上告中らしいです。(確定・同年6月28日上告棄却決定,同年7月24日異議申立て棄却決定)。
文献集めておいたんだけど、弁護人は使ってくれたかなあ。
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大阪高等裁判所
平成29年02月07日
上記の者に対する軽犯罪法違反被告事件について、平成28年8月10日大阪簡易裁判所が言い渡した判決に対し、検察官から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官竹中ゆかり出席の上審理し、次のとおり判決する。主文
原判決を破棄する。
被告人を科料9900円に処する。
その科料を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間(端数は1日に換算する。)被告人を労役場に留置する。理由
本件控訴の趣意は、検察官恒川由理子作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は弁護人中村友彦作成名義の控訴答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。
論旨は、事実誤認と法令適用の誤りの主張である。
第1 控訴趣意に対する判断
1 控訴趣意の要旨
原判決は、被告人が、平成27年12月8日午前5時57分頃、(住所略)Aビル北側駐輪場において、立ち小便をし、もって公衆の集合する場所で小便をしたという公訴事実に対し、上記駐輪場は「公衆の集合する場所」には該当しないとして、被告人に対して無罪を言い渡したが、上記駐輪場は「公衆の集合する場所」に該当し、被告人には軽犯罪法1条26号の公衆の集合する場所で小便をした罪が成立するから、原判決は、法令の解釈適用を誤った結果事実を誤認したものであり、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。2 当裁判所の判断
原判決が、上記駐輪場は「公衆の集合する場所」に該当しないと判断して軽犯罪法1条26号の罪の成立を否定したことは、結論において正当であり、原判決の認定判断に、所論のような、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りや事実誤認があるとは認められない。
その理由は、以下のとおりである。
(1) 公訴事実の要旨
原審における公訴事実の要旨(平成28年7月21日付け訴因変更許可決定後のもの)は、「被告人は、平成27年12月8日午前5時57分頃、(住所略)Aビル(以下「Aビル」という。)北側駐輪場(以下「本件駐輪場」という。)において、立ち小便をし、もって公衆の集合する場所で小便をしたものである。」というものである。なお、本件は略式請求事件として始まったものであり、上記訴因変更前の公訴事実は、「被告人は、平成27年12月8日午前5時57分頃、(住所略)Aビル北側において、立ち小便をし、もって街路において小便をしたものである。」というものであったところ、略式命令をすることができないとされて、正式裁判に移行し、その後、上記のとおり交換的に訴因変更がされたものである。
(2) 判断の前提となる事実関係
関係証拠によると、以下の事実が認められる。
ア 周辺の状況
Aビルは、B市C区内の市街地にある、東西に通じる幅員約6mの道路(D商店街)と南北に通じる道路が交わる交差点の南東角に位置する9階建てのテナントビルである。
イ 本件駐輪場の状況等
(ア) 本件駐輪場
本件駐輪場は、Aビル本体の北西側に位置する、別紙図面(当裁判所において、当審検3号証添付図面の一部を拡大した図面に〈ア〉等の点を書き込んだもの)の〈ア〉、〈イ〉、〈ウ〉、〈エ〉、〈ケ〉、〈コ〉、〈ア〉の各点を順次直線で結んだ範囲内の、南北約2m、東西最大約6.6mの、北西部分に隅切りがある、台形のスペースである(長さは原審甲6号証添付見取図によった。)。
(イ) 本件駐輪場の周囲の状況等
本件駐輪場は、北側が歩車道の区別のない道路(上記D商店街)に、西側が歩車道の区別のある上記南北に通じる道路の歩道部分にそれぞれ接しており、間に柵等はない。本件駐輪場は、北側道路よりわずかに高くなっているが、同道路と接する部分が若干斜めになっているため、同道路との間にほとんど段差はない。本件駐輪場と北側道路との境には側溝があり、側溝の上には格子蓋が置かれている。本件駐輪場部分と西側歩道とは直接接している。
本件駐輪場の東端には、南北に、Aビルの非常階段に通じる幅約82cmの扉と幅約108cmの遮蔽壁とがある。
本件駐輪場の南側は、西側部分が、東西約5m、南北約2.5mの東西にやや長い長方形のポーチ(別紙図面の〈ケ〉、〈エ〉、〈オ〉、〈カ〉、〈キ〉、〈ク〉、〈ケ〉の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分)(以下「本件ポーチ」という。)に接しており、東側部分は、Aビル北側壁と接している。
(ウ) 本件駐輪場の状況
本件駐輪場は、タイル張りのスペースであり、屋根はない。本件駐輪場の床面には、前記遮蔽壁等から約103cmのところに、それらと並行に白線が引かれ、その付近のAビル北側壁面に、「自転車は白線の右側に。白線より左側に駐輪されますと非常階段の扉が開けにくくなります。」などと記載した貼り紙が、その西隣に「関係者以外駐輪禁止」などと記載した貼り紙がそれぞれ貼ってある。本件駐輪場は、テナントビル内の会社の従業員が使用する自転車や、上記会社を訪れる客が使用する自転車等が駐輪されることが予定されており、最大約15台の自転車を駐輪することができる。
(エ) 本件ポーチは、そのほとんどがタイル貼りのスペースとなっており、真上にあるAビルの3階以上が屋根替わりになっている。本件ポーチは、西側が歩道に接しており、これらの間にほとんど段差はない。一方、本件駐輪場との間には段差があり、本件ポーチが本件駐輪場より約11cm高くなっている。本件ポーチの東側にはAビルの正面入口があり、本件ポーチは、Aビルに入るためのエントランスとして用いられている。
ウ 放尿場所
被告人が立小便をしたのは、本件駐輪場の南東角(別紙図面の〈×〉の位置)であり、放尿自体はAビルの壁面に対して行われている。
(3) 原判決の判断
原判決は、本件駐輪場は「公衆の集合する場所」には当たらないと認定し、その理由として、要旨、以下のとおり判示した。
ア 「公衆」とは、不特定かつ多数の人のほか、特定かつ多数の人をも含むが、不特定かつ少数人では、まだ公衆とはいえない。
イ 「公衆の集合する場所」とは、平素多数の人が集合する場所であれば足りるが、軽犯罪法1条26号が「公園その他公衆の集合する場所」と規定しており、その例示が公園であることからすると、同号にいう「公衆の集合する場所」は、性質上、公園と並列に考えられるような場所、すなわち、小規模であっても公園と呼ばれる程度の広さを有する場所をいう。
ウ 本件駐輪場は、その性質上、自転車を駐輪し、あるいは駐輪してある自転車を出すため一時的に利用するに過ぎず、それ以外の目的で通常多数の人が集まることを目的とした場所とはいえないし、自転車を約15台駐輪すると一杯になり、物理的に多数の人が集合することができるような広さもない、公園等に比べると極めて狭い場所であり、本件駐輪場の東側の非常階段の扉の前付近も駐輪が禁止されており、非常時の非常階段からの通路として使用することしか予定されていない。
(4) 当裁判所の判断
ア 原判決が、本件駐輪場は、「公衆の集合する場所」に当たらないと認定判断したのは、結論として、正当と考えられる。
すなわち、一般に「公衆」とは不特定又は多数の者を指すと解されるが、軽犯罪法1条26号がその適用場所を、「公衆が利用する」場所等とせず、「公衆の集合する」場所としていることから見て、同号にいう「公衆の集合する場所」とは、性質上多数の人が集合するような場所をいうものと解されるところ、前認定の事実によれば、本件駐輪場は、Aビル付属の駐輪場であって、同ビルを利用する多数の者が「利用する」可能性のある場所ではあるけれども、性質上多数の者が「集合する」ような場所とはいえないから、原判決が、「公衆の集合する場所」というためには小規模であっても公園と呼ばれる程度の広さを要するという点はともかく、本件駐輪場は「公衆の集合する場所」に当たらないと認定判断したこと自体は、正当というべきである(なお、原判決は、その認定した本件駐輪場の形状から見て(原判決3頁)、本件駐輪場は、スペースとしては、本件ポーチ部分を含むと考えているようにうかがわれるが、原審段階では、本件ポーチの存在は十分明らかになっておらず、かつ、本件立ち小便は本件ポーチではなく、本件駐輪場で行われているから、原判決の前提事実の認定に、判決に影響を及ぼすような誤りがあるとはいえない。)。
イ 所論
これに対して、所論は、本件立ち小便は、軽犯罪法1条26号に該当するとして、以下のような主張をしている。
(ア) 本件駐輪場は「公衆の集合する場所」に該当する。
すなわち、
a 本件駐輪場は、Aビルの効用を高めるための付属施設であって、構造的・機能的に、同ビルと一体をなすものであり、これら全体が「公衆の集合する場所」に該当する。
b 本件ポーチ部分は不特定多数の者が同時に居合わせる場所であるから「公衆の集合する場所」に該当するところ、本件駐輪場は、その北東付近に位置し、自転車を本件駐輪場に駐輪する際、前輪を本件ポーチ部分の床面に載せるなど本件ポーチと一体として利用されることもある場所であって、本件ポーチと構造的にも機能的にも不可分一体をなすものであるから、「公衆の集合する場所」に該当する。
c 「公衆」とは「不特定又は多数の人」をいうと理解すべきであって、不特定又は多数の人が同時に居合わせる可能性があれば、「公衆の集合する場所」に該当するところ、本件駐輪場は、不特定の数名が同時に居合わせることが容易に起こりうる場所であるから、本件駐輪場のみであっても、「公衆の集合する場所」に該当する。
(イ) 軽犯罪法1条26号の罪は、当該行為が同号所定の場所で行われた場合のほか、その結果が同号所定の場所に生じた場合にも成立するところ、被告人がその壁面に放尿したAビルは「公衆の集合する場所」に該当するから、被告人の行為は、同号に該当する。
(ウ) 本件駐輪場は、北側が側溝を挟んで段差や柵、塀もなく、道路に面しており、同道路を徒歩又は自転車で立ち入る可能性があるから、軽犯罪法1条26号所定の「街路」に該当する。
ウ 所論に対する判断
しかし、所論はいずれも採用できない。
すなわち、
(ア) (ア)のaについて
確かに、本件駐輪場は、Aビルの駐輪場として利用されている同ビルの付属施設であり、同ビルはテナントビルであるから、その付属施設や内部の場所の中には、例えば、エレベーターホールなど、「公衆の集合する場所」に当たる部分もあると考えられる。しかし、同ビルに入居している各事務所部分が当然に「公衆の集合する場所」に当たるとは考えられないことからも明らかなように、同ビルの付属施設や内部の場所等が「公衆の集合する場所」に当たるかどうかは、当該部分の性質や形状等に照らして判断されるべきものであって、本件駐輪場がAビルと一体をなすということだけから、これが直ちに「公衆の集合する場所」に該当するということはできない。そして、本件駐輪場がその性質や形状等に照らして、「公衆の集合する場所」といえないことは、後記(ウ)のとおりである。
(イ) (ア)のbについて
前記のとおり本件駐輪場と本件ポーチは、その境界部に高さ約11cmの段差があり、必ずしも構造的に一体となっているとはいえない。また、本件ポーチはAビルの入口に向かうエントランスであって、本件駐輪場部分に駐輪する際に自転車の前輪を本件ポーチ部分の床面に載せることを予定しているとは考えられないし、本件駐輪場を通って本件ポーチに入って入口に向かう人がいたとしても、そのような人が本件駐輪場で待機するのが常態ともいえないから、本件駐輪場が「公衆の集合する場所」として本件ポーチと機能的に不可分一体となっているともいえない。
(ウ) (ア)のcについて
本件駐輪場は、Aビルを利用する者が自転車を出し入れするために一時的に立ち入ったり、出入口に向かう人等が通過したりするに過ぎない場所であって、たまたま、一時に駐輪場の利用者が重なり、多数の者が居合わせることがあり得るとしても、それが通常の利用形態とは考えられないから、本件駐輪場が、「性質上」、多数の者が集合するような場所ということはできない。
(エ) (イ)について
Aビルはテナントビルであるから、その中に「公衆の集合する場所」に当たる部分があり得ることは前記のとおりであるが、だからといって、同ビルの外壁自体が「公衆の集合する場所」といえないことは明らかである。
(オ) (ウ)について
確かに、本件駐輪場は、軽犯罪法1条26号所定の「街路」に当たると考えられる。
すなわち、本件駐輪場は、その北側が歩車道の区別のない道路に、西側が歩車道の区別のある道路の歩道部分にそれぞれ接しており、北側道路との間に格子蓋付き側溝はあるものの、明らかな段差や柵等はなく、また、西側歩道とは直接接していてほとんど段差がなく、北側道路、西側道路からの出入りは自由であり、駐輪場という性質自体からも、自転車でAビルを訪れる人が北側道路、西側道路から自転車で乗り入れることが予定されており、また、Aビルのエントランスとなっている本件ポーチと僅か約11cmの段差で接続していることや、その東端に同ビルの非常階段に通じる扉が設置されていることから見て、北側道路、西側道路からAビルに入る人が通行することも予定されていると考えられる。上記のような北側道路、西側道路との接続状況、通常予想されるその利用形態から考えると、本件駐輪場は、北側道路、西側道路と一体をなすものとして、上記「街路」に該当するものと見るのが相当である。
弁護人は、本件駐輪場のような私有地の駐輪場が「街路」に当たると解することは、通常の判断能力を有する一般人の理解を超えるものであって許されないと主張するが、上記のような周辺道路との接続状況やその利用形態から見て、本件駐輪場を「街路」に当たると解することが、通常の判断能力を有する一般人の理解を超えるものとは思われず、むしろ、一般人の理解としては、上記のような街中にある周辺道路と一体性の認められる自転車や人の通行の用に供される部分における放尿が、街路における小便に該当しないとして不可罰となると解するほうが不可解なのではないかと思われる。
とはいえ、軽犯罪法1条26号が、「街路」と「公園その他公衆の集合する場所」とを「又は」という接続詞で結び付けていることや、同条6号が「公衆の通行する場所」と「公衆の集合する場所」とを別の概念として明確に区別していることなどに照らすと、同法は、街路のような通行する場所と、公園のような集合する場所とを別個のものとしているものと考えられ、そのいずれにも当たる場所も想定できるとは思われるものの、「街路」に当たるから「公衆の集合する場所」にも当たるということはできない。
そして、原審における訴因は、「公衆の集合する場所」と明示しているから、何らの手当てもすることなしに、本件駐輪場が「公衆の集合する場所」に当たると認定することは許されない。
エ 結語
以上の次第で、本件駐輪場は軽犯罪法1条26号に規定する「公衆の集合する場所」に当たらないとして、被告人の行為の構成要件該当性を否定した原判決の認定判断は正当であり、原判決に、所論のような、法令適用の誤りや事実誤認があるとはいえない。
論旨は理由がない。
第2 職権判断
職権で判断すると、原審の訴訟手続には、検察官に対し、犯行場所に「街路」を含む訴因に訴因変更するよう促し又はこれを命じる義務があるのに、これをしないで無罪判決をした審理不尽の違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
その理由は、以下のとおりである。
本件駐輪場が、軽犯罪法1条26号にいう「街路」に当たることは、前記のとおりであるところ、被告人が本件駐輪場で立ち小便をしたことに争いはなく、証拠上も明白であって、被告人が無罪となったのは、検察官が誤って本件駐輪場を「公衆の集合する場所」とする訴因構成をしたからに過ぎず、正しく「街路」と訴因構成しておれば、有罪となったものと考えられる。
ところで、一般に、裁判所は、原則として、自らすすんで、検察官に対し、訴因変更を促し又はこれを命じる義務はない。しかし、本件のように、同一法条内の訴因構成の誤りが有罪無罪を分けるような例外的事案においては、たとえ、軽犯罪法違反のような軽微な犯罪であったとしても、検察官の、当該行為に対する、当該法条違反を理由とする訴追意思が明らかである以上、裁判所には、正しい訴因構成になるよう、検察官に対し、訴因変更を促し又は命じる義務があるものというべきである。なお、原審における訴因変更の経緯に照らすと、原審裁判所は、本件駐輪場は、軽犯罪法1条26号にいう「街路」にも当たらないと考えていたようであるが、上記義務は客観的なもので、担当裁判官の主観的判断によってその有無が左右されるものではない。
ところが、原審裁判所は、そのような措置をとることなく、無罪の判決をしているから、原審の訴訟手続には審理不尽の違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
第3 破棄自判
そこで、刑訴法397条1項、379条により原判決を破棄した上、同法400条ただし書により、被告事件について、当裁判所において更に次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
被告人は、平成27年12月8日午前5時57分頃、(住所略)Aビル北側駐輪場において、立ち小便をし、もって街路において小便をしたものである。
(証拠の標目)
被告人の当審公判供述
原審第1回公判調書中の被告人の供述部分
被告人の警察官調書(原審乙2)
写真撮影報告書(原審甲5)
捜査報告書(9通、原審甲1、2、4、6、7、12、当審検1ないし3)
(法令の適用)
罰条 軽犯罪法1条26号
刑種の選択 科料刑
労役場留置 刑法18条
訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項ただし書(原審及び当審訴訟費用)
(補足説明)
本件主位的訴因は、前記のとおりであるところ、被告人が本件駐輪場で立ち小便をしたことは明らかであるが、前記第1のとおり、本件駐輪場は、軽犯罪法1条26号所定の「街路」には該当するが、「公衆の集合する場所」には該当しないから、主位的訴因は認めず、予備的訴因に従い、上記のとおり認定した。
なお、予備的訴因は、当審において追加請求されたものであるところ、弁護人は、時機に遅れた請求であると異議を述べたが、原審の審理経過に照らすと、その異議にはもっともな部分もあるものの、訴因変更に伴って証人尋問等新たな負担をもたらす証拠調べが必要になるわけではなく、許されるものと考える。
よって、主文のとおり判決する。
(原審における検察官の求刑 科料9900円)
第1刑事部
(裁判長裁判官 福崎伸一郎 裁判官 福井健太 裁判官 野口卓志)
別紙図面(省略)