃、被告人方において、自身の携帯電話機を使用して、4回にわたり、Aの全裸等の写真を撮影し(判示第5の別表6ないし9の犯行)、同月30日午前1時12分頃から同日午前1時13分頃までの間、被告人方において、自身の携帯電話機を使用して、5回にわたり、Aの性器が露出した写真を撮影した(判示第5の別表10ないし14の犯行)。
 4 Aの被害申告
 Aは、4月中旬頃、通学先中学校の教員に対し、被告人から性的被害を受けた旨申告した。
第3 A供述の信用性の検討
 Aは、証拠調べ期日での証人尋問において、被告人から、判示第1ないし第4記載の各被害を受けた旨供述していることから、A供述の信用性について検討する。
 1 供述内容の合理性等
 Aは、判示第1ないし第4のとおりの各性的被害の内容のほか、被告人から、Aの学校のことを相談するために泊まりに来るように言われてこれに応じ、その翌日である3月6日に初めて被告人から性的被害を受けたこと、被告人の家族や自身の家族、チームの仲間等に迷惑が掛かることを心配して他人に相談できず、気が進まないながらも被告人と共に愛知県に行くことになったこと、同月26日に友人に被害に関するメッセージを送信したが、警察に行かないといけなくなるなどと再考して母に連絡しないように伝えたことなどについて具体的に供述しており、Aの年齢等にも鑑みれば、その内容について不自然、不合理な点は見当たらない。また、判示第4の被害についても、自身の女性器に指を入れられた後、握らされた被告人の男性器が硬くなったこと、男性器を太ももの付け根辺りに押し付けられた後、自身の女性器に入れられて、刺さるような強い痛みを感じ、痛い旨言ったことなど、その供述内容は、迫真性を有する合理的なものである。さらに、被害申告をした経緯について、Aは、強制性交等の被害に遭った後も、チームの仲間等に迷惑がかかることから警察沙汰にしたくないと思っていたが、被告人からまた泊まりに来いと言われたために再び被害に遭うことを恐れて、友人に相談し、通学先中学校の教員に被害申告するに至った旨供述しており、Aが強制性交等という程度の大きい性的被害に遭うまでに至っていたことに照らせば、その内容は合理的で、流れも自然なものといえる。
 2 客観証拠との整合性
 Aは、前記第2の3(3)のとおり、友人に対してメッセージを送信しているところ、これらのメッセージは、被告人がAに対して判示第2に関するわいせつ行為をした時間帯に近接して送信されたものである。その上、被告人から性的被害に遭って多大な精神的苦痛を感じながらも、母親、被告人の親族、学校やチームの仲間に迷惑をかけることなどを慮って警察等に被害申告することを躊躇い、被告人に調子を合わせて行動を共にしているというAの生々しい心の葛藤が、メッセージの内容に如実に示されている。このメッセージを閲読した友人において、Aの母親に実際に報告を試みたことに照らしても、これらのメッセージが虚偽や誇張を述べたものとは考え難い。これらのメッセージは、それ自体、Aが同意なく性的被害に遭ったことを強く推認させるものであり、Aの供述を客観的に裏付け、その信用性を高めるものである。
 3 虚偽供述の動機の不存在等
 Aは、被告人と家族ぐるみで交流を深めていたもので、チームや被告人の家族は、Aにとって重要な居場所であったと考えられる。被害申告をすることは、このような関係性等を崩壊させることを意味するのは自明で、Aが殊更に、被告人に不利益な虚偽の供述をする動機は考え難い。また、Aは、被告人の男性器が自身の女性器に入っているところは直接見ていない旨述べるなど、記憶にある部分とそうでない部分を明確に区別して供述しており、虚偽を述べたり、誇張したりしている様子はうかがわれない。
 4 前記1ないし3の事情に照らせば、A供述は、高い信用性を有するものと認められる。
 5 弁護人の主張及び被告人供述の検討
 これに対し、弁護人は、①被告人とAは交際関係にあり、一連のわいせつ行為(判示第4の機会におけるわいせつ行為を含む)はAの同意の下で行われた旨述べる被告人供述は信用できる、②(ア)被告人が家族や犬のいる自宅の部屋で犯行に及ぶことは不自然であるし、(イ)順次性的被害に遭っていたのであれば、Aが、被告人と旅行に出かけたり、一緒に外出して笑顔で過ごしたりしていることを説明できず、不自然である、③Aがクラミジア感染症にり患しているのに、被告人は同感染症にり患していないから、被告人がAと性交した事実を説明できない、④被告人が勃起不全で性交ができない状態であった旨の被告人供述は信用でき、この点からも、被告人がAと性交した事実を説明できないと指摘し、Aの供述は信用できないと主張する。
 まず、①被告人とAが交際関係にあり、Aの同意の下に性的行為が行われたとする点については、客観証拠である前記第2の3(3)のメッセージの内容と明らかにそぐわない(なお、被告人は、Aの全裸の写真や胸部、性器が露出した写真を多数撮影しているが、そのことがAの同意や交際関係の存在を推認させるものでないことは明らかである。)。また、被告人とAは、家族ぐるみの交流があったとはいえ、チームの主宰者と参加していた中学生という関係に過ぎず、それを超える特別の関係性があった事情もない。被告人は、公判廷で、Aから相談したい旨言われて被告人方に招いたところ、3月6日、Aから、母親の交際相手から性的被害を受けている旨相談され、「大泣き」されたため、Aを抱きしめて慰めるとともに、どちらからともなくキスをし、Aに触ってもいいか確認して胸を触った旨供述するが、被告人が性的被害の相談を受けた機会に同様の性的行為をし、Aがこれに同意するということ自体、不自然極まりない。被告人は、公判廷で、3月25日、車中でAとの間で交際する話になった旨も供述するが、交際申込みに至った経緯やAとのやりとりに関する被告人の供述は、具体性に欠ける曖昧なものである。Aと交際していた旨の被告人供述はおよそ信用できず、これを前提とする弁護人の主張は採用できない。
 次に、②(ア)被告人が自宅で各犯行に及ぶことが不自然であるとする点については、一般的に、性的被害を受けた者が恐怖のあまり声を出せないこと自体、被害者心理として首肯できるものである上、Aが助けを求めて事態が明るみに出れば、被告人の元妻及び二男やチーム等のAが大切にしている居場所や関係性が崩壊することになるのは自明で、助けを求められないことは十分にあり得ることで、それまでの被告人とAとの関係等からすれば、被告人もそのことを認識していたといえる。Aは、被告人が家族に対して自室に入らないように伝えていた旨供述しており、このことも併せ考慮すれば、被告人が自宅で各犯行に及ぶことが不自然であるとはいえない。②(イ)性的被害に遭いながらも被告人と行動を共にしていたこと等を不自然とする点についても、A自身が、居場所や関係性を崩壊させたくないと逡巡し、被告人を怒らせないように調子を合わせていたとの合理的な説明をしている上、このようなAの心情は前記第2の3(3)のメッセージの内容によっても客観的に裏付けられている。
 ③クラミジア感染症に関する点については、Aのり患の事実は証拠上明らかになっておらず、この点に関する弁護人の主張は前提を欠く。仮にAがクラミジア感染症にり患していたとしても、感染時期が判示第4の犯行に先立つものか定かではない上、感染女性との一度の性交により男性が同感染症にり患する蓋然性の程度を考慮しても、少なくとも、被告人が同感染症にり患していないがゆえに、Aとの性交の事実が否定されるものではない。
 ④勃起不全に関する点については、被告人供述を前提とするものであるが、被告人の元妻の供述によれば、被告人は、3月までは元妻と月1回程度性交し、勃起不全を訴えるなどして性交及び射精を完遂できないことはなかったことが認められる(被告人との間に三子がいる元妻が、この点について公判廷で虚偽の供述をする動機は考え難い上、その内容自体、自然で合理的なものであるから、その供述は信用できる。)。また、被告人は、Aと旅行に出かける2日前にコンドーム1箱を購入し、被告人方の捜索差押までの間に一部を消費していることが認められ、このことは勃起不全で性交ができなかった者の行動として不自然である。これらの事情からすれば、そもそも、勃起不全である旨の被告人の供述は信用できず、これを前提とする弁護人の主張も採用できない。
 以上のとおり、被告人供述は、A供述の信用性を何ら動揺させるものではない。弁護人の主張は、いずれも採用できない。
第4 結論
 以上によれば、Aの供述は信用できるから、その供述するとおりの判示第1ないし第4の各被害を認定することができる。
(法令の適用)
 1 構成要件及び法定刑を示す規定
  被告人の判示第1ないし第3の各所為はいずれも刑法176条前段に、判示第4の所為は刑法177条前段に、判示第5のうち別表記載の番号1、番号2ないし番号5(包括して)、番号6ないし番号9(包括して)及び番号10ないし番号14(包括して)の各所為はいずれも児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号にそれぞれ該当する。
 2 刑種の選択
  判示第5の各罪(別表1、2ないし5、6ないし9、10ないし14)についていずれも懲役刑を選択する。
 3 併合罪の処理
  以上の各罪は刑法45条前段の併合罪であるから、刑法47条本文、10条により最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重をする。
 4 宣告刑
  以上の刑期の範囲内で被告人を懲役8年に処する。
 5 未決勾留日数の算入
  刑法21条を適用して未決勾留日数中320日をその刑に算入する。
 6 訴訟費用の処理
  訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
(量刑の理由)
 被告人は、踊りのチームの主宰者等として、チーム員のAに対して上位の立場にあることを利用し、14歳と年若い被害者に対し、自宅や踊りのイベントに出かけた宿泊先において強制わいせつを繰り返したあげく、強制的な性交にまで及んでいるのであって、一連の犯行態様は悪質で卑劣極まりないものである。撮影していたAの裸体写真をばらまくなどの脅迫文言等も相応に強度である。被告人に対する信頼を裏切られ性欲のはけ口とされたAは、程度の高い性的凌辱を受け続け、肉体的・精神的苦痛が大きいことから、今後の健全な成長・発達に対する悪影響も懸念される。総じて生じた結果は重く、慰謝の措置を講じてもいない被告人に対し、A及びその母親が峻烈な処罰感情を述べるのも、もっともなこととして理解できる。以上に述べた点から被告人の刑事責任は重大で、相当長期の実刑を免れない。
 同種前科がないことや、各児童ポルノ製造は認めていること等の被告人に有利な事情も考慮した上で、被告人に対しては、主文の刑を科すこととした。
(求刑:懲役12年)
  令和5年6月28日
    松江地方裁判所刑事部
        裁判長裁判官  今井輝幸
           裁判官  佐藤洋介
 裁判官藤本拓大は、差支えのため署名押印できない。
        裁判長裁判官  今井輝幸

(別紙)
Aの氏名■■■