児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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駐輪場での立ち小便が軽犯罪法1条26号の「公衆の集合する場所」とはいえないとして無罪とした事例(大阪簡裁H28.8.10)

 高裁で逆転有罪になって上告中らしいです。

大阪簡易裁判所
平成28年08月10日
 上記の者に対する軽犯罪法違反被告事件について、当裁判所は、検察官野口弘雄及び弁護人中村友彦出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人は無罪。

理由
1 本件公訴事実
  被告人は、平成27年12月8日午前5時57分頃、(住所略)Aビル北側駐輪場において、立ち小便をし、もって公衆の集合する場所で小便をしたものである。
2 本件の争点
  公訴事実に対して、検察官は、被告人が立ち小便をした駐輪場(以下「本件駐輪場」という。)は、非常用出入口と道路に面しており、同ビルに入居する企業の従業員及びその企業を訪れる者という多数の者が利用する場所と認められ、軽犯罪法1条26号(以下、単に「26号」という。)にいう「公衆の集合する場所」に該当することは明らかであると主張する。
  これに対し、被告人及び弁護人は、被告人が公訴事実の日時場所において立ち小便をしたことは認めるが、弁護人は、26号にいう「公衆の集合する場所」とは、現実に多数の人が集合している必要はないが、性質上多数の人が集合する場所であり、同号の「公衆」とは、一般的に多数人を意味し、不特定かつ少数の人を含まない。
  また、本件駐輪場はAビルの敷地内であり、私有地であるところ、私有地である性質上、その私有地に何らかの権原を有するものでない限り、立ち入ることはできないし、本件駐輪場のAビル北側には、『関係者以外駐輪禁止 ここは当ビル専用の駐輪場です』とされており、不特定多数の者の使用が想定されていないことは外観上からも明らかである。
  これに加え、本件駐輪場は最大で15台ほどしか駐輪できない状態であり、非常階段の扉の関係で、より駐輪場のスペースとしては制限されているから、駐輪場自体も狭く、多数人が集合できるような場所ではない。
  さらに、本件駐輪場はあくまでも自転車を駐輪する場所であって、Aビルに関係する人が自転車の駐輪や移動の際に一時的に立ち入る場所に過ぎず、その性質においても多数人が集合する場所とはいえない。
  以上のとおり、本件駐輪場が私有地であることや不特定・少数の人間の使用が想定されていることを考慮すれば、本件駐輪場は「公衆の集合する場所」とはいえないため、26号の構成要件該当性を満たさないから、被告人は無罪である旨主張する。
  したがって、本件の争点は、被告人が立ち小便をした場所が26号にいう「公衆の集合する場所」に該当するか否かである。
3 判断の前提となる事実
  被告人の公判供述、被告人の司法警察員に対する供述調書(乙2号証)、司法警察員作成の捜査報告書(甲1、2、6、7号証)、司法警察員作成の写真撮影報告書(甲5号証)等の関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。
 (1) 本件駐輪場の形状等
  司法警察員作成の捜査報告書(甲6号証)添付の「Aビル北側見取図」によると、本件駐輪場は、Aビルの北側と道路との間に設けられており、南北の奥行きは長い部分で約3メートル、短い部分で約2.07メートル、東西の幅は約6.61メートルで、東から約4.90メートル付近からAビルに向かって南西の方向に隅切りになった区画であり、床面はタイル貼りになっている。
 (2) 本件駐輪場の駐輪可能台数
  最大で自転車約15台が駐輪できる。
 (3) 被告人が立ち小便をした場所
  被告人が立ち小便をしたのは本件駐輪場の南東角のAビルの壁と非常用階段との遮蔽壁が接する隅の部分であるが、その約1.02メートル西側の床面に南北に白線が引かれ、その南側のAビルの壁に「自転車は白線の右側に。白線より左側に駐輪されますと、非常階段の扉が開けにくくなります。ご協力お願い致します。」との看板が張り付けられている。
 (4) 本件駐輪場内には、自転車が駐輪されている以外に、椅子等、人が座ったり寛いだりするための設備は何も存在しない。

4 当裁判所の判断
 (1) そこで、本件駐輪場が26号に規定する「公衆の集合する場所」に該当するかどうかについて検討する。
  ア まず、「公衆」とは、不特定かつ多数の人のほか、特定かつ多数の人をも含むが、不特定かつ少数人では、まだ公衆とは言い得ないものと解する。
  イ 次に、「公衆の集合する場所」とは、平素多数の人が集合する場所であれば足り、現に集合していなくてもよく、そこに集合する人たちが一定の共通の目的を持っている必要はない。要するに、性質上、多数の人が集合する場所であればよいが、26号が「公園その他の公衆の集合する場所」ではなく、「公園その他公衆の集合する場所」と規定しており、その例示が公園であることからすると、同号にいう「公衆の集合する場所」とは、性質上、公園と並列的に考えられるような場所、すなわち、小規模であっても公園と呼ばれる程度の広さを有する場所、例えば、寺社の境内、駅、競技場、町の広場、駅の構内、劇場等をいい、ごみの集積場など、極めて狭い場所まで含めることは罪刑法定主義により禁止されている類推解釈に当たり許されない。
  ウ そして、本来駐輪場はその性質上、自転車を駐輪、あるいは駐輪してある自転車を出すため一時的に利用するに過ぎず、それ以外の目的で通常多数の人が集まることを目的とした場所とは言えないし、本件駐輪場は、前記3、(1)、(2)のとおり、自転車を約15台駐輪するといっぱいになり、物理的に多数の人が集合することができるような広さを有しない、公園等に比べると極めて狭い場所であり、本件駐輪場の東側の非常階段の扉の前付近も駐輪が禁止されており、非常時の非常階段からの通路として使用することしか予定されていない。
 (2) これらの事実によると、非常階段の扉の前付近を含む本件駐輪場は、平素多数の人が集合する場所とは言えず、26号の規定する「公衆の集合する場所」に該当しない。
5 以上のとおり、被告人の行為は、管理者に清掃の負担を強い、利用者に不快感を与えるなどの迷惑な行為であり、社会的に容認される行為ではなく、強く非難されるべきものであるとはいえ、被告人に対する本件公訴事実は、軽犯罪法1条26号に該当せず、犯罪が成立しないから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言い渡しをする。
  よって、主文のとおり判決する。
(求刑 科料9900円)
刑事2係
 (裁判官 柏森正雄)