http://www.bengo4.com/hanzai/b_241308/
罰金の確定判決を債務名義として、「刑法一八条の規定は罰金の特別な執行方法を定めたもので罰金刑の効果を全うするための規定である」という判例からすると、金銭債務は金銭で払うのが本旨履行なので、労役場留置が始まったからと言ってそれを禁止する理由はないとか、自由刑は回避すべきだとか、感覚的には、可能なんですが、根拠条文の刑法18条7項が見当たらなくて、ひやりとしました。変わらないという検事の解説がありました。
罰金の一部納付(分納)が可能だという根拠にも使えます。
窃盗臨時物資需給調整法違反被告事件
最高裁判所大法廷判決昭和25年6月7日
最高裁判所刑事判例集4巻6号956頁
最高裁判所裁判集刑事18号103頁
同第四点について。
憲法一四条はすべての国民が人種、信条、性別、社会的身分又は門地等の差異を理由として政治的、経済的又は社会的関係において法律上の差別待遇を受けないことを明にして国民が法の下に平等であることを規定したものである、ところで所論臨時物資需給調整法四条の規定は同法一条一項の規定による命令に違反した者はこれを一〇年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金に処する旨を規定しているものであり刑法一八条は財産刑に関する換刑処分の規定であるが右罰則規定は前示違反行為をした者は何人でも所定の刑に処せられることを規定するものであり、刑法一八条は罰金科料を完納することができない者は何人でも労役場に留置することを定めたものでいずれも人種、信条、性別、社会的身分又は門地等の差異を理由として差別的待遇をしているものではないから憲法一四条の平等の原則に反するものということはできない。論旨は罰金は財産のある者は何の苦痛もなく支払えるが財産のない者は罰金が支払えない結果労役場に留置せられる財産のある者と財産のない者との間にかくの如き差別待遇をすることは法律が国民に対し不平等な取扱いをすることである、それゆえ無産者に対しても有産者に対すると同額の罰金刑を科することを許し罰金が払えなければ労役場に留置することを許す前記規定は憲法一四条に違反するものであると主張する。しかし憲法一四条の規定する平等の原則は前段説明の如く法的平等の原則を示しているのであるが各人には経済的、社会的その他種々な事実的差異が現存するのであるから一般法規の制定又はその適用においてその事実的差異から生ずる不均等があることは免れ難いところである、そしてその不均等が一般社会観念上合理的な根拠のある場合には平等の原則に違反するものとはいえないのである。ところで罰金刑は受刑者の貧富の程度如何によつてその効果に差異があり、受刑者の受ける苦痛の程度にも差異があることは所論のとおりであるか、罰金刑は刑法上認められている刑罰の一種であり、また換刑処分を定めた刑法一八条の規定は罰金の特別な執行方法を定めたもので罰金刑の効果を全うするための規定である、若し所論のように罰金刑を定めた刑罰法規や換刑処分を定めた規定が違憲であるという議論を推し進めるならば、それは罰金刑という刑罰自体を否定することになるのである、しかし罰金刑は受刑者の貧富如何によつてその効果に差異があるという弱点はあるけれどもなほ一般的にみて受刑者に対して一定の刑罰効果を挙げ得るものであるからこれを否定することはできない、元来刑罰は財産刑に限らず自由刑でも受刑者の受ける苦痛の程度は具体的には各人によつて異なるのである、ただ罰金刑ではその差異共が貧富の程度如何によつて顕著であるに過ぎないのである、それゆえ一定の違反行為に対し罰金刑を定めた法規及び換刑処分を定めた法規は各人を法律上平等に取扱つているのであつて刑罰によつて受刑者の受ける苦痛の差異はその法規から必然的に生ずる避けがたい差異という外はない。そして裁判所は刑の量定をする場合には犯情その他諸般の事情を参酌するのであるが罰金刑については犯人の資産状態も亦特に考慮せられてその刑罰効果を挙げることに十分な注意が払はれているのである、また刑法二五条の改正によつて五万円以下の罰金の言渡を受けた者については情状により刑の執行猶予を与える途も開かれたのであり、労役場の留置については刑法三〇条二項の規定によつて情状により仮出場を許すこともできるのであつてこれ等の方法によつて前示貧富の程度によつて生ずる不均等も或る程度は緩和され得るのである、以上の次第で罰金刑が受刑者の貧富の程度如何によつてその受刑者に与える苦痛に差異があることは貧富という各人の事実的差異から生ずる必然的な差異であり、刑罰法規の制定による社会秩序維持という大局からみて己むを得ない差異であつて一般社会観念上合理的な根拠あるものとして是認さるべきものと認められるのであるからこれをもつて平等の原則に反するものとはいえないのである。されば論旨はその理由がない
H18改正前第18条
6 罰金又は科料の言渡しを受けた者がその一部を納付したときは、罰金または科料の全額と留置の日数との割合に従い、納付した金額に相当する日数を控除して留置する。
7 留置の執行中に罰金又は科料の一部を納付したときは、その金額を、前項の割合で、残りの日数に充てる。
8 留置一日の割合に満たない金額は、納付することができない。
↓
現行刑法18条
6 罰金又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置一日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に一日未満の端数を生じるときは、これを一日とする。)とする。
久木元伸「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」警察学論集59-7
また、改正前の刑法18条においては、罰金等の一部納付がなされた場合の留置日数の算出につき、その部納付がなされたのが労役場留置の執行前か執行中かにより、6項と7項に分けて規定していたところ、これをより分かりやすく表現することや、現在の実務なども考慮して、6項について、労役場留慣の執行前又は執行中に一部の納付がなされた場合、トータルの留置日数が何日になるかを端的に示す表現に改めるとともに、7項を削除することとした。
眞田寿彦「『刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律』について」Keisatsu jiho 第61巻7号
第6 財産刑に関する手続規定の整備
1 労役場留置制度の見直し(刑法第18条の改正)
罰金又は利科の判決の言渡しについては,労役場留置1日たりの金額も併せて言い渡されるのが通例です。
そして,改正法は,罰金刑を新設するなと財産刑に関する法改正を行うことに伴い,これまで留置1日の割合に満たない金額(以下「端数」といいます。)の納付ができないとしていた規定(刑法第18条8項)を削除して端数の納付を認めるとともに,罰金又は科料の一部が納付され,端数だけ残ったときでも,その端数の未納については1日分の未納と計算して,丸1日労役場に留置するものとしました。