児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ未遂,殺人,死体損壊,死体遺棄被告事件の累犯前科に挙げられた児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反事件

 児童ポルノ・児童買春→公然わいせつ という罪名で服役すると、性犯罪治療プログラムの対象になりません。

強制わいせつ未遂,殺人,死体損壊,死体遺棄被告事件
名古屋地方裁判所平成23年(わ)第1831号
平成24年10月15日刑事第5部判決
       判   決
 被告人に対する強制わいせつ未遂,殺人,死体損壊,死体遺棄被告事件について,裁判官及び裁判員で構成された当裁判所は,検察官椿剛志,同中川景子,同内山淳,主任弁護人佐竹靖紀,弁護人佐々木啓太(いずれも国選),被害者参加人B,同C,同D,被害者参加弁護士福谷朋子,同伊藤綾野(いずれも国選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
被告人を懲役27年に処する。
未決勾留日数中200日をその刑に算入する。
押収してある折りたたみ式ナイフ1本(平成24年押第47号の8)を没収する。
       理   由

(罪となるべき事実)
第1 被告人は,わいせつな行為をする目的を有しつつ,複数のモデル派遣会社に対して,整体院で用いる施術のイメージ写真を撮影するなどという名目でモデルの派遣依頼をしていたところ,そのうちの1社からモデルとしてE(当時21歳)が派遣されることになった。そこで,被告人は上記Eに強いてわいせつな行為をしようと企て,平成23年8月10日午後3時頃,愛知県一宮市<以下略>被告人方×階東側6畳間において,同女に対し,用意していたひもで同女の両手首及び両腕を後ろ手に緊縛しうつ伏せにさせた上,同様に用意していた「今日のたった2時間.私の指示にしたがうだけで今日帰れますし.命も保証します」などと記載された紙片又は「少しでも声を出した場合ナイフで首を切ります.2分で死にます」などと記載された紙片の少なくともいずれかを示すなどの暴行脅迫を加え,強いてわいせつな行為をしようとしたが,声をあげて騒ぐなどして同女に抵抗されたため,その目的を遂げなかった。
第2 被告人は,騒いで抵抗する上記Eを見て,このまま解放すると警察に被害申告されてしまうと考え,これを防ぐために,上記日時場所において,後ろ手に縛られ横たわる同女に対し,殺意をもって,その左頸部を折りたたみ式ナイフ(刃体の長さ約8.4cm。平成24年押第47号の8)で1回突き刺し,よって,その頃,同所において,同女を左総頸動脈切断による失血により死亡させて殺害した。
第3 被告人は,同日頃,これら犯行の発覚を防ぐため,上記Eの死体を上記被告人方敷地内に停車中の軽四乗用自動車内に積載して同所から岐阜県多治見市<以下略>先山道口まで運搬し,同所に停車中の同車内において,性的な好奇心などから,同死体の舌をはさみを用いて切断し,上下口唇,左右乳房部の皮膚及び外陰部の皮膚を上記ナイフを用いて切り取り,腹部を同ナイフで切り裂いた上,同死体を同所南側山林内に投棄し,もって死体を損壊するとともに遺棄した。
(累犯前科)
 被告人は,(1)平成17年10月13日名古屋地方裁判所一宮支部で強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の罪により懲役2年8月に処せられ,平成20年4月24日その刑の執行を受け終わり,(2)その後犯した公然わいせつ罪により平成22年6月10日名古屋地方裁判所一宮支部で懲役5月に処せられ,平成22年11月23日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書(乙11)及び(2)の前科に係る判決書謄本(乙22)によって認める。
(法令の適用)
 被告人の判示所為のうち,判示第1の所為は刑法179条,176条前段に,判示第2の所為は同法199条に,判示第3の所為は包括して同法190条にそれぞれ該当するところ、判示第2の罪については所定刑中有期懲役刑を選択し,前記の各前科があるので,同法59条,56条1項,57条により判示の各罪の刑についてそれぞれ3犯の加重をし(ただし,判示第2の罪の刑については同法14条2項の制限に従う。),以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に同法14条2項の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役27年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中200日をその刑に算入し,押収してある折りたたみ式ナイフ1本(平成24年押第47号の8)は,判示第2の殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件殺害行為は,後ろ手に縛られて横たわり抵抗の困難な被害者の頸部をナイフで突き刺した冷酷かつ悪質なものである。被告人とは何ら関係がなく,落ち度もない被害者の生命が奪われた結果は極めて重大である。また,強制わいせつ未遂については,背骨の矯正などと称して後ろ手に緊縛した上脅迫文書を示すなど未遂とはいえ態様は計画性の認められる卑劣なものである。被告人には同種前科が多数あり,前刑の出所後わずか8か月ほどでの犯行であることを考えれば,わいせつ事犯については常習性と再犯可能性が認められる。さらに,死体損壊に至っては,女性の尊厳を著しく踏みにじる残忍で誠に非人道的なものであって,極めて悪質性が高い。被告人が本件各犯行に及んだ動機は,裸を撮影するなどわいせつ行為をしたい,警察への被害申告を防ぎたい,性的好奇心を満たしたいなどいずれも身勝手極まりないものであり,酌量の余地はない。若くして尊い生命を奪われ死体まで損壊された被害者の無念さやその遺族の悲しみは察するに余りあり,遺族の処罰感情が峻厳であることも至極当然であって,極刑を望む気持ちも理解できるところである。 
2 これらの事情を踏まえて本件の量刑を検討する。
 被害者に何ら落ち度はなく,動機,経緯に汲むべき点がないこと,常習性や計画性の認められる悪質なわいせつ事犯が本件の発端となっていること,死体損壊の態様の悪質性が高いこと,遺族感情が峻厳であること等の事情を考慮すると,本件は,被害者が1名の殺人等の事件の中では,その量刑傾向を踏まえても,重い刑をもって処断すべき事案というべきである。
 しかしながら,他方で,殺人の類型の中では殺害態様そのものに際立った残虐性があるとまでは認めることができず,殺意についても先に述べたとおり,検察官が主張するほどの強い意欲があったとまでは証拠上認めがたいこと,被告人が判示第1及び第2の犯行から約14時間弱の未だ具体的な犯行が捜査機関に発覚していない段階で自首していること,当公判廷において少なくとも殺人という最も重い罪について認めていることなどに照らせば,被告人に対して無期懲役刑をもって臨むのは重いといわざるを得ない。そこで,被告人に対しては,有期懲役刑を選択した上で,その処断刑の上限に近い刑に処するのが相当と判断した。
(求刑 無期懲役,弁護人の量刑意見 懲役18年,被害者参加人及び被害者参加弁護士の意見 死刑)
平成24年10月30日
名古屋地方裁判所刑事第5部
裁判長裁判官 入江猛 裁判官 室橋秀紀 裁判官 川口藍