児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「情報」とは何か?

 「情報」の定義について
 関係法条を総合すると、送信可能化権侵害罪の構成要件・実行行為は次のように集約できる。

自動公衆送信
公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行い、かつ、公衆からの求めに応じ自動的に行うようにすること

送信可能化
 次のいずれかに掲げる行為により公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行い、かつ、公衆からの求めに応じ自動的に行うようにすること
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。

 このうち本件で起訴されているのは、次の類型である。

その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うことにより、公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行い、かつ、公衆からの求めに応じ自動的に行うようにすること

 つまり、送信可能化罪の構成要件には「情報」という要素が含まれるから、送信可能化罪の構成要件の解釈にあたっては、刑罰法規における「情報」の意味を明確にしなければならない。

 ところで「情報」とは何なのか?
 今日、「情報」化、個人「情報」、「情報」公開、「情報」技術(IT)など、いたるところで「情報」という用語が使用され、法令においても、明治31年から平成15年3月までに公布された法令につき、その条文中「情報」という用語が使われている条文数は、全部で4058条文に上っている(法令検索結果)。
 しかし、そこでは、いきなり「情報」の収集、「情報」の提供、「情報」の活用、○○に関する「情報」、○○に記録された「情報」などのような使い方がされているものが大部分である。
 「○○に関する情報」という形で、その内容を列挙している法令は一部存在するが、「情報」を一般的に定義する規定は見当たらない。

 園田教授の論文*1を引用しておく。

「情報ネットワークの法律実務」(編集代表 多賀谷一照、松本恒雄 第一法規)第10章 情報犯罪と法10−1 「刑法における情報の位置づけ」(園田寿関西大学法学部教授著)
 情報理論家の数だけ「情報」の定義が存在するといわれる。人間の五感作用によって具体的にその存在を了解できる「物」に比べて、形のない「情報」は確かに厳密な定義の対象となりにくい。

 本件に即してみると、winnyは映画のタイトル情報・ファイルの大きさの情報等を先行して流していることになるがこれで情報を送信可能化したことになるのか、断片的なファイルを送信可能状態にすれば「情報」を送信可能化したことになるのか?暗号化された音声データ・画像データは元の映画の「情報」といえるのかという点で「情報」の定義が必要となるが、特定しようがない。

 構成要件にこのような漠然不明確な概念を含む刑罰法規は無効である(罪刑法定主義憲法31条)。
 また、著作権浸害罪は表現行為を取り締まる法律であるから、表現の自由憲法21条)に対する漠然不明確な規制であるが故に無効である。

 なお、「情報」には所有権が観念できず、情報の刑法的保護は、有体物よりも劣る。東京高裁H15.6.4は、児童ポルノ犯人が所有する電子媒体上に、児童ポルノデータと共に記録されている第三者の適法なデータについては、第三者没収手続きを取らなくても没収できるという。

東京高裁平成15年6月4日宣告
平成15年(う)第361号
3 MOの没収について(控訴理由第2)
所論は,本件MOには被告人がホームページの作成・管理を依頼されている顧客のデ如タが保管されており,顧客のデータについては,被告人以外の者が,プライバシー権,肖像権,著作権,商標権という人格権,物権を有することが明らかであり,本件MOは細部が犯人以外の者に属するのであって,これを没収することは刑法19条に違反し,憲法31条,29条にも違反する,という。
所論のとおり,本件MOには,ホームページのバックアップデータと推認されるファイルも記録されているが,本件MOが没収されることによって被告人の請負ったホームページの作成,管理が不可能になったとしても,被告人が債務不履行責任を負い,発注者が,被告人や第三者に対し本件MOに保存されている発注者が提供したファイルを無断で使用しないよう請求することはできても,本件MO自体は被告人の所有物であり,発注者等が本件MOについて物権的な権利を有しているとは認められない。また,没収は,物の所有権を観念的に国家に帰属させる処分にすぎず,帰属した物の処分は別個の問題である。仮に国に帰属した後に,国が本件MOを発注者等の権利を害するような使用や処分をしようとした場合には,その行為の差し止めやファイルの複写,消去などを求め得る可能性はあるとしても,そのような可能性があることは没収の言い渡しを何ら妨げるものではない。

 従って、情報は刑法上の要保護性が弱いのである。