例えば,買春の方が執行猶予になっても,児童淫行が実刑になりますと執行猶予が取り消されるために,
弁護人が執行猶予判決を受けているのに控訴せざるを得ないというような事態も起こっております。
これは、最近の特定の事件なんですが、いいんですか?
http://www.moj.go.jp/SHINGI2/051209-1.html
法制審議会刑事法(財産刑関係)部会
第3回会議 議事録
第1 日 時 平成17年12月9日(金) 自 午後3時31分
至 午後4時23分
第2 場 所 法務省第1会議室
第3 議 題
罰金刑の新設等のための刑事法の整備について
第4 議 事 (次のとおり)(発言する者なし)
● では,そのようにさせていただきます。
本日予定しておりました議事はすべて終了いたしました。
この際,特に発言しておきたいことがございます方がいらっしゃいましたら,よろしく御発言をお願いいたします。
● 実は,本諮問とは直接は関係がございませんが,こういう問題がございまして,是非今後の検討をお願いしたいと思っております。
実は,現在,家庭裁判所には,成人の刑事事件で専属管轄とされているものがあります。そこで,同一被告人に対して,例えば,児童淫行罪ということで児童福祉法違反が家庭裁判所に起訴され,審理される。他方,いわゆる児童買春・児童ポルノ処罰法ができまして,この関係も相当数がございますが,これは,地裁に起訴,審理されるということになりました。結局,同一被告人につきまして,家裁と地裁でばらばらに審理,判決がなされるということが相当数生じております。
そのために,量刑上,あるいは手続上,いろいろな問題点が現在生じております。どうしても全体として量刑が重くなりすぎるという問題もありますし,非常に分かりやすい例を申し上げると,例えば,買春の方が執行猶予になっても,児童淫行が実刑になりますと執行猶予が取り消されるために,弁護人が執行猶予判決を受けているのに控訴せざるを得ないというような事態も起こっております。
そういう,もちろん家裁に成人刑事事件を置きました理由というのは,家裁の専門性等からそれなりの理由があったわけですけれども,むしろ数々の難点が生じているのが現状であります。したがいまして,罰金刑の活用という観点からも,地裁・簡裁に移管して略式命令等を自由に出すという体制が必要なのではないかと考えております。
本諮問の関係とは直接は関係ありませんが,罰金刑の活用という観点から,今後是非御検討をいただきたいと思う次第です。
● どうも,貴重な御意見ありがとうございました。
この点につきまして,何かございますか。
● 今御指摘いただきましたが,確かに少年の福祉を害する一定の事件は少年法第37条第1項で,家裁に公訴を提起しなければならないと定められております。一方で,刑訴法第461条で,略式命令は簡易裁判所が行うこととしておりますので,これらについては,つまり少年法に定められた成人の刑事事件については,略式命令は認められておりません。
今,御指摘のあったようなことを踏まえた規定の見直しということでございますが,これにつきましては,少年法第37条第1項各号の罪に係る事件の公訴,ないしは審理の在り方,それから略式手続の主体・範囲等をどう見直すのか,見直しの要否いかんという観点から,いろいろな慎重な検討を要するものとは考えております。
ただ,いずれにいたしましても,ただいまの意見,貴重な御指摘として受けとめさせていただきたいと思っております。
● ただいま提示されたテーマでございますけれども,私も以前に少年法の立案過程を少し調べたことがありまして,そのとき受けた印象では,この37条,GHQ側の意向で挿入された規定でありますが,必ずしも強い根拠を伴ってはいなかったという印象を受けております。
しかし,ともかく60年間近く運用されてまいりましたので,それなりの実績があるのだとは思いますけれども,今,○○委員からのお話を承っておりましても,むしろ改正を前向きに検討すべき時期であろうかという気がいたしました。
以上です。
追記 060125
「弁護人が執行猶予判決を受けているのに控訴せざるをえない」という現象を、大雑把説明します。すべての場合を経験したわけではないので、若干不正確。
自白事件でほぼ同時進行で地裁・家裁に起訴された場合。
(1) 家裁実刑、地裁実刑の場合
実刑にはなかなか納得できないので両方控訴。
控訴審が始まる頃になると、家裁の判決(実刑)も地裁事件の控訴審に証拠として届くので、控訴審では、両事件が同一裁判所で併合審理された場合とのバランスを実質的に考慮して、量刑不当で原判決を破棄して刑期を調整する。時には地裁判決も家裁判決も両方破棄されることもある。
控訴しておかないと損になる。
(2) 家裁実刑、地裁執行猶予の場合
悪質な児童福祉法違反(淫行させる行為)があって、家裁で実刑。
別途併合罪関係の児童ポルノ・児童買春罪があると、地裁は執行猶予。地裁から家裁事件は見えない(審判対象外)から、温情判決を賜ることになる。
ところで、猶予にする場合の刑期は、実刑にする場合より長い。執行されない刑(威嚇のための刑期)だと思っているから。
この場合、家裁の実刑が確定すると、刑法26条2号で、地裁の執行猶予は必要的取消となる。
刑法第26条(執行猶予の必要的取消し)
次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
とすると、実刑にする場合よりも長めになっている刑期を服役することになる。地裁の温情が仇になる。
(控訴して多少の減刑はありうるが)家裁の実刑が揺るがないとすると、被告人にとっては、本音としては、地裁事件も短めの実刑にしてもらった方が有利になる。
そこで執行猶予判決に控訴することになる。せっかくの温情判決に「どうせ執行猶予が取り消されるので猶予は抜きにして刑期を短くしてくれ!」と不服を述べることになるのである。(ここで「短い実刑の方がいい」なんて控訴理由を書くと、不利益主張になるので、「あくまで執行猶予をつけた上で、短い刑期にしてくれ」と主張しなければならない。本音は「短い実刑の方がいい」のに。)
この控訴は制度上やむを得ない。
しかも、控訴審が始まる頃になると、家裁の判決(実刑)も地裁事件の控訴審に証拠として届くので、控訴審では、両事件が同一裁判所で併合審理された場合とのバランスを実質的に考慮して、量刑不当で原判決を破棄して刑期を調整する。時には地裁判決も家裁判決も両方破棄されることもある。
両方控訴しておかないと損をする。
(3) 家裁執行猶予、地裁執行猶予の場合
この場合、即時に執行されることはないので普通控訴しない。
しかし、執行猶予取消事由があると、両方取り消されるから、温情によって長めにされている刑期を足し算で服役することになる。
取消の時点では確定しているので、両判決の通算刑期が長過ぎるという不服は言えない。