児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

淫行の質問

 質問が多い。
http://search.chiebukuro.yahoo.co.jp/search/search.php?flg=0&p=%E6%B7%AB%E8%A1%8C&sort=2
http://oshiete.goo.ne.jp/search/search.php?PT=&from=&status=select&MT=%B0%FC%B9%D4&mt_opt=a&qatype=qa&ct0=&ct1=&ct2=&st=before&tf=all&ct_select=0
でも頻出。

 これは判例があって、「例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いもの」は処罰されない。
 親族も公認とか、現在は婚姻しているとかなら不処罰なんでしょね。不倫とか、出会い系は難しい。
 もっとも、出会い系で知り合って結婚することもあるので、微妙な場合もある。
 気の毒なのは、真剣交際が破綻した後で、条例違反で検挙された場合だ。「真剣」じゃないという検察官立証に対する「真剣」の証明は難しい。

福岡県青少年保護育成条例違反被告事件
【事件番号】最高裁判所大法廷判決/昭和57年(あ)第621号
【判決日付】昭和60年10月23日
 そこで検討するのに、本条例は、青少年の健全な育成を図るため青少年を保護することを目的として定められ(一条一項)、他の法令により成年者と同一の能力を有する者を除き、小学校就学の始期から満一八歳に達するまでの者を青少年と定義した(三条一項)上で、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」(一〇条一項)と規定し、その違反者に対しては二年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金を科し(一六条一項)、違反者が青少年であるときは、これに対して罰則を適用しない(一七条)こととしている。これらの条項の規定するところを総合すると、本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。このような解訳は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、「淫行」の意義を右のように解釈するときは、同規定につき処罰の範囲が不当に広過ぎるとも不明確であるともいえないから、本件各規定が憲法三一条の規定に違反するものとはいえず、憲法一一条、一三条、一九条、二一条違反をいう所論も前提を欠くに帰し、
すべて採用することができない。

 なかには、教員が教え子と真剣交際ということもあるでしょう。教え子と結婚する人もいるし。その場合の児童福祉法違反(淫行させる行為)についても、上記の理屈がそのままあてはまるはずだ。

違法性の意識欠如(児童淫行罪について結婚の真意があること)
1 はじめに
 本件各児童淫行にあたっては、被害児童の真摯な承諾があり、かつ、結婚を前提に交際している等の状況からみて承諾は社会的に見て相当であるから、違法性が阻却される。
 さらに、仮に違法とされたとしても、被告人には違法性の意識がないから、刑法38条3項但書によって、児童淫行罪については、減軽する必要がある。原判決は違法性の意識を欠いた点に刑法38条3項但し書きを適用して減軽しなかった点で重すぎて不当であり、量刑不当により破棄を免れない

2 児童淫行罪の限定解釈
 判例*1によれば、児童に対する性的行為のすべてが処罰されるわけではなく、「広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいう」と限定解釈をするのである。

福岡県青少年保護育成条例違反被告事件
【事件番号】最高裁判所大法廷判決/昭和57年(あ)第621号
【判決日付】昭和60年10月23日

 これは児童淫行罪についてもそのまま妥当する。
 すなわち、児童淫行罪の淫行については、判例

名古屋高等裁判所判決昭和54年1月25日
児童福祉法三四条一項六号にいう「児童に対し淫行をさせる行為」とは原判決が引用する昭和四○年四月三〇日最高裁判所第二小法廷決定にいう「児童に対し淫行することを強制強要する場合のみならず、直接たると間接たるとを問わず児童に対し事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し、促進する行為を包含する」ものと解するところ、右の「事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する」との趣旨は、当該児童が淫行するか否かの意思決定をするについて、これを左右し支配するに足る心理的、物理的強制力を加えることが必要であるとか、犯人と淫行をなした児童との間に雇用状態や性関係のむすびつき、或は相互の経済的、物質的利益の授受などの行為が存することを必要不可欠の要件とするものとは理解し難く同法文が「淫行をさせる行為」とした文辞の解釈上その行為の態様として少なくとも児童をして淫行行為をすることを容易ならしめて、これを助長し促進する事実上の影響力のある行為の存在を必要とし、またそれをもつて足るものと解するのが相当である。

などとされ、現実に性的行為を強要されたことも、現実に事実上の影響力と性的行為との間の因果関係も必要ないとされているので、師弟関係のように事実上の影響力がある関係がある場合には、そういう関係があっても、被害者において、真摯な承諾があり結婚を前提にして真剣な交際が行われていることがありうるところであって、そのような場合には、性交・性交類似行為があっても違法性を阻却されうるのである。

3 本件の違法性阻却事由
(1)被害児童の承諾
 性的行為にあたり、被告人が被害児童を騙した・脅した・強制したという全く要素はない。
 被害者の真摯な承諾が認められる。

(2)社会的相当性
 さらに本件では社会的相当性がある。
 被告人と被害児童が、本件犯行当時、結婚を前提に相思相愛の関係で交際していたことは、証拠上明かである
 交際中は結婚を前提にして真剣に交際していた。
 民法上の「婚姻可能年齢」が満16歳であるが(民法731条)、16歳になって出会っていきなり婚姻ということはありえないのだから、16歳以前の段階でも満16歳での婚姻を前提とする親密な交際が民法上も許容されていて、刑法上の社会的相当行為とされるのである。
 本件でも、被害児童と被告人とが婚姻に至っていれば、児童淫行罪についても、個別の行為の時点でも、社会的相当行為(結婚を前提とする真剣な交際)として、何らの犯罪にもならないところである。
 そうであるならば、たとえ交際が破綻したとしても、個別行為の時点で社会的相当性を備えていた以上は、さかのぼって違法性を帯びることはない。

4 まとめ
 児童淫行罪については、被害者の承諾+社会的相当性により違法性が阻却されるから、成立しない。
 児童淫行罪について有罪とした原判決は法令適用の誤りにより破棄を免れない。
 さらに、仮に違法とされたとしても、被告人には違法性の意識がないから、刑法38条3項但書によって、児童淫行罪については、減軽する必要がある。