児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「送信可能化権侵害罪」

 「送信可能化権侵害罪」とは、奥村弁護士の造語です。ある事件のために作った。
 「著作権侵害罪」では、内容が判らないから。

 ところで、送信可能化権は広義の公衆送信権に含まれるわけで、広義の公衆送信権から送信可能化権を除いたものが狭義の公衆送信権
 
 ここでですよ、
   狭義の公衆送信を許諾して、送信可能化だけは許諾しない
   送信可能化だけを許諾して、狭義の公衆送信は許諾しない
ということは通常考えられない。
 しかも、サーバー蔵置は複製権侵害だから、そこにも許諾が必要。
 許諾の対象は、常に、
   複製+狭義の公衆送信
についてです。
 じゃないと、公衆に見せられないから、許諾の意味がない。

 とすると、送信可能化というのは、許諾の場面では出てこない。無くていい概念。

 そこで、これは専ら、無許諾で公衆送信されているのを、「公衆送信可能状態」だけで差し止める権能しかないと言われています。

作花詳解P254
著作物を送信可能化することは,通常の場合は,サーバーに当該情報が安定的に蓄積されることとなり,複製権が働く行為であると考えられる。つまり,基本的には複製権が働き得る態様の行為に対し,重畳的に送信可能化権を付与することとなったと言える。複製行為を伴わない送信行為としてはコンサートのインターネットによる生中継やインターネット・ラジオ放送などが想定されるが,このような行為への規制の難易度は,通常の放送や有線放送と大差はないものと考えられる。条約上の義務であり,送信可能化についての排他的独占権を創設したことはやむを得ない措置と思われる。しかし,仮に条約による拘束がないのであれば,送信の準備段階の規制については,いまだ著作物の利用自体が行われていない以上(送信準備に供していることをもって「著作物の利用」とは評価できない),排他的独占権を付与するということではなく,むしろ,差止請求権による対処とともに,送信準備行為に対する抑止力の強化という観点から,侵害とみなす間接侵害的アプローチか,著作物送倍準備罪のような特別刑罰規定の新設により権利構成する方が体系的には整理されるのではないかと考える。

 しかし、民事上の差し止めなら、112条1項で複製権を侵害する者ないし、公衆送信権を侵害するおそれがある者に対して可能であって、送信可能化権は出番がない。

第112条(差止請求権) 
著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。

 じゃ、刑事で必要かというと、公衆送信権を侵害した者とは言えないが、複製権を侵害した者とはいえるから、こちらでも出番が無さそうです。
   複製→送信可能化→公衆送信
は牽連犯で科刑上一罪だから、公衆送信まで罰しているともいえそうです。(http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20040911#p4お江戸でござる事件は、複製権侵害を処罰したが、複製と送信可能化を併合罪とした。)

第119条 
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一 著作者人格権著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者又は第百十三条第三項の規定により著作者人格権著作権、実演家人格権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)

 結局、送信可能化権とか、送信可能化権侵害罪の存在意義は何なのか?造語を作ったものの、まだわからない。
作花先生のいうように、送信可能化した罪を独立に規定して、公衆送信の予備・未遂だから、それなりに低い法定刑にするというのが適当だと思います。