児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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強制わいせつ罪の元被告人に、児童ポルノであるビデオ等を還付しないことは違法ではない(東京地裁H20.12.5)

 hddの児童ポルノ以外の部分とかはできそうですよね。

東京地裁平成20年12月 5日
第2 事案の概要
 本件は,強姦及び強制わいせつの各事実により有罪判決を受け,岐阜刑務所において服役中の原告が,検察官に対し,捜査の際に押収された物件の還付を求めたところ,押収物のうちの一部は還付されたものの,その全部が還付されていないなどとして,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,原告が被った精神的損害及び物品の被害による損害金のうち10万円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達の日)である平成20年4月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 3 争点(2)について
 被告は,原告が,本件処分留保証拠品について所有権に基づきその返還を請求することが権利の濫用であると主張する。しかしながら,原告は,刑事訴訟法222条1項,123条1項に基づく証拠品の還付を請求したにもかかわらず,還付をしなかった検察官の処分を違法として国家賠償を求めているものと思われ,所有権に基づいて証拠品の返還を求めているのではないから,被告の上記主張は,そもそもその前提を異にしており採用の限りではない。
 次に,被告は,本件処分留保証拠品は,法禁物と同視され,善良の風俗を害する物であることが明らかであるから,原告はこれらに対する還付請求権を有しない旨主張する。しかしながら,本件処分留保証拠品の中に児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)2条3項に定める「児童ポルノ」に該当するものがあるとしても,単純な所持が禁止されているわけではないから(同法7条参照),これを法禁物と同視することはできない。
また,刑事訴訟法222条1項,123条1項に基づく押収物の還付は,押収物について留置の必要がなくなった場合に,押収を解いて原状を回復することをいうから,被押収者が還付請求権を放棄するなどして原状を回復する必要がない場合又は被押収者に還付することができない場合のほかは,被押収者に対して還付すべきであるところ(最高裁昭和62年(し)第15号平成2年4月20日第三小法廷決定・刑集44巻3号283頁参照),本件においては,前記認定のとおり,原告は還付請求権を放棄していない上,被押収者に還付することができない場合にも該当しないから,原告が本件処分留保証拠品につき還付請求権を有するものというほかはない。被告の上記主張は理由がない。
 もっとも,原告は,前記のとおり,刑事訴訟法222条1項,123条1項に基づく還付請求権を行使するものと思われるが,刑事訴訟上の権利であっても,誠実にこれを行使し,濫用してはならないのは当然であるから(刑事訴訟規則1条2項),原告の還付請求権の行使が権利の濫用となる場合には,還付をしなかった検察官の処分は違法とはならないものというべきである。
 そして,前記認定によれば,本件処分留保証拠品は,前記の有罪判決を受けた各強姦の事実及び同種余罪に関係する証拠物として押収された,Bの裸体や陰部等あるいはBの口淫行為が撮影された写真のコピー,B及びCが原告から強制されて卑わいな言動を発している状況等が録音されたカセットテープ及びマイクロカセットテープ等であって,犯罪の手段として撮影,録音等がされたものであり,法禁物に該当しないとしても,公の秩序や善良の風俗に反するものではあることは明らかであって,服役中の原告が還付を受けて原状を回復する利益は大きくないから,前記の写真撮影等を含む原告の犯罪行為によって,甚大な精神的苦痛を受け,治療困難な摂食障害に苦しむ被害者らが,自らが被写体となった写真のコピーや自らの声が録音されたカセットテープ等である本件処分留保証拠品の全部を原告に還付しないことを懇願していることをも考慮すると,原告が本件処分留保証拠品について還付請求権を行使することは,権利の濫用というべきである。
 したがって,前橋地方検察庁検察官が,原告に対し,本件処分留保証拠品を還付しない旨の処分をしたことは違法ではなく,原告の損害賠償請求は理由がない。
 4 結論
 よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判官 阿部潤 佐藤英彦 吉田達二)