児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

起訴猶予事例の報道の経緯

 どんな事件でも、逮捕報道というのは、こんな流れだと思います。
 逮捕直後に接見すると「弁護士の力で報道止められないか」「国会議員の○○に頼んで報道止めてくれ」なんて注文が来ることがありますが、止められません。マスコミが実名を欲しているようです。


3/14 2040 通常逮捕
3/14 2300 弁護人から報道自粛要請
3/15 1100 県警記者発表(匿名)
3/15 1130 県警記者発表(実名)

那覇地裁平成20年 3月 4日
事件名 損害賠償請求事件
第二 事案の概要
 本件は、沖縄県青少年保護育成条例違反被疑事件(以下「本件被疑事件」という。)により逮捕・勾留された原告が、報道機関(テレビ局)である被告らに対し、被告らが上記逮捕の事実を実名報道したことにより、名誉を毀損されたと主張して、民法七〇九条、七一九条に基づき、連帯して四六三五万二一一八円の支払を求める事案である(附帯請求は、不法行為の日である平成一九年三月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金)。
 一 前提となる事実(証拠を挙げていない事実は、当事者間に争いがない。)
  (1) 沖縄県青少年保護育成条例(昭和四七年五月一五日条例第一一号。以下「本件条例」という。)
 本件条例のうち、本件被疑事件と関連する規定は次のとおりである。
   ア 第一条(目的)
 この条例は、青少年の健全な育成を図るため、これを阻害するおそれのある行為を防止し、青少年のための環境を整備することを目的とする。
   イ 第三条(県民の責任)
 すべて県民は、青少年が健全に育成されるように努め、これを阻害するおそれのある行為又は環境から青少年を保護しなければならない。
   ウ 第一七条の二(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
 何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
 (二項略)
   エ 第二二条(罰則)
 第一七条の二第一項の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金に処する。
 (二項以下省略)
  (2) 当事者
   ア 原告は、昭和○年○月○日生の男性であり、平成七年に沖縄県の教員に採用され、県内の小・中学校に音楽担当の教諭として勤務した後、平成一七年四月にa町立b中学校(以下「本件中学校」という。)に転任し、同年七月ころから平成一九年三月三一日まで精神病のため休職していたが、病状の回復がみられたため、同年四月一日から、本件中学校に復職する予定であった。
 なお、原告は、てんかんの既往歴があり、平成一八年一二月一二日にはc病院で、統合失調症及びてんかんと診断されていた。
   イ 被告らは、放送法等に基づきテレビジョン放送(以下「テレビ放送」という。)を行うことなどを目的とする株式会社又は放送法に基づき設立された法人である。
  (3) 原告とAの交際の開始
 原告は、上記(2)アの休職期間中も、時折、本件中学校に陸上競技の指導等に行くことがあったところ、平成一八年八月ころ、同中学校の三年生であったA(仮名)と趣味の音楽活動を通じて知り合い、親しくなった。
  (4) 本件被疑事件での逮捕・勾留
   ア 沖縄県警察(以下「県警」という。)は、下記の被疑事実(以下「本件被疑事実」という。)により那覇簡易裁判所裁判官に対し逮捕状を請求し、その発付を受けて、平成一九年(以下、平成一九年については、年の記載を省略する。)三月一四日午後八時四〇分ころ、原告を通常逮捕した(以下「本件逮捕」という。)。
 「被疑者は、二月一七日午前一〇時三五分ころから同日午後六時六分ころまでの間、《住所省略》dホテル二号室において、A(平成○年○月○日生・当一五歳)が、満一八歳に満たない者であることを知りながら、単に自己の性欲を満足させるために同女と性交し、もって、青少年に対しみだらな性行為をしたものである。」
   イ 原告は三月一七日、那覇簡易裁判所裁判官が発した勾留状により、同日から同年四月五日まで浦添警察署留置場に勾留され(勾留延長期間を含む。)、同日、釈放された。
  (5) B弁護士の被告らに対する要請等
   ア 被告RBC
 原告の本件被疑事件の弁護人であるB弁護士(以下「B弁護士」という。)は、本件逮捕当日の三月一四日午後一一時ころ、被告RBCの報道部に電話をし、応対したディレクターCに対し、本島中部にある中学校の男性教諭が、本件条例違反で逮捕され浦添署警察署に留置されていること、同教諭と接見したが、同教諭は犯罪を犯しておらずAの相談相手となって公園で会っていたにすぎないと供述していること、同教諭の母親からも話を聞いたところ、母親は、同教諭は精神を病んで休職し、普段は家におり、ホテルに行くはずはないと供述していたこと、同教諭は四月から職場復帰する予定であることなどを説明して、本件被疑事件が報道されて公になると職場復帰が難しくなるので報道しないでほしいと要請した。
 もっとも、B弁護士は、上記電話において、被疑者の氏名を明らかにせず、また被疑者を匿名で報道してほしいとの要請もしなかった。
 被告RBCの担当デスクHは、翌一五日午前九時過ぎにディレクターCからのメモにより、前日のB弁護士からの電話内容を確認し、D記者に取材を指示した。
 D記者は、同日午前一〇時三〇分ころ、B弁護士から、電話で、原告が逮捕された経緯や精神病で休職中であること、以前に詐欺事件で逮捕されたことがあること、被害者の方が原告に対し好意を寄せていることなどの説明を受け、また原告の氏名の開示も受けた。
   イ 被告OTV
 B弁護士は、三月一五日午前中、県警の記者発表前に、被告OTVの報道部に電話をし、本件逮捕は不当であり、報道に当たっては実名報道をしないでほしいと要望した。
 しかし、被告OTVの報道制作局次長Eは、不当逮捕か否かは県警と被疑者との間の問題であり、実名で報道するか否かは被告OTVで判断する旨回答をした。
   ウ 被告QAB及び被告NHK
 B弁護士は、被告QAB及び被告NHKには、県警の記者発表前に、原告が精神病のため休職していることを明らかにしたり、実名報道をしないでほしいと要望したことはなかった。
  (6) 県警の記者発表
   ア 県警は、三月一五日午前一一時ころ、県警記者クラブにおいて、記者会見を開き、被告らを含む約一〇社の記者が出席した。
   イ 県警本部少年課のF次席(以下「F次席」という。)は、上記記者会見において記者発表(以下「本件公式発表」という。)を行い、「刑事・生活安全関係事件発生(検挙)報」と題する下記の内容の書面を記者たちに交付して、原告を逮捕したこと(本件逮捕)を発表した。
 「事件名 中学生を被害者とする本件条例違反(みだらな行為)の被疑者の逮捕について
 発生年月日 平成一九年二月一七日
 発生場所 沖縄本島南部の自動車ホテル
 発覚の状況 被害関係者からの通報による。
 被害者等 沖縄本島内の中学生 A(女性 一五歳)
 被疑者等 e町の教諭 X(男性 三四歳)
 逮捕
 日時 平成一九年三月一四日午後八時四〇分
 場所 沖縄県内警察署
 種別 通常逮捕
 罪名 沖縄県青少年保護育成条例(違反)
 署・課・隊 沖縄県警察本部少年課
 事件の概要 被疑者は、上記日時場所において、被害児童が一八歳に満たない児童であることを知りながら、みだらな行為をしたものである。
 捜査状況等 本件覚知後、所要の捜査を実施し、被疑者を特定して通常逮捕したもの。被疑者は否認している。」
   ウ F次席は、本件公式発表の際、被疑者の実名を公表することにより被害者が特定されるおそれがあるので、被害者の保護者の申出に基づき実名の公表を差し控えたこと、被疑者は、被害者を、直接授業で受け持ったことはないが、両者は共通の趣味を通じて知り合ったものであること、被害者の行動を不審に思った同女の保護者が警察に相談してきたので、被害者の供述や裏付けを得る等して捜査を進めたところ、本件被疑事件が発覚したので、三月一四日午後八時四〇分に通常逮捕したことをそれぞれ説明した。また、F次席は、この際、被疑者が、「ふたりでホテルの前の道は歩いたがホテルに入った事実はない。」と本件被疑事実を否認していることを説明した。
   エ 記者クラブの記者たちは、本件公式発表において、F次席が被害者の氏名だけでなく、被疑者の氏名も匿名にしたことに対し、社会的に影響力のある事件であるにもかかわらず、被疑者の実名を公表しないのはおかしいと批判し、被疑者である原告の実名を公表するよう求めた。
 これに対し、F次席は、「被疑者と被害者が同じ学校なので、被疑者の実名を明らかにすることは、被害者が特定され被害者への影響が大きい。」と述べて、被疑者の実名の公表を拒否した。
 しかし、上記記者たちが、なおも被疑者の実名の公表を求めたため、F次席は、実名の公表には県警本部長の決裁が必要であると述べて、同日午前一一時三〇分ころ、記者会見をいったん中断した。
 F次席は、同日午前一一時五〇分ころ、記者会見を再開し、上記記者たちに対し、被疑者である原告の実名及び住所を公表した。
 その際、F次席は、被害者が特定されることを避けるため、原告と被害者とが同一の中学校に在籍していることを報道するのは避けるよう要請した。
 また、F次席は、原告が「病気のため休職中である。」旨説明したが、病名については「個人的な問題にかかわるので広報しない。」として明らかにしなかった。
  (7) 被告らの報道内容等
 被告らは本件被疑事件について次の内容の報道を行った。
   ア 被告RBCの報道内容
 (ア) 被告RBCは、三月一五日午前一一時五〇分ころから約五二秒間、同社の番組「RBCニュース」において、本件被疑事件について、本件公式発表の内容に従ったテレビ放送を行ったが、この時点では、県警が原告の実名を公表していなかったため、被告RBCは被疑者を匿名として報道した。
 (イ) 被告RBCは、同日午後六時一七分ころから約一分間、同社の番組「ライブ鄯」で、本件被疑事件について、以下の内容のテレビ放送(以下「本件報道一」という。)を行った。
  a ニュースの冒頭で、男性アナウンサーが「あきれた。しかもよりによって」と発言した。
  b 次に、女性アナウンサーが以下の内容の原稿を読み上げた。
 「(導入部)中学校の教師が、中学三年の女子生徒に、みだらな行為をしたとして、昨日逮捕されました。」
 「(本文内容)県青少年保護育成条例違反の疑いで逮捕されたのは、e町に住む中学校の音楽教師X容疑者三四歳です。
 警察の調べによりますと、X容疑者は、先月一七日、本島南部のホテルで、中学三年の女子生徒に一八歳未満と知りながらみだらな行為をした疑いが持たれています。調べに対し、X容疑者は、『ホテルの前を一緒に歩いた事はあるが、ホテルの中には入っていない。』と話し、容疑を否認しているということです。X容疑者の在籍する中学校によりますと、X容疑者は数年前から休職中で来月から復帰を予定していたということです。」
  c 上記女性アナウンサーが上記原稿の導入部を読み上げた際、同アナウンサーの映像とともに画面下部に後記?のテロップが表示され、続いて本件公式発表の際の映像とともに画面下部に後記?ないし?のテロップが順次表示され、同時に画面右上に「中三女子にわいせつ行為 中学校教師逮捕」というテロップが継続して表示された。
   ?「中三女子にわいせつ行為
 中学校教師逮捕」
   ?「逮捕(県青少年保護育成条例違反)
 e町e 中学校音楽教師
 X容疑者(34)」
   ?「X容疑者
 先月一七日 本島南部のホテルで
 中学三年の女子生徒(15)にみだらな行為」
   ?「X容疑者
 『ホテルの前を一緒に歩いた事はあるがホテルの中には入っていない⇒容疑を否認』」
   ?「X容疑者
 数年前から休職
 来月から復帰を予定していた。」
   イ 被告QABの報道内容
 被告QABは、三月一五日午後六時三〇分ころ、約四七秒間、同社の番組「ステーションQ」で、本件被疑事件について、以下の内容のテレビ放送(以下「本件報道二」という。)をした。
 (ア) アナウンサーは、以下の内容の原稿を読み上げた。
 「(導入部)一五歳の少女にみだらな行為をしたとして、昨夜、中学校の教諭が逮捕されました。」
 「(本文内容)青少年保護育成条例違反の疑いで逮捕されたのは、e町の中学教諭X容疑者です。県警の調べによりますと、X容疑者は、先月一七日、本島南部の自動車ホテルで一五歳の女子中学生にみだらな行為をした疑いです。今月二日、少女の保護者から少年サポートセンターに相談があったことから事件が発覚、県警では少女の話を受けて調べを進めていました。X容疑者は、本島中部の公立中学校に勤務していましたが現在は休職中だそうです。調べに対してX容疑者は、容疑を否認しているということです。」
 (イ) アナウンサーが上記原稿の導入部を読み上げた際、アナウンサーの映像とともに後記?のテロップが表示され、本件公式発表の際の映像とともに後記?ないし?のテロップが順次表示され、同時に、画面右上に「少女にみだらな行為 中学校教諭逮捕」というテロップが継続して表示された。
  ?「県条例違反で教諭逮捕」
  ?「逮捕 県青少年保護育成条例違反容疑
 e町
 中学校教諭 X容疑者(34)」
  ?「X容疑者
 先月一七日 南部の自動車ホテルで一五歳の中学生にみだらな行為した疑い」
  ?「▼少女の保護者が少年サポートセンターに相談
 ⇒事件が発覚」
  ?「X容疑者
 本島中部の公立中に勤務
 現在は休職中
 ⇒容疑を否認」
   ウ 被告OTVの報道内容
 被告OTVは、三月一五日午後八時五五分ころ、ニュース番組において、約五〇秒間、本件被疑事件について、以下の内容のテレビ放送(以下「本件報道三」という。)をした。
 アナウンサーは、「中学三年の女子生徒に一八歳に満たないと知りながら淫らな行為をしたとして、県警はきのう県青少年保護育成条例違反の疑いで、三四歳の男性教師を逮捕しました。逮捕されたのはe町eの教師X(34)容疑者です。X容疑者は先月一七日、一五歳の女性中学生を本島南部のホテルに連れ込み淫らな行為をしたとして県青少年保護育成条例違反の疑いが持たれています。先月下旬に女子生徒の保護者からの相談で発覚し昨夜逮捕したもので、調べに対しX容疑者はホテルの前の道を二人で歩いたが、中には入っていないと容疑を否認しているということです。」との原稿を読み上げ、容疑者名、容疑内容、容疑者否認などのテロップを表示した。
   エ 被告NHKの報道内容
 被告NHKは、三月一五日午後六時一〇分ころ、県域放送番組「ハイサイ!てれびすかす」において、本件被疑事件について、以下の内容のテレビ放送を行った。
 アナウンサーは、「本島中部の公立中学校の男性教師が中学校の女子生徒にみだらな行為をしたとして県青少年保護育成条例違反の疑いで逮捕されました。逮捕されたのはe町eに住む中学校の音楽教師X容疑者(三四歳)です。警察の調べによりますとX容疑者は先月一七日の午前中から夕方にかけて本島南部の自動車ホテルで一五歳の中学三年生の女子生徒にみだらな行為をしたとして県青少年保護育成条例違反の疑いが持たれています。女子生徒の母親から「娘の様子がおかしい」と連絡を受けた警察が女子生徒から話を聞くなどして捜査を進めた結果、X容疑者の犯行がわかり、昨夜、X容疑者を逮捕しました。警察の調べに対しX容疑者は、『ホテルの前を通ったが、ホテルには入っていない。』などと容疑を否認しているということです。X容疑者はこの生徒とは共通の趣味を通して知り合ったということで現在は病気を理由に休職中だということです。中学校の男性教師が逮捕されたことについて県教育委員会のG義務教育課長は、『生徒を指導すべき教師が卑劣な行為を行い、逮捕されたことは県民の教育に対する信頼を根底から揺るがすもので大変、残念で遺憾に思う。』とコメントしています。」との原稿を読み上げた。
 また、被告NHKは、上記テレビ放送直後の同日午後六時五〇分ころのラジオ第一の県域放送のニュースでも、アナウンサーが上記原稿を読み上げて同様の放送した(以下、被告NHKの上記テレビ放送及びラジオ放送を併せて「本件報道四」といい、本件報道一ないし四を併せて、「本件各報道」という。)。
  (8) B弁護士は、三月一六日午後三時ころ、沖縄県記者クラブにおいて、記者会見を開き、被害者が原告にあてた手紙(いわゆるラブレター)等を開示しながら、両名は真しな交際をしており本件条例違反には当たらず、本件逮捕は不当であると主張した。
 被告OTVは、同日午後六時四八分ころ、「OTVスーパーニュース」において、約五〇秒間、以下の内容の放送を行い、B弁護士の上記記者会見の模様を報道した。
 アナウンサーは、「青少年保護育成条例で逮捕された男の弁護士が会見を開き、容疑者と被害者の少女は婚約関係にあり、容疑者は無罪だと主張しました。これは今年二月、e町に住む教師が、一五歳の少女にみだらな行為をしたとして、青少年保護育成条例違反の疑いで逮捕されたもので、B弁護士は、容疑者の無罪を主張し、釈放を求めています。B弁護士は、最高裁判例などを示し、婚約中や真しな交際関係にある男女の行為はみだらな行為には当たらないとしていて、容疑者と被害者の少女の関係を検察庁教育庁などにも説明したいとしています。」との内容の原稿を読み上げた。
  (9) 被告NHKは、四月五日に原告が釈放されたことを受けて、同日午後八時四五分放送開始の県域放送番組「ニュース845 沖縄」において、原告が釈放された事実を報道した。
  (10) 那覇地方検察庁は、一一月二七日付けで、本件被疑事件について、原告を起訴猶予処分とした。