東京高裁H17.12.26についての評釈を見つけました。
弁護人としては、かすがいが起訴されてなくても、公訴事実としては同一なので、二個の実体判決が存在することに反対しています。いまでも反対。
川出敏裕「訴因による裁判所の審理範囲の限定について」
東京高裁は、起訴された児童ポルノ製造罪の一部が同時に児童淫行罪にも該当することを認めたうえで、被告人の主張に対する判断を行う前提として、本件の事案において、「かすがい」にあたる児童淫行罪を除外して起訴した措置が許されるか否かを問題とした。そして、一般論としては、合理的な理由があればそのような惜置も是認されるとしたうえで、児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に出べて、法定刑の上限はもとより、量刑上の犯情においても格段に重いことは明らかであるから、検察官が児童淫行罪の訴因について、証拠上確実なものに限るのはもとより、被害児童の心情等をも考慮して、その一部に限定して起訴するのは、合理的であるし、また、そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるとする。そのうえで、さらに、本件の場合は、両罪が別々の裁判所に起訴されたことにより、併合の利雄が失われ、二重評価の危険性が生じるおそれがあるという特殊な問題があることを指摘し、量刑の上で、その点についての配慮がなされ、「かすがい」となる児童淫行罪が起訴されないことにより、必要以上に被告人が量刑上不利益になることが回避されるのであれば、本件における検察官の措置も十分是認することができるとの判断を示したのである。
本判決は、直接には、「かすがい」となる部分を除外して起訴することにより処断刑が重くなることの当否を扱ったものではない。しかし、そこでは、一般論として、本件の場合に児童淫行罪を除外して起訴する措置が是認される理由として、被害児童の心情保護ということと並んで、そのような起訴のほうが被告人にとって一般的に有利である旨が指摘されている。
つまり、処断刑としては重くなるとしても、「かすがい」にあたる部分が除外されることにより、実際の宣告刑においては、全体として量刑が被告人に有利になるということであり、逆にいえば、そうでない事例は、本判決の射程外ということになろう(29)(29)本判決も指摘しているとおり、本件の場合は児童ポルノ製造罪と児童淫行罪が数罪として処理されると、それぞれが別の裁判所に起訴されることになるため、一罪が数罪として拠理されること自体に加えて、併合審理ができず、併合の利益が失われるという特殊な問題がある。しかし、この点は、両罪について言い渡される実際的刑の総和が、それらを併合審理した場合的処断刑を上回るものでなければ問題はないということになろう。また、本判決は、量刑の際の二重評価という点も指摘しており、これは、おそらく、それぞれの罪の量刑の際に、他方の罪を余罪として量刑上不利益に考慮することを問題にするものと考えられる。そうだとすれば、それを回避するためには、実際的量刑の場面で、他の裁判所に起訴されている罪を考慮しないかたちにすることが必要であり、そのような措置がなされるのであれば、この点についても問題はないことになろう