児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

見せ金とか偽札とか対償を払う気持ちがないとか、児童が騙された場合

 見せ金とか偽札とか対償を払う気持ちがないとか、児童が騙された場合にも、判例上は買春罪が成立するとされています。
 騙したんだから準強姦罪として処罰すべきですが、それだけでは「抗拒不能にさせて」とはいえないというのです。
 被害児童からすれば、「お金をもらえるからSEXした」「もらえなかったらSEXしなかった」はずなので「抗拒不能」だったんでしょうが、裁判所には、そんな軽薄な児童の存在が信じられないのでしょう。
 金沢支部H14.3.28なんて、「対償供与の約束については騙されていたけれど、性行為自体には真摯な承諾があったと認められる。準強姦罪は成立しない。」と言ってますけどどうなんだろう。




第177条(強姦)
暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、二年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
第178条(準強制わいせつ及び準強姦)
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をし、又は姦淫した者は、前二条の例による。


http://www.okumura-tanaka-law.com/www/okumura/child/031010gaikei.htm
 原判決は、買春行為について、「対償を供与の約束をして、」(2条2項)を認定している。
 しかし、取調済の証拠をみても被告人の真意は、そもそも携帯電話機を買ってやる意思はなかったこと、つまり詐言であったことは明らかである。被告人は、携帯電話を買うと必要書類から身分が明らかになることから、当初より買う意思はなかったのである。
 さらに、被害者の供述をみると、被害者にとっては、当初より金銭ではなく携帯電話を買うことが絶対的不代替的な対償であったことが明かである。被害者にとっても、保護者に無断で購入することができないという意味で、携帯電話でなければならないのである。
 つまり、携帯電話が対償であることは、本件の児童買春合意において、当事者双方にとって重要な要素であって、そこに欺罔・錯誤がある。
 この様な場合は、「対償の供与の約束をして、」(2条2項)に該当しないから、買春罪は成立しない。
 すなわち、児童買春罪の法定刑が懲役3年という軽いものであることからすれば、そもそも児童買春罪の実質は児童が小遣い銭程度の対償で、軽々しく同意して性交等に応じるといういわゆる「援助交際」を禁止することである。
 その程度の金額の対償であることから、対償の約束は、双方真意(真摯な承諾)であることが前提とされており、対償約束自体が最初から詐言であるとか、脅迫が加えられてしぶしぶ約束に応じた場合等は予定されていないというべきである。
 買春罪の法定刑が強姦罪等性犯罪の法定刑よりも軽くされているのは、まがりなりにも児童の自由かつ真摯な承諾があるからである。性的自由の侵害は評価対象外となっているからである。詐言、脅迫によって約束がされた場合には買春罪は適用されないというべきである。
 
 実質的に考えても、被害児童にとっての携帯電話の重要性からすれば、決して被害児童が「軽々しく応じた」ものではない。
 また、児童買春の罪質からして、被害の本質は健全に成長する権利とか児童の福祉であるから、騙しとか強制といった要素は量刑において考慮されるべきではない。それは性的自由の侵害において評価される要素である。
 従って、本件各買春行為には対償供与の約束が認められないから、買春罪は成立しない。
 原判決には法令解釈の誤りがあり、判決に影響を与えることも明らかであるから、原判決は破棄を免れない。
 
 なお、本件が準強姦にあたると主張するものではないが、犯人が詐言を用いた場合は、準強姦罪の「抗拒不能」と評価される場合もあるのである。買春罪の「対償供与の約束」について、形式的に「約束」が在ればよく、その有効無効・成立不成立を一切問わないとするのでは、従来の刑法における性的自由の保護の姿勢と一貫しない。
 形式的に「対償の約束」があればよいというのでは、本当は準強姦罪に問うべき事案が買春罪で処理されるおそれがある、児童買春が強姦を隠蔽するおそれがあるという点を危惧するのである。
 
3 裁判例
(1)名古屋高裁金沢支部H14.3.28
 曰く、「規定の文言も「その供与の約束」とされていて被告人らの具体的意思如何によってその成否が左右されるものとして定められたものとは認め難い。対償の供与の約束が客観的に認められれば,「その供与の約束」という要件を満たすものというべきである」とのことである。
 具体的意思の有無に限らず、客観的に約束が必要であり、かつそれで足りるというのである。
名古屋高裁金沢支部
H14.3.28宣告
平成13年(う)第78号
第1 控訴趣意中,事実の誤認の論旨(控訴理由第19)について
 所論は,原判決は,原判示第2,第3の1及び第4の各児童買春(かいしゅん)行為について,対償の供与の約束をしたことを認定したが,証拠によれば,被告人にはこのような高額な対償を支払う意思はなく,詐言であったことが明らかであるとし,このような場合には児童買春(かいしゅん)処罰法2条2項にいう代償の供与の約束をしたことには当たらないから,同法4条の児童買春(かいしゅん)罪(以下,単に「児童買春(かいしゅん)罪」という。)は成立しないという。
 しかしながら,児童買春(かいしゅん)は,児童買春(かいしゅん)の相手方となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであることから規制の対象とされたものであるところ,対償の供与の約束が客観的に認められ,これにより性交等がされた場合にあっては,たとえ被告人ないしはその共犯者において現実にこれを供与する具体的な意思がなかったとしても,児童の心身に与える有害性や社会の風潮に及ぼす影響という点に変わりはない。しかも,規定の文言も「その供与の約束」とされていて被告人らの具体的意思如何によってその成否が左右されるものとして定められたものとは認め難い。対償の供与の約束が客観的に認められれば,「その供与の約束」という要件を満たすものというべきである。関係証拠によれば,原判示第2,第3の1及び第4のいずれにおいてもそのような「対償の供与の約束」があったと認められる。所論は採用できない(なお,所論は,形式的な「対償の供与の約束」でよいというのであれば,準強姦罪で問うべき事案が児童買春(かいしゅん)罪で処理されるおそれがあるとも主張するが,準強姦罪は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて姦淫した」ことが要件とされているのに対し,児童買春(かいしゅん)罪では対償を供与することによって性交等する関係にあることが必要であって,両者は明らかにその構成要件を異にするから,所論を採用することはできない。)。
(2)大阪高裁H15.9.18
 大阪高裁刑事1部も、対償供与の約束は構成要件であって、客観的に認められることを要し、かつ、それで足りるとする。
 高裁レベルでは外形・外観基準説が標準である。
阪高裁平成15年9月18日平成15年(う)第1号
(2)原判示第1の事実についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第15)及び訴訟手続の法令違反の主張(控訴理由第19)について
所論は,原判示第1の事実について,①原判決は,対償の供与を約束したことを認定しているが,証拠によれば,被告人にはYに対して携帯電話機を買い与える意思はなく,詐言による約束であって,双方の真意に基づく約束とはいえず,また,携帯電話機本体の価格は通常無料であって,反対給付としての経済的利益には当たらないから,児童買春罪の成立を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり(控訴理由第15),②平成14年6月26日付け起訴状記載の公訴事実には対償の供与の約束の成立時期,場所が特定されておらず,訴因が不特定であるから,公訴棄却をすべきであったのに,実体判決をした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある(控訴理由第19),というものである。
しかしながら,①については,被告人は,捜査段階において,携帯電話機を買ってやる約束をしたが,被告人名義で契約するわけにもいかないし,時間もないので,携帯電話機の代わりに現金を交付するつもりであったとの供述をしており,その内心の意思いかんにかかわらず,被告人がYに対して携帯電話機を買い与える約束をして性交に応じさせたことは関係各証拠に照らして明らかであるから,対償の供与の約束があったというべきであり,また,仮に携帯電話機の本体価格が無料であったとしても,取得するには契約手数料等が必要である上,携帯電話機にはその通信回線利用の権利が伴っているから,経済的価値が認められることもいうまでもないところであって,原判決が対償の供与の約束があったと認定したことに誤りはない。
 
(3)広島地方裁判所福山支部H14. 5.29
 偽造通貨による児童買春(かいしゅん)事件も発生している。
 偽造通貨の行使の際には詐欺罪も成立しうるとされているところであって、偽造通貨であることを知っていれば被害児童も児童買春(かいしゅん)に応じないという意味で錯誤に陥っていることも明白である。その場合でも買春(かいしゅん)罪は成立するのである。対償供与の約束がいかに形式的・客観的に判断されているかがわかる。
◆H14. 5.29 広島地方裁判所福山支部 平成14年(わ)第17号,第28号 通貨偽造・同行使,児童買春(かいしゅん),児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告*1
事件番号  :平成14年(わ)第17号,第28号
事件名   :通貨偽造・同行使,児童買春(かいしゅん),児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告
裁判年月日 :H14. 5.29
裁判所名  :広島地方裁判所福山支部
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/EF601E14EDBC0CE449256BED000313EE/?OpenDocument
             主     文
    被告人を懲役3年に処する。
    この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
    押収してある五千円札ようのもの1枚(平成14年押第8号の1)及び五千円札ようのもの7枚(同号の2)を没収する。
             理     由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成13年12月15日午後9時ころから同日午後10時20分ころまでの間,広島県三原市ab丁目c番d号の有限会社A事務所内において,行使の目的をもって,パーソナルコンピューター,カラースキャナー及びカラープリンター等を利用して,通用する金額五千円の日本銀行券8枚(平成14年押第8号の1及び2)を偽造した上,同日午後11時10分ころ,同市e町f番地gの株式会社B生コンプラント材料置場に駐車中の軽四輪乗用自動車内において,C(昭和h年i月j日生,当時15歳)に対し,淫行の対価等として,その偽造に係る金額五千円の日本銀行券8枚を,真正な通貨のように装って交付して行使した
第2 同日午後11時15分ころから同日午後11時35分ころまでの間,同所に駐車中の同車内において,前記Cが18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童に対し,現金2万円の対償の供与を約束して,同児童の性器にバイブレーターを挿入し,同児童をして口淫させ,自己の陰茎を同児童の性器に押し付けるなどの性交類似行為をし,もって児童買春をした
ものである。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,児童買春の対価として用いることを目的に,パーソナルコンピューターを利用して,カラースキャナーを用いて読み込んだ真正な日本銀行券の画像情報をカラープリンターを用いてプリントアウトするという方法によって金額五千円の日本銀行券8枚を偽造し,これを当時15歳の被害児童に交付した上,同児童に対し性交類似行為をしたという通貨偽造,同行使及び児童買春の事案である。
 被告人は,勤務先での使い込みが原因で平成13年5月に職を失って以後,失業保険や知人らからの援助で生活をしていた者であるところ,同年12月,しばしば利用していたインターネット上のいわゆる「出会い系サイト」で被害児童と知り合い,淫行の約束を取り付けたものの,所持金がなく,また,暗い場所で渡せば気付かれないと考えて,偽造通貨を淫行の対価に用いることとし,その際,既に同年8月に本件と同様の方法で偽造し保管していた偽造通貨が変色のため使用に耐える状態でなかったことから,新たに判示第1の通貨偽造の行為に及んだものであって,犯行に至る経緯に酌むべきところはない。そして,その犯行態様も,コンピューターに関する知識を悪用し,知人が経営する会社の事務所内において,知人らの眼前で,何らためらうことなく偽造を敢行した上,暗い自動車内において被害児童に偽造通貨を交付したという悪質なものである。本件偽造通貨は,一見したところは真券と見まごうほどのものであって,実際に,情を知らない被害児童によって買物の代金等に使用され,買物店の従業員にも一旦は受領されており,その先さらに流通する危険もあったものである。そして,本件偽造と同様の手法による通貨の偽造は,コンピューター関連機器が普及した現在,模倣される危険性が高く,本件偽造行為が社会に与える影響を看過することはできない。
 また,被告人は,被害児童が中学生であることを認識しながら,判示第2の行為に及んだものであり,その動機は,酌量の余地がなく,そして,被告人の犯行が,成長過程にある被害児童の心身に有害な影響を与えたことは明らかである。