児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

大阪府青少年問題協議会の答申

 「現行の児童ポルノの定義は、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とされ
ているように、児童ポルノを見る側の価値判断から定義されており、児童を性
的虐待から守るという児童ポルノ法の保護法益とは合致したものとなっていな
い。」というのは国法への手痛い批判です。

http://www.pref.osaka.jp/attach/6478/00060744/toushinsho.doc
青少年を取り巻く有害環境の整備について
答申
平成22年11月26日
大阪府青少年問題協議会
目  次
1 はじめに                ・・・・・・・・・・・ 1
2 「子どもの性的虐待の記録」について   ・・・・・・・・・・・ 3
児童ポルノ
○ ジュニアアイドル誌
3 性的表現のある図書類について      ・・・・・・・・・・・ 7
4 インターネット上の有害情報について   ・・・・・・・・・・・ 9
5 出会い系サイト等の広告について     ・・・・・・・・・・ 11
6 風俗求人誌への対応について       ・・・・・・・・・・ 12
7 勧告制度の見直しについて        ・・・・・・・・・・ 14
  青少年問題協議会名簿          ・・・・・・・・・・ 16
  青少年育成環境問題特別委員会名簿    ・・・・・・・・・・ 17
  検討経過                ・・・・・・・・・・ 18
1 はじめに

 大阪府では平成3年に大阪府青少年健全育成条例を改正し、有害図書類指定
制度を導入した。これは、いわゆるポルノコミックの氾濫が社会問題化したこ
とを背景として、青少年の性的感情を著しく刺激する図書類などの青少年への
販売等を規制するものである。
 制度の導入以降、同制度の実効性を高めるため、有害図書類の区分陳列の具
体的な方法の設定や、包括指定基準の拡大などの改正を行ってきた。
 しかしながら近年、ジュニアアイドル誌など従来の有害図書類指定制度では
想定していない図書類の出現や、インターネットや携帯電話の普及によるイン
ターネット上の有害情報の氾濫など、青少年を取り巻く環境は大きく変化して
きている。
 東京都では、このような青少年を取り巻く環境の変化を踏まえ、18歳未満
の青少年の性描写等が描かれた図書類の規制などを内容とする「東京都青少年
の健全な育成に関する条例改正案」を都議会に提出し、表現の自由との関連で
大きな議論が巻き起こったところである。

 こうした動きを受けて、大阪府においても、社会環境の変化に対応して大阪
青少年健全育成条例を改正する必要があるかを検証するため、平成22年4
月から6月にかけて有害図書類に関する実態調査を実施した。
 実態調査では、「図書類調査」、「店舗調査」、「青少年育成関係者の課題
認識の把握」を行った。「図書類調査」は、現在、流通している図書類につい
て、現行の有害図書類指定制度が有効に機能しているかどうかを調査するもの
であり、「店舗調査」は、調査対象図書類の流通や青少年への販売状況等を把
握するものである。また、「青少年育成関係者の課題認識の把握」では、性的
表現がある図書類等が青少年に与える影響について、学校関係者や学識経験
者、児童福祉・少年非行防止関係者などに対してヒアリングを行った。

 実態調査の結果は、有害図書類の指定やその基準について審議を行っている
大阪府青少年健全育成審議会第2部会に報告され、同部会において有害図書
の指定制度のあり方の検討が行われた。
 同部会は本年6月、検討の結果を意見書「有害図書類指定制度の問題点を中
心として」に取りまとめた。意見書においては、インターネット上の有害情報
など、実態調査の過程で明らかになった新たな課題についても検討を行い、従
来の「子どもを有害情報に触れさせない」という観点に加えて、「子どもを守
る」という観点からの意見も盛り込んでいる。


 同意見書の提出を受け、大阪府知事は本年8月、大阪府青少年問題協議会に
対して、青少年を取り巻く有害環境の整備について諮問を行った。
 当協議会は、知事からの諮問内容を専門的見地から調査審議するため、青少
年育成環境問題特別委員会を設置した。
 特別委員会は本年10月、諮問内容について、「子どもを守る」「子どもに
有害情報を見せない」という観点から、計3回にわたって検討を行った。その
結果を、「青少年を取り巻く有害環境の整備に関する調査報告書」としてまと
め、大阪府青少年健全育成条例改正の具体的な方向性として示した。



























2 「子どもの性的虐待の記録」について

(1) 現状
 ① 児童ポルノについて
店舗調査の結果、児童ポルノについては、図書類(本、DVD等)として販売
されている実態はなかった。
しかしながら、インターネット上の児童ポルノの件数については、インターネ
ットホットラインセンター※への通報件数が、平成19年には1609件だっ
たが、平成20年には1864件、平成21年には4486件と大きく増加し
ている。また、大阪府内における児童ポルノ事犯の検挙件数も平成12年には
9件だったものが、平成21年には33件と増加傾向にあるなど、看過できな
い状況にある。
 国においても、平成21年中の児童ポルノ検挙件数が前年比4割増の935
件、被害児童数も前年比2割増の405人に達し、いずれも過去最多となった
ことを受け、本年7月に児童ポルノ排除総合対策を取りまとめた。この中で
は、インターネット上での流通を防止するため、インターネット・サービス・
プロバイダ事業者による閲覧防止措置(ブロッキング)を平成22年度中に導
入することなどが盛り込まれた。
 平成11年に議員立法により成立した「児童買春・児童ポルノに係る行為等
の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下、「児童ポルノ法」という。)
では、児童ポルノの提供や提供目的による製造、所持、運搬等に関しては処罰
対象となっているが、児童ポルノを自己目的で所持すること、いわゆる単純所
持については処罰対象となっていない。
 児童ポルノの単純所持については、児童ポルノの流通に歯止めがかからない
ことから、規制すべきとの議論がなされているものの、現在のところ法改正に
までは至っていない状況にある。
 なお、平成22年11月現在、民主党において児童ポルノ法の改正が検討さ
れている。民主党案では、児童に対する性的搾取・性的虐待に係る行為等の処
罰という法の趣旨の明確化を図るため、「児童ポルノ」の名称を「児童性行為
等姿態描写物」に改めるとともに、定義の明確化を図るため、児童ポルノ法第
2条第3項に規定のある「性欲を興奮させ又は刺激するもの」「衣服の全部又
は一部を着けない児童の姿態」等の要件を削除するとともに、有償又は反復し
て取得した者を処罰する取得罪を新設している。
 他府県における児童ポルノ規制について見ると、奈良県が平成17年に、
「子どもを犯罪の被害から守る条例」を定め、この中で13歳未満の子どもを
対象とした「子どもポルノ」の単純所持を罰則付きで禁止している。「子ども
ポルノ」の定義については児童ポルノ法に準拠しており、対象年齢を18歳未
満から13歳未満に改めている。
 この他、東京都が本年3月、「青少年の健全な育成に関する条例」の改正案
を議会に提案した中で、児童ポルノを所持しない都民の責務を規定した。
 また現在、京都府においても、児童ポルノの規制の範囲、規制内容、通信事
業者や府民等の責務等について定める児童ポルノ規制条例の検討を行っている
ところである。

※  平成18年6月設立。インターネット利用者の協力を得てインターネッ
ト上の違法・有害情報を収集し、警察庁への通報、プロバイダへの削除要請を
実施する機関。

 ② ジュニアイドル誌について
ジュニアアイドル誌とは、15歳以下の子どもを対象とした写真集、DV
D等のことを指す。
図書類調査においてジュニアアイドル誌6冊の内容を調べたところ、女子
小中学生が水着や下着等で扇情的なポーズをとった写真が掲載されていたが、
いずれも性的な表現はなかった。また店舗調査では、33店(全体の9.3
%)で取り扱いがあったが、青少年への販売状況は3店(同0.8%)と限定
的で、主な購買層は30〜40歳(46.3%)、18〜30歳(24.4
%)となっていた。青少年関係者へのヒアリングにおいては、ジュニアアイド
ル誌に関連した青少年の問題事象は確認できなかった。
またジュニアアイドル誌のモデルとなる子どもの実態については、都内の
出版社、タレント事務所に確認したところ、ほとんどが保護者からの申し出で
あり、中には経済的な理由から子どもをタレントにしたいと申し込んでくる保
護者もいるという実態が確認されている。多くは関東周辺の子どもだが、関
西、大阪の子どもも申し込む事例もある。多くのタレント事務所は、後日のト
ラブルを回避するため、タレント契約を結んだ上で保護者にも同意書にサイン
してもらうなどの措置を取っているが、一部のタレント事務所では、申込み当
日に口頭で契約させた上で、保護者同席のもとで強引に撮影に及ぶケースもあ
るとのことであった。

(2)特別委員会における検討
 ① 児童ポルノについて
   児童ポルノ法改正の動きを踏まえ、「子どもを守る」観点からの検討を
行った。
児童ポルノは「わいせつ」ではなく、「児童に対する性的虐待の記録」であ
り、表現の自由の保障外にある。児童ポルノはその製造過程で子どもに対する
性的虐待が行われた上、インターネット等を通じて流通することで被害が拡大
し、二次的な虐待につながる。子どもを守る観点から、児童ポルノの流通を防
止するため、「児童ポルノを持つことはいけない」というメッセージを発して
いくことが強く求められる。
 現在、民主党において児童ポルノ法の改正が検討されているが、「衣服の全
部又は一部を着けない児童の姿態」を規制するいわゆる3号ポルノが削除され
る方向にあり、子どもを守る観点からは問題があると考えられる。
 ただし現行の児童ポルノ法では、性的虐待が行われていることが明確な描
写、例えば子どもが頭から精液をかけられている写真であっても、児童ポルノ
に該当しなかったり、児童ポルノの定義にある「性欲を興奮させ又は刺激する
もの」が、一般人の性欲を基準に判断するものとされることから、子どもが下
着を脱がされ足を広げさせられている写真のように、性的虐待が明らかであっ
ても、児童ポルノにあたらないものがあるなど、子どもの保護の観点からは不
十分な点があることも確かである。
 以上のことから、より子どもの保護に重点を置いて、府民に対して強いメッ
セージを発することが強く求められる。

 一方で、国の児童ポルノ法改正の動きを踏まえるべきであるという慎重な意
見もある。これは、現行の児童ポルノの定義が不明確な中で、単純所持を罰則
でもって規制することは捜査権の乱用につながる可能性があることや、地域的
な限定のある条例で、単純所持の規制を行っても効果は限定的であることか
ら、国の法改正の動向を慎重に見すえた上で、条例が補完的にカバーすべきと
いう理由からであった。
 しかしながら、児童ポルノの被害防止が喫緊の課題である中で、現行の児童
ポルノ法が子どもの保護の点で不十分であることや、児童ポルノ排除総合対策
の中心的施策であるブロッキングで対応できないソフトを利用した事例が後を
絶たないこと等から、現時点で考えられる対応策を条例で行うことが必要と考
えられる。
 
 この他、子どもを虐待から守るという観点からは、府民に対するメッセージ
や努力義務はなじまないのではないかという意見も出された。この点について
は、問題となる事例があった場合に府が調査指導を行い、児童福祉法等の違反
が認められた場合は府警察本部や福祉部局等へ通報することで、その趣旨を徹
底させることが適当であると考えられる。

 ② ジュニアアイドル誌について
   ジュニアアイドル誌については、性的な表現もなく、また18歳未満の
子どもが閲覧、購買している実態はないことから、子どもに見せないという観
点からの規制は不要である。
 ただし、心身の発達段階にあり判断能力が十分でない子どもが自発的に扇情
的なポーズをとっているとは考えにくく、ジュニアアイドル誌の被写体となっ
た子どもの保護の必要性については検討が必要である。

 ジュニアアイドル誌は、子どもが水着や下着姿で扇情的な姿態をとってお
り、一部の児童性欲者には性的な対象と見られている実態があることから、児
童ポルノと密接に関係している。こうした写真集・DVD類についてはこれま
児童福祉法児童虐待防止法では規制されず、また問題視されることもなか
ったが、子どもが性的搾取・虐待される可能性が否定できないことから、「子
どもを性的対象の被写体にすることは駄目」という、メッセージを発すること
が求められる。

 一方で、アイドルを目指す子どもたちの水着姿を撮影することまで規制する
必要性があるのか慎重な検討が必要である。ジュニアアイドル誌に関連して児
童虐待の事案等は確認されていないことから、性的虐待、搾取にあたらない事
例については慎重な対応が求められる。
 
(3)まとめ
 ① 児童ポルノについて
 現行の児童ポルノの定義は、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とされて
いるように、児童ポルノを見る側の価値判断から定義されており、児童を性的
虐待から守るという児童ポルノ法の保護法益とは合致したものとなっていな
い。
 現在検討されている民主党の改正法案は、児童ポルノの単純所持を処罰する
ため、規定があいまいであると批判のある3号ポルノを削除する方向にあり、
児童を性的虐待から守る法規制の範囲が狭まる可能性が高い。
 現行の児童ポルノ法では児童を性的虐待から守るという目的が達せられない
ため、「子どもの性的虐待の記録」という新たな概念を構築し、府民に対して
製造・販売・単純所持しないよう、メッセージを発することが必要と考える。
あわせて、問題となる事例が認められた場合には、府が調査指導を行うことも
必要である。

 ② ジュニアアイドル誌について
 ジュニアアイドル誌には、「子どもの性的虐待の記録」となる可能性がある
ものがある。児童福祉法児童虐待防止法児童ポルノ法では、水着や下着姿
での撮影を規制しておらず、子どもの保護の点で不十分であるため、ジュニア
アイドル誌のうち「子どもの性的虐待の記録」に該当するものについては、製
造・販売・単純所持しないよう、メッセージを発することが必要と考える。
 なお、「子どもの性的虐待の記録」に該当しないものについては、子どもを
守る観点からも子どもに見せない観点からも問題はないと認められるので、規
制は不要である。



3 性的表現のある図書類について

(1)現状
  図書類調査では、現在流通している15分類100冊の図書類について、
性的表現の有無や有害図書類に該当するかどうか等について調査を行った。そ
の結果、性的表現があったものは55冊、そのうち30冊が有害図書類に指定
されていた。有害図書類に指定されていない25冊のうち、9冊は有害図書
に該当した。残り16冊について内容を精査したが、青少年の健全な育成を阻
害する図書類とは認められなかった。
  また、東京都が条例改正によって新たに規制しようとしている図書につい
ては、大阪府においては既に包括指定により有害図書類に指定されているか、
または個別指定が可能であった。
 東京都と大阪府有害図書類指定制度は、その根拠となる条例は「青少年の
性的感情を著しく刺激するもので青少年の健全な成長を阻害するもの」と同様
の規定がなされ、指定の具体的基準を規則に委ねるという構造は同じである。
しかしながら、東京都と大阪府有害図書類に指定される図書類の範囲に具体
的な差異が生じていた。
 
  また、青少年育成関係者のヒアリングにおいて、強姦等を過激に描写した
図書類が犯罪の引き金になったケースが確認された。一方で、過激でない性表
現については、それを含んだ図書類が青少年の性非行や問題行動に直接影響を
与えるという因果関係を立証するデータはないとの指摘があった。
  
(2)特別委員会における検討
 ①現行の有害図書類指定制度の有効性について
   図書類調査や東京都の改正条例案との比較、青少年育成関係者のヒアリ
ング等を通じて明らかになったことを踏まえ、現行の有害図書類指定制度の有
効性について検討を行った。

 現在の大阪府青少年健全育成条例では、有害図書類に指定できるものとし
て、「青少年の性的感情を著しく刺激し、青少年の健全な成長を阻害するもの
で、規則で定める基準に該当するもの」と規定し、具体的な指定基準について
は施行規則で詳細に規定している。
 東京都が新たに規制を検討している非実在青少年の描写を想定している漫画
等については、府では従来から有害図書類として指定しており、強姦等につい
ても規則で規定していることから、「青少年の性的感情を著しく刺激し、青少
年の健全な成長を阻害するもの」については、現在の有害図書類指定制度にお
いて対応が可能である。
 
   さらに、「青少年の性的感情を著しく刺激する」とまでは言えない図書
類について新たな規制が必要となるかどうかについては、図書類調査において
性的表現はあるが有害図書類に指定されていない、または該当しないと分類さ
れた16冊について、改めて精査を行ったところ、「青少年の健全な成長を阻
害するもの」として規制を行う必要性は認められなかった。

 ②有害図書類の指定基準の条例化について
 有害図書類の指定は、現行制度では、議会の議決を要する条例で指定要件の
大綱を定め、具体的な基準については議決を要しない規則に委任されている
が、民意を反映した厳格な要件に基づいて指定することが求められる。
 また、有害図書類の区分陳列違反等には罰則が適用されることから、有害図
書類の指定基準については民意を反映した条例で規定すべきである。
 
 現行の有害図書類指定制度については前述したとおり、有効に機能している
ことから、規則で定められている指定基準をそのまま条例に規定することが妥
当であるが、現在の有害図書類の実態に照らして検討した結果、一部の文言の
整理が必要である。

(3)まとめ
  現行の有害図書類指定制度は有効に機能しており、新たな指定基準を構築
する必要はない。規則で定められている有害図書類の指定基準を条例に規定
し、有害図書類の実態に照らして、一部の文言については整理すべきである。

〔整理すべき文言〕
 大阪府青少年健全育成条例施行規則第4条第1項
  5号 ごうかんその他のりょう辱行為を表現するものであること。
  ⇒  ごうかんその他のりょうじょく行為を表現するもので、青少年に対
し卑わいな、又は扇情的な感じを与えるものであること。

  6号 青少年に対し明らかに卑わいな、又は扇情的な感じを与える表現が
文字又は音声によりなされているものであること。
  ⇒  削除



 大阪府青少年健全育成条例施行規則第4条第2項
  1号  殺人、傷害若しくは暴行(動物を殺し、傷つけ、又は殴打する行
為を含む。)又はこれらの行為による肉体の苦痛を残忍に、又は陰惨に表現す
るものであること。 
 ⇒  殺人、傷害若しくは暴行又はこれらの行為による肉体の苦痛を残忍
に、又は陰惨に表現するものであること。
     動物を殺し、傷つけ、又は殴打する行為を残忍に、又は陰惨に表現
するものであること。


4 インターネット上の有害情報について

(1)現状
 青少年育成関係者へのヒアリングから、青少年の関心や情報源は、図書類か
らインターネットへ大きく変化してきており、どこでも簡単にアクセスできる
ことから誰でも容易に性情報等を入手できるなど、インターネット上の有害情
報の影響について懸念する意見が多数あった。
 また、出会い系サイトやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービ
ス)等を介して、青少年が児童買春などの被害にあう事件も確認されている。
 国において、平成21年4月に、「青少年が安全に安心してインターネット
を利用できる環境の整備等に関する法律」が施行され、18歳未満の青少年が
使用する携帯電話については、原則としてフィルタリングサービスを受けるこ
とを条件として販売することが規定された。
 しかしながら、保護者が申し出た場合はフィルタリングが解除できること
や、契約時における説明は各事業者の判断にまかされているなど、実効性の面
で疑問が残ることから、兵庫県や石川県などでは、フィルタリングの解除申し
出をする際に保護者から理由書を提出させるなど、フィルタリング解除手続き
の厳格化や事業者に対する立入調査権限を条例で定めている。
 また、平成20年に府教育委員会が小学6年生、中学3年生の保護者を対象
として行った調査によると、大阪におけるフィルタリングの利用率は、小学6
年生で51.5%、中学3年生で30.7%であった。利用しない理由につい
ては、「必要ないと判断した」が小学6年生で53.1%、中学3年生で4
1.8%。「フィルタリングサービスを知らない」が小学6年生で17.5
%、中学3年生で13.8%、「特に理由はない」が小学6年生で29.4
%、中学3年生で37.1%であった。


(2)特別委員会における検討
  青少年が携帯電話やインターネット上で有害情報に触れないようにするた
め、フィルタリングの解除手続きの厳格化の必要性について検討を行った。

  携帯電話、インターネット上の有害情報の閲覧防止にはフィルタリングが
有効であるが、警察庁の調査では、非出会い系サイトに関係する被害青少年の
99%がフィルタリングサービスに非加入であることや、内閣府調査でも保護
者の76%がインターネットの利用について注意しないなど、保護者の意識の
低さが課題となっている。府教委のアンケート調査でも、大阪ではフィルタリ
ングの必要性を感じていない保護者が多く、多くの保護者が危険性を十分に認
識していないという課題が明らかになっている。
 フィルタリングの利用促進にあたっては、携帯事業者が店頭でフィルタリン
グの意義を説明することに加えて、不動産売買の際の重要事項説明と同様、説
明内容を理解したことを保護者に確認させることが必要である。なお、兵庫県
等のように解除条件を具体的に限定するところまでは必要はないと考えられ
る。
  
 一方で、フィルタリングには子どもの知る権利を侵害するという側面が指摘
されるが、携帯事業者において、利用者の年齢に応じた様々なフィルタリング
サービスの開発・提供を進めていることに加え、第三者機関が青少年の利用に
配慮したフィルタリング基準の策定やモバイルサイトの審査・認定を行ってお
り、フィルタリングの画一性という課題は克服されつつある。

 また、フィルタリングの利用促進と合わせて、携帯電話で裸を撮影する行為
が犯罪であるということなど、子どもに携帯の使い方や情報のもつ危険性の教
育を進めることが必要であり、現在、府教育委員会において、携帯・ネット上
のいじめ等への対応プログラムを作成し、研修、校内指導で活用するととも
に、携帯電話、インターネット上の被害の早期発見、未然防止に向け、子ども
を守るサイバーネットワークを構築するなどの取組みを進めており、さらなる
取組みの促進が求められる。

(3)まとめ
 携帯電話の契約時、事業者にフィルタリングをかけない場合の危険性につい
て説明する義務を規定するとともに、その説明を理解したことを確認するた
め、保護者に署名義務を規定するべきである。また、説明を聞いた上でフィル
タリングを解除する場合には、保護者に署名義務を課すとともに、事業者に解
除申し出書の保管義務を盛り込むことを検討すべきである。
 併せて、こうした取組みが確実に進むよう府に指導・調査権限を設けるな
ど、制度の実効性を担保するべきである。
 さらに、子どもが携帯電話、インターネットを利用する際に、被害者、加害
者にしないための教育を、府の責務として明記すべきである。


5 出会い系サイト等の広告について

(1) 現状
 図書類調査の結果、100冊中15冊に出会い系サイトの広告が掲載されて
いた。このうち、店舗調査において一定数の青少年の購入が確認された男性向
けコミック、女性向けコミック誌は6冊あり、そのうち5冊が有害図書類指定
されていた。さらに、男性向けコミック、女性向けコミックについて追加調査
したところ、20冊中12冊に出会い系サイトの広告が掲載されており、9冊
有害図書類指定されていた。
 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数は、平成19年 1753件、平
成20年 1592件、平成21年 1203件と減少傾向にはあるが、被害
者総数に占める青少年の割合は8割を超えており、依然として青少年が出会い
系サイトにアクセスして被害にあう実態が問題となっている。
 出会い系サイトに関する広告については、平成20年に出会い系サイト規制
法が改正施行され、18歳未満の利用を禁止する旨の表示をすることが定めら
れた。それまで掲載を自粛してきた雑誌広告業界団体も、広告の掲載基準が法
律化されたことを受け、掲載については各雑誌社の判断とすることとしてい
る。

(2)特別委員会における検討
  出会い系サイトに関連した事件数の推移や、出会い系サイト規制法による
規制等を踏まえ、出会い系サイトの広告を青少年に見せないための対応につい
て、有害図書類指定やその他の実効性ある対応について検討を行った。

 青少年の中には出会い系サイトと知らずにアクセスしてしまうケースがある
ことや、注意喚起を促すためにも何らかの情報発信が必要であり、広告を掲載
しないように求める事で、青少年に対する教育的メッセージになるといった理
由から、何らかの規制が必要である。
 しかし、出会い系サイトの広告はネットが主流であり、雑誌広告を制限して
も効果は限定的であることや、雑誌を見て18歳未満の青少年が出会い系サイ
トで被害を受けているか立法事実も明確ではない。さらに、出会い系サイト規
制法では、届出業者に対して運転免許証やクレジットカードなどによる年齢確
認が厳格に要求されており、青少年が誤ってアクセスする可能性は低く、出会
い系サイトの広告が掲載されているだけで、有害図書類として指定する必要性
は低い。
 一方で、男性向けコミック、女性向けコミック6冊に掲載されていた15サ
イト中、5サイトが出会い系サイト規制法に基づく届出を行っていないサイト
であることが、府の調査で確認されている。青少年がこれら無届の出会い系サ
イトにアクセスしないためには、広告掲載時に出会い系サイト規制法による届
出業者かどうかの確認を求めることが、最も効果的な措置であると考えられ
る。雑誌広告業界団体も、出会い系サイト規制法の改正施行後、広告掲載時に
広告主が登録業者であるかどうか確認する自主基準を策定しており、上記の措
置は業界の取組みを促進する効果も期待される。
  一方、青少年が自ら誘引して検挙される件数が、平成18年に18件だっ
たものが、平成19年 61件、平成20年 119件、平成21年 222
件と急増しており、子どもを加害者としないための取組みを検討する必要があ
る。

(3)まとめ
 出会い系サイト規制法に基づく届出業者については、利用者の厳格な年齢確
認義務が法律で規定されており、青少年が利用する可能性は低い。
 しかし、出会い系サイトに関連して青少年が被害にあう事例があることや、
出会い系サイト規制法に基づく届出を行っていない業者について指導が及ばな
いことが問題となっている。
 従って、雑誌等に出会い系サイトの広告を掲載するにあたっては、出版社に
出会い系サイト規制法に基づく届出業者かどうか確認する義務を規定し、無届
業者の場合には掲載しないよう強く求めるべきである。
 また、出会い系サイト規制法違反の検挙件数のうち、児童誘引が急増してい
ることに関しては、子どもを加害者としないため、考えられるアクセス手段を
抑制することが必要であり、フィルタリングの利用促進で対応すべきであると
考える。
 
 
6 風俗求人誌への対応について

8月31日に開催した青少年問題協議会において、委員から情報誌を装っ
た有料の風俗求人誌について問題提起がなされたことから、こうした有料の風
俗求人誌への対応について、あわせて検討を行った。


(1)現状
  平成20年に大阪市内において、情報誌を装った無料の風俗求人誌が、街
頭に設置されたラックに置かれ、不特定多数に配布されていたことが社会問題
となった。
 これらの無料風俗求人誌については、不特定多数の者に対し風俗求人のビラ
・パンフレット等の配布を禁じる大阪府迷惑防止条例に違反するとして、大阪
府警察本部が発行業者の摘発を行うなどした結果、設置個所は、平成20年4
月に518箇所だったが、同年10月には43箇所になるなど、ほぼ一掃され
た。
   しかし、最近になって、コンビニ等において情報誌を装った有料の風俗
求人誌が販売されている実態が大阪市に報告されている。大阪市の調査よる
と、平成22年10月現在で17種類が確認され、価格は50円から200円
であった。また、店舗側もラックを置くだけで月額1000円から3000円
の設置料が入るため、安易に設置してしまうケースがある。コンビニでは女性
向け雑誌コーナーに置かれているものがほとんどだったが、中には他の女性誌
の付録を装っているものもあった。
 これらの雑誌は無料でないため、府迷惑防止条例の規制にかからず、青少年
が知らずに手に取ってしまう可能性がある。

(2)特別委員会における検討
  風俗求人誌の内容は、女子高生等が手軽に手に取りやすい内容となってお
り、また女子高校の周辺に置かれている実態がある。こうした風俗求人誌を青
少年が手に取ることで、安易にお金を稼げるという認識を持ってしまう可能性
は否定できない。
  一方で、青少年がこれらの風俗求人誌を見た結果、風俗店で働くことにな
るかどうかについては疑問がある。すなわち、風俗店が18歳未満の青少年を
雇用することについては、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法
律」に罰則(6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金)が定められている
ことに加え、店舗には被用者の年齢確認義務が厳しく要求されている。実際に
青少年がこれらの雑誌を見て風俗店で働いた事例や、風俗求人誌に関連して青
少年が事件に巻き込まれた事例も確認できておらず、条例で規制する意義は薄
い。

(3)まとめ
  風俗求人誌については、青少年がこれらの雑誌を見て風俗店で働いた事例
や、風俗求人誌に関する事件はなく、条例による規制が必要となる立法事実は
ない。
 しかし、風俗求人誌を置いている店舗の中には、その内容をきちんと把握せ
ずに置いている実態が見受けられることから、風俗求人誌の取扱いについて啓
発を行うことは必要であり、地域ボランティア等と連携することが重要であ
る。
  以上から、風俗求人誌を青少年に見せないための規制は必要ないが、引き
続きこうした雑誌を置かないよう、地域で取り組みを進めていくべきであると
考える。



7 勧告制度の見直しについて

 本年9月の大阪府議会において、有害図書類の区分陳列違反に対する指導を
徹底するため、現行の勧告制度をより実効性のあるものに見直すべきとの問題
提起がなされたことを受け、大阪府から本委員会に対して同制度に関する検討
依頼があったことから、勧告制度の見直しについても、あわせて検討を行っ
た。

(1)現状
  店舗調査では、有害図書類を条例の規定どおりに区分陳列していた店舗
は、取扱い店舗250店舗のうち168店舗、全体の67.2%であった。ま
た、市町村の青少年指導員が府内約3700店舗の書店やコンビニ等を対象
に、条例の遵守状況を調査する社会環境実態調査における区分陳列の状況は、
平成21年度で77.1%となっている。
  大阪府ではこれらの区分陳列違反に対して、青少年健全育成推進員による
調査指導を実施し、改善されない場合については職員による立入調査を行って
いる。
  こうした取り組みの結果、区分陳列の実施率は上がっている一方で、再度
違反を繰り返す店舗も存在している。前述の社会環境実態調査においても、約
37%の店舗が、再度違反を繰り返しているという実態があった。
  また、区分陳列違反の店舗に対する勧告については、条例の規定が「当該
有害図書類」として個別の本ごとに行うため、月刊誌の場合、次の号が出てし
まえば、勧告の対象となった雑誌は店頭からなくなり、新たな号が出るたびに
新たな勧告が必要となり、以後同じことが繰り返され、実質的に区分陳列違反
が継続してしまうと指摘されている。
  
(2)特別委員会における検討
 区分陳列違反を繰り返しているのは一部の店舗であり、例えば5月号を有害
図書類指定した場合、出版社が雑誌の内容を改めるなどの対応ができるのは8
月号以降となるため、6月号、7月号では、店舗側が対応しない限り区分陳列
違反状態が継続するなど、現行の勧告制度では対応ができない。こうした店舗
に対しては、従来の勧告、措置命令に加えて、店舗名の公表制度等、新たな措
置が必要である。また、こうした措置を行うに際しては、指導の実効性を高め
るため、過去の違反状況を勘案した対応となるような制度を構築すべきであ
る。
 加えて、勧告、措置命令の実効性を担保するため、措置命令に従わなかった
場合の罰則の対象を店舗管理者だけでなく、法人や法人の代表者も併せて対象
とすべきとの意見が出されたが、現行の条例第54条に両罰規定が設けられて
おり、新たな措置は不要である。

(3)まとめ
  有害図書類の区分陳列違反に対する指導の実効性を高めるため、現行の勧
告制度を見直し、対象を個別の図書類から店舗の区分陳列違反状態に改めるべ
きである。
  また違反店舗名の公表制度を創設するとともに、区分陳列違反を繰り返す
一部の店舗に対しては、過去の違反状況を勘案した上で指導の実効性を高める
ような制度に改めるべきである。