宮崎地方裁判所延岡支部判決平成22年2月26日
被告人を懲役2年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
(罪となるべき事実)
被告人は,平成21年7月29日午後5時30分ころから同6時15分ころまでの間,宮崎県日向市(以下略)所在の旧○○中学校体育館女子更衣室において,A(当時11歳)に対し,同女が13歳未満であると知りながら,その場に立っていた同女の着衣の中に手を差し入れて同女の胸を素手で触り,その後,その場に正座していた同女の背中に自己の身体を押し当てながら,両手を伸ばして肩越しに同女の両胸を着衣の上から触るなどし,もって,13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をしたものである。
(量刑の理由)
被告人は,かねがね性的興味を抱いていた被害者の胸や体を触りたいという性的願望を満たそうと,体格的にも立場的にも抵抗することが困難な小学6年生の女子児童である被害者を逃げ場のない女子更衣室に居残り勉強させるなどとして残し,その胸を直接手で触るなどのわいせつな行為をしている。その態様は,計画的かつ卑劣で,悪質というほかなく,身勝手かつ自己中心的な動機に,酌量の余地は微塵もない。被害者は,副担任等として指導を受けていた被告人から,このようなわいせつ行為を受けたことにより,大きな精神的苦痛を被った上,今後の人格形成に悪影響も生じかねないもので,被害者及び被害者参加人である被害者の母が,できる限り厳重な処罰を望むのも至極当然である。教師である被告人が児童にわいせつな行為をしたこと自体の社会的影響も無視することはできず,その刑事責任は重大である。被告人は,過去にもわいせつ類似行為をしたことで保護者から抗議を受けていたのに,本件以前も被害者に同様の行為をした挙げ句,本件に及んでいるものであり,未だに自らの行為を指導と称して否認し続けていること等をも考え合わせると,再犯のおそれもないとはいえない。
そうすると,本件の行為態様が,強制わいせつ罪の中では,重大なものであるとまではいえないこと,本件で有罪を宣告されることにより,被告人が教職の地位を失うという一定の社会的制裁を受けるものと想定されること,交通事故に係る前科1犯以外に前科前歴がないこと等,被告人にとって酌むべき諸事情を最大限に考慮しても,本件については,厳罰をもって臨まざるを得ない。
よって,主文のとおり判決する(検察官の科刑意見・懲役2年)。
平成22年2月26日
宮崎地方裁判所延岡支部
裁判官 安木 進
強制わいせつ被告事件
福岡高等裁判所宮崎支部平成22年9月30日
主 文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中150日を原判決の刑に算入する。
理 由
本件控訴の趣意は,弁護人細田健太郎作成の控訴趣意書及び控訴趣意書(補充書)に,検察官の答弁は,答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用するが,弁護人の論旨は,(1)被告人の捜査段階の供述録取書(原審乙2ないし7,同意部分を除く。以下,論旨で主張している部分を「各被告人調書」という。)には任意性がないのに,これを認め有罪判決の用に供した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反,ひいては憲法31条違反がある,(2)被告人は,A(以下,本件当時の学籍により,「被害児童」という。)にわいせつ行為を行っていないのに,これを認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのであり,検察官の答弁は,弁護人の論旨はいずれも理由がない,というのである。
そこで記録を調査して検討する。
・・・・
(4) 被告人の原審供述は,信用できる被害児童の母親及び被害児童の原審公判での各証言に照らし,また,前記のとおり,器具庫にペンを取りに行ったという供述の不自然性などに照らし,信用できない。
所論は,被告人が犯行を行うのであれば,女子更衣室のドアを開けっぱなしにしておくことや隣室の器具庫で黒色ハーフパンツ等を脱着するのは不自然・不合理である,というのである。
しかし,本件は,バレーボール活動終了後である夕刻に,他に誰もいない体育館内のことであり,被告人は,被害児童の母親に,午後6時30分ころに被害児童を迎えに来るよう電話し,その指定した時刻前に現れた被害児童の母親の気配を察して驚愕したと思われる行動を取っていることなどから判断すると,被告人において,被害児童の母親が来る予定の時刻まで誰も体育館内に入ってこないだろうと考えたことがうかがわれるのであって,そうすると,被害児童の警戒心を起こさせないために女子更衣室ドアを開けっぱなしにしたり,脱ぐ気配を気付かれないよう隣室でハーフパンツ等を脱いだと認定しても説明はつくのであり,所論の事由が不自然・不合理であるとはいえない。
(5) その他弁護人が縷々主張するところを検討しても,採用できるものはない。
(6) 以上の検討の結果及び関係各証拠を総合すれば,被告人が被害児童にわいせつ行為をしたことは明らかであって,これと同旨の原判決に事実誤認はなく,論旨(2)は理由がない。
3 よって,刑訴法396条,刑法21条,刑訴法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。
平成22年9月30日
福岡高等裁判所宮崎支部
裁判長裁判官 榎本 巧
裁判官 飯畑正一郎
裁判官 中田克之