児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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窃盗罪に罰金刑導入 事件に応じて適用へ 法務省方針

http://www.asahi.com/national/update/0903/TKY200509030217.html
 刑事政策の復習をしたような気がします。
 国会の会議録を紹介します。

120 - 衆 - 法務委員会 - 5号 平成03年03月08日
○東條説明員 今回御審議願っております法律案の策定に当たっての考え方は、現在の基本的な刑罰体系を一応維持しながら、とりあえず罰金あるいは科料の額等について、経済実勢に合わせた最小限度必要な手当てをしようという考え方でございまして、御指摘の新しい罰金刑といいますか、罰金刑の適用範囲の拡大については今回は見送っております。
 御指摘のように、刑法上の財産犯には基本的には罰金刑がございません。窃盗、詐欺、恐喝、横領等でございますが、これにつきまして罰金刑を選択刑として新設してはどうかという御意見が、既に法制審の審議の過程でもそういう御指摘がございましたし、それ以外にも、私どもにあちらこちらから聞こえてまいるという状況でございます。そこで、先ほど御説明申し上げましたが、今回法制審議会に諮問をお願いするに際しまして、とりあえず今回提出いたしました法律案について御審議をいただくほかに、さらに財産刑をめぐる基本問題について検討をお願いするということで、それを受けまして、先ほど御説明申し上げました財産刑検討小委員会というものが設けられたわけでございます。その中で、財産犯について罰金を設けるかどうかということが、まさにこれから検討するという過程に差しかかったところでございます。
○小澤(克)委員 これは教えていただきたいのですけれども、何で、そもそも最初に刑法を制定したときに財産犯には原則罰金刑がなかったのですか。
○東條説明員 これは学説といいますか、歴史的な問題でございますので、私が申し上げるだけの資格があるかどうかあれでございますが、明治の四十年に現在の刑法ができておりますが、その当時に、財産犯を犯す者の犯人像といいますか、そういうものが、恐らく、非常に貧しいといいますか、貧しさからの財産犯という発想が基本的にあったと思います。そういう者に対して財産刑である罰金を科するということがいかがなものかということが、恐らく制定者の発想の根幹にあったのではないか。その後国民の資産といいますか、収入というものも、経済成長に伴いまして随分変わっておりますので、それを受けて、現段階で同じような発想でいけるのか、それを変更するのかという問題をこれから検討しようというところでございます。
○小澤(克)委員 確かに、おっしゃるとおり、貧困から、あるいは食うに困って人の物を盗んだ人から罰金を取るということは、ある意味で矛盾かなという感じが当然あったのだろうと思いますけれども、現在では財産犯というのが大分様相が違ってきていると思うのですね。欲望が非常に肥大してきて、ぜいたくをしたいために財産犯に走るというケースが多いだろうと思います。そうだとすれば、財産犯について罰金刑を選択刑として定めるということは決して不合理なことではないわけでございまして、世界的にも、自由刑から財産刑へという大きな流れがあるというふうに聞いてもおります。この財産犯について、罰金刑を選択刑として規定する方向で、今後十分御検討いただきたいと思うわけでございます。

120 - 衆 - 法務委員会 - 6号 平成03年03月12日
○冬柴委員 こういう観点に立ちますと、明治四十年につくられたこの刑法、その中での法定刑というものが、そういう考え方を導入することにより現代的意味において見直すことが可能になると思うのですね。そういうふうな観点に立って刑法典を見てみますと、財産罪、特に窃盗、詐欺、横領、それから贓物犯の中でも贓物収受罪について自由刑しか定めがなくて、罰金刑がないということは非常に不便な感じを私は受けるのですが、どのように考えますか。感じだけで結構です、お答えいただきたいと思います。
○井嶋政府委員 前回の委員会でも御議論が出たと思いますけれども、財産犯に罰金刑が規定されておりますのは、背任罪と遺失物横領罪と贓物故買罪、この三つだけでございます。そこで、刑法制定当時は基本的には財産罪には罰金刑はふさわしくないと考えられておったのではないかという御説明をしておるわけでございますが、今日のような社会的状況に照らしてこのような立場が妥当であるかどうかということについては、検討を要する問題であるということでございまして、前回御説明いたしましたように、刑事法部会財産刑検討小委員会のテーマとして引き続き検討しようということにしておるわけでございます。御指摘のようなダイバージョンの考え方が即その形になるのかどうかは別といたしまして、そういったことは十分念頭に置きながら検討するということであると申し上げておきます。
 ただ、今回の改正は、そういった実質的、個別的な見直しはしない改正であるということだけは御理解いただきたいと思います。
・・・
○冬柴委員 法務大臣には通告していませんけれども、今挙げたように覚せい剤という事犯が、受刑者が非常にふえているわけですが、その中でも窃盗が二十数%を占めておる。これは選択の余地がないわけでして、入れるか入れないかのことになってしまって、要するに犯罪者としての烙印をそこにはっきりさせてしまう。罰金刑でも烙印なのですけれども、対外的に、中へ入ったというのと世の中にいるというのとは随分違うわけで、そういう意味では、窃盗等の財産罪にもぜひこの財産刑も選択できるような方法、もう十年以下の懲役一本やりじゃなしに、または何万円以下の罰金というものを定める方向でお考えいただきたいと思うのです。今財産刑小委員会で検討中だとおっしゃいましたけれども、法務大臣としてもその点について所感をお述べいただきたいと思います。

○左藤国務大臣 今お話しの問題につきましては、法制審議会の刑事法部会小委員会ですか、ここでもって財産刑をめぐる基本問題というのを御検討いただいております。
 私も、そういった問題で罰金刑の刑罰としての機能というもののいろいろな問題をもう一度よく考え直して、今日における我が国の犯罪情勢も、御指摘のような問題、罰金刑を含めた財産刑の運用の実態をよく検討した上で、実態的にも手続的にもこの問題をひとつ根本的に検討する必要がある、このように考えております。

・・・・・

○小澤(克)委員 ただいま議題となりました附帯決議案について、提出者を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。
 本案の趣旨につきましては、既に当委員会の質疑の過程で明らかになっておりますので、この際、案文の朗読をもってその説明にかえさせていただきます。
 それでは案文を朗読いたします。
   罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
  政府は、次の諸点について格段の努力をすべきである。
 一 逮捕・勾留等の限界罰金額における刑法等三法の罪とその他の罪との間の区別を早期に解消し、一元化を図ること。
 一 罰金が選択刑として定められていない財産犯及び公務執行妨害罪に罰金刑を導入することを検討すること。
 一 罰金刑に限らず他の刑罰を含め、現行刑罰の適正化を図るとともに、尊属殺重罰規定の見直し、刑罰法令の現代用語化等について検討すること。
 一 行政罰則の適正化を図るとともに、その見直しを検討すること。
以上であります。
 何とぞ本附帯決議案に御賛同くださるようお願い申し上げます。
○伊藤委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
 採決いたします。
 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕

132 - 衆 - 法務委員会 - 5号 平成07年03月28日
(日本弁護士連合会刑法改正対策委員会副委員長)渡辺脩
○渡辺参考人 日弁連の渡辺でございます。日弁連の立場からの意見を述べさせていただきます。
 初めに日弁連の基本的な立場を申し上げておきたいと思うのですけれども、冒頭法務大臣が説明されましたように、平成三年三月十二日の附帯決議では、これは罰金額引き上げのための一部改正の際のですが、この附帯決議の中には、大臣が紹介されました問題のほかに、罰金刑に限らず他の刑罰を含め、現行刑罰の適正化を図ること、それから、罰金刑が選択刑として定められていない財産犯及び公務執行妨害罪に罰金刑を導入すること等を検討することを政府は格段に努力すべきだということを言われております。今回の改正案は、尊属殺重罰規定と現代用語化にいわば絞られておりまして、その意味では日弁連の立場からいいますと、諮問自体が狭過ぎたのではないか、もうちょっとこの附帯決議、国会の意思を尊重した形で検討できるようにしてほしかったという気持ちは強うございます。
・・・・・・・・・
 このケースの場合、借金した分を、罰金を払って働きながら返せるようにした方が、はるかに社会復帰の適正な機会を与えることになったと思います。犯した犯罪行為やその責任の程度をはるかに超える処罰が実際に行われていて、救いようがない。これは詐欺、窃盗、十年以下の懲役になっておりますけれども、罰金刑がないからこうなるんですね。重過ぎるんです。軽微な詐欺、窃盗事件の場合、多かれ少なかれこのケースと同じようなことを経験いたしますけれども、やはり軽微な事件に適切に対応できるための罰則の領域は広げるべきだと思います。
 公務執行妨害罪について言いますと、公務の執行の適法性が問題になるケースがしばしばありまして、それとの関係で、責任の程度をかなり軽減していい場合もあります。罰金刑がありませんので、当然禁錮以上の刑になってしまいますが、そうなりますと公務員は身分を失います。やはりこれもまた適正な処罰が実現できるように法定刑の範囲を広げる必要があり、罰金刑をどうしても導入することが最も必要とされる部分ではないかと考えております。

132 - 衆 - 法務委員会 - 6号 平成07年04月11日
○茂木委員 四年前の国会の附帯決議との関係について、ちょっとお伺いしたいと思うのです。
 今回の改正作業に当たりましては、そのきっかけともなったというべき平成三年の国会における附帯決議、こういうものがあったわけなんですが、この附帯決議について、現在の検討状況と今後の見通しについてお伺いいたしたいと思うのです。
 特に、財産犯に罰金刑を選択刑として導入する、この項目についてでございます。
 かつては貧困ゆえの犯罪ということで、罰金を科しても払えないケースが多かった窃盗等の財産犯、これにつきましても今はだんだん少なくなりまして、むしろ生活のためではなく、多少語弊があるかもしれませんが、いわばゲーム感覚による犯罪、こういったものも増加しているように思われます。
 こういうふうにして、比較的軽い財産犯に短期自由刑が科せられておるわけでございますが、短期自由刑につきましては、以前より、例えば刑務所に入っていろいろ周りの環境に染まってしまうとか、そういった種々の問題、弊害等も指摘されておるわけでございます。
 そこで、選択的に罰金刑を導入すべきときが来ているのではないかと私は考えておるわけでございます。早急に御検討をいただきたいと思いますが、この点につき、今後の見通しについてお答えいただければと思います。


○則定政府委員 第百二十回国会におきまして罰金の額等の引上げの御審議をいただきました際の附帯決議、その中で、特に今の財産犯、窃盗等に選択的に罰金をという問題につきまして主としてお答えすることになりますけれども、当時そういう附帯決議をちょうだいいたしまして、私どもといたしましては、法制審議会の刑事法部会に財産刑検討小委員会というのをつくっていただきまして、そこで今御指摘の問題等について検討してもらったわけでございます。結局、平成五年三月の刑事法部会におきまして、その小委員会の検討結果を引き取りましてさらに御審議いただいたわけでございますが、結論的には、特にその時点で窃盗等について選択刑として罰金を設けることについて意見がまとまらなかった、むしろ反対する意見が多かったわけでございます。
 御指摘のように、確かに短期自由刑の弊害といったようなもの、これをどう克服するかという課題があるわけでございますけれども、窃盗罪について罰金刑がないために特に弊害が生じているという現状ではないのではないか。そういう意味で、罰金刑を追加する必要性は薄い。また、仮に罰金刑を追加するということになりますと、これまで刑事政策的に起訴猶予で処理していたものが、場合によっては罰金を徴収するという処分に流れるおそれが強まるのではないか。そういう意味で、処罰範囲の拡大というような影響をもたらすおそれもあるというふうなこともございまして、現行の刑罰体系を前提とする限りは、窃盗罪に罰金刑を設けることに積極的な理由は見出しがたいとする消極論が多数であったわけでございます。ただ、将来罰金刑全体の見直しが行われる際には、その問題を含めて再検討すべきであるとの意見もありました。
 いずれにいたしましても、この問題は刑罰体系全体の見直しの中で検討すべきものであると考えておりまして、今回の改正では取り上げないこととしたものでございますけれども、国会の附帯決議で検討を求められている事項でもございますので、引き続き所要の検討は進めてまいりたいと思っておるわけでございます。