ホットラインセンターの基準と法律がずれるのはまずいですよね。
第1 ホットラインセンター全般について
1 ホットラインセンター以前の問題として、違法情報を放置した管理者は刑事責任を負うことがあることを周知する必要がある
法的構成(作為犯・不作為犯・共同正犯)や効果(正犯か幇助か)については、統一性がないが、現行法においても一定の刑事責任を問われることは間違いないようである*1(拙稿「プロバイダの刑事責任〜名古屋高裁H19.7.6と東京高裁H16.6.23」参照)。
違法なものは誰にとっても違法であって、誰が指摘しようと違法であるという意味では、これによって、漠然とではあるが、ホットラインセンターの削除要請に根拠を持たせることができるかもしれないから、周知を図るべきである。2 ホットラインセンターからの削除要請の根拠を明らかにすること
(1)違法情報について
ホットラインセンターの活動に実効性を持たせるためには、
削除要請を受けた者は削除要請に応じる義務があるか?
応じなければどうなるのか?
を明確にすべきである。
前提として、他人が掲載した違法情報を管理している者がどのような場合にどのような義務を負うのかを明確にしなければならない。
判例が迷走している状況で、根拠を見いだせないのであれば、立法で解決すべきである。(2)有害情報(違法でないもの)
違法情報ですら削除義務の根拠が求められないのであれば、合法有害情報の削除要請には、全く効力がないから、その旨を明示すべきである。第2 ガイドライン改定案について
1 わいせつ情報について
ガイドライン改定案はわいせつ情報について、刑法175条の要件に加えて「※ ただし、性器が確認できたとしても、学術・医学目的など、見る者の好色的興味に訴えることを目的としているのではないと認められる場合は、この限りではない。」という要件を付加しようとしているが、刑法の法文にない要件を加えることは疑問である。
そもそも刑罰法規が犯罪構成要件として明確かどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによって決定すべきであり、これが可能である右規定は本条に違反しない(徳島市公安条例事件最大判昭50・9・10)とされているのであるから、わいせつや児童ポルノ関係の法律も、そのような明確性を満たしているはずである。その解釈を補うものが判例である。
そして判例によれば「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」とされて、一応「明確」となっているところである。
わいせつ情報が削除要請の対象となるか否かは、それが違法かどうか、わいせつかどうかで決まる問題であって、わいせつか否かのレベルと、削除要請の対象となるかのレベルに差があってはならない。
そうでないと、わいせつではあるが削除要請が出ない範疇の表現が生じ、センターは対応に困るであろう。
また、ガイドラインと刑法175条の解釈とに齟齬があると、合法情報に削除要請することがありうることになって、センターの責任を追及されることもあろう。
だとすれば、削除要請の基準は、刑法175条の解釈に忠実に従うべきであって、手を加えるべきではない。
また、削除要請された側からみても、ホットラインセンターによる削除要請の根拠や効果については知らないが、問題の情報が法令や判例に従って「違法」であれば、誰に指摘されようと「違法」であって、指摘された側もホットラインセンターからの削除要請に対して違法情報を継続して流す・保管する・管理することについて何らかの正当性を主張することはできない。指摘した側に責任が生じることもない。
逆に、問題の情報が法令や判例に従って「合法」であれば、誰に指摘されようと「合法」であって、指摘された側がホットラインセンターからの削除要請に対して「合法」情報を削除すると、削除した行為について責任問題となるであろう。
だとすると削除要請に応じるか否かの基準は刑法175条そのものであって、法文と判例によって示される刑法175条の解釈に忠実に従うべきであって、手を加えるべきではない。
結局、刑法175条に該当するかの判断は、ホットラインセンターにとっても、削除要請を受ける側にとっても、一般国民にとっても、刑法175条に該当するかどうかできまる。
「ただし、性器が確認できたとしても、学術・医学目的など、見る者の好色的興味に訴えることを目的としているのではないと認められる場合は、この限りではない。」という例外についても、「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」という判例に照らせば、わいせつでないことは明かであって、不要な記載である。
ホットラインセンターは違法有害な情報を規制する側の組織であるが、それがもし「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」が明確性に欠けるというのであれば、刑法175条の明確性は失われていることを規制側が認めることに他ならず、刑法175条が違憲無効となるから、それを後ろ盾にした削除要請はできないことになる。
そういう意味でも、ホットラインセンターは「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」という判例の基準に手を加えてはならない。2 児童ポルノ
ガイドライン改定案は「児童の全裸又は全裸に近い状態が描写されている画像等で、性欲を興奮させ又は刺激するもの(性器等にマスク処理が施されているものも含む。)」という現行規定を、児童ポルノ法2条3項の法文通りに「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態が描写されている画像等で、性欲を興奮させ又は刺激するもの(性器等にマスク処理が施されているものも含む。)」に直すというものである。
つまり、ホットラインが従来法文にない要件を加えていたのを法文通りに戻すというのである。ここでは、わいせつ情報について述べた問題をセンターが自認していることになる。
すなわち、ここでも児童ポルノ法の法文にない要件を加えてはならないのである。
そもそも刑罰法規が犯罪構成要件として明確かどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによって決定すべきであり、これが可能である右規定は本条に違反しない(徳島市公安条例事件最大判昭50・9・10)とされているのであるから、わいせつや児童ポルノ関係の法律も、そのような明確性を満たしているはずである。その解釈を補うものが判例である。
児童ポルノ的画像が削除要請の対象となるか否かは、それが違法かどうか、児童ポルノかどうかで決まる問題であって、児童ポルノか否かのレベルと、削除要請の対象となるかのレベルに差があってはならない。
そうでないと、児童ポルノではあるが削除要請が出ない範疇の表現が生じ、センターは対応に困るであろう。
また、ガイドラインと児童ポルノ法の解釈とに齟齬があると、合法情報に削除要請することがありうることになって、センターの責任を追及されることもあろう。
だとすれば、削除要請の基準は、児童ポルノ法の解釈に忠実に従うべきであって、手を加えるべきではない。
また、削除要請された側からみても、ホットラインセンターによる削除要請の根拠や効果については知らないが、問題の情報が法令や判例に従って「違法」であれば、誰に指摘されようと「違法」であって、指摘された側もホットラインセンターからの削除要請に対して違法情報を継続して流す・保管する・管理することについて何らかの正当性を主張することはできない。指摘した側に責任が生じることもない。
逆に、問題の情報が法令や判例に従って「合法」であれば、誰に指摘されようと「合法」であって、指摘された側がホットラインセンターからの削除要請に対して「合法」情報を削除すると、削除した行為について責任問題となるであろう。
だとすると削除要請に応じるか否かの基準は児童ポルノ法そのものであって、法文と判例によって示される児童ポルノ法の解釈に忠実に従うべきであって、手を加えるべきではない。
結局、児童ポルノ法に該当するかの判断は、ホットラインセンターにとっても、削除要請を受ける側にとっても、一般国民にとっても、児童ポルノ法に該当するかどうかできまる。
「児童の全裸又は全裸に近い状態が描写されている」などという現行のガイドラインは、法文にはない規定であって、ホットラインセンター独自の解釈であって、法律上の児童ポルノに該当する画像を容認するおそれがあり、それこそ違法・有害な記載である。
ホットラインセンターは違法有害な情報を規制する側の組織であるが、それがもし児童ポルノ法2条3項の規定が明確性に欠けるというのであれば、同法の明確性は失われていることを規制側が認めることに他ならず、児童ポルノ法が違憲無効となるから、それを後ろ盾にした削除要請はできないことになる。
そういう意味でも、ホットラインセンターは児童ポルノ法の定義に手を加えてはならない。