児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

買春周旋+児童福祉法淫行罪 静岡家裁H16.5.6 H16少イ第2号

 実刑の被告人は上訴権放棄で確定しています。
 国選弁護人もよく調べた。検察官もよく調べて応戦した。珍しい事例です。

 しかし、明かな判例違反なのに、どうして控訴しない?

http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/2C209B6F749FDC1C49256DB800064803/?OpenDocument
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H15. 5.19 東京高等裁判所 平成15(う)103号 児童福祉法違反,売春防止法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
事件番号  :平成15(う)103号
裁判年月日 :H15. 5.19
裁判所名  :東京高等裁判所
部     :第1刑事部
結果    :破棄自判
原審裁判所名:横浜家庭裁判所
裁判要旨  :
1 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律5条の児童買春周旋罪が成立するためには,被周旋者において,被害児童が18歳未満の者であることを認識していることを要する。
2 不法に管轄違を言い渡したことを理由として原判決を破棄する場合に,原審において,その公訴事実について実体審理が尽くされていると認められるときは,刑訴法398条の適用はない。

買春周旋+児童福祉法淫行罪 静岡家裁H16.5.6 H16少イ第2号

上記両名に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反並びに適量福祉法違反各坂告事件につしこて,当裁判所は検察官−−及び弁護人(国選)各出席のうえ審理し,次のとおり判決する。
主        文
被告人Aを懲役1年6月に,被告人Bを懲役1年2月にそれぞれ処する。
被告人Bに対し,この裁判確定の日から3年間,その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
分離前の相被告人Cは無店舗型風俗業を営むものであり,被告人両名は,その従業員として稼働していたものであるが,上記3名は共謀のうえ,D子が,満18歳に満たない児童であることを知りながら,平成15年12月5日午前4時27分ころ,静岡市ホテルタイム号室において,遊客である■に対し,前記Dを児童買春の相手方として引き合わせたうえ,そのころ,同所において,同児童をして,前記Dを相手に口淫等の性交類似行為をさせ、もって児童買春の周旋をし,児童を淫行させたものである。

(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は,被周旋者である■には被害児童が18歳未満の者である旨の認識がないので,本件につき児童買春周旋罪は成立しない旨主張する。
たしかに,児童買春周旋罪は,児童買春をしようとする者と児童との間にたって,児童買春が行われるように仲介することによって成立するものであるが,被周旋者において児童買春の認識(相手方が18歳未満の児童であることの認識)を有していることまでは要しないものと解するのが相当である。すなわち,児童買春等処罰法は,児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童の権利を擁護することを目的として制定された法律であるところ,児童買春を周旋する行為は,被周旋者において児童買春を行う認識があるか否かを問わず,周旋行為自体により,児童に対する性的搾取及び性的虐待のおそれを生ぜしめるものであり,そのために,児童買春罪から独立し,同罪よりも重く処罰しているものと解されるところであり,児童買春罪に該当する行為を助長拡大する行為のみを処罰の対象としているものとは解しがたい。また,児童買春周旋罪が成立するためには,被周旋者において相手方が18歳未満の児童であることの認識を要するものと解すると,周旋者が児童の年齢を偽ることにより安易に同罪の適用を免れることになるが,かかる結果が法の趣旨と合致するものとは考えがたい。
以上のとおりであるから,被告人両名につき,児童買春周旋罪が成立するものと解される

 論告がよく書けているので紹介しておきます。本省などからの入知恵がないのであれば論文書いてくれれば買います。残念ながら検察官の氏名は非開示です。
 研修に載る前に公表してあげます。(^^)//""""""パチパチ

第1 事実関係
1本件公訴事実は,当公判廷において取り調べ済みめ関係各証拠により証明十分である。
2 なお,弁護人は,本件事実関係自体及び児童福祉法違反の罪の成立は争わないものの,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第5条1項の罪(以下「児童買春周旋罪」と言う。)が成立するためには,周旋時に被周旋者において,被害児童についての年齢知情が必要である旨主張し,本件においては,被周旋者に被害児童についての年齢知情が存在しないから,児童買春周旋罪は成立しない旨主張するので以下弁護人の主張について,検討を加える。
3 平成15年5月19日東京高等裁判所判決は,「児童買春周旋罪が成立するためには,周旋行為がなされた時点で,被周旋者において被害児童が18歳未満の者であることを認識している必要があると解するのが相当である。」旨弁護人の主張に沿った判示を行っている。
同判決は,その理由として,①児童買春周旋罪は,児童買春をしようとする者とその相手方となる児童の双方からの依頼又は承諾に基づき,両者の間に立って児童買春が行われるように仲介する行為をすることによって成立するものであり,このような行為は児童買春を助長し,拡大するものであることに照らし,懲役刑と罰金刑を併科して厳しく処罰することとしたものである,②児童買春の周旋の意義や児童買春周旋罪の趣旨に照らすと,同罪は,被周旋者において,児童買春をするとの認識を有していること,すなわち,当該児童が18歳未満の者であるとの認識をも有していることを前提にしていると解される,③実質的に考えても,被周旋者に児童買春をするとの認識がある場合と,被周旋者が前記のような児童の年齢についての認識を欠く結果,児童買春をするとの認識を有していない場合とでは,児童買春の規制という観点からは悪質性に差違があると考えられる,④(被周旋者が児童買春の認識を欠く場合でも)周旋者を児童淫行罪や売春周旋罪により処罰することが可能であるなどの理由を挙げている。
しかし,以下述べるような理由で,周旋時に被害児童の年齢を被周旋者が認識していることは不要であると解釈すべきである。
4 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「本法」と言う。)の立法目的は,法案審議の際の提案理由からも明らかなように,「児童はあらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から保護される」という児童の権利に関する条約を踏まえ,より一層児童の保護を図ることにあり,本法の各条文を解釈するにあたっては,このような立法目的に沿った解釈が必要であり,そのような観点からは,児童買春周旋罪の成立に被周旋者の年齢知情は不必要であると解釈すべきである。
以下詳論する。
本法の立法目的からは,児童買春周旋罪は,単に児童買春を助長,拡大するからという理由のみで処罰の対象となっているのではなく,児童を性交等の相手方として周旋する行為自体が,児童からの性的搾取及び児童に対する性的虐待の危険性を生じさせるからこそ,独立の処罰の対象となっていると理解される。
このような理解は,本法において,児童買春罪め法定刑が「3年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と定められているのに対し,児童買春周旋罪の法定刑が「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」と定められており,児童買春周旋罪の法定刑が児童買春罪の法定刑より重く定められていることからも裏付けられる。
加えて,被周旋者の年齢知情の如何にかかわらず,周旋行為自体によって,児童からの性的搾取及び児童に対する性的虐待の危険性が生じることは明らかである。
このような児童買春周旋罪の趣旨に照らせば,上記東京高等裁判所判決が判示するように,「児童買春周旋罪の趣旨に照らせば,被周旋者が周旋時に被害児童の年齢に対する認識を有していることが前提とされている。」とは到底理解しがたい。
また,上記東京高等裁判所判決は,児童買春の周旋の意義にも触れているが,児童買春周旋の意義は,本法の条文の文理解釈上,被周旋者の年齢知情を明らかに必要としているとは解釈できず,上記のとおり,本法の立法目的に沿って解釈されるべきものである。
上記東京高等裁判所判決は,被周旋者が年齢知情を有している場合と有していない場合とでは,悪質性に差違がある旨判示しているが,買春行為自体の悪質性を論ずるのであればともかく,上記のとおり,被周旋者の年齢知情の有無にかかわらず,周旋行為自体により,児童からの性的搾取及び児童に対する性的虐待の危険性が生じることは明白であり,周旋行為自体の悪質性は,被周旋者の年齢知情の有無により,差違が生じるものではない。
上記東京高等裁判所判決は,児童買春周旋罪の成立のために被周旋者に年齢知情が必要だと解釈しても,被周旋者に年齢知情がない場合,売春防止法違反あるいは児童福祉法違反による周旋者の処罰が可能であるので問題はない旨判示しているが,このような立論自体,立法目的の異なる新規立法の必要性を無視した立論であると言わざるを得ない。
しかも,売春防止法に定める周旋罪では,性交類似行為の処罰が不可能である上,児童福祉法に定める児童に淫行をさせる罪においては,「淫行をさせる」と認定するためには,行為者が,被害児童に対して,雇用関係,身分関係等により,事実上の支配関係を及ぼしていることが必要であるとの解釈が一般的であり,児童買春周旋の成立には,周旋者のみならず,被周旋者にも被害児童の年齢知情が必要であるとの解釈に立てば,周旋者が被害児童の年齢を認識しており,客観的にも被害児童からの性的搾取及び被害児童に対する性的虐待の危険性が生じているにもかかわらず,周旋者を処罰することができない場合が生じるという不合理極まりない結論となる。
上記東京高等裁判所判決の判示に従えば,児童買春周旋罪が成立するためには,周旋者が周旋行為の際に被周旋者に対して,被害児童の年齢を告知して児童買春を周旋することが必要となると考えられる。
しかし,このような解釈は,本法の明文規定と明らかに矛盾する。すなわち,本法9条は,「児童を使用する者は,児童の年齢を知らないことを理由として,第5条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし,過失がないときは,この限りでない。」と規定し,周旋者は,被害児童の年齢知情を有していないことを理由に児童買春周旋罪の処罰を免れない旨明文で規定している。
しかるに,周旋行為が行われた際に被周旋者に被害児童の年齢知情が必要だとの解釈を前提とすれば,児童買春周旋罪について本法9条の明文規定の適用場面がほとんど考えられないこととなってしまうという不合理な結果となる。
以上を総合すれば,児童買春周旋罪が成立するためには,被周旋者について被害児童の年齢知情は不必要であると解釈すべきである。
5 したがって,被告人両名には,児童福祉法違反の罪だけではなく,児童買春周旋罪が成立することは明らかである。