児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

1700万円通帳届け出たのに・・・報労金255万円求め提訴

 知らない論点が出たら、条文に当たるわけです。

  当該物件の価格×5%〜20%
と法定されています。
 通帳等を1700万円と評価すれば、85〜340万円
 通帳等を100万円と評価すれば、5〜20万円
 通帳等を10万円と評価すれば、5000円〜2万円
という計算です。
 「当該物件の価格」の問題でしょうが、最高裁は通帳詐欺の判例で通帳自体の財産的価値を重視してますから、単なる紙切れとも言い難いでしょう。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/niigata/news/20091017-OYT8T00122.htm
訴状によると、原告の男性は8月11日朝、同市内の路上で、預金通帳7枚と印鑑ケースなどが入った黒色のバッグ1個を拾い、小出署に届け出た。通帳の残高の合計は少なくとも1700万円で、後にバッグごと持ち主の男性に返還されたが、原告は、遺失物法で定められた割合の額の報労金の支払いを受けていない、としている。

遺失物法
第28条(報労金
物件(誤って占有した他人の物を除く。)の返還を受ける遺失者は、当該物件の価格(第九条第一項若しくは第二項又は第二十条第一項若しくは第二項の規定により売却された物件にあっては、当該売却による代金の額)の百分の五以上百分の二十以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。
2 前項の遺失者は、当該物件の交付を受けた施設占有者があるときは、同項の規定にかかわらず、拾得者及び当該施設占有者に対し、それぞれ同項に規定する額の二分の一の額の報労金を支払わなければならない。
3 国、地方公共団体独立行政法人独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)、地方独立行政法人地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)その他の公法人は、前二項の報労金を請求することができない。
第29条(費用及び報労金の請求権の期間の制限)
第二十七条第一項の費用及び前条第一項又は第二項の報労金は、物件が遺失者に返還された後一箇月を経過したときは、請求することができない。

 裁判例を見ると、「当該物件の価格」善意取得の危険が考慮されて決められるようで、通帳の場合は低額の評価になるでしょうが、本件では印鑑も一緒に拾得されたことも考慮されて決まるんでしょうね。

大阪高等裁判所平成20年1月25日
株券の拾得者からの遺失物法に基づく報労金請求について,遺失物法4条1項所定の「物件ノ価格」を株券の価格の70パーセントとして報労金が算定された事例

名古屋地方裁判所昭和40年3月4日
遺失手形の価格はその手形の遺失者が手形を遺失したことによつて受ける経済的な不利益又は危険と他面その手形の拾得と返還によつて遺失者が受ける危険防止の利益すなわち経済的利益とを基礎として算定するのが相当である。

東京高等裁判所判決昭和58年6月28日
遺失者が本件小切手を遺失したことにより本件小切手が現金化される可能性は絶無であったのであり、本件小切手が第三者に善意取得されて遺失者が本件小切手金相当の出捐を余儀なくされ財産上の損害を被る危険は絶無ではなかったが、その程度はきわめて低かったと認められるので、本件小切手金額の2%をもって遺失物4条1項に定める「物件の価格」とするのが相当である。

 手元の警察学論集によればこういう趣旨で早期に返還させる制度のようですね。

入谷誠「遺失物法の改正について」警察学論集60巻12号
おわりに
遺失物行政研究会の「遺失物行政の在り方に関する提言」において「我が国においては、小さな子供であっても、また、たとえ一円玉であっても、落とし物を拾えば交番や駐在所に届けるということが自然に行われてきた。このように、遺失物は、国民一人一人の善意により遺失者に返還されているものであり、これは、誇るべき文化であると言える。」と指摘されているように、遺失物行政は、国民の善意や遵法意識に支えられてきたものである。
遺失物取扱業務に従事するに当たっては、これらのことを念頭に置き、慎重かつ適切に法の運用に当たるべきであることを最後に付言して本稿の結びとしたい。

 判決になるとすれば、早期に返還された所有者の利益(遺失したままの場合の不利益)と、拾得物の届け出を奨励する趣旨を考慮して、物件の評価額と認容額を決めると思います。


この本のP259〜260に同趣旨の結論が書いてある。

実務遺失物―事例に見る遺失物法の諸相

実務遺失物―事例に見る遺失物法の諸相