児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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住居侵入罪と強制わいせつ罪は牽連犯(東京高裁r5.10.12)

 実は判例がなかったので確認しておきました。

(1) 住居侵入罪と強制わいせつ罪の関係について
所論の指摘は多岐にわたるが、その主な論拠は、①両罪に客観的牽連性が認められない、②牽連犯の規定そのものに合理性が乏しく廃止論が根強い上、かずがい現象で処罰範囲が限定されることになる解釈は、性犯罪の厳罰化が15 要請される現在の価値観では維持できないはずである、③住居侵入罪と強制わいせつ罪を牽連犯とする最高裁判例はなく、住居侵入罪と強制性交等罪を牽連犯としている判例も現在では合理性を欠いている、④特に第3事件では、「正当な理由がないのに」侵入したという認定に留まり、住居侵入罪と強制わいせつ罪の間の牽連性が示されていない、⑤両罪の被害者が異なる、などというものである。
そこで検討するに、いわゆる科刑上一罪(刑法54条1項)の実質的根拠は、社会通念上一体の事実と評価できる数個の犯罪につき、それに対する刑罰の適用を1回に留めることが刑罰適用上の合目的要請等の観点から相当であるという点にあり、複数個の行為の間に牽連関係があるといえるためには、ぉ罪質上、通例その一方が他方の手段又は結果となるという関係があることに加えて、具体的な場面においてもかかる関係が認められることが必要になるというべきである。
これを本件についてみると、住居に侵入して居住者に対し強制わいせつに及ぶ犯罪類型があるから、性質上、住居侵入が強制わいせつの手段として通常用いられる関係があるということができる。
そして、被告人は、事件において、各々の住居侵入に続けて侵入先で強制わいせつ又は準強制わいせつに及んでおり(ただし、第(2)事件については未遂)、各事件において、1実際にも住居侵入を手段として強制わいせつ等の結果を生じた(又は生じさせようとした)ことが明らかである。
そうすると、本件各事件の事実関係の下では、これらの事件について住居侵入罪と強制わいせつ 罪(又は同未遂罪)又は準強制わいせつ罪の間に牽連性があるとした原判決の判断に誤りはない。
弁護人は、前記①の論拠として、強制わいせつ罪は強制性交等罪と比べて屋内で行われる割合が圧倒的に少ないから、侵入罪との牽連関係が低い旨主張するが、屋外で実行する形態の強制わいせつ罪が相応の比率に上るとして15 も、侵入先の屋内でこれを行う犯罪類型が存在することが否定されるわけではなく、所論は採用し難い。
前記②について、牽連犯の成立範囲を限定的に解すべきかどうかはともかく、両罪に牽連性があるとの判断が誤りとはいえないことは前記のとおりであるし、かすがい現象で不都合が生じ得るとしても、そのことが直ちに牽連犯の成立を否定する理由にはならないというべき である。
前記③について、住居侵入罪と強制わいせつ罪を牽連犯と判示した最高裁判例がないことは所論が指摘するとおりであるが、他方で、下級審の裁判例は多数に上り、また、最高裁判所が罪数処理の誤りを理由に破棄した例は見当たらないから、原判決が判例やその趣旨に違反するということはできない。
前記④について、理由齢顧及び理由不備の項で説示したとおり、罪数に関する判断は「罪となるべき事実」の記載ではなく「法令の適用」の中で示すものであるし、罪となるべき事実の記載として、「正当な理由がないのに」以上に具体的な目的を示すことが常に必要とされるわけでもない。
また、「正当な理由がない」という中には、「わいせつ行為をする目的」も含まれると解することも可能である。
そして、原判決は、第3事件の法令の適用中で両罪が牽連犯になることを明らかにしている上、実態としても、被告5 人がわいせつ目的で住居へ侵入した旨を自認し、現に原判示のとおり、侵入した住居内で強制わいせつ行為に及んだことからすると、牽連性を認めたことに誤りはない。
前記⑤について、被害者の同一性が牽連犯の成立要件となるわけではないから、所論の根拠にならない。
以上のとおり、前記各所論はいずれも理由がない。