被告人からすれば「起訴前に示談したのに、なんで起訴されるんだ!?」ということになります。
教訓としては、「告訴取消」というのは、親告罪の捜査弁護の究極の目標なので、弁護人も示談した後でも、取下書面を作成するなどしてちゃんと見届けないとだめですね。
刑訴法
第241条〔告訴・告発の方式〕
告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
第242条〔告訴・告発を受けた司法警察員の手続〕
司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
第243条〔準用規定〕
前二条の規定は、告訴又は告発の取消についてこれを準用する。
鳥取地方裁判所判決昭和41年11月25日
判例タイムズ200号184頁
告訴の取消しは、事件が検察官に送致された後であつても司法警察員に対してこれを行なうことができ、取消しの意思が司法警察員に到達した時に告訴取消しの効力を生ずることは、刑事訴訟法二四三条、二四二条に微して明らかである。本件長沢ふさ子が持参した矢部クニ子作成の書面が告訴取消しの書面であつたことは、証人小谷喜法も認めるところであるから、右書面が提出された昭和四一年六月八日に告訴が取消されたものと解すべきである。そうすると、被告人長沢に対して公訴が提起された同年六月一一日当時には告訴がなかつたことになるので、強姦についての公訴提起は、その規定に違反し無効であるといわねばならない。
東京地方裁判所八王子支部判昭和35年6月6日
下級裁判所刑事裁判例集2巻5〜6号866頁
ところで、言う迄もなく、告訴の取消とは告訴人が捜査機関に対して既になした告訴を撤回する意思表示であるから、要はその意思表示の相手方が捜査機関であれば足りるのであつて、それが特定の検察官である要なきは勿論、検察官でも、司法警察員でもよく、その方法も口頭でも、書面でもよいのである。そして書面でこれを為す場合、法は特別にその記載内容の形式を定めていない。これは官吏その他の公務員以外の者が作るべき書類に敢格な形式を要求すること自体無理であることを認めたものに外ならない。殊に宛名の如きは文書の内容と提出行為から容易に理解し得るのであつて、告訴取消書の宛名の有無はその効力に影響しない。そもそも単独犯の強姦罪を親告罪と定めた所以のものは、被害者の意思、感情、名誉を尊重してのことであるから、告訴取消書にしていやしくも捜査機関に提出され、告訴権者の告訴取消の意思を認め得るならば、それを以て足り、もともと記載を要しない宛名が書かれ、たまたまこの宛名と異なる官署に提出したとしても同じ当該事件を取扱つた捜査機関であれば、これを拒否する理由はなく、受理するのが表意者の意思にも副うものと解すべきである。だからこそ本件でも田無署はこれを受領したものと思われる。殊に本件の告訴取消書所記の宛名は告訴人が自ら検察官を選択して記載したものではなく、本件を担当した検察官が、あらかじめその用紙を告訴人に交付するに際し右のような宛名を記入して与えたものである。(前記検第一一号証参照)従て若し当該宛名の検察官に到達した時を基準とすべき旨の検察
官の主張が正しいとすれば、恰かも検察官自ら告訴取消の方式を限定し、司法警察員の権限を否定するのと同一の結果に帰し、その違法なること勿論である。
以上の理由により本件告訴取消書は何ら間然するところなく、これが本件公訴提起前に捜査機関である田無警察署に提出されたことも前に認定したとおりであるから、その時に告訴を取消したものと認むべきものであり、その後になされた本件起訴の手続は無効というべく、これに反する検察官の見解は本来要件でない宛名の記載にとらわれ、ことがらの本旨を没却する単なる形式論にして首肯できない。従て本件公訴は刑事訴訟法第三三八条第四号に則りこれを棄却すべきものでおる。
http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20090125/102761
実刑判決を受けたのは那須塩原市、運転手の男性被告(33)。判決によると〇六年八月、県北の女性宅に侵入、女性を乱暴した。昨年七月八日、強姦容疑などで逮捕された。▽警官通じ説得
発生直後、女性の処罰感情は強かったが、弁護士らに勧められ示談と告訴取り消しを決めた。被告の弁護人から示談の予定を聞いた検察官は同二十四日、管轄署の男性警部補に「起訴するのに示談はまずい。きょうは示談しないよう連絡してほしい」と依頼した。
その後、警部補の数度の要請に対し、女性は告訴取り消しの意思を伝え、応じなかった。しかし、やりとりの中で、電話を替わった交際相手の男性が「分かりました」と答え、警部補は女性側が要請に応じた、と考えた。これを受け、検察官は勾留期間が残っていたにもかかわらず同日、起訴した。▽異様な展開に
弁護側は起訴事実をほぼ認めたが、起訴そのものの違法性を主張、公訴棄却を求めた。弁護側の証人で被害女性が出廷、被告に有利な証言をする異様な裁判となった。
池本寿美子裁判長は「必要な捜査を遂げていても、示談の推移を見極めた上で起訴すべきだ」とし、説得は「被害者の自由な意思決定を妨げかねない行為」と指弾。一方「被害者が明確に拒否の意思表示をしなかった事情もありやむを得ない」と違法性は認めず、被告を懲役三年とした。
▽弁護側は控訴
弁護人は「不相当な起訴なのになぜ違法性を認めないのか」と即日控訴。同地検は「極めて強い処罰感情がある段階で起訴した。事件処理が不適正だったとは考えていない」などとコメントした。