論文の最後の方でこんなことをまとめました。
第10 最決H21.10.26について
1 併合罪の主張は必ずしも不適法ではないこと
弁護人として意外だったのは、併合罪の主張を「上訴の理由がなく不適法」とするのではなく判断を示したことである。
仙台高裁H21.3.3に代表されるように「併合罪説であることを前提とする主張は不利益主張であり違法だ」と判断されることが多いが、札幌高裁でも最決においてもそのような判示はなかった。
判決や主張が不利益かどうかは、刑訴法402条の「不利益」の解釈によるところ、刑訴法402条における刑の軽重の比較については、執行猶予の言渡しの有無をも考慮すべきであるとされ(最2小決昭55・12・4刑集34巻7号499頁、本誌433号90頁)、必ずしも主刑の軽重のみによって決するのではなく、執行猶予の言渡しの有無や労役場留置の期間などの付随的な処分をも併せ、主文を全体として具体的・総合的に考察し、実質的に被告人に不利益かどうかによって、判断する方法がとられている。
従って、上訴の利益についても、上訴によってもとめる判断が、全体として具体的・総合的に考察し、実質的に被告人に利益になれば足り、上訴理由中の「併合罪」の字句のみに注目して有利不利を決めるのは、失当であると考えている。
最判S53.7.7*1*2は、原判決で包括一罪とされた数回の出資法違反の事実について、弁護人から併合罪であるから個々の事実について公訴時効が進行しており、一部は時効となっているという上告理由が主張され、最高裁は、不利益主張だとは判断せずに、併合罪とした上で、一部の時効をみとめて、破棄差戻している。
最近でも最決H21.7.7*3は、児童ポルノ提供罪(7条4項)と所持罪(5項)が併合罪であるから訴因変更は違法であるという主張に対して、不利益主張だとは判断せずに併合罪だと判示している。同最決が単に「数回の児童ポルノ提供罪は判例上併合罪であるから包括一罪だとした原判決は判例違反だ」という主張に対しては、「東京高等裁判所平成15年(う)第361号同年6月4日判決及び大阪高等裁判所平成20年(う)第121号同年4月17日判決を引用しての判例違反をいう点は,罪数判断に関して被告人にとり不利益な主張をするもので不適法」とした点は、訴因変更の違法については不利益主張としなかったことと対比すると、単に併合罪だとするだけでは不利益主張だが、併合罪説の帰結としてさらに重大な瑕疵があってそれが被告人に有利となる場合には不利益主張とはしないことを示していて、興味深い。
本件では、適法な事物管轄で裁かれることが被告人の利益でああり、本最決には管轄違の是正を求める場合には併合罪の主張も許容されるという意味がある。