刑事裁判は被告人の裁判であって、利益も不利益も被告人に帰するわけですから、被告人の弁解は全部盛りこむという方針でやってるんです。
振り返ってみると、なかなか容れられませんが、いろいろ主張してますね。法定の控訴理由に当てはめていく作業が大変でした。国選事件は勉強になりました。
裁判所とか先輩弁護士からは、
何でも盛込めばいいというものではない
と言われたこともありますが、こっちは、被告人側で、被告人を向いて仕事していますので、それが仕事だと割りきっています。
双子の兄弟でも暴走族でもなんでも主張しまっせ。
控訴理由 訴訟手続の法令違反
被告人が本件無免許運転をした理由は、当時妊娠中の娘が異常を訴え、母子共に危険な状況にあったため、やむを得ず市民病院に娘を搬送するためであった。
これは、原審において意見書・弁論要旨では主張されていないものの、原審記録中、被告人質問等でも明かであるから、緊急避難の主張にあたる。
しかるに原審では被告人の緊急避難の主張があり、原判決はそれを退けているにもかかわらず、理由中に全く触れられていない。
これは、刑訴法335条2項の主張に対する判断の遺脱であり、明かな訴訟手続の法令違反である。
控訴理由 事実誤認
被告人の公判供述によれば、被告人は古物商の登録があれば自動車の運転ができるものと信じている。
しかも、被告人には古物商の登録はなく、妻の登録しかない。
しかも、公判廷においても
一応分かりましたがわからないところも何ヵ所かあります
と述べており、いまだに理解していない模様である。
これは被告人に公判の時点においても事理弁識能力が欠けていることを意味する。
被告人はこのような弁解を検挙時から一貫して行っており、犯行時に責任能力が無かったことは明かである。 原審はたとえ主張されていなくても、心神喪失により無罪を言い渡すべきであった。
従って、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかである事実誤認がある。
弁護人立証としては、鑑定留置中(記録通し番号22)の精神鑑定の結果について検察官からの提出をお願いしたい。その他は被告人質問で立証する。
事実誤認
本件オービスの速度測定は瞬間速度(約0.25秒)におけるものである。
そもそも道路交通法第22条第1項が「車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。」と速度を規制する所以は、速度超過は定型的に見て交通事故の危険を含み「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資する」(第1条)という同法の趣旨から見て看過できないからに他ならない。
だとすれば、「政令で定める最高速度をこえる速度で進行し」とは、このような定型的な危険を含むような速度超過をいうと解すべきである。
しかし、本件オービスが測定した時間はわずかに0.25秒であり、このような短時間の速度超過では、同法が予定する定型的な危険は認められない。
したがって、かかる短時間の測定をもって「速度超過」にあたるとした原判決には重大な事実誤認がある。
事実誤認
仮に、被告人が速度超過を犯していたとしても、それは暴走族に追われていたための緊急避難(刑法37条1項)であり、違法性ないし責任阻却により犯罪は成立しない。
原審において被告人が緊急避難を主張していたのにもかかわらず、その証拠である上申書を証拠として採用しなかったことは、審理不尽であり、重大な事実誤認の公訴理由がある。
また被告人質問についての証拠判断を誤り、上記避難の事実を認定していないことも重大な事実誤認である。
また、そもそも被告人が緊急避難などの犯罪成立阻却事由が主張した場合、かかる事由が存在しないことの挙証・立証責任は検察官にある。
しかるに原審において検察官は緊急避難の事実の不存在についてなんらの立証を行っていない。
したがって、かかる検察官立証がないのにもかかわらず緊急避難を認定しなかった原判決には重大な事実誤認がある。
控訴理由 事実誤認
原判決が被告人を犯人と認定する証拠とした写真(オービス)は、犯行車両及び運転者を被告人運転車両・被告人と特定するに足りない。
また、原審で取り調べ済みの各証拠のどれを見ても、犯人と被告人とを結びつける証拠はない。被告人には戸籍に記載されていない双子の兄弟がおり(原審 被告人質問)、本件は彼の犯行である。
原判決は犯人を誤認したものであり・・・