児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

輸入罪の既遂時期と関税法違反(禁制品の輸入未遂罪)の関係

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050908/1126184343
の続き。

 関税法違反については、通関線突破時に既遂。空港や港の保税地域から出ていなければ既遂にはならない(禁制品輸入未遂罪)。
 
 森山野田によれば、児童ポルノ輸入罪は領海説。

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」
「本邦に輸入」とは、我が国の領域内に搬入することをいいます

 ちなみに、覚せい剤輸入罪については最高裁は陸揚説。ちょっと違う。

最高裁判所第3小法廷決定平成13年11月14日
 所論にかんがみ、職権で判断すると、覚せい剤を船舶によって領海外から搬入する場合には、船舶から領土に陸揚げすることによって、覚せい剤の濫用による保衛生上の危害発生の危険性が しく高まるものということができるから、覚せい剤取締法四一条一項の覚せい剤輸入罪は、領土への陸揚げの時点で既遂に達すると するのが相当であり(前記第一小法廷判決参照)、これと同旨の原判断は相当である。所論の指摘する近年における船舶を利用した覚せい剤の密輸入事犯の頻発や、小型船舶の普及と高速化に伴うその行動範囲の拡大、GPS(衛星航法装置)等の機器の性能の向上と普及、薬物に対する国際的取組みの必要性等の事情を考慮に入れても、被告人らが運行を支配している小型船舶を用いて、公海上で他の船舶から覚せい剤を受け取り、これを本邦領海内に搬人した場合に、覚せい剤を領海内に搬入した時点で前記覚せい剤輸人罪の既遂を肯定すべきものとは認められない。

 いずれにしても、保税地域まで入れば、児童ポルノ輸入罪は既遂。

 だとすると、保税地域内の時点で検挙されると、児童ポルノ輸入罪は既遂で、禁制品輸入罪は未遂。
 同じく輸入罪が既遂だったり未遂だったり。これは奇妙。
 
 わいせつ図画については、刑法には単純所持罪や輸入罪の処罰規定がないから、関税法の水際規制にも存在意義がある。

最高裁判所第1小法廷判決平成7年4月13日
 三 我が国の刑法一七五条がわいせつ表物の単なる所持を処罰の対象としていないことにかんがみると、その輸入規制を最小限度のものにとどめ、単なる所持を目的とする輸入を規制の対象から除外することも考えられなくはない。しかしながら、わいせつ表現物がいかなる目的で輸入されるかはたやすく識別され難いだけではなく、流入したわいせつ表現物を頒布、販売の過程に置くことは容易であるから、わいせつ表現物の流入、伝播により我が国内における健全な性的風俗が害されることを実効的に防止するには、その輸入の目的のいかんにかかわらず、その流入を一般的に、いわば水際で阻止することもやむを得ないというべきであり、このことは、前記大法廷判決の説示するところである。そして、右のように行政上の規制に必要性と合理性が認められる以上、その実効性を確保するために、右の規制に違反した者に対して、それが単なる所持を目的とするか否かにかかわりなく、一律に刑罰をもって臨むことが、憲法一三条、三一条に違反しないことは、右大法廷判例の趣旨に徴し明らかであるというべきである。

 しかし、児童ポルノ罪については輸入罪があって、しかも既遂時期は関税法違反よりも早い。
 関税定率法に児童ポルノが加えられているのは、児童ポルノ法の趣旨を採用したものであって、それ以上でもそれ以下でもない。

 それなら、特別法である児童ポルノ輸入罪(既遂)だけでいいのではないか。でないと、児童ポルノ輸入罪の出番がない。