児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被害者に対する怒り・憎悪という動機が併存してもわいせつな意図は認められる(大分地裁H25.6.4)

 連れ子は性犯罪の被害者として頻出です。

強制わいせつ致傷事件
大分地方裁判所
平成25年6月4日刑事部判決
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成24年9月18日午前9時頃,妻の連れ子であるA(当時17歳)に対し,大阪市a町b番地c市有地において,わいせつな行為をしようと考え,同女を後ろから引き倒して馬乗りになり,何度か「やらせろ。」と言ってこれを拒絶した同女の両手や左足ふくらはぎに粘着テープを巻こうとし,右手を同女のスカートの中に差入れてパンツを膝の上あたりまで下ろし,同女の性器に指を入れようとして陰部に触れ,さらに,抵抗する同女の首を両手で絞めたほか,この間に同女の顔面を二,三回殴る暴行を加え,強いてわいせつな行為をし,これら一連の暴行により,加療約2週間を要する喉頭部挫傷,頸部打撲傷及び右踵部打撲,加療3週間を要する顔面打撲,両結膜下出血及び左網膜出血,加療約1週間を要する舌咬創の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
 省略
 なお,検察官は,起訴した暴行の範囲について,被害者が失神するまでの間のものである旨釈明したところ,被害者の両膝打撲傷については,この間,被告人が仰向けの被害者の腹部に馬乗りになっており,被害者の膝は上を向いていたと認められるから,被害者が上半身をひねったり足をばたつかせて抵抗しても,その膝が地面に当たって打撲傷を負うことは考えられない。むしろ,この両膝打撲傷は,被害者が失神した後,前のめりに倒れて地面に打ち付けることにより負った可能性が高い。そうすると,両膝打撲傷については,検察官が起訴した暴行によって生じたものとは認められないから,罪となるべき事実において判示することはできない。
(争点に対する判断)
1 犯行態様について
(1)弁護人は,被告人は被害者に対して「やらせろ。」とは言っていないし,陰部に触れてもいないと主張し,これらの事実があったとする被害者の証言は信用性が高いとは到底いえないというので,被害者の証言の信用性を検討する。
(2)ア 弁護人は,被害者が被告人に対して悪感情を抱いており,嘘をつく動機があるから,虚偽の証言をしている可能性は非常に高いという。
 しかし,被害者が被告人のことを殊更に悪く言っていると感じられるところはないことに加え,鼻血が出ているなど客観的にも顔を殴られた形跡があるといえるにもかかわらず,一貫して顔を殴られた記憶はないと述べており,被害者は,自らの記憶のとおりに証言しているものと認められ,被告人への悪感情から虚偽の証言をしている可能性はない。
イ また,弁護人は,被害者が極度の恐怖心等から強姦されるかもしれないと思ってしまったため,思い違いや勘違いをした可能性が極めて高いという。
(ア)まず,被告人が「やらせろ。」と言ったかという点について検討する。
「やらせろ。」と言われたのが1回だけだというのであれば,聞き間違いなどから,被害者がそう言われたものと思い込んでいることも考えられなくはないが、被害者は,被告人から何回か言われたと証言している上,怒った感じのあまり大きくない声だったと,その口調についても具体的に証言している。また,「やらせろ。」と言われた被害者が「いやだ。」と拒否すると,被告人が粘着テープで両手を巻こうとしたと証言しているが,この流れも自然なものである。
 これらの事情からすると,被害者が,強姦されるという恐怖心等から,「やらせろ。」と言われてもいないのに言われたと思い込んでいる可能性はない。 
(イ)続いて,被告人が被害者の陰部に触れたかという点について検討する。
 被告人が被害者に馬乗りになってパンツを下ろしたことに疑いはなく,このことからすると,被告人が陰部に触れようと手を伸ばしてくるのが自然である。この点,被害者は,太ももに手を突っ込まれ,付け根にその手が当たり,そのまま性器に指を入れられた記憶があった,気持ち悪いと感じた,パンツを下ろす際に手が触れたというものではないなどと証言している。パンツを下ろされたことで,被害者としては,何をされるのだろうかと思って下半身に注意が向いたと認められるから,被告人が陰部に触れたとの点について,被害者が勘違いをしているものではないといえる。
 しかしながら,事柄の性質上やむを得ない面はあるものの,被害者は,被告人の指がどの程度性器に入ったのか,入っていた時間はどの程度かといった点については,具体的に証言できていない。また,被害者が足をばたつかせて抵抗していたこと,パンツは膝上辺りまでしか下ろされておらず,被害者の足が大きく開く状態ではなかったこと,被告人は被害者のお腹辺りにいて前を向き,被害者の抵抗を防ぎながら体をひねって陰部に手を伸ばす状況であると認められることなどからすると,被告人の指を被害者の性器に入れるのはかなり困難と考えられる。また,被害者の陰部に傷はなく,被害者の性器に指が入ったという客観的な裏付けもない。
 そうすると,被害者の証言のうち性器に指を入れられたという点については,その状況に曖昧さが残り,被告人が性器に指を入れようとして陰部に触れていたことを,被害者が「入れられた」と表現している可能性も否定できない。
 したがって,被告人が被害者の性器に指を入れたと認めるには,なお合理的な疑いが残るというべきであって,性器に指を入れようとして陰部に触れたという限度で事実を認めるべきものと判断した。
2 わいせつ意図について
(1)弁護人は,被告人には被害者への怒りと悔しさからくる復讐心しかなく,「わいせつ意図」がなかったと主張する。
 弁護人指摘の判例も述べるとおり,強制わいせつ罪が成立するためには,犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図が必要であり,専ら報復・侮辱・虐待等の目的に出た行為であれば,強制わいせつ罪には当たらないが,弁護人の主張する復讐心とこのような性的意図は併存し得るものであって,これらが併存していると認められるのであれば,強制わいせつ罪が成立する。
(2)被告人は,被害者のパンツを下ろし,性器に指を入れようと陰部を触ったと認められるところ,これがわいせつな行為であることは言うまでもなく,被告人もこのことを当然認識していたといえる。また,被告人自身,被害者に性的な屈辱感を与えようとしていたことを認めている(第2回公判の被告人供述調書(1)2頁「自分自身の中で,女性がどういうことをされたら屈辱かというのもそれなりに分かってますし。」)。
 被告人と被害者との間に弁護人が主張するような確執等があったとしても,その復讐として,被害者に対し,敢えてこのようなわいせつな行為に出る必要はない。
 そうすると,被告人には,単なる復讐心だけではなく,自らの性的な欲求を刺激する,あるいは辱められた被害者の姿を見て性的な満足を得るといった意図が存在していたものと推認できる。
(3)なお,被告人は,被害者が失神した後,被害者に対し,それ以上のわいせつな行為に及んでいないと認められるものの,被害者が失神したことに驚き,自分のしたことが怖くなって,それ以上の行為をしなかったものと考えられるから,このことは上記の性的意図の存在を否定するものではない。
(4)以上のとおり,被告人には,本件犯行時に,被害者への復讐心だけではなく,強制わいせつ罪が成立するために必要な性的意図があったものと認められる。