児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

1号ポルノか2号ポルノか?

 ますますお下劣な話になります。
    画像1 口淫(性交類似行為)
    画像2 口淫(性交類似行為)
    画像3 口淫(性交類似行為)
    画像4 陰茎に手を添えている児童
という画像が順に撮影されている場合に、「画像4」も性交類似行為で1号ポルノかという話。
 どっちも悪質なのですが、少しでも薄める、1枚でも減らすというのが弁護人のお仕事です。
 判例なんかあるのかと思いきや、金沢支部とか東京高裁とか大阪高裁の判決が使えます。
 別の事件の判決書はこうやって使えるのですが、被告人氏名がわからないと捜せません。

個別画像の検討
(1)はじめに
 原判決の認定は1号児童ポルノであるところ、問題の画像は、性交類似行為ではないから、1号児童ポルノには該当しない。
 すなわち、問題の画像は、被害児童がその左手を被告人の性器に添えているように見えるのであるが、口淫・手淫は認められないから、性交類似行為は描写されていない。1号児童ポルノには該当しない。

 一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態

(2)警察庁執務資料

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」解説
警察庁生活安全局少年課執務資料(部内用)
平成11年7月12日
警察庁生活安全局少年課
4性交類似行為
「性交類似行為」とは、実質的にみて、性交と同視し得る態様における性的な行為をいい、例えば、異性間の性交とその態様を同じくする状況下におけるあるいは性交を模して行われる手淫・口淫行為、同性愛行為などである。
5自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等を触り、又は児童に自己の性器等を触らせる行為
(1)「児童の性器等を触り、又は児童に自己の性器等を触らせる行為」については、例えば医療行為のように、そのすべてが性的な行為とまでは言えないため、処罰対象を合理的範囲に限定する必要があるので、「自己の性的好奇心を満たす目的」という行為者の主観的要件を付している。
(2)「児童の性器等を触り、又は児童に自己の性器等を触らせる行為」の具体例としては、児童の性器等(性器、肛門又は乳首)を触り、又は児童に自己の性器等を触らせる行為であって、性交類似行為とまでは認められないものが挙げられる。基本的には直接性器等に触れる行為が念頭に置かれているが、「触り」、「触らせる」方法を問わないものであることから、手袋又は手に持った器具で触れる場合もこれに該当することがあり得る。

(3)東京高裁判決H16.2.19
 東京高裁判決H16.2.19では、「児童に口淫させる行為,児童の陰部をなめる行為,その陰部にバイブレーターを挿入する行為」が、性交類似行為であるとされている。

東京高裁H16.2.19
(2)原判示第5及び第6の各事実について
論旨は,要するに,原判決は,罪となるべき事実第5及び第6として,被告人が,平成15年5月5日,被告人方において,いずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,当時13歳の二人の女児に対し,現金の対償を供与する約束をして,両児童に口淫させ一人の児童に対しては更に陰部をなめるとともに,両児童の陰部にバイブレーターを挿入するなどの性交類似行為をしたとの事実を認定判示した上,被告人の上記各行為が本法2条2項の「性交類似行為」に該当するとしているが,被告人のこれらの行為は「性交類似行為」ではなく,同項所定のいわゆる「性器接触行為」に該当するにすぎないのであるから,性的好奇心を満たす目的を認定していない原判決には理由不備ないし判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,また,これまでの裁判例では,上記の被告人の行為はいわゆる「性器接触行為」とされてきたのであって,被告人のみ「性交類似行為」に該当するとするのは憲法14条,ひいて罪刑法定主義を定めた同法31条にも違反しており,法令適用の誤り,理由不備があるというのである。
しかしながら,原判決認定に係る児童に口淫させる行為,児童の陰部をなめる行為,その陰部にバイブレーターを挿入する行為が関係証拠により明らかな行為の状況に照らして,単に性器等を触るにすぎないと解されるものではなく同法2条2項所定の「性交類似行為」に該当することは原判決が正当に説示するとおりである。所論は採用できず,もとより各憲法違反の主張も失当である。原判決には所論のような憲法違反はなく法令適用の誤りや理由不備もない。論旨は理由がない。

 このうち、

しかしながら,原判決認定に係る児童に口淫させる行為,児童の陰部をなめる行為,その陰部にバイブレーターを挿入する行為が関係証拠により明らかな行為の状況に照らして,単に性器等を触るにすぎないと解されるものではなく同法2条2項所定の「性交類似行為」に該当することは原判決が正当に説示するとおりである。

という判示からは、性交にせよ口淫にせよ挿入すれば性交類似行為、挿入しなければ性器接触行為という境界線が読み取れるのである。
 とすると、3-③-22の画像は、被害児童がその左手を被告人の性器に添えているように見えるのであるが、口淫・手淫は認められないから、性交類似行為は描写されていない。1号児童ポルノには該当しない。

(4)名古屋高裁金沢支部H14.3.28

平成14年3月28日
平成13年(う)第78号
 また,所論は,児童買春処罰法2条2項の,性交等の定義の中の「性交類似行為」とは何かが漠然不明確であるから,同条項は憲法31条に違反するともいう(控訴理由第22)。しかし,その文言からすれば,その意義は,異性間の性交とその態様を同じくする状況下における,あるいは性交を模して行われる手淫・口淫行為,同性愛行為など,実質的にみて性交と同視し得る態様における性的な行為をいうものと解されるから,同条に違反し無効であるとはいえない。

 しかし、これは買春罪の判断であって、御庁の判例に従っても、児童ポルノ罪においては、姿態の要件については画面・画像から判断するしかなく、しかも、1枚・1画像ごとの判断であるから、本件の3-③-22から、「異性間の性交とその態様を同じくする状況下における,あるいは性交を模して行われる(手淫・口淫行為)」とは認められない。

(5) 手淫・口淫行為を「性器接触行為」とした裁判例
 問題の画像は、男性の陰茎に児童が左手を添えているところから、「手淫」とも見えないことはないが、手淫・口淫行為を「性器接触行為」とした裁判例は捜せばいくらでもある。
 「性器接触行為」による買春罪の場合は「性的好奇心を満たす目的」が付加されるので、分類は容易である。
① 福岡地裁飯塚支部H14.1.15 H14わ294
東京地裁H13.8.27(村木判事事件)
 「目的」が認定されていることから、手淫を「性器接触行為」と認定していることが明らかである。
横浜地裁小田原支部H14.6.18 
宇都宮地裁栃木支部H15.2.26
東京地裁H14.6.6
東京地裁H14.2.21

児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
東京地方裁判所平成13年特(わ)第5761号等
平成14年2月21日判決
(犯罪事実)
 被告人は,
第2 同月21日ころ,東京都新宿区内のホテル「乙」において,
1 B子(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童に対し,現金1万円の対償の供与を約束して,自己の性的好奇心を満たす目的で,同児童に自己の陰茎を手淫させ,もって児童買春をした。
1 C子(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童に対し,現金1万円の対償の供与を約束して,自己の性的好奇心を満たす目的で,同児童に自己の陰茎を手淫させ,もって児童買春をした。

(6) 性交類似行為と性器接触行為の区別の重要性
 なお、 性交類似行為であろうが性器接触行為であろうが法定刑は同じだと処理することは許されない。
 2条3項の各行為の侵害態様を類型的に比較すると、
  ① 性交
  ② 性交類似行為
  ③ 性器接触行為」
一般的には、「①性交>②性交類似行為>>③性器接触行為」となることは自明であって(個別事例で逆転することはありうるが)、性交類似行為と評価されるのか、性器接触行為と評価されるのかは、量刑において、実質的にも重大な影響がある。

 この点については、児童ポルノ罪の類型に関して、大阪高裁H15.9.18が序列が認められると判示している。

阪高裁平成15年9月18日平成15年(う)第1号
所論は,②個々の画像データごとに被撮影者が特定されておらず,児童買春児童ポルノ禁止法2条3項の各号のいずれに該当するのかも具体的に特定されていないから,訴因が不特定であり,公訴棄却されるべきであったにもかかわらず,実体判決をした原判決には不法に公訴を受理した違法ないしは判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある(控訴理由第12,第13),というものである。
しかしながら,②については,本件公訴事実中の所論指摘の画像データの被撮影者が上記児童であることは明らかであり,また,関係各証拠によれば,児童買春児童ポルノ禁止法2条3項の各号に重複して該当する画像データがあることは所論指摘のとおりであるものの,検察官においてそれらの重複するものについてはより法益侵害の程度の強い先順位の号数に該当する児童ポルノとして公訴事実に掲げていることは明らかであって,包括一罪とされる本件において,それぞれの画像データが上記各号の児童ポルノのいずれに該当するかを個々的に特定する必要もないから,訴因の特定に欠けるところはないというべきである。論旨はいずれも理由がない。

 このように性器接触行為と性交類似行為の区別は深刻な問題であるにもかかわらず、通常は性器接触行為とされる被告人の行為が、性交類似行為とされるのは差別というしかない。