児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律7条1項,32条1号所定の罰則を伴う届出制度は憲法21条1項に違反しない(最高裁判所第一小法廷平成26年01月16日)

個人でも知らないうちに異性紹介事業になっちゃうので、「集会結社の自由」は思いつかなかったですね。
 同性紹介事業は無規制なのに、異性紹介事業だと規制されるという点も切り込んで欲しかったですね。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140116163159.pdf
1弁護人福島正洋及び被告人本人の各上告趣意のうち,インターネット異性紹介事業の届出制度に関し,憲法21条1項違反をいう点について
(1) インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(以下「本法」という。)は,インターネット異性紹介事業を定義した上で(2条2号),同事業を行おうとする者は,事務所の所在地を管轄する都道府県公安委員会に所定の事項を届け出なければならない旨を定め(7条1項),その届出をしないで同事業を行った者は6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する旨を定めている(32条1号)。
(2) 同弁護人の所論は,本法7条1項,32条1号所定の罰則を伴う届出制度(以下「本件届出制度」という。)は,集会結社の自由を不当に制約するものであるから,憲法21条1項に違反する旨主張し,被告人本人の所論は,本件届出制度は,表現の自由,集会結社の自由を不当に制約するものであるから,憲法21条1項に違反する旨主張する。
(3) そこで検討するに,まず,本法は,インターネット異性紹介事業の利用に起因する児童買春その他の犯罪から児童(18歳に満たない者)を保護し,もって児童の健全な育成に資することを目的としているところ(1条,2条1号),思慮分別が一般に未熟である児童をこのような犯罪から保護し,その健全な育成を図ることは,社会にとって重要な利益であり,本法の目的は,もとより正当である。
そして,同事業の利用に起因する児童買春その他の犯罪が多発している状況を踏まえると,それら犯罪から児童を保護するために,同事業について規制を必要とする程度は高いといえる。
また,本法は,同事業を行う者(以下「事業者」という。)に対する規制として,その責務や義務等を定めるほか,都道府県公安委員会の権限として,事業者に法令違反があり,当該違反行為が児童の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるときの指示(13条),事業者が事業に関し本法及び児童福祉法等に規定する一定の罪に当たる行為をしたと認めるときの事業の停止命令(14条1項),事業者が欠格事由に該当することが判明したときの事業の廃止命令(同条2項),事業に関する報告又は資料の提出要求(16条)に関する諸規定を設けている。
そして,本件届出制度は,同事業を行おうとする者に対し,氏名,住所,広告又は宣伝に使用する呼称,本拠となる事務所の所在地,連絡先等の事項(7条1項1ないし5号)や,事業を利用する異性交際希望者が児童でないことの確認の実施方法その他の業務の実施方法に関する事項(同項6号)を都道府県公安委員会に届け出ることを義務付けるものであるところ,このような事項を事業者自身からの届出により事業開始段階で把握することは,上記各規定に基づく監督等を適切かつ実効的に行い,ひいては本法の上記目的を達成することに資するものである。
他方,本件届出制度は,インターネットを利用してなされる表現に関し,そこに含まれる情報の性質に着目して事業者に届出義務を課すものではあるが,その届出事項の内容は限定されたものである。
また,届出自体により,事業者によるウェブサイトへの説明文言の記載や同事業利用者による書き込みの内容が制約されるものではない上,他の義務規定を併せみても,事業者が,児童による利用防止のための措置等をとりつつ,インターネット異性紹介事業を運営することは制約されず,児童以外の者が,同事業を利用し,児童との性交等や異性交際の誘引に関わらない書き込みをすることも制約されない。
また,本法が,無届けで同事業を行うことについて罰則を定めていることも,届出義務の履行を担保する上で合理的なことであり,罰則の内容も相当なものである。
以上を踏まえると,本件届出制度は,上記の正当な立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきであって,憲法21条1項に違反するものではないといえる。
このように解すべきことは,当裁判所の判例最高裁昭和35年(あ)第112号同年7月20日大法廷判決・刑集14巻9号1243頁,最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁,最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁,最高裁昭和57年(あ)第621号同60年10月23日大法廷判決・刑集39巻6号413頁,最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁)の趣旨に徴して明らかである。
(4) なお,被告人本人の所論は,本件届出制度に関し,本法2条2号による「インターネット異性紹介事業」の定義が漠然として不明確であるから,憲法21条1項に違反する旨主張するが,その定義が所論のように不明確であるとはいえないから,前提を欠くものである。
2 同弁護人及び被告人本人の各上告趣意のうち,本法32条1号,7条1項の規定について,上記1(4)と同様の理由で憲法31条違反をいう点は,その定義が所論のように不明確であるとはいえず,本法6条,11条,12条,33条の各規定の違憲をいう点は,原判決の是認する第1審判決はこれらの規定を適用していないのであるから,いずれも前提を欠くものである。
3 被告人本人の上告趣意のうち,被告人を本法7条1項,32条1号の届出義務違反で処罰することは,被告人に対して,運営するウェブサイト内の説明文言の編集や利用者による書き込み記事の削除を強要するものであって,検閲に当たる上,被告人の良心の自由,表現の自由,集会結社の自由を侵害し,利用者の表現の自由も侵害するとして,憲法19条,21条1項,2項違反をいう点は,本件は,インターネット異性紹介事業を行おうとする者の届出義務に違反して同事業を行った行為を処罰するものであって,所論のような編集や記事の削除を強要するものではないから,前提を欠くものである。
4 同弁護人及び被告人本人のその余の上告趣意は,いずれも,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
よって,刑訴法408条,181条1項本文により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山浦善樹 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)