児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

二重起訴発見

 東京高裁H17.12.26が確定してしまったので、主張が加わります。
 こういう事例↓。

被害者A子 7/18製造(編集)→9/1地裁に起訴
被害者A子 7/18製造(編集)→9/1地裁に起訴
被害者A子 7/19製造(編集)→9/1地裁に起訴
被害者A子 8/1製造(編集)→9/1地裁に起訴
被害者A子 7/18児童淫行→9/30家裁に起訴
被害者A子8/1児童淫行 →9/30家裁に起訴

 犯行日時順に並べてみる。

被害者A子 7/18児童淫行→9/30家裁に起訴
被害者A子 7/18製造(編集)→9/1地裁に起訴
被害者A子 7/18製造(編集)→9/1地裁に起訴
被害者A子 7/19製造(編集)→9/1地裁に起訴
...
被害者A子8/1児童淫行 →9/30家裁に起訴
被害者A子 8/1製造(編集)→9/1地裁に起訴

 児童淫行罪はホテル、製造(編集)は機材があるところが犯行場所なので、場所は違う。
 編集のために移動しているので、時刻も数時間違う。

 東京高裁H17.12.26で、児童淫行罪と製造罪(撮影)は観念的競合。
 製造罪(撮影)→製造罪(編集)は包括一罪(名古屋高裁金沢支部、大阪高裁など)

 家裁事件の弁護人としては、こういうとき、科刑上一罪を分けてしまって、しかも地裁に先に起訴されているから二重起訴といいたいところ。
 ところが、かすがいとなる撮影行為は、地裁の起訴状にも家裁の起訴状にも詳細には記載されていない。必殺「かすがい外し」の術。
 その場合は、東京高裁H17.12.26で突破する。

東京高裁H17.12.26
かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが,その当否はおくとして,かかる場合でも,検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで,当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に,別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば,そのような措置も是認できるというべきである。一般的に言えば,検察官として,当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって,すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和59年1月27日第一小法廷決定・刑集38巻1号136頁,最高裁平成15年4月23日大法廷判決刑集57巻4号467貢)。そして,児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて,法定刑の上限はもとより,量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると,検察官が児童淫行罪の訴因について,証拠上も確実なものに限るのはもとより,被害児童の心情等をも考慮して,その一部に限定して起訴するのは,合理的であるといわなければならない。また,そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。

 製造罪(撮影)が起訴状に見えなくても、検察官の合理的意思解釈で行間を読め、という。

 東京高裁の事案は数回の(淫行+撮影)については、児童ポルノ製造罪だけが起訴されて、背景の同日時の児童淫行罪が一見して起訴されていない事案である。
 その場合、
① 製造罪より児童淫行罪の方が重く、淫行罪が起訴されていない方が有利だ
② 背後の淫行罪が起訴されているとすれば、重罰になる
③ 製造罪の方が立証は容易
④ 淫行罪の審理によって児童の心情を害するおそれ
という理由で、背後の淫行罪を起訴しないことに合理性があるとされたのである。

 ところで、説例の事案では、起訴罪名が逆である。重い児童淫行罪が起訴されて、同時に行われた製造罪(撮影)が起訴されていないように見えるのである。
 この場合に東京高裁が挙げる要素を検討すると、
① 撮影時の重い淫行罪は起訴されているのであるから、「製造罪より児童淫行罪の方が重く、淫行罪が起訴されていない方が有利だ」ということはない。むしろ、かすがいを認めた方が、科刑上一罪となる行為については一回の審理を受けるという二重処罰の禁止・二重起訴禁止の利益が害されないし、併合審理の利益も受けられるのであるから、被告人に有利である。
② 撮影時の重い淫行罪は家裁に起訴されているのであるから、「背後の淫行罪が起訴されているとすれば、重罰になる」ということもない。むしろ、かすがいを認めた方が、科刑上一罪となる行為については一回の審理を受けるという二重処罰の禁止・二重起訴禁止の利益が害されないし、併合審理の利益も受けられるのであるから、被告人に有利である。
③ 重い淫行罪は起訴されて立証に成功しているし、その証拠から淫行の際の製造行為は明かであって量刑理由でも認められている。しかも、撮影後の編集・ダビング行為は製造罪として起訴しているのであるから、「製造罪の方が立証は容易」だから淫行罪を回避するという事情はない。
⑤ 重い淫行罪は起訴されているのであるから、「淫行罪の審理によって児童の心情を害するおそれ」もない。
から、東京高裁の基準によっても淫行と並行する製造行為(製造)を訴追しないことに合理的理由は見いだせない。
 むしろ、多数回にも渡る販売行為を立件して、多数回のダビング行為を製造罪として立件し、被告人の行為を漏らさず審判対象に挙げようとした検察官の意思としては、淫行に並行して行われた製造行為も立件しようとするのが当然である。撮影行為のみを訴追しないのは、検察官の意思に反する。画竜点睛を欠く。

 あえてその理由を探すとすれば、淫行と並行する製造行為を訴追しようとすると家裁に起訴することになるが、淫行罪と製造罪の罪数判断によっては、製造罪が管轄違となるかもしれないので、かすがいを外して起訴するということであろう。
 少年法47条がなければ、当然撮影行為を製造罪として明文で起訴していたと理解するのが合理的である。

 検察庁・裁判所が児童ポルノ罪の罪数処理を軽んじてきた末路を見たような気がします。

 高裁からは「338条3号二重起訴の控訴理由ですよね」と念を押されたのだが、これを「二重起訴」といえるのかというのもちょっと疑問だ。
 同一事件を最初地裁に、さらに家裁に起訴しているのだから「更に同一裁判所に」とも言えないよな。3号類推と4号もいれとくか。

第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。