児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

覚せい剤事件で再度の執行猶予とした1審判決(尼崎支部H26.4.11)と検察官控訴に対して原判決を破棄して1年2月の実刑とした控訴審判決(大阪高裁H26.11.6)

 再度の執行猶予判決に対してはほぼ自動的に検察官控訴していると聞きます。

神戸地方裁判所尼崎支部判決/平成25年(わ)第466号
【判決日付】 平成26年4月11日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
 被告人を懲役1年に処する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
 神戸地方検察庁尼崎支部で保管中のチャック付ポリ袋入り覚せい剤白色結晶粉末1袋()を没収する。
(量刑の事情)
 被告人は,平成24年月日,覚せい剤所持の罪により懲役1年6月・3年間執行猶予に処せられたにもかかわらず,その後,11か月余りで本件各犯行に及んだもので,被告人の覚せい剤に対する親和性は否定することができず,被告人には,法律や裁判の結果をしっかりと受け止めてこれに従うことができなかったことに対する重い非難がある。被告人の刑事責任を軽く見ることはできない。
 しかしながら,被告人は,本件について保釈された後,医療機関において覚せい剤依存症に対する専門的治療を受け,依存症の克服に努めるとともに,カウンセリングを通じて,被告人が薬物使用に向かった原因を解明し,その原因を解消しようとしており,専門的治療やカウンセリングの効果が次第に効果を表してきている。加えて,被告人の家族も,被告人が再犯に陥ったことを重大に受け止め,結束して被告人の更生のために,上記治療等に最大限の協力をする態勢を築いている。遅ればせながら,被告人の再犯防止の態勢が整えられたものと評価できる。
 検察官は,前記専門的治療法やカウンセリングの根拠や効果は科学的に実証されていないし,被告人が今後これらの治療等を継続する保障もないから,これらを重視することは相当でないなどと主張するところ,確かにこれらの治療法が確実に被告人の再犯を防止するものではないとはいえ,上記専門的治療法は相応の医学的根拠に基づき,医師が施行しているものであり,専門家が行うカウンセリングにも相応の効果が期待できるものである。被告人の意志の弱さが,再犯に陥った原因の一つであり,これらの治療等の継続に対する不安要因ではあるが,被告人自身,前記執行猶予判決を受けた後,介護職に就くべく研修を受けるなどして更生の努力をしており,介護職の就職先が決まった安堵感などから覚せい剤に手を出してしまい,この一瞬の緊張の緩みから再犯に陥ったことの重大性を真摯に受け止めて反省していることなどからすると,現在,被告人がこれらの治療等に真摯に取り組んでいることは評価されてよいというべきである。
 覚せい剤取締法違反の罪の執行猶予中の再犯に対しては厳しい非難があるとはいえ,覚せい剤の末端使用者が再犯に陥るのを防止する見地からは,覚せい剤依存に対する治療が必要であることも否定しがたいのであり,これに対する被告人の取り組み,家族のみならず医療機関等の支援の態勢が整えられた本件は,情状に特に酌量すべきものがあり,主文の量刑が相当である。
(求刑 懲役2年及び判示覚せい剤の没収)
  平成26年4月14日
    神戸地方裁判所尼崎支部
           裁判官  飯畑正一郎

http://www.sankei.com/west/news/140619/wst1406190074-n1.html
覚醒剤の所持事件で執行猶予期間中に覚醒剤を使用・所持したとして逮捕され、覚せい剤取締法違反罪に問われた兵庫県内の男性被告(33)に対し、神戸地裁尼崎支部が4月、逮捕以降の更生に向けた薬物依存治療などを評価し、再び執行猶予付きの有罪判決を言い渡していたことが18日、分かった。薬物依存者の支援団体によると、猶予期間中の覚醒剤の再犯者に対し、実刑が回避されるのは極めて異例という。

 判決によると、男性は平成24年、覚醒剤所持事件で懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受けたが、約1年後の25年11月、執行猶予期間中にもかかわらず、乗用車内で覚醒剤を使用するなどした。

 弁護側によると、男性は今回の逮捕後に保釈が認められ、大阪府内の病院に入院して専門の治療プログラムを受けたほか、薬物患者の治療態勢が充実する米国での経験が豊富な心理士のカウンセリングを継続して受講。公判では担当医師らも証人として出廷し、「社会復帰に向けた協力態勢が築かれている」と訴えた。
こうした取り組みに対し、検察側は「治療などの根拠や効果が科学的に実証されておらず、被告が治療を継続する保証もない」と主張。しかし、飯畑正一郎裁判官は「執行猶予中の覚醒剤の再犯に厳しい非難があるとはいえ、依存に対する治療が必要であることも否定しがたい。医療機関による支援態勢も整えられている」として、懲役1年、執行猶予4年(求刑懲役2年)を言い渡した。検察側が控訴している。

 薬物依存者を支援するNPO法人「アパリ」(東京)によると、執行猶予中の覚せい剤取締法違反事件で改めて執行猶予付き有罪判決が出るのは、全体の0・1%未満の年間1〜3件程度。しかも、別事件で猶予期間中だったケースがほとんどで、薬物事件の再犯に執行猶予を適用した例は記録がないという。

 男性の弁護人を務めた西谷裕子弁護士(大阪弁護士会)は「執行猶予付き判決を得るのは正直言って難しいと思っていた。裁判所が判決前の治療を積極的に評価するようになれば、再犯の減少にもつながるはずだ」と話した。

http://www.sankei.com/west/news/141106/wst1411060033-n1.html
 執行猶予中に再び覚醒剤を使用したなどとして覚せい剤取締法違反罪に問われ、1審神戸地裁尼崎支部で再び執行猶予付きの有罪判決を受けた男性被告(33)の控訴審判決公判が6日、大阪高裁で開かれた。的場純男裁判長は「刑の執行を再度猶予するほど被告に有利な事情があるとはいえない」として1審判決を破棄、懲役1年2月の実刑を言い渡した。

 1審判決は、被告が今回の逮捕、保釈後に薬物依存の専門治療を受けたことなどを重視。「執行猶予中の再犯に厳しい非難があるとはいえ、依存治療が必要であることも否定しがたい」として懲役1年、執行猶予4年を言い渡した。

 これに対し、的場裁判長は「常習的犯行で刑事責任を軽視できない。依存治療は刑の執行後でも遅いとはいえない」と指摘した。