児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「銭湯で女児を「盗撮」した男性逮捕 「児童ポルノ禁止法」違反になるケースとは?」の下書き

http://www.bengo4.com/topics/1926/
の下書き

今回は銭湯の男性用脱衣所での盗撮ということだが、この法律はどう改正され、どんな行為がアウトになるのだろうか。

 公衆浴場等での盗撮行為は従来から検挙されていましたが、適用可能性がある法条は、

? 盗撮目的で施設に入った場合は建造物侵入罪(三年以下の懲役又は十万円以下の罰金)
? 盗撮による卑わいな言動(兵庫県 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例3条2項、15条1項 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)
? のぞき見た点で窃視罪(軽犯罪法1条23号 拘留又は科料

で、結局、盗撮行為そのものではなく、侵入する行為が最も重く、本件のように、自分も男湯に入浴するという目的があれば、建造物侵入罪も成立しないので、迷惑条例違反か窃視罪ということになります。
 盗撮の被害について罰則が軽すぎるという批判が従前からありましたし、特に児童が盗撮されることもあったので、今回の児童ポルノ法改正で盛り込まれました。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
第七条
5 第二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
罰則:三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金

 趣旨については、性的虐待行為だと説明される。

 186 - 衆 - 法務委員会 - 21号 平成26年06月04日
○西田委員 お答え申し上げます。
 これも趣旨説明で触れさせていただいた点でございますけれども、今回は、これまでの現行法が、いわゆる提供目的の所持に対する処罰、それと、あとは、児童に姿態をとらせて製造する場合の処罰があったわけですけれども、盗撮もだめだということで、処罰範囲を拡大する趣旨でつくらせていただいたものでございます。
 これまでは、このように、先ほど申したように、提供目的はだめです、そして、児童にそういう姿態をとらせてつくるのもだめですということにしたんですけれども、当然、盗撮というのも甚だ悪質でございます。児童の尊厳を著しく侵害することは言うまでもございませんし、一方で、児童を性的行為の対象とする風潮を助長する、あるいは抽象的、一般的な児童の人格権を侵害する、そういった行為であることも言うまでもないと思っております。流通の危険性を創出する、こういった危険性があるわけでございますし、そういったことを防止する観点も考慮しなければなりません。
 そういったことから、今回、新たに盗撮も処罰の範囲に入れるということで拡大をする趣旨でございます。

 どう考えても重大な権利侵害だと思うが、04年改正当時では、虐待とは言えないと解説されていた。気付かなければ権利侵害はないのだと。犯罪化されても「盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ、あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえないし、提供目的を欠く場合、盗撮の結果が児童の心身に悪影響を及ばす危険が具体化しているともいえない」という反論は可能だ。

島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」について警察学論集57巻08号P97
盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ、あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえないし、提供目的を欠く場合、盗撮の結果が児童の心身に悪影響を及ばす危険が具体化しているともいえないから、盗撮を手段とした単純製造の行為を直ちに児童ポルノに係る罪として処罰する必要はない

 この罪は、提供等の目的がなく、かつ姿態をとらせていない場合でも、ひそかに撮影する行為を処罰するものです。「ひそかに」とは窃視罪の「ひそかに」を借用したものと思われ、描写されないことの利益を有する者に知られないように描写することをいうと解されます(伊藤栄樹・勝丸充啓「軽犯罪法新装第2版」P168)。

 被描写者に知られた場合については、成立するという見解もあるが、

第186回国会衆議院法務委員会平成26年06月04日
西田委員
例外的ではあるかと思うんですけれども、盗撮されていることに気づいてしまった場合であったとしても、ひそかに児童に知られないようにこれを撮影しているような場合であっても、これは基本的に適用されるというふうに解されます。

 その場合は「ひそかに」とも「描写されないことの利益を有する者に知られない」とも言えないので、「姿態をとらせ」(14年改正法7条4項)の要件を満たさない限りは製造罪は成立しないと考える。

軽犯罪法新装第2版p169
(2) 『ひそかに』
「ひそかに」とは,見られないことの利益を有する者に知られないようにすることをいう。見られる者以外の者に知られると否とを問わない。不特定多数の人の面前で、行っても,見られる者に知られないようにすれば,「ひそかに」のぞき見たことになる。見られる者の承諾があれば,「ひそかに」には当たらないことはいうまでもない。

 罰則は三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金でひそかに製造罪が最も重くなります。
 迷惑条例違反罪と比べると、「公共の場所で」という限定がありませんので、学校・個人の居宅などの盗撮行為も処罰されることになります。
 迷惑条例の罪はカメラを構えただけでも「卑わい行為」として処罰される可能性がありますが、ひそかに製造罪は媒体に描写された時に既遂になり、予備・未遂処罰がありませんので、カメラを向けただけとか撮影に失敗した場合には成立しません。
 さらに盗撮の場合の児童ポルノの要件は「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」(2条3項3号)であるところ、男湯におおむね10歳までの女児が入浴することは、条例等で許容されているので

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/legionella/030214-1b.html
公衆浴場における衛生等管理要領
9入浴者に対する制限
(1)おおむね10歳以上の男女を混浴させないこと。

http://www.city.amagasaki.hyogo.jp/dbps_data/_material_/localhost/sosiki/147/public/ac.pdf
公衆浴場法基準条例(昭和 39 年4月1日 条例第 64 号)
(22) 10 歳以上の男女を混浴させないこと。

その場面を撮影した場合に、この要件(一般人基準)を満たすかどうかという問題(大阪高裁H24.7.12参照)もあり、盗撮に成功したとしてもひそかに製造罪が成立するとは限りません。

 というわけで、今後も、盗撮行為については、事案に応じて

? 盗撮目的で施設に入った場合は建造物侵入罪(三年以下の懲役又は十万円以下の罰金)
? 盗撮による卑わいな言動(兵庫県 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例3条2項、15条1項 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)
? のぞき見た点で窃視罪(軽犯罪法1条23号 拘留又は科料
? ひそかに製造罪(児童ポルノ法7条5項)

を使い分けていくことになります。