児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

h27.1.30発生の危険運転致死被告事件(当時18歳)。懲役5年(さいたま地裁h29.6.23)→懲役2年6月(東京高裁h30.5.18)→上告棄却H30.8.31

 控訴審が長くて、上告審は超短期。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180901-00000044-asahi-soci
二審判決によると、元少年は18歳だった2015年1月、埼玉県川口市でバイクを無免許で2人乗り運転。赤信号で交差点に侵入してトラックに衝突し、同乗者を死亡させた。県警の書類送検までに約10カ月、検察の起訴までにさらに約10カ月かかり、起訴された時には20歳を超えていた。

TKC
【文献番号】25560572
東京高等裁判所平成29年(う)第1370号
平成30年5月18日第5刑事部判決

       判   決

無職 ■■■■ 平成8年■生
 上記の者に対する道路交通法違反,危険運転致死被告事件について,平成29年6月23日さいたま地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官星景子出席の上審理し,次のとおり判決する。


       主   文

原判決を破棄する。
被告人を懲役2年6月に処する。


       理   由

第1 控訴趣意とその検討
1 事案の概要
 本件は,当時少年であった被告人が,平成27年1月30日午前3時32分頃,無免許で普通自動二輪車を運転し(原判示第1),信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに当たり,同交差点の対面信号機が赤信号を表示しているのを停止線手前約58メートルの地点で認めたが,運転が楽しく,信号を無視してでもスピードを出したまま運転し続けたいと思うと同時に深夜なので左右から来る車両はないだろうと考え,直ちに急制動の措置を講ずることなく,赤信号を殊更無視し,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約50キロメートルで進行したことにより,折から信号に従い左方道路から進行してきた中型貨物自動車左前部に自車左側面部を衝突させて自車を転倒させ,自車の後部席に同乗していた被害者(当時18歳)を転倒させて重症胸部外傷等の傷害を負わせ死亡させた(原判示第2)という事案である。
2 控訴趣意とこれに対する答弁
 弁護人岩本憲武の控訴趣意は,(1)公訴の受理に関する違法(弁護人は,控訴趣意中で刑訴法379条をいう論旨は同法378条2号をいう趣旨であると釈明した。)及び(2)量刑不当の主張であり,これに対する検察官の答弁は,いずれの控訴趣意も理由がなく,本件控訴は棄却されるべきであるというものである。
3 公訴の受理の違法に関する論旨について
(1)論旨は,事故当時は18歳●か月の少年であった被告人の公訴提起が,捜査の遅れのため,成人した後である平成28年10月28日にされ,少年であれば刑事裁判において可能であったはずの少年法55条に基づく家庭裁判所への移送を主張する機会及び同法52条による不定期刑を受ける機会が奪われることになったが,このような事態を生じさせた本件捜査及び公訴提起は違法であるから,本件については刑訴法338条4号により公訴棄却の判決をすべきであったのに,そうすることなく実体判断をした原判決には不法に公訴を受理した違法があり,このような処置は平等原則を定める憲法14条にも違反するというのである。
(2)原判決は,この点につき,概要,以下のとおり説示した。すなわち,本件では,(ア)平成27年1月30日に本件事故が発生し,(イ)同年12月3日に警察官からさいたま地方検察庁検察官に事件が送致され,(ウ)同月6日にさいたま地方検察庁から東京地方検察庁に事件が移送され(この理由については被告人の住所地が東京都内であったためと認められる),(エ)平成28年5月26日に東京地方検察庁から東京家庭裁判所に事件が送致され,(オ)同年6月21日に東京家庭裁判所東京地方検察庁検察官への送致決定をし,(カ)同年7月29日に東京地方検察庁からさいたま地方検察庁に事件が移送され(この理由は被告人の住居地が大阪市内であることが確認されたためと認められる),(キ)同年○○月○日に被告人が成人し,(ク)同月28日に検察官が公訴提起をしている,という経過が認められる。
 そして,上記(ア)から(イ)まで約10か月間を要している点については,警察の捜査担当者には,未成年の被疑者の事件を扱うに当たっての十分な知識や配慮があったとは認められず,この点の配慮等があればより短期間に終わらせることは可能であったとは認められるが,この期間内には概ね継続的に捜査が行われていたほか,一時捜査がなされていない時期にも取調べの日程調整等に時間を要した部分があったと考えられる上,被告人が成人に達する約10か月前には検察官送致がされており,警察官が被告人に少年としての刑事裁判を受ける機会を失わせる意図をもって殊更捜査を遅らせたり,特段の事由もなくいたずらに事件の処理を放置したりするなどの重大な職務違反があったとは認められない。
 また,上記(イ)から(エ)まで6か月弱を要している点については,検察官において警察官に補充捜査を指示するなどしたものの,警察官の方で関係者との日程調整に時間がかかったことが原因と認められるが,より短期間に捜査を遂げることはできたと考えられるものの,検察官において殊更に捜査を遅らせたり,いたずらに事件処理を放置したりしたなどとは認められない。
 さらに,上記(オ)から(ク)まで約4か月の期間を要している点も,検察官から被告人やその母親に数回連絡を試みたものの応答がなかったり,被告人が大阪に転居したことが判明したため,東京地方検察庁からさいたま地方検察庁に移送されたりしたという事情が影響していると認められ,この期間の検察官の対応が違法であったとも認められない。
 以上のとおり,捜査のいずれの段階においても,捜査官が少年法の適用を求める機会を奪う意図をもって殊更に捜査を遅らせたり,いたずらに事件の処理を放置したりしたなどという著しい職務違反は認められないとし,公訴棄却を求める原審弁護人の主張は採用できないと判断した。
(3)この原判決の判断は,後記のとおり,本件捜査の評価に関する部分は是認することはできないものの,本件公訴提起の効力は失われないとしたその結論は相当であって,当裁判所も支持することができる。
ア すなわち,本件は,被告人,被害者及びその友人ら合計6名で深夜の肝試しに出かけ,降雪もある中で、同行者の中で比較的年少であった被告人が友人の自動二輪車を運転することとなり,その後部席にやはり年少であった被害者が同乗し,その他の4名は普通乗用自動車に乗って帰る途中で発生したもので,先行した上記自動車が本件交差点前の停止線で赤信号表示に従って停止中であったにもかかわらず,被告人は,赤信号を無視して,その脇を走行して交差点に進入し,進路左方道路から進行してきたトラックに衝突したという事案である。捜査機関においては,上記同行者4名(本件の経緯や目撃状況)及びトラック運転手,被害者遺族の事情聴取,被告人の取調べ等の捜査が必要であったほか,本件交差点付近における防犯カメラ映像の収集や分析,トラックに搭載されたドライブレコーダーの分析等の捜査が必要であったと考えられるところ,同行者等に対する事情聴取のための日程調整に手間がかかったり,本件事故で負傷した被告人の取調べの時期を配慮したりしたなどの事情は認められるとはいえ,本件事故発生当日,被告人が警察に対して自分が運転していたことを認める内容の上申書を提出するなど基本的な事実関係を争っていなかったことやそれを裏付ける基本的な証拠(トラックの運転者立合いの実況見分と調書作成,同車搭載のドライブレコーダーの記録媒体,近くのコンビニエンスストアの防犯カメラ映像等)の収集が比較的早期に獲得されていたことなどに照らすと,警察の捜査は必要以上に時間をかけ過ぎているとの評価は免れない。
 本件捜査を担当した警察官の原審証言等によれば,危険運転致死事件を取り扱うのは初めてであったが,被告人が成人に至らないうちに検察官に事件を送らなければならないという意識はあったものの,それ以上の法律上の取扱いの差異等についての知識や自覚はなかったというのであり,担当警察官が,少年法の規定が適用される機会を奪う意図で本件捜査を遅らせようとしていたとは認められないものの,所論もいうように少年事件を担当する警察官として当然に備えているべき法律知識の欠如が捜査の遅延に関係していたと認められ,本件当時18歳●か月であった被告人の事件で,事実関係が争われていたわけでもないにもかかわらず,検察官に対する事件送致に約10か月を要した担当警察官には,重大な職務怠慢があったといわざるを得ない。 
イ 次に,前記(イ)から(エ)及び(オ)から(カ)までの検察官の捜査状況をみても,被告人の所在地が移ったという理由で検察庁間での移送がなされていたことを踏まえても,法律の専門家として,検察官は,犯行当時,未成年者であった被告人の不利益については特別の関心をもって事件処理に当たるべきであったといえる。検察官において,少年法の規定を適用できなくするとの意図を積極的に有していたり,殊更,事件を放置したりしたとまでは認められないものの,所論のいうとおり,法律の専門家として少年法の規定を熟知しているはずであるにもかかわらず,それまでの経緯から既に大幅に遅れていることが明らかな少年事件の捜査について,特に被告人が被ることとなる不利益に配慮して早期の処理を試みたとも認められず,家庭裁判所への事件送致とその逆送を受けてから公訴提起までに合わせて約10か月間を要した検察官の処理には,職務懈怠があったとの評価は免れない。
ウ 以上によれば,本件においては,被告人の年齢を踏まえ,それに応じた迅速な捜査を遂げていれば,被告人には少年法の適用を受ける機会があったと考えられるにもかかわらず,累積した職務怠慢による捜査の遅延によりその機会が失われたという点において,本件捜査は違法性を帯びるものといわざるを得ず,各捜査担当者には重大な職務違反があるというべきである。
 以上のとおりであるから,本件捜査には重大な職務違反はなく,違法性も認められないとした原判決の判断は是認することができない。
(4)もっとも,検察官には極めて広範な訴追裁量があり,捜査手続に違法性が認められるからといって当然に公訴提起を違法とするものではないところ,本件捜査を担当した捜査官には重大な職務違反が認められるものの,いずれも被告人が少年法の諸規定に基づく裁判を受ける機会を殊更に奪おうとしたものとは認められず,事件の処理を遅らせた職務懈怠の程度も,重大とはいえ,捜査対象となる関係者の多さや,その出頭を得るために要した期間などの事情も踏まえれば,極めて重大であるとまではいえず,本件事案の重大性に照らしても,本件における公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合とは到底いえないから,本件公訴提起を無効とするものではないと解される。
 そうすると,原裁判所が,本件公訴を受理して実体判断をした点に違法はなく,この措置がもとより憲法14条違反の誤りを犯すものともいえない。
 論旨は理由がない。
4 量刑不当の論旨について
(1)論旨は,原判決は,犯情事実についての評価が不当である上,被告人が捜査遅延により受けた不利益を十分に評価しておらず,本件については執行猶予付きの判決とされるべきであり,被告人を懲役5年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というものである。
(2)原判決は,被告人は,普通自動二輪車の免許を取得したことがないのに,後部席に被害者を乗せて運転し,時速約50キロメートルの速度で赤信号を無視して本件事故を起こしており,その態様は極めて危険で悪質であること,当時18歳の被害者を死亡させたという本件結果は重大で,被害者の遺族が厳しい処罰感情を述べていることも当然といえること,バイクに乗って楽しかったためにテンションが上がり,深夜であって車が来ないと思ったなどということについては,未熟さが残っているとはいえ既に18歳●か月という年長少年であった上,保護観察中でありながら,短絡的な動機から犯行に及んだもので,その意思決定には厳しい非難が妥当することを指摘し,さらに,本件では,被害者が被告人運転車両に同乗していたものの,被害者は同行していた先輩に言われて乗せられたというのであるから,自発的に同乗した事案と同程度までこの事情を重視することはできないとした。そして,赤信号殊更無視の危険運転致死のうち処断刑と同一又は同種の罪の件数が1件の事案(量刑分布〔1〕)と,危険運転致死のうち同乗者を死亡させた事案(量刑分布〔2〕)の双方の量刑グラフを参照し,本件は,4年から6年程度の実刑が相当な事案と位置付けることができるとし,本件捜査では被告人の年齢に対し十分な配慮がされていなかったこと,本件後に3度の交通違反をしていて反省が十分とはいえないこと,被害弁償として不十分ではあるが,100万円及び自賠責保険約2690万円が支払われていること,被告人の父親が今後被告人と暮らすと述べていて監督者があることなどを総合的に考慮し,上記の刑(懲役5年)に処した旨説示している。
(3)上記量刑判断において,原判決が,本件各犯行の態様,危険性,結果の重大性や遺族感情,動機等につき指摘するところは相当である。
 所論は,深夜で交通量も少ないから危険が高いとはいえないとか,交通量が多いのに殊更信号を無視した事案と比べて情状は軽い,などと指摘するが,本件態様が極めて危険であったことはいうまでもなく,建物があり左側の見通しが悪い状況でありながら,殊更赤信号を無視した点が厳しい非難に値することも明らかである。そうすると,被告人の刑事責任は軽いとはいえないから,被告人に有利な事情を踏まえても,実刑は免れず,その刑の執行を猶予すべきであるとの所論は採用できない。
 しかしながら,原判決が被害者の同乗の点を上記のように評価した上で量刑資料を選定し,その中で本件事案の位置付けを検討した点は相当ではない。さらに,既に判示したような本件捜査における捜査官の重大な職務怠慢により被告人が未成年のうちに刑事裁判を受けることができなかったことについて,一定程度被告人に有利に考慮されるべき事情といいながら,結局,原裁判所が認めた同種事案における量刑の幅の中央値で,原審検察官の求刑どおりの刑を科している点は相当とはいえず,これを是認することはできない。
 すなわち,被害者が先輩に言われて乗せられたといっても,一緒に肝試しに行ったいわば仲間内での話であるし,危険運転を行った車両に衝突された相手方が死亡した場合と同視することはできないのであるから,衝突された相手方が死亡した場合が殆どを占める事案の量刑分布を基準として量刑をすべきものとはいえない。そうすると,懲役7年以下をピークとして概ね懲役5年以上9年以下にまとまっている上記量刑分布〔1〕(これは信号殊更無視の場合であって被害者が被告人車両に同乗者していることによる絞り込みはなく,衝突した相手方車両内に被害者がいる事案が殆どである。)を用いるのは本件事案に適切であるとはいえない。一方,上記量刑分布〔2〕(信号殊更無視の他高速運転の事案も多い。)をみると,懲役3年以下をピークとし,懲役4年以下がそれに次いでいるのであって,これらの事例一覧にみられる個別の事情をも併せ考慮すると,本件は,概ね懲役3,4年で重くても5年程度という枠に位置付けられるものといえる。原判決がこれと異なり,上記量刑分布〔1〕を参照して,懲役4年から6年程度の実刑が相当な事案であると位置付けたことは,本件事案の社会的な類型の評価や全体としての量刑分布における位置付けを誤ったものといわざるを得ない。また,本件捜査の違法を認定しなかった上,被告人の年齢に対する配慮を欠いた点について被告人に有利な事情として考慮すると説示しながら,自ら選択した量刑の幅の中で中央に当たる刑を量定し,捜査の遅れについて有利にしん酌する必要はないと論告において主張する原審検察官の求刑と同じ結論を出していることも不合理である。
 そうすると,原判決の量刑は,被害者が同乗者であった点の評価及び事案に適切な量刑分布表の選択を誤り,全体としての量刑分布における本件事案の位置付けを誤った上,捜査官の重大な職務怠慢により被告人が少年法の諸規定に基づく裁判を受ける利益を失ったことも十分斟酌したものとはいえず,その量刑は重過ぎるものというべきである。
 論旨は上記の限度において理由がある。
第2 自判
 そこで,刑訴法397条1項により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,更に判決をする。
 原判決の罪となるべき事実に原判決挙示の法令(刑種の選択,併合罪の処理を含む)を適用した処断刑の範囲内で,被害者が同乗者であった点や捜査官に重大な職務怠慢があった点を踏まえ,被告人を懲役2年6月に処し,訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
 よって,主文のとおり判決する。
平成30年5月18日
東京高等裁判所第5刑事部
裁判長裁判官 藤井敏明 裁判官 菊池則明 裁判官 大西直樹

【文献番号】25560571
さいたま地方裁判所平成28年(わ)第1468号
平成29年6月23日第1刑事部判決
       判   決
無職 ■■■■ 平成8年○○月■日生
 上記の者に対する道路交通法違反,危険運転致死被告事件について,当裁判所は,検察官小西英恵及び同島本元気並びに国選弁護人岩本憲武(主任)及び同原田茂喜各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
被告人を懲役5年に処する。


       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,友人らとともに車とバイクに分乗して肝試しに行った帰り際に,雪が降って寒くなったため,一緒に行っていた先輩から被告人らはバイクで帰るように言われたことから,
第1 公安委員会の運転免許を受けないで,平成27年1月30日午前3時32分頃,埼玉県川口市大字α×××番地の×付近道路において,普通自動二輪車を運転し,
第2 前記日時頃,前記車両を運転し,前記場所先の信号機により交通整理の行われている交差点をさいたま市方面から東京都方面に向かい直進するに当たり,同交差点の対面信号機が赤色の灯火信号を表示しているのを同交差点の停止線手前約58メートルの地点に認め,直ちに制動措置を講じれば同停止線手前で停止できたにもかかわらず,バイクを運転するのが楽しく,信号を無視してでもスピードを出したまま運転し続けたいと思うとともに,深夜なので左右から来る車両はいないだろうと考えて,赤色信号を殊更無視し,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約50キロメートルで進行したことにより,折から信号に従い左方道路から進行してきた■運転の中型貨物自動車左前部に自車左側面部を衝突させて自車を路上に転倒させた上,自車の後部席に同席していた■(当時18歳)を衝突地点から約26.1メートル離れた路外の畑に転倒させ,よって,同人に重症胸部外傷等の傷害を負わせ,同日午前6時36分頃,埼玉県川口市大字β×××番地所在のA医療センターにおいて,同人を前記重症胸部外傷により死亡させた。
(証拠の標目)《略》
(争点についての判断)
1 弁護人は,本件では捜査機関が捜査を遅延させたことにより,犯行当時18歳●か月であった被告人が少年として刑事裁判を受ける利益が失われたため,このような公訴提起は違法であり,公訴が棄却されるべきであると主張している。もっとも,当裁判所は本件公訴提起は違法ではないと判断したため,その理由について以下に述べる。
2(1)捜査経過の概要
 本件では、(ア)平成27年1月30日に本件事故が発生し,(イ)同年12月3日に警察官からさいたま地方検察庁検察官に事件が送致され,(ウ)同月6日にさいたま地方検察庁から東京地方検察庁に事件が移送され(この理由については被告人の住所地が東京都内であったためと認められる。),(エ)平成28年5月26日に東京地方検察庁から東京家庭裁判所に事件が送致され,(オ)同年6月21日に東京家庭裁判所東京地方検察庁検察官への送致決定をし,(カ)同年7月29日に東京地方検察庁からさいたま地方検察庁に事件が移送され(この理由については被告人の住所地が大阪市内であることが確認されたためであると認められる。),(キ)同年○○月○日に被告人が成人し,(ク)同月28日に検察官が公訴提起をしている。 
(2)検討
 まず,警察官がさいたま地方検察庁に事件を送致するまでに事故発生から約10か月間を要している点について検討すると,確かに,捜査を担当していたB警察官には,未成年の被疑者の事件を扱うに当たっての十分な知識や配慮があったとは認められず,本件捜査をより短期間に終わらせること自体は可能であったと認められるが,前記の約10か月の期間中は概ね継続的に捜査が行われていたほか,一時捜査がなされていない期間についてもその後の取調べ等の日程調整等に時間を要した部分があったと考えられる上,最終的に警察官としては被告人が成人に達する約10か月前に検察官に送致している以上,警察官が少年として刑事裁判を受ける機会を失わせる意図をもって殊更捜査を遅らせた,あるいは,特段の事情もなくいたずらに事件の処理を放置したりするなど極めて重大な職務違反があったとは認められない(最高裁平成23年(あ)第2032号平成25年6月18日第三小法廷決定参照)。
 次に,検察官が家庭裁判所に事件を送致するまでに約6か月弱を要している点をみると,その間に警察官に補充捜査を指示するなどしたものの,警察官の方で関係者との日程調整に時間がかかったために補充捜査が遅れたこと等がその原因となっているものと認められる。この期間についても,より短期間に捜査を遂げることができたのではないかという疑念は払しょくできないが,以上のとおり一応の理由があって捜査を継続していた以上,この期間に検察官が殊更に捜査を遅らせたりいたずらに事件の処理を放置したなどとは認められない。
 さらに,東京家庭裁判所東京地方検察庁検察官への送致決定をした後,公訴提起までに約4か月間の期間を要している点についても,検察官から被告人や被告人の母親に対して複数回連絡を試みたものの被告人らが応答しなかったり,被告人が大阪に転居していたことが判明したために事件が東京地方検察庁からさいたま地方検察庁に移送されたなどという事情が影響していると認められるのであるから,この期間についても,検察官の対応が違法であったとは認められない。
(3)結論
 以上のとおり,本件の捜査経過のいずれの段階においても,また,以上の捜査経過を総合してみても,捜査官が殊更に捜査を遅らせたりいたずらに事件の処理を放置したなどとは認められない。
 なお,弁護人は,捜査の遅延によって,(ア)保護処分が相当と主張する利益や,(イ)不定期刑を受ける利益が奪われたと主張しているが,一般的な感覚から見ても,(ア)本件は保護処分が相当な事案とは到底認められないから,この点で被告人に実質的な不利益が生じたとは認められないし,(イ)少年として刑事裁判を受けていた場合ですら不定期刑という刑事罰を受けていたはずの被告人が,公訴提起が遅れたことによって何らの刑事罰も受けずにすむというのはおかしいと考えられる。
 よって,公訴棄却を求める弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は道路交通法117条の2の2第1号,64条1項に,判示第2の所為は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条5号にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪につき所定刑中懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした範囲内で被告人を懲役5年に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件において被告人は,普通自動二輪車の免許を取得したことがないにもかかわらず,後部席に被害者を乗せた状態で普通自動二輪車を運転し,時速約50キロメートルの速度で赤信号を無視して本件事故を起こしており,その態様は極めて危険で悪質である。当時18歳の被害者を死亡させたという本件結果が重大であることは言うまでもなく,被害者遺族が厳しい処罰感情を述べているのも当然である。本件犯行に及んだ動機をみると,被告人は,バイクに乗って楽しかったためにテンションが上がった旨や,深夜であったために車が来ないと思った旨等を述べている。被告人は犯行時少年であり,未熟な部分があったことは否定できないが,18歳●か月という年長少年であった上,保護観察中で,しかも犯行2日前に原付免許の停止処分を受けていながら,このような短絡的な動機から犯行に及んだというのであるから,その意思決定には強い非難が妥当する。
 また,本件では,被害者が被告人の運転車両に同乗していたことが認められるが,被害者は同行していた先輩に言われて乗せられたというのであるから,自発的に同乗したような事案と同程度までこの事情を重視することはできない。そうすると,本件は,赤信号殊更無視の危険運転致死のうち処断刑と同一又は同種の刑が1件の事案と,危険運転致死のうち同乗者を死亡させた事案の,双方の量刑グラフを参照し,4年から6年程度の実刑が相当な事案と位置付けることができる。
 以上述べた被告人の犯罪行為自体の責任に加えて,本件捜査においては,被告人の年齢に対して十分な配慮がされていなかったことが認められ,仮に十分な配慮のもとに捜査が急がれていたならば,被告人が未成年のうちに刑事裁判を受け,不定期刑の判決を受けていた可能性があることは否定できない。このことは,一定程度被告人に有利に考慮されるべき事情と言える。
 さらに,その他の一般情状をみると,被告人は法廷で反省の弁を述べてはいるものの,本件事故の後にも普通自動車を運転して3度の交通違反をしており,反省は不十分であると言わざるを得ないし,被告人から被害者遺族への謝罪も不十分である。被害弁償100万円及び自賠責保険約2690万円が支払われている点は被告人に有利に考慮できるものの,他方で,未だ被害弁償は不十分である。なお,被告人の父親は,今後被告人と暮らす旨を述べており,一応監督者のいる環境が確保されていることは認められる。
 以上の事情を総合的に考慮すると,被告人には主文掲記の刑を科すことが相当である。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役5年)
平成29年6月23日
さいたま地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 高山光明 裁判官 加藤雅寛 裁判官 尾池悠子