下4ケタがマスクされていても、慰謝料が発生するということです
東京地方裁判所判決平成19年5月29日
A学会の幹部であり,A大学の職員であった者が,原告の携帯電話の通話記録に不正にアクセスしたとする損害賠償請求を認めた事例
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
主 文
1 被告Y1,被告Y2及び被告株式会社Y3は,原告に対し,各自10万円及びこれに対する平成14年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを300分し,その1を被告Y1,被告Y2及び被告株式会社Y3の負担とし,その余を原告の負担とする。
上記判決は,主文第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して3000万円及びこれに対する平成14年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,A1株式会社(以下「A1」という。)の職員であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)が,被告Y4の幹部であり被告学校法人Y5大学(以下「被告Y5大学」という。)の職員であった被告Y1(以下「被告Y1」という。)らと共謀の上,原告の携帯電話の通話記録に不正にアクセスしたとして,?被告Y1及び被告Y2に対しては,民法709条,719条に基づき,?被告Y4,被告Y5大学に対しては,同法709条,719条あるいは同法715条に基づき,?被告株式会社Y3(以下「被告Y3」という。)に対しては,主位的には債務不履行に基づき,予備的には同法715条に基づき,連帯して慰謝料3000万円の支払を求める事案である。
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6 争点5(損害の有無及びその額)について
(1)本件においては,既に認定したとおり,被告Y2は,被告Y1からの依頼を受け,原告名義の携帯電話番号の顧客システムにアクセスするとともに,平成14年3月8日午後0時33分23秒35から午後0時35分11秒14まで,原告名義の携帯電話番号の料金システムのうち,料金関連マスタ検索,請求形態検索,一括請求送付子番号検索を実行し,同日午後4時06分16秒97から午後4時09分11秒36過ぎまで,原告名義の携帯電話番号の平成14年1月分から3月分の明細システムにアクセスした。さらに,被告Y2は,同年4月5日午後5時33分34秒64から午後5時34分23秒13過ぎまで,原告名義の携帯電話番号の平成14年4月分の明細システムにアクセスするなど,数度にわたって,執拗なまでに,原告の通話記録にアクセスしたもので,その行為態様は悪質といえる。
(2)そして,原告としても,通信の秘密は当然に遵守されて然るべきものと考えていたはずであるところ,携帯電話利用契約を締結している被告Y3に勤務している内部者が,外部の者と共謀して,秘密裏に通話記録を含む個人情報を侵害していたというのであるから,被った精神的苦痛は,決して軽いものとはいえない。
(3)もっとも,侵害の具体的内容についてみるに,システム上表示される通話相手の携帯電話番号の下4桁は,契約者から被告Y3に対して,特段の意思表示がなされない限り,「*(アスタリスク)」で示されることとなっていた(乙ホ11)。そのため,原告が被告Y3に対して,かかる下4桁の表示について問い合わせをしなかった本件においては(原告本人),原告の明細システム上において,原告の具体的な通話相手を即座に特定することはできないようになっており,原告のジャーナリストとしての活動に,直ちに大きな支障を与える内容のものではなかったということができる。
(4)そうすると,上記のような被告Y1の依頼に基づく被告Y2の行為態様,侵害された法益の性質,システム端末の表示方法のほか,諸般の事情を総合的に考慮すれば,原告の被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,10万円をもって相当と認める。
(5)なお,本件においては,被告Y2及び被告Y1が不法行為責任を,被告Y3が債務不履行責任を負うものであるところ,原告の上記損害は,三者のいずれかが填補することにより消滅するものである。
7 以上のことからすれば,原告の請求は,被告Y1,被告Y2及び被告Y3に対して,各自10万円の支払を認める限度で理由があるから,これらを認容することとする一方で,その余の請求については,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第45部
裁判官 佐 野 文 規
裁判長裁判官永野厚郎及び裁判官西村康一郎はいずれも転任のため署名押印できない。
裁判官 佐 野 文 規