児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

福祉犯の裁判管轄の問題

 この点については、言いたいことがたくさんあります。
 合目的的解釈としては、児童ポルノ・児童買春については、できるだけ児童の保護に厚い解釈が採られるべきであり、
 罪数についても併合罪、管轄についても家裁ということだと考えています。対立利益はどこにあるんでしょうか?

 また主張しようかなと考えて、古い控訴趣意書を捲っています。
 最高裁判例はまだないようです。

訴訟手続の法令違反(管轄違、家庭裁判所管轄である。)
1 本法の趣旨、児童ポルノ・児童買春に係る行為の保護法益
 本法の趣旨についてはすでに述べたように、個々の児童を保護する法律である。
 くどいようだが、児童ポルノ・児童買春の保護法益は、児童ポルノに描写された者や児童買春の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利である。

誌名等 「青少年問題」(青少年問題研究会) 47(3) 2000.3 p24〜29
著者名 参議院法制局第5部第1課
運用上の課題
すなわち、児童買春、児童ポルノの頒布等の行為は、児童があらゆる形態の性的搾取・性的虐待から保護されるべきであるとする児童の権利に関する条約の規定や各種の法令で認められている児童の権利について十分な理解があれば、そのような行為に出ることを未然に防止することが可能です。
そこで、この法律の一四条では、児童買春、児童ポルノの頒布等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えることにかんがみ、これらの行為を未然に防止できるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育・啓発を行う努力義務を定めています。ここで言う「児童の権利」とは、児童の権利に関する条約中にも規定されているように、児童が「人」として有すべき権利、その人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利等をいいます。この法律で特に念頭に置いているのは、性的搾取・性的虐待を受けず、そこから保護される権利です。

警察庁執務資料
3「児童の権利」とは、児童の権利に関する条約中にも規定されているように、児童が「人」として有すべき権利、その人格の完全な、かつ鯛和のとれた発達のため、幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利等をいい、本法で特に念頭に置いているのは、性的搾取・性的虐待を受けず、そこから保護される権利である。

 特に、児童の保護に関する規定(15条、16条)は児童福祉法と同じ発想によることが顕著であり、厚生労働省が関係通達を出しているのである。

児発第796号
平成11年10月27日
都道府県知事・指定都市市長 殿
厚生省児童家庭局長
「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の施行に伴う児童の保護等について
 平成11年5月26日付けをもって「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(平成11年法律第52号。以下「法」という。別添1参照。)が公布され,また,平成11年10月14日付けをもって「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の施行期日を定める政令」(平成11年政令第322号。別添2参照)が公布され,これらにより,この法律が平成11年11月1日から施行されることとなったところである。この法律には,教育,啓発等(法第14条),心身に有害な影響を受けた児童の保護(法第15条),心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備(法第16条)等が規定されているところであり,その施行に伴う児童の保護等については,下記のとおりであるので,御了知の上,管下の市町村並びに関係機関及び関係団体等にその周知を図るとともに,適切な指導等を行い,その運用に遺漏のないようにされたい。

第1 総合的診断について
 児童の保護については,相談,紹介,通告等があれば,児童の生育歴,性格,精神発達の状況,家族や近隣の人間関係等について慎重に調査及び診断の上,児童及び保護者の意向を十分考慮し,児童の最善の利益を確保する観点から,指導又は処遇を決定すること。その際,従来非行児童等として指導,処遇を行ってきた児童の中には,児童買春,児童ポルノに係る行為等により心身に有害な影響を受けたと認められる者(以下「心身に有害な影響を受けた児童」という。)であるとの認識に立って対応することが必要な児童が少なからず存在していることに十分留意して,総合的に診断を行い,家庭環境,心理的被害の程度,行動上の問題等に応じて適切な処遇を行うこと。
 なお,児童の心理的又は行動上の問題には家族内の相互作用等が様々な形で絡んでおり,保護者等も何らかの問題を抱えていることも多いことから,児童と保護者等との間の相互作用が保護者等自身の問題に強く影響される状況にあると認められる場合には,並行して保護者等に対するケースワークやカウンセリング等の指導を進める必要があること。
 また,性的虐待を受けた児童への対応については,既に「子ども虐待対応の手引き」(平成11年3月29日児企第11号厚生省児童家庭局企画課長通知。抜粋については,別添3参照。)によることとされているので,これを参考とされたいこと。

第2心理的治療について
 心理的治療を要する児童の医療的ケアについては,平成9年7月から,小児特定疾患カウンセリングとして保険診療の対象とされたところであり,心身症神経症を持つ児童が広くカウンセリングを受けられるように改善されたところである。また,平成10年度に創設された児童家庭支援センターには,相談・支援を担当する職員のほか,心理療法等を担当する職員も配置されているところである。心理的治療の必要な児童に対しては,従来から実施している児童相談所への適所による各種の心理的治療やカウンセリング等に加え,これらの資源を有効に活用し,適切な治療,指導等を行うこと。

第3 児童福祉施設入所児童について
 施設入所による保護又は指導の必要な児童については,児童の心身の状況に応じ児童養護施設,情緒障害児短期治療施設,児童自立支援施設等の児童福祉施設への入所の措置が行われているが,すでに入所している児童のうち,心身に有害な影響を受けていると認められる場合,児童福祉施設は,児童相談所との連携を図り,児童相談所又は施設に配置されている精神科医心理療法を担当する職員等による心理的治療等の必要な措置を講ずること。なお,平成11年度から一定の児童養護施設心理療法担当職員を配置したところであり,これら職員の積極的活用を図ること。

第4 関係機関等との連携について
1 警察,家庭裁判所児童家庭支援センター等のほか,児童虐待防止センター等の民間の児童虐待防止団体等関係機関,関係団体とも日頃から十分な連携,協力体制の強化・整備を行い,心身に有害な影響を受けた児童の保護が円滑,適切に実施されるよう努めること。

2 心身に有害な影響を受けた児童は,児童自身から性的被害状況の開示を行うことは少なく,家出,異性に対する過度な親密行動,年齢不相応な性的行動,乱暴又は落ち着きのなさ等の行動上の問題により相談の端緒が開かれることも多いことから,学校や保育所等の日常児童と接する機会の多い機関等に対しては,このような特徴を示す児童へ特にきめ細かな注意を払う必要があること等を周知するよう努めること。
3 法第12粂において,この法律で規定する罪に係る事件の捜査及び公判に職務上関係のある者(裁判官,検察官,警察官等)は,その職務を行うに当たり児童の人権及び特性に配慮することとされた。児童福祉施設の長は,入所児童に対する証人尋問等について,これらの者から協力を求められた場合,法の趣旨を踏まえて,その時間,場所及び態様について配慮がなされるよう適切に対応すること。

第5 広報啓発,調査・研究,研修の実施について
 厚生省は,既に,心身に有害な影響を受けた児童の保護,処遇に関する調査,研究を厚生科学研究等において実施しており,その成果については各年度の研究冊子等において周知を行っているところである。また,この法律に関して国民への啓発を行うとともに,児童相談所職員等への研修において,虐待を受けた児童及び心身に有害な影響を受けた児童等に係る研修テーマの充実に取り組んでいるところである。都道府県,市町村等においても,法の施行を機会として,住民への啓発を推進するとともに,研修,研究等を積極的に実施し,正しい理解の普及と処遇の向上を図るよう努められたいこと。

2 児童福祉法の有害行為の趣旨・保護法益
 もとより、児童福祉法は児童保護の基本法であり、児童の憲法といってもよい。それゆえ児童福祉法の冒頭には次のような規定が置かれている。

第1章 総則
第1条〔児童福祉の理念〕
すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。
(2)すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。
第2条〔児童育成の責任〕
国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
第3条〔児童福祉原理の尊重〕
前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。

 児童買春法も児童保護の趣旨であることは間違いない。
 従って、本法は児童福祉法の特別法であって、買春罪の解釈にあっても、このような児童福祉法の原理を常に考慮しなければならない(註釈特別刑法第7巻児童福祉法p2)。

 さらに、児童福祉法34条の有害行為(特に淫行させる行為)の保護法益も、児童の健全育成・児童の福祉であると説明されている。 通説では児童の心身に有害な影響を及ぼす行為を現実にさせるという侵害犯と説明されており、淫行罪は数ある有害行為の中でも最も重い処罰に値するとされている(注解特別刑法第7巻第2版児童福祉法p7)。

 本号の行為が児童福祉法における他の違反行為と比較しても格段に重い処罰をのぞむこととされているのは、それが児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する程度が著しく高いと考えられる為だとされている。(刑事裁判実務大系第3巻P426)

 淫行は児童の健全な育成を直接侵害する行為として重く処罰されている。淫行そのものが児童の権利侵害なのである。

 判例も挙げておく。

【事件番号】高松高等裁判所判決/昭和58年(う)第262号
【判決日付】昭和59年1月23日
【参考文献】家庭裁判月報36巻9号110頁
なお、児童福祉法三四条一項六号、六〇条一項所定の罪は、その法益が対象である児童の福祉という一身専属的な利益であることにかんがみ、淫行をさせた児童一名ごとに一罪が成立するものと解すべきであるから、二名の児童に淫行をさせた本件は併合罪として処理すべきであるのに、これを包括一罪として処理した原判決は法令の適用を誤つたものといわねばならないが、被告人には累犯前科があり、併合罪の処理にあたつては刑法一四条の適用を受けることとなる結果、いずれにしても処断刑期の範囲は同一であるから、この誤りが明らかに判決に影響を及ぼすものとは認められない)。

【事件番号】神戸家庭裁判所判決/昭和60年(少イ)第1号,昭和60年(少イ)第3号
【判決日付】昭和60年5月9日
(証拠の標目)
 ところで、同号にいう「児童に淫行をさせる行為」には自己が児童の淫行の相手方となつた場合を含まないと解すべきことは弁護人主張のとおりであるが、他人を教唆し同人をして児童に自己を相手方として淫行をさせた場合には、単に児童の淫行の相手方となつたに過ぎないから犯罪は成立しないとすべきではなく、「児童に淫行をさせる行為」の教唆犯が成立するものと解するのが相当である。けだし、児童福祉法三四条は児童をとりまき児童に働きかける者に対して児童の福祉を著しく阻害する行為を禁ずることにより児童の健全な育成を図っているのであり、「児童に淫行をさせる行為」とは児童に対し事実上の影響力を及ぼして児童の淫行を助長、促進する行為をいうものと解されるところ、「児童に淫行をさせる行為」をするよう他人に教唆した者は児童の淫行の相手方が第三者であるか教唆者であるかにかかわらず、児童の淫行を助長、促進してその法益を侵害したものであるから教唆犯の責を負うべきであり、児童の淫行の相手方が教唆者であるか否かによつて教唆犯の成否を
左右すべき合理的な理由はないからである

【事件番号】大阪高等裁判所判決/昭和27年(う)第2515号
【判決日付】昭和28年3月11日
【参考文献】高等裁判所刑事判例集6巻2号252頁
しかし、右児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項に該当する罪は、その侵害せられる法益が、対象である児童の福祉という専属的単一の利益であるから、児童をして淫行をさせたときは、淫行の回数が一回であつても同罪が成立することもちろんであるが、それが継続的に反覆せられる場合においても、回数のいかんにかかわらず児童ごとに包括的に観察して一罪とする趣旨であると解すべきである

3 両法の関係
 ここで、児童ポルノ・児童買春行為が、児童ポルノに描写された者や児童買春の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利を侵害するとすれば、それは「児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する」ことに他ならないから、本法が児童福祉法の特別法であることは明らかである。
 児童ポルノ・児童買春罪の位置付けとしては、児童ポルノ・児童買春行為が、児童ポルノに描写された者や児童買春の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利を侵害するという意味で「児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する」一つの犯罪類型であることから、有害行為を追加するものと理解すべきである。

 裁判所は、児童ポルノ・児童買春に係る行為が児童の福祉を害さないといえるのだろうか?

4 児童福祉法淫行罪に見る児童ポルノ
 児童福祉法淫行罪は、制定当時は売春宿における児童の使用を禁止するのが目的であって、そもそも買春行為を禁止するものである。
 しかも、写真を撮影したという事例も多いのであるから、実際上も、児童ポルノ・児童買春に関する行為は児童福祉法の淫行罪等の有害行為と重複する部分が多い。

【事件番号】横浜家庭裁判所/昭和38年(少イ)第6号
【判決日付】昭和38年12月12日

【事件番号】東京高等裁判所判決/昭和62年(う)第1258号
【判決日付】昭和63年2月2日

5 立法過程
 立法過程でも、淫行罪と買春罪とは、共通の目的・保護法益だという前提で、買春は児童福祉法淫行罪(淫行罪=淫行させる場合にのみ成立するという認識であった)を補うものだと説明されている。

新聞報道
児童買春の処罰強化 臨時国会に特別法案 「親告罪」を削除へ 自民方針
1997.08.03 東京朝刊 1頁 総合1面 (全879字) 
 当初は刑法、売春防止法児童福祉法などの法改正を検討してきたが、「刑法改正を行うには法制審議会で長時間の審議が必要。児童買春の現状を考えるべきだ」(自民党関係者)として、目的を絞った特別法を議員立法で制定する方針に転換した。

145回-参-法務委員会-08号 1999/04/27*1

145回-参-法務委員会-08号 1999/04/27
円より子君 おっしゃるとおり、民法七百三十一条では、婚姻年齢は男子が満十八歳、女子が満十六歳というふうに決められておりますし、十八歳にするということについてはさまざま私どもも検討いたしました。
 そして、一定の年齢に満たない者に対し特別の保護を与えることを定めた先ほど申しました児童の権利条約がございますが、この条約では、その対象となる児童を十八歳に満たない者とすることを原則としております。これも委員御存じだと思います。
 また、我が国におきましては児童福祉法がございますけれども、この児童福祉法では、児童が健やかに成長するように各般の制度を整備するとともに、児童に淫行をさせる行為等、児童買春に関連する行為をも処罰の対象としておりまして、この法律ではその対象となる児童をやはり十八歳に満たない者としております。
 これらの条約、法律の目的と、この法律の目的から考えて、対象とする者の範囲も同一にすべきであるという結論に達しまして、私どもは十八歳未満の者をこの法律に言う児童としたところでございます。

145回-衆-法務委員会-12号 1999/05/14
○円参議院議員 先生が今おっしゃったようなさまざまな国内の法律や、また諸外国の法律について、この年齢については随分議論が交わされました。その結果でございます。
 ですから、今先生がおっしゃったようなことは繰り返しませんけれども、御懸念のように、子供の定義というものは必ずしも一義的に定まっているわけではございませんので、先生も御存じだと思いますが、一定の年齢に満たない者に対し特別の保護を与えることを定めた児童の権利に関する条約というのがございまして、その条約の中で、その対象となる児童を十八歳に満たない者とすることを原則としております。そして、この条約は世界的に普及しておりまして、この十八歳という年齢は、子供と大人を分ける緩やかなメルクマールになりつつあると私は思っております。
 また、我が国におきましては、児童が健やかに成長するように各般の制度を整備するとともに、児童に淫行させる行為等児童買春に関連する行為をも処罰の対象とする法律に児童福祉法がございますが、同法の対象となる児童も十八歳に満たない者となっております。
 これらの条約や法律の目的と今回つくります法律の目的から考えまして、対象とする者の範囲も同一ですべきであるという結論に私ども達しまして、十八歳未満の者をこの法律に言う児童としたものでございます。
 ちょっと今、林議員からも指摘がありましたが、先ほど先生がおっしゃった、婚姻年齢が女性の場合我が国は十六歳でございますけれども、この十六歳ということに関しましても、児童福祉法では同法の対象となる児童は十八歳に満たない者でございますが、かつ、それは女性の婚姻による例外を認めておりませんことは先生も御承知のとおりと思いますので、そういう結論に達しました。
    〔橘委員長代理退席、委員長着席〕

145回-衆-法務委員会-12号 1999/05/14
○坂上委員 私は、提案者に申し上げたいのですが、やはりこういうのは、児童保護がこの法律の目的、児童福祉法もやはり児童の福祉、保護のため、それから学校教育法もそうなんですね。だから、これを専属管轄として家庭裁判所、しかし、家庭裁判所になぜしたのか。実務上の扱いがどれだけ違うのかというと、大した違いがないのですよ。
 だけれども、立法の趣旨としては、やはり児童の福祉を害するような行為については専門は家庭裁判所であるから、それからまた、この少年法の趣旨からいって家庭裁判所の管轄がベターである、こういう判断のもとでなったんだ。これは、さっきの裁判所あるいは法務省の答弁でございます。せっかく先生方がそれだけ御配慮いただいてこれだけの法案ができたのでございますから、何で家庭裁判所の方を専属管轄になさらなかったのだろうか。
 ただし、こういうことがあるのです。先生方の気持ちの中に、ここにも書いてあるのですが、
 少年を放任し又は原因を与えて少年を非行に陥れた成人を罰するアメリカの原因供与罪にならったものといわれているが、それを中途半端に採用したために、実効性の乏しいものになったうえ、職権主義的・非要式的な審問主義の家庭裁判所の手続の中に、当事者主義的・対審的手続の成人刑事事件を取入れたこと、少年一般の福祉を守るという理念から、少年保護事件と直接の結びつきのない成人の刑事事件を、少年保護事件を取扱う家庭裁判所で処理することにしたこと、保護者を対象とする処分が認められていないこと、などの制度的な問題点があるうえ、併合罪の併合の利益が害される場合があるなど立法的に解決すべき問題点が多いと指摘されている。
こういうことでございます。こういうような解説があるのですね。
 だから、端的に言いますと、今は地方裁判所でやろうと家庭裁判所でやろうと、いわゆる公開主義によるところの、刑事訴訟法によるところの裁判でございますから、何らの少年法の趣旨というものがこの裁判の中に生かされていない、全く中途半端だということがここの中に書かれているわけであります。
 したがいまして、ちょっときのう、おとといあたりの質問取りの中にも若干そんな感じを私は抱いていたのですが、先生方の中ではどういうふうな、いわゆる児童福祉というような観点から、これは、児童は被害者であり、相手は加害者であるという概念であるわけでございますのが、できるならば、私は、どうも立法の趣旨から見るならば、家庭裁判所が専属管轄にしてもいいんじゃなかろうか。
 ただ、実際は余り区別がないようでございまして、率直な話、先生方は、区別がないから、どうしようもないから地裁にしたのだ、こうなるのか、あるいは、家庭裁判所に出しても家庭裁判所はそれだけの効果を余り発揮していないのだ、こうなるのか、率直な御答弁をいただきたいのです。
○堂本参議院議員 今先生がおっしゃいましたこと、ごもっともでございまして、最初に自社さ案でつくっておりましたときに、児童福祉法の三十四条、これは淫行について決めたところですが、これは今先生がおっしゃったように、福祉の視点から淫行に関しての処罰ということで、その段階で、児童福祉法から三十四条を削除した場合には家庭裁判所を管轄にするということの議論を随分といたしました。
 しかし、三十四条を削除して、なおかつ刑法だけでやるということになりますと、今度、児童の福祉の点やなんかに関して、刑法では十分にできない、リハビリその他の点はできないということで、削除をやめた段階から、福祉が前提ではなくて、今回の場合はあくまでも刑法の領域にとどめる、そして、もっと児童福祉については、再度児童福祉法の改正をしなければならないという判断から、こういうような形になったわけでございます。

 立法過程を溯ると、そもそも児童福祉法の有害行為(淫行規定等)の改正として買春罪・児童ポルノの罪の創設が検討されていたのである。たまたま法律の名前が変わり、別の法律にまとめられただけで、保護法益も変質してしまうということはない。買春罪は実質的には児童福祉法34条1項の一項目なのである。

140回-衆-厚生委員会-30号 1997/05/28
140回-衆-厚生委員会-30号 1997/05/28
○石毛委員  質問要旨では、時間があれば質問をさせてくださいと言った部分ですので、ちょっと順序が違うことになりますけれども、今回の児童福祉法の改正では、第三十四条の禁止規定といいますか、禁止行為がさまざまに列挙されておりますけれども、その中の禁止行為で淫行に関する事柄がございます。
 これに関しましては、今の、大変行き過ぎた商業化と言ったらよろしいでしょうか、ある種退廃的な状況も起こっていると言って差し支えないと思いますけれども、例えば買春の問題ですとか、子供をポルノの素材としていくこと、あるいは援助交際の問題等々、さまざまに性に関する問題が起こってきております。淫行という一言で片づけてしまうには余りにも、現代の社会問題化している子供の性の問題というのは大きい課題だというふうに思います。
 そして、九六年八月には、スウェーデンストックホルムで、子供の商業的性的搾取に反対する世界会議が開催されまして、そこで採択されました宣言では、子供の商業的性的搾取は犯罪であり、なくすための法や政策や計画等々の見直し改正が必要、そういう内容の採択がされております。
 日本では、この問題を論議しますと、児童福祉法では罰則規定がありますので改正は簡単ではないというようなお答えもありますし、それから、売春禁止法は買春の方の罰則規定がないという問題ですとか、あるいは刑法の場合は、六カ月までの間に告訴が受理されませんと時効になってしまうとかというようなことで、なかなか買春の問題を初めとする商業的な性的な子供さんに対する搾取に対して有効な手だてがないように思います。
 今回の児童福祉法の改正には間に合いませんでしたけれども、この問題につきまして、各省庁にまたがる問題でございますけれども、ぜひ積極的に検討するということを御確約いただければ私は大変うれしく存じますけれども、大臣、いかがでございましょうか。
○小泉国務大臣 今の御指摘の問題については、今回の児童改正法については盛られておりませんが、性的虐待の問題について、これは大変深刻な問題でありますので、例えば刑法において、十三歳未満の児童を姦淫した者については国外犯を含めて法定強姦罪として処罰対象とされておりますから、現行法上でも一定の対応が図られていると思います。
 しかしながら、今これからの問題として、国際的な協力体制の強化とかあるいは罪刑法定主義表現の自由との関係があります。こういう広範囲にわたる問題がありますから、関係省庁とよく連携をとりながら、引き続き重要な検討課題として対応していきたいと思います。
○石毛委員 ありがとうございます。





140回-参-厚生委員会-06号 1997/04/01
140回-参-厚生委員会-06号 1997/04/01
竹村泰子君 今回の法改正で幾つか評価できるところもあります。例えば児童自立生活援助事業と新たな項をお加えになりまして、保護するだけではなくて自立を支援するという、そういうことをあらわしておられます。それから、同じく第六条に新たに放課後児童健全育成事業をお加えになった。これは学童保育に法的な根拠を与えるという意味で評価をしているところです。やはり働く両親が多くなってきておりますから、子供たちの放課後というのがとても気にかかりますし、そういう意味で大変この部分は私どもも評価しているんです。
 しかし、例えば先ほどもどなたかから御意見が出ておりましたけれども、現行の児童福祉法は三十四条の中で子供にしてはいけない行為を列挙して、その違反については処罰規定を設けて臨んでおりますけれども、その禁止行為の類型は、例えば「身体に障害又は形態上の異常がある児童を公衆の観覧に供する行為」だとか、これはちょっと言いたくない言葉ですが、物ごいと言っておきましょう、これは法律に入っているんですけれども私は口にするのもはばかられる言葉ですが、児童に物ごいをさせたり児童を利用して物ごいをする行為とか、「酒席に侍する行為を業務としてさせる行為」とか、「淫行をさせる行為」とか、おおむね非常に古典的な形態に限られております。今日、子供の生存や発達を支援する大人が、そういう意味で大きな社会問題となっている体罰だとか児童虐待だとかいじめだとか、そういう子供が受けている大きな侵害行為、このことを有効に禁止するものとは全然なっていません。なっていますか。今のこの三十四条に列挙されている数々の項目をずっともう一度大臣もお読みになってみてください。こういう古典的なものをそのままここに、改正もせずにずらずらこれを並べて新しい改正法だといってお出しになるこの神経。
 そして、私どもが強く要望しておりました子供をポルノなどの材料として使ってはならない、あるいは買春の、大人の責任として、子供たちを買春の相手として買ってはならない、こういうことを入れたいと強く望んでおりましたけれども、やはりここにそういったことを列挙することは非常に難しいということを聞いております。
 やはり、この児童福祉法の子供にしてはいけない行為、それにふさわしい内容に整理、改正されなければならないだろうと思いますが、このことについてはどう思われますか。
○政府委員(横田吉男君) 児童福祉法の三十四条にいろいろな禁止行為の規定がございますが、御指摘のポルノあるいは児童買春等の問題、これは私どもといたしましても大変深刻な問題であると考えております。ただ、児童のいわゆる買春行為ですが、あるいはポルノの問題については刑法等によりまして実体法の面では一応の対応が図られているところがあるわけであります。
 今後、御指摘の古い表現もあるということでございますが、この見直しにつきましては、国際的な協力体制をどうしていくか、そういった司法共助のあり方、あるいは禁止する場合の罪刑法定主義、あるいは表現の自由といった関係もあるかと思います。こういった面で広範囲な検討を要する課題がありますので、言葉の表現の問題も含めまして、私ども関係省庁と連携をとりながら今後の課題として検討させていただきたいというふうに考えております。
竹村泰子君 大変残念に思います。引き続き、きちんとこういつたことを改めた本当によい法案を近い将来出すことができるように私も期待をしたいというふうに思います。




140回-参-厚生委員会-08号 1997/04/08
140回-参-厚生委員会-08号 1997/04/08
参考人菅源太郎君) 子どもの人権保障をすすめる各界連絡協議会の事務局をしております菅源太郎と申します。児童福祉法改正案に関します意見陳述をさせていただけるということで、大変うれしく思っております。
 子どもの人権保障をすすめる各界連絡協議会は昨年で設立十年を迎えまして、この間、子どもの権利条約を活動の中心に据えて国内法の改正あるいは条約の広報等々について研究あるいはさまざまな申し入れ等の活動を行ってまいりました。今般の児童福祉法の改正につきましては、昨年十二月に中央児童福祉審議会基本問題部会中間報告に関する要請書というものを厚生省の方にも申し入れているところでございます。
 そして、法第三十四条の禁止行為に絡みまして、子どもの権利条約第三十四条に基づいて、子供の買春行為、ポルノの被写体とする行為、対価を伴うわいせつ行為、そういうものを禁止行為に追加してほしいと考えております。昨年、ストックホルムで開かれた子どもの商業的性搾取に反対する世界会議を受けて国内外の関心も高まっており、今回の法改正にぜひとも盛り込んでいただきたい。あるいは、条約第十九条に基づく保護者による身体的、心理的性的虐待及び遺棄を禁止事項として追加していただきたいと考えております。




140回-参-厚生委員会-09号 1997/04/10
清水澄子君 次に、私は児童福祉法の改正の中で一番気になって、欠落している部分として主張してきましたのが三十四条の禁止行為のところなんです。この点では厚生省もその条文の中にまだ昭和二十年代の子供の状況に照らした禁止行為など非常に不適切な表現があるということはもう認識をしていただいていると思うんですけれども、私はさらに今日的な子供の買春とかポルノとか性的搾取とか虐待とか、そういう新たな問題をどうしても法律の中に禁止行為の規定として見直していくことが非常に必要だと思っているんです。
 そこで、私、ぜひ大臣に聞いていただきたいんですけれども、実は今、世界では何百万人もの子供たちが大人たちの性の道具として売られているわけですね。アジアでは特にタイとか南アジアが多いんですけれども、十六歳以下で百万人の子供たちが性産業へ売られて働いているという、このことが実は国際社会で非常に大きな問題になってきております。そしてまた、日本は特に子供たちをポルノの対象として児童ポルノをたくさん製造して、そしてそれを販売して世界に輸出しているという状況で、これが絶えず国際会議で、日本はそれに対してほとんど法的な規制もない、その問題に非常に政治が無関心だということで批判を受けているわけです。
 それとあわせて、この委員会でも問題になったんですけれども、日本の国内でも援助交際という名の売春行為、それからテレクラ売春とか、そういうものが当たり前のように私たちの社会に広がっている。そういう意味で、子供売買春が社会問題化してきていると思います。
 そして、今申し上げたように、私もずっと見て回りました。余りそういうことをよく見ていなかったんですが、一般書店やコンビニに本当に子供の、八歳の何子ちゃんとか六歳の○○子ちゃんとか、そういう子供を被写体としたポルノのビデオとか雑誌がいっぱい売られているんですね。それらは今の児童福祉法三十四条の禁止行為には児童に淫行させる行為は禁止と、これはさせたときというのであって、それを犯した者というのは全然対象にならないんですね。
 ですから、国際的に問題になっているのは、子供は自分から私をポルノに使ってくださいなんというのはいないのであって、これは大人が子供を使って金もうけにしたり自分の性を満足させたり、そういう形で搾取をしている、またそれが子供の人権を侵害し虐待していることだと。子供のときにそういう対象にされたら子供は生涯非常に深い精神的な傷を負い、そして健康上もいろんな問題が起きていて、それを国際的には各国でどのようにケアしてリハビリして自立した社会復帰ができるか、大変な研究と努力が今行われているんですが、日本は今度の児童福祉法の改正でもほとんどそれらは対象にできない、やっていないという、こういう問題がございます。
 私は、たまたま昨年八月にスウェーデンで、これはスウェーデン政府とユニセフが中心になって呼びかけて子供の商業的性的搾取に反対する世界会議というのが開かれました。この会議は、世界各国から百二十六カ国の政府と約二十の国際機関の代表と、そして五百のNGO、そういう人たちが参加をして、そして世界から二〇〇〇年までにこういう問題をなくしていこうじゃないかと。これは大人が子供たちの人格、いわゆる子供は未来だと。その未来を大人が破壊しているというのは二十一世紀という私たちの本当の未来はつくれない、大人の責任としてこの問題を解決していきたいと。その基本になっているのは子どもの権利条約の履行なんですね。三十四条がまさにそのことを各国で責任を持ってやりましょう、それを国際協力しながらやりましょうということなんです。
 そこでも、実は政府代表で私は行ったんですけれども、非常に恥ずかしい思いをいたしました。日本の子供のポルノ、それが世界じゅうに回ってきて、自分たちがどんなに国内で一生懸命それを教育しても日本から入ってくると。そして、同時にアジアの各国では日本の男性のそれこそ地位の高い医者とかそういう人たちが今逮捕されていますね。そういうふうなことが全然日本の国内で問題にならない。その上に日本の国内では子供たちが自分で自分の性を売るというのが社会で非常に広がっているというのは実に自分たちは理解できない、納得できるように説明してくださいという、そういうことを口々に言われて私は非常に恥ずかしい思いをいたしました。
 そして、そこでは今後二〇〇〇年までに各国が真剣にこの子供の人権に対する認識を社会に広げていこう、そしてもっとそれぞれの国の法律とか規則をちゃんと、本当の意味で法が今の時代に合っていない国が多いんだということで、各国はほとんど七〇年代から法改正は進んじゃったんですけれども、それをもっと徹底していくと。それから、これは一国だけではだめだと、国際協力が必要だと、それは司法の面でも警察の面でも国際協力が要るというふうなことがあって、そしてその被害を受けた子供をどうリハビリテーションするのか、こういうことで宣言や決議が決められて、それをずっと各国なり、またはそれぞれの地域で、地域というのはアジアならアジア地域でフォローアップしていくということを約束したわけです。
 そしてまた、もうそろそろ一年たち出したところなんですが、EUなんかはすぐ欧州議会を開いてそれぞれのフォローアップをどうするかということを真剣に討論しておりましたけれども、実は五月二十二日にはマニラで、これはラモス大統領が中心になって、マニラの政府が中心になって、今度は世界の観光業界とかそういう人たちを集めて、そして児童の商業的性的搾取をなくしていく観光業界の社会的責任というので会議が開かれます。そこでもまた日本のことが課題になっている。全然日本は進んでいないということで課題になっています。そして、さらにそれに続いて日本で、東京で五月二十八日に、スウェーデンのシルビア国王妃がおいでになって、これもユニセフとの共催なんですけれども、「児童の商業的性的搾取に反対するストックホルム世界会議のフォローアップ会議および国際シンポジウム」が開かれるんです。私のところにも案内が来まして、きちんとこの中では日本の国内の法制化の問題をみんなで研究したいと、そして日本の中でこの子供売買春というのはどうしてこんなに野放しになっているのか、このことについてモニターしたいとか、そういうテーマが寄せられてきております。こういうことは私が個人的に言っているのじゃなくて、非常に国際的にこのことは今大きな問題になってきております。
 ですから、日本が何もしないということ、特に子供ポルノということについてもっとこれをしつかり注目してほしいという大変強い要望が来ておりますので、三十四条だけではできないんですけれども、まず三十四条の禁止規定にはっきりこれらの子供に対して大人がやってはいけないこと、性的な搾取とか虐待は禁止していくということの中で、子供ポルノとか子供を買うということはいけないんだという、買うという大人の方がもうちょっと処罰されなきゃいけないんですけれども、そういう面でこれらの点を私はぜひ児童福祉法の改正が必要だと思っておるわけです。
 ですから、こういうことについて今後ぜひ取り組んで、早急にこれに取り組むということをぜひ私はひとつここでお約束いただきたいんです。そうすれば国際会議で日本もやっと取り組む課題になりましたというふうに私は報告できるんですけれども、ぜひよろしくお願いいたします。

竹村泰子君 参考人質疑を含めましてきようで四日目、審議が続いております。かなりたくさんのことが出されてまいりましたので、私はきょうはこれまで言い足りなかったところ、それから確認の意味で少し答弁を求めていきたいと思うところをお尋ねしたいと思います。
 今、清水議員の方からもお尋ねがございましたけれども、最初に三十四条のいわゆる禁止行為、ここのところで早くから市民団体、女性団体、宗教団体などから要望がございました。まとめて十五ほどの団体が売買春問題ととりくむ会というのをつくっておられますけれども、この会は売春防止法を獲得した団体の後ろの組織といいますか、国内の売買春問題、また日本とかかわりのある性暴力の問題などに取り組んできたところでありますけれども、日本では少女が売春防止法五条違反、公然勧誘をしても罪に問われるのに、買春の男性は処罰されない。買った方は処罰されない。この矛盾した法体系を変えるべく、児童福祉法三十四条の禁止行為の列挙項目に児童を性的に搾取する行為、買春と児童ポルノを加えるようという署名運動を続けてこられたところでございます。
 私どもも何とかこの御要望にこたえたいと思いまして、ずっと法制局とも協議、議論を重ねてまいりました。ここのところは、先日の質疑で私もちょっと触れましたけれども、非常に微妙な問題もあり、それから東京都が淫行禁止規定をなかなか思い切って踏み込んで入れられなかったということを考えましても、やはり児童を性的な題材に使用する行為あるいは児童を買春やポルノの対象とする行為、このことが、私たちは日常的に目に余る思いで見ているにもかかわらず、これの定義づけがなかなか難しいというふうに聞いております。そして、この禁止行為は罰則の構成要件となるわけですから、憲法三十一条の罪刑法定主義の趣旨からも十分に定義を、規定を明確にする必要があるというふうに法律の専門家は考えておられるようで、私もそのあたりのところはそのとおりだと思います。
 買春については性的な自由、性的な題材、ポルノについては表現の自由との関係が問題となって、規制が非常に広がって広範なものとなるということ。
 それから、この児童福祉法の三十四条一項六号の「淫行」についてはこういうふうに書いてあります。「性道徳上非難に値する性交又はこれに準ずる性交類似行為」、これは刑事裁判実務大系の「風俗営業・売春防止」というところを参照したものです。また、青少年保護育成条例の「淫行」は、「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為」というふうに書かれておりまして、今回の改正では、私どもの希望したように、この三十四条に買春あるいはポルノに少女を使うことといいますか、そういったことが禁止行為としては入れられなかったということがございます。
 法の見直しということも近い将来考えなければならないと思っておりますので将来に向けての質問を今しているわけですけれども、そういったことでどのようなお考えから、私が今幾つか例を出しましたけれども、今回強く望まれていたこれらの禁止行為の中に入れられなかったのかというお考えを聞かせていただきたいと思います。
○政府委員(横田吉男君) 児童ポルノを含め、いわゆる児童の性的虐待の問題については非常にゆゆしい問題であるというふうに考えております。
 この問題について、現行児童福祉法におきましては、三十四条においては一項九号で、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもって自己の支配下に置く行為というものは禁止されて罰則の対象にもなっております。また刑法等におきましても、わいせつ物の陳列等が処罰の対象になっているというようなことで、実体法の面でも一応の対応が図られているということがございます。
 今後どうするかにつきましては、先生の御指摘にもありましたように、定義の問題をどうするか、罪刑法定主義あるいは表現の自由との関係をどういうふうに考えるかというようなことで、私どもだけでなく非常に広範囲な検討を要するということでございますので、児童の権利条約の趣旨も踏まえまして、今後関係省庁とも連携をとりながら検討してまいりたいというふうに考えております。
 禁止行為のいろいろな表現上の見直しにつきましても、引き続き検討課題とさせていただきたいと存じます。

 さらに、平成9年の児童福祉法の改正の際には、買春について児童福祉法による規制を検討することが両院で附帯決議とされている。その結果が児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律であることは明らかであるから、児童福祉法と保護法益が違うことは有り得ない。児童福祉法と本法とが一般法・特別法の関係にあることは間違いない。

140回-参-厚生委員会-09号 1997/04/10*2
140回-衆-厚生委員会-31号 1997/05/30
○町村委員長 この際、本案に対し、長勢甚遠君外六名から、自由民主党新進党民主党日本共産党社会民主党・市民連合並びに21世紀の六派及び土肥隆一君共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。
 提出者より趣旨の説明を聴取いたします。福島豊君。
○福島委員 私は、自由民主党新進党民主党日本共産党社会民主党・市民連合、21世紀及び土肥隆一君を代表いたしまして、本動議について御説明申し上げます。
 案文を朗読して説明にかえさせていただきます。
    児童福祉法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
   政府は、次の事項について、適切な措置を講ずべきである。
 九 児童の人権の尊重という観点から、虐待、買春、性的搾取等に関する規制の強化等について検討を進めること。また、児童虐待に関する児童福祉法の運用基準の明確化等を図り、その防止及び児童の保護に万全を期するとともに、児童福祉施設において体罰が生じることがないよう施設等に対する指導の徹底等を図ること。



140回-衆-本会議-41号 1997/06/03*3

6 本法違反事件は少年法37条1項の適用を受ける
 本法が形式的にも児童福祉法の特別法であって、実質的にも児童買春・児童ポルノの罪が児童の福祉を害する行為である。
 児童の福祉を害する行為については家庭裁判所の専属管轄とされているから、家庭裁判所での審理が適法であり、地方裁判所における審理は管轄がないため違法である。
 一般法である児童福祉法違反の管轄が家裁である以上、その特別法である本法の管轄が家裁であることは当然の結論である。
 本法が児童福祉法の特別法である以上、少年法37条1項4号の「適用」であって、類推とか準用ではない。少年法の合目的的解釈である。

少年法第37条(公訴の提起) □□
次に掲げる成人の事件については、公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
一 未成年者喫煙禁止法(明治三十三年法律第三十三号)の罪
二 未成年者飲酒禁止法(大正十一年法律第二十号)の罪
三 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第五十六条又は第六十三条に関する第百十八条の罪、十八歳に満たない者についての第三十二条又は第六十一条、第六十二条若しくは第七十二条に関する第百十九条第一号の罪及び第五十七条から第五十九条まで又は第六十四条に関する第百二十条第一号の罪(これらの罪に関する第百二十一条の規定による事業主の罪を含む。)
四 児童福祉法第六十条及び第六十二条第二号の罪
五 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十条及び第九十一条の罪

 もとより、少年法37条が一定の成人の刑事事件につき家裁専属管轄としているのは、これら少年の福祉を害する罪の事件は、少年保護の専門機関である家庭裁判所において取り扱わせることが、事案の処理の適正妥当を期するうえから望ましいということに基づくものである。

池本裁判官論文 判例タイムズ1081号P80
少年の福祉を害する成人の刑事事件については家庭裁判所の専属管轄とされているのである(裁判所法三一条の三第一項三号)。その趣旨は、少年非行の背後には成人の無理解、不当な取扱が多く、そのような種類の成人の犯罪行為は、少年事件を管轄する家庭裁判所において、少年保護の見地からなすべきものとされたのである。

 少年法1条にも 少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」と明言されている。

少年法第1条(この法律の目的)
この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

 判決例を挙げる

【事件番号】札幌家庭裁判所判決/昭和39年(少イ)第5号
【判決日付】昭和39年5月11日

 最高裁のホームページ*4でも次のように解説されている。

(3) 家庭裁判所
 家庭裁判所とその支部は,地方裁判所とその支部の所在地と同じ所にあります。このほか,交通不便な地等にある簡易裁判所のうち,特に必要性の高いところに家庭裁判所出張所を設けて家事事件の処理に当たらせ,国民の利便を図っています。
 家庭裁判所は,家庭の平和を維持し,少年の健全な育成を図るという理念の下に,昭和24年(1949年)1月1日に新たに設けられた裁判所です。
 家庭裁判所は,夫婦関係や親子関係の紛争など家事事件について調停や審判をし,罪を犯した未成年者等に対する少年事件について審判を行うほか,少年の福祉を害する成人の刑事事件について裁判をします。

 文献もある。

法律学全集 少年法新版p453
少年法が対象としている第二の分野は、少年の福祉を害する成人の刑事事件である。そして、この種の刑事事件は一般の刑事事件と分離して家庭裁判所の管轄とされている。ただし、手続は一般の刑事手続と同様に刑事訴訟法の規定によっている。
少年の福祉を害する成人の刑事事件を家庭裁判所の管轄とした趣旨は、現行法の提案理由によると、少年不良化の背後には成人の無理解や、不当な処遇がひそんでいることが短めて多いが、このような成人の行為が犯罪を構成する場合には、その刑事事件は、少年事件のエキスパートであり、少年に理解のある家庭裁判所がこれを取り扱うのが適当であり、またかかる成人の事件は、少年事件の取調べによって発覚することが多く、証拠関係も大体において共通であるから、この点からしても、この種の事件は、家庭裁判所がこれを取り壊うのが便宜である、というにある。

注釈少年法改訂版P357
本章は,少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講じるという法の目的(1条)を受けて設けられたものである。非行の背後には成人の無理解や不当な取扱が多く, そのような成人の行為が犯罪となる場合の刑事事件は,少年事件を専門に扱い少年に理解のある家庭裁判所が取扱うのが適当であること, このような事件は,少年事件の捜査・調査等の過程で発覚することが多く,証拠関係も共通する場合が多いことから, この種の事件は家庭裁判所が取扱うのが便宜と考えられ, 少年の福祉を害する成人の刑事事件は家庭裁判所の管轄とされた(平場453 貢)。成人の刑事事件に関する家庭裁判所の管轄権は,現行法の草案段階のG H Q 意見に現れており(浜井ほか131 頁), 少年を放任し又は原因を与えて少年を非行に陥れた成人を罰するアメリカの原因供与罪にならったものといわれている

 しかも、37条の趣旨は合理的解釈により拡張されて、明文を離れて同条所定の罪が少年によって犯された場合場合にも適用されているのである。つまり、少年法37条1項は限定列挙ではないし、限定的に解する必要はない。合目的的な解釈が求められる。

【事件番号】静岡家庭裁判所浜松支部判決/昭和40年(少イ)第5号
【判決日付】昭和40年6月19日
【参考文献】家庭裁判月報18巻3号117頁

【事件番号】金沢家庭裁判所判決/昭和39年(少イ)第3号
【判決日付】昭和39年4月2日
【参考文献】家庭裁判月報16巻10号188頁

【事件番号】東京家庭裁判所判決/昭和28年(少イ)第19号
【判決日付】昭和29年4月13日
【参考文献】家庭裁判月報6巻5号17頁
 本件については公訴提起当時被告人が成人たる年令に達していなかつたので少年法第三十七条に照して見ると、果して裁判権家庭裁判所にあるのかどうか疑義をはさむ余地がないでもない、しかし同法において同法第三十七条所定の如き少年の福祉を害する刑事々件を家庭裁判所の管轄に属せしめた趣旨を考えると少年たる被告人のこの種事件を特に除外すべき理由は毫も見出し得ない従つて少年法第三十七条に「成人の事件」としたのは通常成人において起り得る事件という程度の趣旨に解すべきだと考える。殊にかく解することによつてのみ本件の場合の如く事件繋属後成人に達した場合にも何等の不都合を生じない。即ち当裁判所はこの点について積極に解するものである。

【事件番号】札幌家庭裁判所判決/昭和39年(少イ)第5号
【判決日付】昭和39年5月11日
【参考文献】家庭裁判月報16巻10号182頁
      判例タイムズ178号190頁
(弁護人の公訴棄却の主張に対する判断)
弁護人は「被告人は少年であるから、本件は、少年法三七条一項により家庭裁判所に起訴すべきではなく、地方裁判所に起訴すべきものであるから、本件公訴は棄却されるべきである。」と主張するので、以下この点について判断する。弁護人が右主張の理由として第一に述べるのは、少年法三七条一項は、「成人の事件」という文言を用いており、少年の事件を除外していることは、文理上明らかだということである。
 たしかに、少年法三七条一項は、「次に掲げる成人の事件」と規定している。
したがつて、ただこの文言のみによつて解釈するなら、弁護人主張のように、「少年の事件」は別異に扱うべきであるという考えも成り立ちうるであろう。
しかし、ことを実質的にみるときは、このような考えはこれを支持すべき理由に乏しいといわなければならない。
少年法の右条項が、一定の罪の事件をかかげ、とくにこれを家庭裁判所の権限としたのは、いうまでもなく、これら少年の福祉を害する罪の事件は、少年保護の専門機関である家庭裁判所において取り扱わせることが、事案の処理の適正妥当を期するうえから望ましいということに基づくものである。
このような立法趣旨に照らすと、同条のもつ意義は、これら少年の福祉を害する罪の「刑事事件」を家庭裁判所の権限とした点にこそあるというべきであつて、このような刑事事件について、さらに成人が犯したものと少年が犯したものを区別し、これを別異に扱うべき合理的な理由は全く見出せない。
結局、同条の「成人」という文言は、立法の当時、これらの罪を少年が犯すというような事態があまり予想されなかつたことのために用いられたというに止まり、とくに限定的な意味を与えられているものではないと解すべきである。
弁護人が、主張する理由の第二は、二〇歳未満の者の刑事事件は、家庭裁判所においては取り扱わないというのが現行法の大原則である以上、少年法三七条一項にかかげられた罪の事件でも、これを少年が犯した場合には、この少年の刑事事件の一般の例にしたがい家庭裁判所に公訴を提起しなければならないと解すべきであるというものである。
現行法が、少年の刑事事件を家庭裁判所において取り扱わないことを建前としていることは、まことに弁護人主張のとおりである。
しかし、これは、家庭裁判所が、少年に対するものであつても、一般に「刑事事件」を取り扱うのは適当でないという理由に基づくものである。
しかも、他方、家庭裁判所は、少年の事件であれば、刑事事件はともかく、保護事件については、本来権限を有するのに、成人の事件に関しては、およそ権限を有しないことがそもそもの建前となつている。
ところが、少年法三七条一項は、とくに例外として、刑事事件について、しかも、成人の事件に関しても、家庭裁判所の権限を認めているのである。
この場合、少年の事件に限つてはこれを除外しているものとすれば、なにゆえにそのような区別がなされたのか、その理由を理解することができない。
すでにこのように成人の事件について家庭裁判所の権限が認められるべき場合であるなら、被害者のみならず、被告人そのものも少年であるような場合には、少年たる被告人の処遇の適正をはかるという見地からも、なおさらというべきであろう。
結局、当裁判所は、以上のような理由により、少年法三七条一項にいう「成人」の文言は限定的に解すべきでなく、本件のように同条項にかかげる罪を少年が犯した場合においても、公訴は、地方裁判所でなく、家庭裁判所に提起すべきであると考える。


 だとすれば、少年法37条1項に列挙されている罪名についても単なる例示であって、児童の福祉を害する罪には適用することを許されると解すべきである。
 そうであるならば、かつ、児童ポルノの罪が児童の福祉を害するならば、児童ポルノの罪についての刑事裁判権は家裁にあって地裁にないとするのが、少年法37の趣旨にも合致するし、被害児童の保護も徹底するし、合理的である*5。

 児童ポルノの罪が児童の福祉を害するのであれば、本件は家裁で審理するのが望ましかったことは否定できない。にもかかわらず地裁で審理を続けたのでは、被告人の裁判を受ける権利の面でも、被害児童の回復・問題除去の面でも適切な判断は望めない。

7 実務上の問題点
 児童福祉法淫行罪は家裁、児童ポルノ・児童買春罪は地裁・簡裁という実務については、家裁裁判官からも問題点が指摘されている。

池本論文 判例タイムズ1081号P80
第8 家裁の成人刑事事件
 1 家庭裁判所での成人事件
 少年法三七条には、未成年者喫煙禁止法違反の罪、未成年者飲酒禁止法違反の罪、労働基準法五六条又は六三条に関する一一八条の罪、一八歳に満たない者についての三二条又は六一条、六二条若しくは七二条に関する一一九条一号の罪及び五七条から五九条まで又は六四条に関する一二〇条一号の罪(一ニー条による事業主の罪も含む。)、児童福祉法六〇条及び六二条二号の罪、学校教育法九〇条及び九一条の罪につき、公訴は家庭裁判所に提起しなければならないときれている。
 少年の福祉を害する成人の刑事事件については家庭裁判所の専属管轄とされているのである(裁判所法三一条の三第一項三号)。その趣旨は、少年非行の背後には成人の無理解、不当な取扱が多く、そのような種類の成人の犯罪行為は、少年事件を管轄する家庭裁判所において、少年保護の見地からなすべきものとされたのである。その意味で、少年法三八条は、少年に対する保護事件でかかる事件を発見したときは、これを検察官又は司法警察員に通知しなければならないとの告発義務が規定されている。少年を放任し又は原因を与えて少年を非行に陥れた成人を罰するアメリカの原因供与罪にならったものといわれている(田宮裕=廣瀬健二編・注釈少年法改訂版(有斐閣)三五七頁以下参照)。
 前記裁判例のなかでも、かかる家庭裁判所の役割を強調した量刑理由が述べられている事例があった(七事件)。
 しかし、少年法の成人刑事事件に関する少年法上の規定はわずかに二か条に過ぎず、実際の審理方法は刑事事件として刑事訴訟法が適用される。したがって、審理方法は他の一般刑事裁判所である他の地方裁判所簡易裁判所と何ら変わるところがなく、却って後記の審理の制約があるので、効果的な「家庭裁判所の裁判」を実現するには至らないでいる。

 2 審理上の難点
 前記の家庭裁判所の専属管轄の定めは、反面他の事件は家庭裁判所では審理できないのであるから審理に当たって、事件の併合ができず、思いがけぬ不都合が生じることがある。同一の被告人が、例えば一四事件のように、覚せい剤使用と淫行罪で逮捕された場合に、覚せい剤取締法違反事件は地方裁判所に、児童福祉法違反事件は家庭裁判所に起訴しなければならない。これら二つの事件は別々に審理され、それぞれに判決をするので、通常の地方裁判所での審理のように、審理をできる限り一括して行い、併合罪処理された刑を量定するというわけにいかない。先行する裁判所が当該事件での刑を決め、遅れた裁判所が刑法四五条後段の併合罪として同法五〇条によりさらに処断することになる。しかし、それにしても、審理期間も絶対的に長〈なり、二つともに実刑判決を受けた被告人の場合は重罰感を感じることは往々にしてあり、かかる事情がしばしば控訴審での量刑不当で原審破棄の結果を招く。
 もちろんこのような事態は、確定裁判後に古い前の事件が起訴されたときに地方裁判所でもあることではある。そのために刑法五〇条が存在し、地方裁判所でも、場合により主文二つの判決となることもあるが、家庭裁判所では、前後の事件がいわば見えているのに併合審理できないのはいかにも不自然でもどかしい。これがしばしば生じる不都合である。
 なお、児童福祉法違反の罪と他の罪とが刑法五四条の科刑上一罪の関係にあって、少年法三七条所定の罪の方が重く、これで処断すべきときは、全て家庭裁判所において、蕃理すべきとされている(少年法三七条l一項)。
 前記の児童への「支配」がある児童買春事案の場合、児童福祉法違反(淫行罪)と児童買春処罰法違反(児童買春罪)が成立し、重い児童福祉法違反の罪の刑で処罰すべきことになる場合がこれに当たる。
 ところで、このような事案として家庭裁判所に当初起訴されたが、「支配」が認定されずに児童福祉法違反は無罪とされた場合、家庭裁判所は児童買春処罰法違反事件の管轄を有しないので、管轄違いの判決をすべきこととなる。
 児童福祉法違反のみで起訴されたが、「支配」が認定できない場合は無罪判決をすることになる。前述の説明によれば淫行条例違反は成立するケースもあるが、このような場合、検察官が予備的訴因として条例違反の事実を審理の対象とするよう求めようとしても、主位的訴因につき無罪、予備的訴因につき管轄違いの判決しか期待できない。
 いずれにしろ、移送や併合の可能な地方裁判所では起きないような、不毛な審理を余儀なくされる。児童福祉法違反の起訴に当たっては、検察官に「支配」について綿密な検討をされるよう、留意願いたいところである。
 ちなみに、児童売春処罰法の制定に関しては、児童福祉法と同様にその趣旨が児童保護にあることから、第一審を管轄する裁判所を家庭裁判所とすべきか一応議論されたようである。しかし、少年法三七条(成人刑事事件)の実態が特段の成果を上げておらず、却って家庭裁判所で行う意義に乏しい状態であることからして、刑事通常事件のとおり管轄としたと聞く。
 したがって、本題の性的虐待事案においても、条例違反、児童買春処罰法違反は地方裁判所簡易裁判所(罰金求刑事件のみ)、児童福祉法違反は家庭裁判所と、第一審裁判所が分赦しているという奇妙な事態を生じ、家庭裁判所での審理はその積極的な意義をいまだ見出せずにいるのである。
 なお、前者はいずれも比較的犯情の軽い事案は簡易裁判所の略式命令ですまされ、それ以外は地方裁判所に起訴されて懲役刑が求刑されている。
 児童福祉法違反はすべて家庭裁判所に起訴され、軽い事案は罰金刑が、重い事案は懲役刑が求刑されている。ちなみに家庭裁判所では略式命令は出せないと解されている(刑事訴訟法四六一条)ので、全て正式公判手続きで審理し判決されている。

 このように、管轄が分かれている問題は、疑わしきは買春罪のみという実務傾向を生んだ。検察官が支配関係に自信が持てない場合は、買春罪だけで立件されるのである。
 平成13年の警察白書*6には、買春や児童ポルノの罪は、福祉犯=個人的法益に対する罪であること、買春罪の新設によって児童福祉法淫行罪や条例淫行罪の検挙が減っていることが公に明らかにされている。 買春罪が施行された結果、児童福祉法淫行罪の検挙は、被害者数にして869名から571名に減っている。

8 学説

安部哲夫「青少年保護育成条例による淫行規制の変遷と将来」宮澤浩一先生古稀祝賀論文集第三巻三四四頁(成文堂二〇〇〇年)
児童福祉法第三四条一項六号が「淫行をする行為」とせずに「淫行をさせる行為」として、淫行の当事者を排除する形式になっているのも、性行為の当事者の性的自由を尊重しているものと思われる。それはまた、児童に対する大人の身勝手な搾取行為を規制する趣旨である。青少年条例による淫行規制においても、同様の趣旨とそれに基づく青少年保護の使命があった。青少年条例における淫行規制の役割は、したがってそろそろ児童買春等処罰法または児童福祉法の中に、発展的に解消すべきではなかろうか。私は、児童福祉法の改正によって児童買春行為の規制を進めるのがよいと考える。それは、少年法第三七条において「少年福祉阻害犯罪」として家庭裁判所の管轄下にあるのは、現行では児童福祉法違反の事案であるからである。児童買春が、児童の健全な心身の成長を阻害する犯罪であり、児童の最善の利益と福祉を抜きにしては審理は進められないからである。福祉阻害犯罪は、本来、可能な限り家庭裁判所の管轄下に置かれるべきものであろう。


9 管轄違
 しかるときは、本件は、家庭裁判所に対して起訴されるべきであったにもかかわらず、事物管轄を異にする地方裁判所に起訴されたのであるから、管轄違である。
 しかるに、管轄違の判決をせずに実体判断を行った原審の訴訟手続には訴訟手続の法令違反があり、判決に影響があることも明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

 なお、裁判所の選択肢としては、本法違反を家裁専属とせず、地裁でも家裁でも管轄できると判示することもできる。実際、少年による児童福祉法淫行罪については法律上はどちらにも起訴できる。
 検察官の裁量として家庭裁判所に起訴することが許されるかどうかについても言及せよ。

 高裁判決を紹介しておきます。

阪高裁H15.9.18
大阪高等裁判所平成15年9月18日
判決
2 当裁判所の判断
以下,記録を調査し,検討する(なお,控訴趣意について,「控訴理由第1」などとあるのは,弁護人作成の上記各書面中の見出しに付けられた番号である。)。

(1)不法に管轄を認めた違法の主張(控訴理由第20)について
所論は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下,「児童買春児童ポルノ禁止法)」という。)は,児童福祉法の特別法であり,児童買春児童ポルノ禁止法の罪は児童の福祉を害する行為であるから,少年法37条1項の適用を受け,家庭裁判所の専属管緒とされる事件であるのに,地方裁判所に起訴された本件各罪についてこれを看過してなされた原判決には不法に管轄を認めた違法がある,というものである。
しかしながら,少年法37条1項は限定列挙であり,また,児童買春児童ポルノ禁止法違反の罪を家庭裁判所の権限に属させるとする法律の規定も存しないから,児童買春児童ポルノ禁止法違反の罪についての第一審の管轄裁判所は地方裁判所又は簡易裁判所であることは明らかである(裁判所法31条の3第1項3号,2項,24条2号,33条1項2号)。
論旨は理由がない。