児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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被害児童数人への提供目的製造罪は包括一罪(大阪高裁h18.9.21)

 これひどいですよね。判例ですよ。被害者数が多くなると、包括処理したくなるらしいです。悪い奴なんだから併合罪にして処断刑期を広く確保する方がいいと思うんです。
 こう主張してもこういう判決にはならないんですが、原判決がそう言っているので、「弁護人は反対だが、追認するのか?」と聞いてみたら、追認しました。
 弁護人の反対という結論を先に決めているようです。

阪高裁平成18年9月21日
論旨は,原審裁判所は,5月1日付け起訴状記載の訴因につき,検察官からの同年9月1日付け訴因変更請求書に基づく訴因の変更を許可したが,変更前の訴因と変更後のそれとの間には公訴事実の同一性がないから,上記訴因変更の許可は違法であり,かつ,その違法が判決に影響を及ぼすことも明らかである,というのである。
そこで,記録を調査して検討するに,上記変更前の訴因は,要旨,「1月2日ころから同年2月1日ころまでの間,3回にわたり,自宅において,DVDレコーダー等を用いて,18歳に満たないDを相手方とする性交に係る姿態等を撮影した画像データを記録させたDVD合計4枚を作成し,もって,児童ポルノを製造した」というものであるのに対し,上記変更後の訴因は,要旨,「同年1月2日ころから同年3月30日ころまでの間,12回にわたり,自宅ほか1か所において,DVDレコーダー等を用いて,上記画像データを記録させたDVD合計45枚及びビデオテープ6本を作成し(被害児童Dら11名),もって,児童ポルノを製造した」したというものである(なお,変更後の訴因は,変更前の訴因全部を含むものである。)ところ,関係証拠によれば,被告人は,業として児童ポルノを含むいわゆる裏ビデオの製造・販売を反復継続して行っており,上記各訴因はいずれもその一環であることに照らせば,これらはいずれも包括一罪として評価するのが相当である。そうすると,変更前の訴因と変更後のそれとの間には,いわゆる公訴事実の単一性が認められるから,訴因変更を行うことにつき何らの問題はなく,原審裁判所の上記措置にも何ら違法は認められないというべきである。
この論旨も理由がない。

控訴理由第○ 訴訟手続の法令違反・訴因変更の違法
1 はじめに
 本件製造罪について、9.1になされた訴因変更は公訴事実の同一性がないから違法・無効である。
 9.1訴因変更で追加された製造罪についても審判対象とした原判決には訴訟手続の法令違反があるから、原判決は破棄を免れない。
 「犯意が継続している数回の製造罪は被害児童の数に関係なく包括一罪」という原判決の罪数判断の追認を求めるものである。

2 変更前の訴因
 1/2、1/30、2/1の複製行為を起訴した。
3 変更後の訴因
 次の各複製行為を追加した。

4 製造罪の罪数
 上記の複製行為は、購入者からの注文を受けるたびに、販売用の媒体(ビデオ・DVDなど)に複製していたのであるから、犯意は継続していない。
 同じ日付で行われていても、別のタイトルの児童ポルノを別の媒体に複製する行為は、一個の行為とは言えないから、観念的競合にはならない。
 従って、各々、併合罪の関係であって変更前の訴因と変更後の訴因の間に、公訴事実の同一性はない。

5 児童ポルノ製造罪の裁判例
 いずれも、犯意の一個性や媒体の一個性が必要であるとしている。
①大阪高裁H14.9.10
 児童ポルノ製造罪は撮影によって既遂となるが,現像,焼付けもまたそれぞれ製造に当たるものと解され,各段階で頒布,販売等の目的でこれを行った者には児童ポルノ製造罪の適用があり,ただ,先の行為を行った者が犯意を継続して彼の行為を行った場合には包括一罪となるという。

名古屋高裁金沢支部h17.6.9*1
 一個の機会に児童に姿態をとらせそれを撮影等したものを元にして,その後,複数の記録媒体の製造を行った場合には,被告人の犯意が継続していると解される以上,包括して一罪であるという。

③東京高裁H17.12.26
 1個の媒体に追加記録された場合で、同一被害児童に対する6回の撮影行為を包括一罪とするものである。

6 まとめ
 以上によりH17.9.13になされた訴因変更は公訴事実の同一性がないから違法・無効である。
 H17.9.13訴因変更で追加された製造罪についても審判対象とした原判決には訴訟手続の法令違反があるから、原判決は破棄を免れない。

 本件では淫行→撮影→編集→複製→販売という児童ポルノ罪のフルコースが行われており、被害者も多数、製造行為も多数あるので、その罪数処理を問う。