民事判決なんですが、客体の有体物性と罪数処理から注目しています。
公衆送信・送信可能化というのは公然陳列と似たような概念。
しかし、わいせつ物・児童ポルノは有体物毎に観念しますが(データとしても媒体単位)、著作権はファイル毎(各情報毎に)にあると思います。
ところが、同一サーバ上のファイルABについて
ファイルA→甲さん専用
ファイルB→乙さん専用
でも、東京地裁はABが公衆送信されたと評価するんですね。古めかしい有体物基準説みたいですね。
事件番号 平成18(ワ)10166
事件名 著作権侵害差止請求権不存在確認請求事件
裁判年月日 平成19年05月25日
裁判所名 東京地方裁判所
ア基本構成
本件サービスは,原告が作成して提供する「MYUTA専用MUSIC UPLOADER」(以下「本件ユーザソフト」という。)を用いて,ユーザが楽曲の音源データを自己のパソコンで携帯電話用ファイルに圧縮し,インターネットを経由して原告の運営する「MYUTAサーバ」(以下「本件サーバ」という。)のストレージ(外部保存媒体。具体的にはストレージサーバ内の大容量のハードディスク)にアップロードして蔵置し,これを任意の時期に自己の携帯電話にダウンロードできるようにするものであり,これにより,ユーザにおいて,携帯電話で楽曲を自由に再生することができる。
・・・・
ア原告は,ユーザが本件サーバに蔵置した音源データのファイルには,当該ユーザしかアクセスできず,1対1の対応関係であって,しかも常に同一人に帰するから,ユーザが専ら自分自身に向けて行っている自己宛の純粋に私的な情報伝達であり,公衆送信権侵害に当たらない旨主張する(前記第3の4〔原告の主張〕(1))。
しかしながら,本件サーバから音源データを送信しているのは,前記(1)のとおり,本件サーバを所有し管理している原告である。そして,公衆送信とは,公衆によって直接受信されることを目的とする(著作権法2条1項7号の2)から,送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,公衆に対する送信に当たることになる。そして,送信を行う原告にとって,本件サービスを利用するユーザが公衆に当たることは,前記(2)のとおりである。なお,本件サーバに蔵置した音源データのファイルには当該ユーザしかアクセスできないとしても,それ自体,メールアドレス,パスワード等や,アクセスキー,サブスクライバーID(加入者ID)による識別の結果,ユーザのパソコン,本件サーバのストレージ領域,ユーザの携帯電話が紐付けされ,他の機器からの接続が許可されないように原告が作成した本件サービスのシステム設計の結果であって,送信の主体が原告であり,受信するのが不特定の者であることに変わりはない。
あのwinny正犯の判決でも、各情報毎に著作権侵害(送信可能化権侵害)を観念して、観念的競合にしておるのである。
京都地裁H16.11.30
(罪となるべき事実)
・・・同パーソナルコンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし,もって上記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害したものである。
・・・・
(法令の適用)
被告人の判示所為は各著作物ごとに著作権法119条1号,23条1項に該当するところ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重い邦題名「X」の著作物にかかる著作権侵害の罪の刑で処断することとし,
著作権法
第2条1項
九の五 送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。第23条(公衆送信権等)
著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。