児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

偽計業務妨害罪(包括一罪)によるかすがい現象(前橋地裁H26.8.8)

 罪数処理が争われました。
  1/1 器物損壊・業務妨害
  1/2 器物損壊・業務妨害
  1/3 器物損壊・業務妨害
  2/1 占有離脱物横領
という訴因と思われます。
 結局、器物損壊・業務妨害は包括一罪にして、重い業務妨害罪一罪の刑を取って、占有離脱物横領と併合罪加重をして、処断刑期の上限を4年にしたものです。
 包括一罪で串刺しになるので、奥村は「串刺し一罪」と呼んでます。かすがい現象は牽連犯でかすがいされることが多く、包括一罪+観念的競合でのかすがいは稀です。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/814/037814_hanrei.pdf

刑法
第261条(器物損壊等)
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する
第233条(信用毀損及び業務妨害) 
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する
第254条(遺失物等横領)
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

農薬混入 再発防止へ 工場再出発 待遇改善 「監視」不安も=群馬
2014.08.09 読売新聞
【法令の適用の補足説明】
 検察官は、犯行日ごとに器物損壊罪一罪と偽計業務妨害罪一罪が成立して両者は観念的競合となり、犯行日ごとに成立する両罪が併合罪となる旨主張する。これに対し、弁護人は、偽計業務妨害罪は全体が包括して一罪で、器物損壊罪は偽計業務妨害罪に吸収されるか、同罪と観念的競合になる旨主張する。

 関係証拠によれば、被告は、給与、ボーナスの査定や勤務評価に不満を抱き、製造ラインを停止させることで、会社や工場長を困らせて鬱憤(うっぷん)を晴らそうとし、小型の香水スプレー瓶1本に入れた農薬を工場内に持ち込んで、約1か月間に16日にわたって、製造ライン上の食品に農薬を吹き付けたことが認められる。

 器物損壊罪をみると、同一工場内で食品に農薬を吹き付けたものであるから、同一犯行日ごとに一罪が成立する。

 偽計業務妨害罪をみると、被告は、工場長に意趣返しをしようとの一貫した犯意で、一定期間に同様の方法・態様で農薬の吹き付け行為を継続していた。被告の行為は、工場の業務の妨害という同一の法益に向けられた一連の行為として全体を一罪として処罰するのを相当とするから、包括一罪である。

 検察官は、偽計業務妨害罪につき、被告は、一度農薬を吹き付ければ製造ラインが停止すると思っていたところ、実際には停止しなかったことから各犯行日ごとに改めて犯意が生じている点を、併合罪となる根拠の一つとして指摘する。しかし、被告は製造ラインが停止しなかったために繰り返し犯行に及んだのであるから、犯行日ごとに新たな犯意を生じたと評価することは相当ではない。

 検察官は、本件を包括一罪と解することは訴因外の業務を措定して罪数関係を決することになり相当でない旨主張する。確かに、各食品に吹き付けられた農薬それ自体は翌日以降に製造・出荷される食品に直接の影響を与えるものではない。

 しかし、農薬の吹き付け行為が発覚すれば、原因究明などのために製造・出荷作業の停止がその日にとどまらない。妨害された業務を吹き付け行為が行われた日ごとの事務や作業に分断、限定しなければならないような事情は認められない。

 かえって、より広い業務全般を妨害すれば一罪で、各日ごとの業務を妨害すれば併合罪であるという方が不合理である。従って、検察官の主張は採用できない。

 各犯行日ごとに器物損壊罪が成立し、偽計業務妨害の点は包括して一罪が成立し、それらはそれぞれ観念的競合の関係にあるので、これらを一罪として最も重い偽計業務妨害罪の刑で処断することにした。

 業務妨害罪は包括一罪になることが多く

  威力業務妨害等被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決
【判決日付】 昭和43年11月28日
(法律の適用)
 被告人らの判示所為中、威力業務妨害の点は包括して刑法二一二四条、罰金等臨時措置法一二条一項、刑法六〇条に、

検察官の主張はもともと無理だったようです。罪数処理については検察官控訴できないと思われます。

農薬混入16回「包括一罪」 懲役3年6月判決 検察側の主張退ける=群馬
2014.08.09 読売新聞社
◆検察側主張「併合罪」 刑事政策上判断働く(解説)
 農薬混入事件の公判で最大の争点だった懲役刑の上限について、前橋地裁は、重刑を求めた検察側の主張を退けた。
 判決は偽計業務妨害罪について、阿部被告が「工場長への意趣返し」という一貫した犯意を持って農薬混入を繰り返したとして、全体として1個の犯罪が成立する「包括一罪」と認定した。弁護側の主張に沿った判断で、自転車の横領罪と合わせて上限は4年と結論づけた。
 検察側はこれまでの公判で、「被告は農薬を混入しても誰も気付かず、製造ラインが停止しなかったことから改めて農薬混入を決意した」と指摘し、混入した日ごとに1個の罪が成立すると主張していた。この主張に基づけば、刑法の「併合罪」の規定によって上限は4年6月に引き上がる。だが、判決は「不合理」として採用しなかった。
 実は、捜査関係者の間でも、「検察の主張には少し無理がある」との見方はあった。それでも、検察側が「併合罪」の適用を目指したのは、「被害の大きさに比べて、法定刑が軽すぎる」(捜査幹部)との刑事政策上の判断が働いたからだ。

 上毛新聞の理解を超えたようです。

【解説】
 食の安全を揺るがした冷凍食品の農薬混入事件は、工場の元契約社員に判決が言い渡され、一つの区切りを迎えた。ただ、「懲役3年6月」という量刑以上に、健康不安を拡大させるなど全国の消費者に与えた影響は大きかった。
 昨年秋から年末にかけて、「異臭がする」との苦情や健康被害を訴える消費者が各地で続出した。健康被害が疑われる事例は2900人近くに上ったが、製品を食べたこととの因果関係は確認できなかった。しかし、前橋地裁判決は「食品を購入した消費者に体調の異変を訴えた者もいる」として、農薬混入が生じさせる危険性と不安の拡大に言及した。
 一方、公判は起訴内容に争いがなく、農薬混入による罪の成立数が主な争点となった。「併合罪」や「包括一罪」といった専門的な用語が飛び交い、難解な審理となった点は否めない。
(報道部 堀口純)
上毛新聞社


 なお、物を壊して業務を妨害するというケースでは観念的競合とされることが多いし、器物損壊の訴因に業務妨害罪が訴因変更で追加されていますので検察官も「偽計業務妨害罪と器物損壊罪の併合罪」とは主張していません。
 自転車の占離も起訴して、処断刑期4年を確保しているので、4年6月という主張にそれほどのこだわりがあったとも思えません。
 

読売新聞
2月16日 県警が器物損壊容疑で再逮捕
3月 7日 前橋地検が器物損壊罪で起訴
31日 同地検が偽計業務妨害罪を加える訴因変更。別時期について偽計業務妨害、器物損壊両罪で追起訴

http://lmedia.jp/2014/08/17/55053/
そこで、被告人は、偽計業務妨害罪と器物損壊罪の併合罪であるとして、より重い偽計業務妨害罪の長期3年の1.5倍である「4年6月以下の懲役」のMAXが求刑されたわけです(刑法47条前段)。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)